冒険の始まり 任務 4
「聖魔大戦」の一言に会場中が戦慄する。それは世界の終焉を意味していた。
「私は幼少期にその事実に気付いたため、そこから長期的計略として準備を始めた。そして、15歳で王位を継ぐと、すぐに世界会議を開催するために、そこで、絶対的な主導権を得るために戦争を起こしたのだ。
世界を征服するためでは無い。50年間の各国の相互不可侵条約を結ばせるためである。各国が争っている場合では無い。各国が国力を蓄え、武力を高めるために、それだけの時間が必要だと考えたからだ。そして、各国で国力を、武力を増大させていく目的は、聖魔大戦に打ち勝ち、エレス全土を地獄の脅威から解き放つためだったのである!
各国が国力と武力を増大させていくために、我がグラーダが世界にどれだけ貢献してきたかは諸君らは理解しているだろう。
技術や知識の放出。鑑定士育成と世界への普及。魔法改革。冒険者ギルドの設立。そして今日、素晴らしい研究発表をしてくれた博士たちが在籍している王立高等学校アカデミーの開校。
他にも私は世界が共に栄え、共に強大になって行く事に尽力してきた事を、諸君らは充分に知っているはずだ」
その説明を聞いた各国の大使たちは、これまで不気味で仕方がなかったグラーダ国の行動が腑に落ちた様子だった。と同時に、幼児の頃から、現在まで続く世界構造を考え実現してきた目の前の化け物王に戦慄を覚える。
「今回、発表された研究の内容は、今この時に、この隠されてきた真実を発表する契機となった。この研究が完成すれば、後数年後に確実に起こる聖魔大戦で、我々の大きな力になるだろう。それ故に、博士たちの今後の活躍を期待する」
会場内は異様な雰囲気となった。興奮したり、困惑したり、恐怖したり、歓喜したり。
「そして、聖魔大戦を目前に控えた今、これまで各国が高めてきた『武力』を、『知識』を、『技術』を集結させねばならん。各国や冒険者たちの『団結』が不可欠である!
その為に、私は早急に『世界会議』の開催を、『グラーダ条約』に則りここに宣言する!!!」
各国大使が顔色を変える。かつてグラーダ狂王戦争での覇者である、グラーダ三世が締結した無条件条約の中の一項である「世界会議」の開催。
それが要請されたことはこれまで一度も無かった。
正にグラーダ三世が先に述べたとおり、歴史的瞬間となったのである。
いつ、何処で、どのような規模で行われるのか?その具体的な内容は?各国がどう準備して挑めば良いのか?
いずれグラーダから詳細の正式要請が書簡として各国国王、代表者に届く事だろう。だが、その前に大使や各国の要職にある客たちは準備をする必要がある。情報を収集せねばならない。
この宣言をもって、グラーダ三世の演説は終わると誰もが思い、腰を浮かし掛けた瞬間、ドゴンッッ!!と、鈍く低い音が鳴り、謁見の間が揺れる。
「だが、まだ足りない!!」
グラーダ三世が演壇を叩き、気を吐く。
堅い木で作られた演壇が、ガラス細工のように簡単に砕ける。謁見の間全体がシーンとなりグラーダ三世に注目する。
「彼らの研究の成果でも、各国との連合軍でも、かつて私を足止めする事に成功した英雄と同じ冒険者たちでも、神々でも、大森林のハイエルフたちでも、アスパニエサーの獣人たちでも、まだまだ深層の魔王の前では塵のごとくだ!」
闘神王の言葉に、誰もが息を呑む。
「それはこの私でも同じ事だ・・・・・・」
会場全体が不安に包まれる。
「地獄の魔王たちに対するに最大の鍵は何か?
それは創世竜の力である!
魔王たちに、そして、魔神たちも恐らく地獄勢力に与するだろうが、その魔神と魔王の連合軍に太刀打ちするには、創世竜の力が必要不可欠なのだ!それは、約200年前に起こった聖魔戦争が物語っている。あの時に、なぜ我々は聖魔戦争が本格化する前に、地獄の勢力を地獄に押し返す事が出来たのか?」
「竜騎士だ!!」
会場の誰かが声を上げる。
「その通り、竜騎士だ!!
あの時、地獄の穴から魔物たちが溢れかえろうとする寸前に、七柱の竜に乗り現れた竜騎士『アル・ディリード』によって救われたのだ。つまり、切り札となる竜騎士こそ我々の最後の鍵である!
諸君らも伝説で知っているとおり、竜騎士になるには四柱の創世竜に認められる必要があるという。だが、創世竜と話しをして生きて帰っただけでも大変な偉業である。
我が国最強の騎士、『剣聖』ジーンでさえ、二柱の竜と会話する事が出来ただけだ。
では誰が竜騎士になれるというのだろうか?あの最強の冒険者集団『歌う旅団』の『光の皇子』か?『アカツキ』の『黄金騎士』か?それとも、『剣聖』ジーンか?だが、それは叶うまい!彼らは皆、一度は創世竜と遭遇している。だが、竜騎士への道を示されていないのだ!!」
もはや会場中が興奮状態でグラーダ三世の言葉の続きを待つ。グラーダ三世は会場をゆっくり睥睨すると、目の下をクマで邪悪に縁取らせ、ゆがんだ表情をする。
口の端から「グッフッフッフ」と笑いが漏れ聞こえそうだった。
だが、そう認識したのは会場内でたった3名だった。ギルバート、リザリエ、そしてカシムである。
「私はその者を知っている!」
グラーダ三世がおもむろに剣を抜き放つと、会場の最後列に座るカシムを指し示す。会場全員の視線がカシムに集中する。
「カシム・ペンダートンよ!剣聖ジーンの末の孫!誉れ高きペンダートン家の、最後に現れた英雄よ!
汝にグラーダ国国王、アルバス・ゼアーナ・グラーダ三世の名において命ずる。これよりそなたは冒険者となり、竜騎士となるべく旅に出るのだ!!!」
カシムは驚愕のあまり思わず立ち上がった。何かを叫んだが、会場中から沸き起こる、壁を破壊せんが如き歓声に完全にかき消されてしまった。
謁見の間が、かつて無い熱気に包まれた。
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