アダルトチルドレンである、ということ

 私が20歳の頃、アダルトチルドレンという言葉を知りました。

 知った途端に全てが腑に落ちて、とにかく母を猛烈に恨みました。父の方が暴力をふるっていたはずなのに、何故かこの時、頭に浮かんだのは母だったのです。


 今なら分かりますが、父には悪意も邪気もなかったのです。

 半ばじゃれているつもりで、私を半殺しにしているだけでした。私が許していると思い込んだから、じゃれて遊んでるのが殴る蹴るに飛躍したのです。


 それをわざと止めずに焚きつけて、父を子を調教する鞭として扱っていたのが母だったのです。母は私が殴られても止めたりせず、厳しい顔をして父と私の間に正座して、「お父さんに謝りなさい。ほら、もっと殴られるわよ!」と、私を責め立てました。そして父のいないところでは、「ブス」だとか「デブ」だとか「おバカ」だとか、私を侮辱する言葉でからかって遊んでいました。


 デブは確かにデブでした。

 私の弟は母によく似た『美少女』でしたので、それに比べたら確かにブスでした。

 バカは、確かに両親が望む基準のはるか下にいました。


 結果、私は自分を「ただ無駄に酸素を消費するだけの、早々に死すべき人類の汚物」だと思うようになりました。

 親には「お前は無能だから、人様のいう事に黙って従え」と刷り込まれており、自分からは何もできず、叱られるまで動けないでいました。指一つ動かすのにも、何らかの許可がいるのではと本当に思っていました。

 自分の知っている社会ルールが全て他人の命令と評価ありきでしたから、何をするにも気力を消費し、ビクビクと怯えながら生きていました。


 親に恩返しをしたくとも、親は『恥ずかしい子』からの貢ぎ物など、箱すら開けません。

 逆に『自慢の子』からのお土産は、その日のうちに嬉々として食べてしまいます。


 しかし家が有事となると、両親は私にだけ助けを求めます。

 私は誰よりも必死になって、両親を助けてしまいます。

 プログラムにスイッチが入ったような状態です。

 感謝の言葉なんて絶対にないのに、『私は助ける存在』として操られるのです。


 それは、親から逃げた今でも続いており、彼を助けるために何もかもを犠牲にしてしまう所に出ています。――正直やめたいんですけどね。


 こういう話を書くと「なんでも親のせいにするな」と言われる事もあるのですが、親の影響は常人が考えるよりはるかに強いです。

 私は、一人で社会に出ても30半ばまでは「自分は人類の最底辺」だと思い込んでいたのです。自分以下の能力しかない人間は、もはや人間ではないとまで思っていました。褒められるととてもイライラしました。「最低限を褒めたところで、永遠に最低限なのがこいつのは分からないのか、『常識を知らんのか』」と、逆ギレしていたのです。


 アダルトチルドレンは社会学の現場で生まれた概念であり、正式名称ではありません。『なんかそういう人が多いよね』という、ソーシャルワーカーの現場で生まれた括りみたいなものです。ただ、そういう病的な固執は、明らかに性格上のものではありません。隔離された家庭内で起こる洗脳です。新興宗教と同じなのです。


 日本は、アダルトチルドレン化した人が潜在的に多いと思います。

 子育てを家族に押し付けて、外から介入できない仕組みが出来上がっています。核家族化が進みすぎて、両親というたった2人の考えや欲望が子供に全て向かうように出来ています。そのうえ儒教の影響がまだ強く残っているため、『親孝行は絶対』という考えから脱却できていません。


 幸い、この洗脳を解くことは不可能ではありません。

 しかし、非常に難しいことではあります。

 私は自分の命の危機を感じて、初めて『逃げよう』と決意できました。だけどその後数カ月間、毎夜母の悪夢を見ましたし、家を捨てた事による恐怖心も半端ではありませんでした。今も、唐突に恐怖が湧き上がってくることがあります。


 誰しも親の影響は受けて育ちます。

 しかしアダルトチルドレンというのは、負の影響ばかりが濃く残り過ぎ、普通の生活が送れない思考から抜け出せないのです。

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