宇宙人(仮)

ペコサン・ペッタンコフ

プロローグ(妄想)

 これは遠く遠く、遥か彼方の深宇宙の物語。


 星野司の母星フィロスは、おうし座のかに星雲のさらに向こう、名もなき渦巻銀河の辺境にあった。穏やかに燃える恒星ロスベルの周囲をゆったりと公転する、水と緑に溢れた第二惑星である。

 

 フィロスの民は誇り高き戦闘民族。たぶん惑星ベジータのサイヤ人にも勝てる。彼らは持ち前の戦闘力を武器に成長し、やがて惑星フィロス全球の支配者となった。

 

 フィロスの民とその文明は、さらなる戦場を母星の外に求めた。

 第一宇宙歴五年。第三惑星カプロスへの植民を開始。生命が生きられる環境へと惑星を改造する、テラフォーミングが施される。


 だが計画は最初期に頓挫して、第三惑星カプロスは全表を黒蘚に覆われた死の惑星となり、打ち捨てられた。


 その後フィロスは、第一惑星ミロスの開発に着手。こちらはあくまで恒星全球要塞化計画の拠点であったため、無理なテラフォーミングを行わなかったことが奏功した。

 第一惑星ミロスは、大戦前夜まで順調に人口を増やしていくことになる。


 カプロスへの植民が失敗した後、帝政フィロスはテラフォーミングを諦めた。だが外惑星への植民自体を諦めたわけではない。


 第一宇宙歴四一二年、フィロスは第四惑星トゥロスと第五惑星ブロスへの植民を開始する。第一惑星ミロス同様、ブロック拡張方式で地道に人口を伸ばしていき、さらに一世紀が経った第一宇宙歴五一八年、トゥロスとブロスがフィロスからの独立を宣言。


 ここに第二宇宙世紀が幕をあける。


(長いので略)


 もともと第一惑星ミロスは恒星のエネルギーを採掘する全球要塞の建設拠点として開拓された惑星だった。それがいつしか人が住み着き、人が住むことで環境にも変化が生じ、長い時間をかけて一般居住惑星となった。


 フィロス星系惑星連合は、この未曽有のエネルギー難を乗り越えるため、全球要塞の建設を再開する。第一惑星ミロスの住民は「文明の存続のため」という大義名分のもと、住み慣れた故郷を追われた。彼らは父祖の地フィロスへと殺到した。


 大量の難民にフィロスは悲鳴をあげた。トゥロスとブロスへも、難民の受け入れを求めた。が、間に死の第三惑星を挟んでいるため物理的な隔たりが大きい。

 また、トゥロスもブロスもテラフォーミングなしに開拓された惑星だ。居住区は限られていて、難民を受け入れる余地がなかった。


 そこでトゥロスとブロスは結託し、星系史最大の虐殺を敢行する。それは、ミロス難民であふれかえる惑星フィロスをまるごと、絶対零度の宇宙にはじき出して無かったことにしまおうという、空前絶後に壮大で、残酷な計画だった。


(中略)


 第三惑星カプロスは第二宇宙歴三六六年、フィロスに直撃した。

 この衝撃でフィロスの人口の九九%が消滅。

 生き残った一%も、惑星ごと公転軌道から弾き飛ばされて、いずれ凍てつく宇宙にエネルギーを吸い尽くされる運命だった。


 フィロスの皇子(生まれたばかりの星野司)と、母親である皇妃は、この大災厄を生き延びていた。それは明らかに不幸なできごとだった。瞬殺されるのと、じわじわと凍死を待つのと、どちらがいいか。苦しむ時間が少ないだけ、瞬殺されたほうがましだと思われるくらい、フィロスの明日は圧倒的絶望に覆われている。


 緊急脱出ポッドは一つだけ残っていた。

 本来ならば臣民のためにこれを使うべきだったろう。だが皇妃は一人の母親として、エゴに打ち勝つことができなかった。彼女はその脱出ポッドに幼い我が子の命を託した。


 彼女は乗り込まない。これから深宇宙に向かって、脱出ポッドはあてどない旅に出る。一人分の生命維持なら、エネルギーがもつかもしれない。二人分の生命維持をする余裕は、おそらくない。


 シールド越しに、見えるはずもない我が子の姿を探し、皇妃は今生の別れに涙を流す。熱い涙も、あっという間に凍てついて、白い宝石のようにまつ毛を飾るのだ。


 生きて

 あなただけは、きっと生きて


 皇妃の願いを乗せて、脱出ポッドは宇宙へと射出される。彼女は愛する息子のために、豊かな惑星の夢を見る。


 そこは、かつてのフィロスのように緑豊かな楽園だ。太陽(ロスベル)の白い光が灰色の大地をじりじりと焼く。

 大きくなった息子が、空を見上げて憂鬱そうな顔をしている。

 そんな不満げな顔すら、彼女は微笑ましく思う。


 あなたはきっと、温かな土地に舞い降りることができる。

 寂しくなったら空を見上げてごらんなさい。

 わたしはいつでもあなたのことを見守っています。


 満足げに微笑みながら永久の眠りへと落ちる彼女の上に、ドライアイスの雪が音もなく降り積もる。

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