私はプチうつ、彼は軽躁で良しとした。
今日は彼の精神科、通院の日。
「どうですか」
と院長先生に聞かれて、うちの彼は私を振り返った。
「わーりーと、調子いいよな?」
「いや軽躁だろ」
私、電光石火の速さで否定。さっと先生に向き直り、この一カ月の出来事を説明した。
「まず月初に職場をクビになりまして(先生固まる)。しかし前回はクビになった後落ち込んでいましたが、今回は派遣元からのストレスから解放されたからか、明るくなりました。
しかしあれから料理を全くしなくなり、外食ばかりになり出費もじわじわ多くなっています。どー見ても軽躁です」
かつて躁時の出費の多さに本当に困ったので、そこはしっかり語っておく。先生は真面目な顔で、カルテにメモをしている。
「それと、腰痛が酷くて手術をしようという話だったんですが、転院先の先生が『精神的なものの可能性がある』とおっしゃいまして」
院長先生、「ぶふぉっ」と音を出して吹き出す。
いやマジで、本当にそんな音がした。ツボに入ったらしい。
「いや確かに、腰痛とか頭痛とか出る事があるけどもwwww」
何がそんなにおもろいねん。こっちはもう大騒ぎやったんやで。
レントゲンやらMRIやらで金が飛ぶし、通院で休むと派遣元からギャンギャン非難されるし。むきゃー!
「まあ、周りが見たら彼の様子は心配だろうけどね。大きな問題はないんだし、よしとしたらどうかな」
院長先生はニコニコしながら、私に小さい子を諭すような言い方をした。一瞬むっとしたけれど、そこに慈悲というか、優しさというか、『非難ではない何か』を感じた。
「……私も同じ病気だけど、軽躁はなんか嫌で、軽いうつがちょうどいいって思うもんで」
「軽いっていっても、鬱はとっても辛いでしょー」
「辛い、です。私は心は平気だけど、体は、すごく……」
ああ、そうか。
私が実家にいた時、人生を楽しみだした私を見て両親はよく責めた。もっと我慢しなければならないとか、もっと地味にせねばならないとか、目立つような行動は慎めとか、『楽しいと思ってはならない』とか。
私は同じことを、彼に求めていたのかもしれない。辛いままでいろと、我慢しろと。
『双極性障害は、少し鬱ぐらいがちょうどいい』と、回復過程にある当事者はよく語る。私もそのくらいが、自分を制御しやすくて安心できる。だからって、それを他人に押し付けるのはどうだろう。そもそも、外食や少額の買い物を全て『贅沢』だと決めつけていいわけがない。『楽しい』は、絶対必要だ。
夕食は、私が彼のお気に入りの店に誘った。
美味しいねと言い合いながら、思いっきり食べた。楽しかった。
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