第26話 告白?

 川内と二人で並んで、バス停までの道のりを歩く。

 今日は少し遅くなってしまったからか、近くには同じようにバス停を目指す生徒はいない。

 四人でいることが当たり前で、尾崎が忙しくなってしまってからも、それでも木下と三人でいたから、こうして二人きりで帰るのは珍しい。


 川内は嫌じゃないかな、とふと心配になる。


 こうして男女が二人で歩いていると、「山ノ神ってカップルが多いよな」と言われていることもあって、彼氏彼女と誤解されることもあるかもしれない。


 いや、俺としては、誤解されても構わない。

 できれば本当に、彼氏彼女という関係になりたいと思っている。


 けれど川内にとっては迷惑極まりない話、の可能性ももちろんあるだろう。

 川内はどう思っているのか、知りたいような、知りたくないような。


「尾崎と木下、良かったよな」


 そうポツリというと、川内はこちらを見上げて、そして穏かに微笑んだ。


「うん」


 かわいいな、と思う。

 できれば、いつもこうして並んでいたいとも思う。

 だから、口を開いた。


「……俺たちも」

「え?」

「俺たちも、付き合う?」


 言ってしまった。

 川内はこちらを見上げて、何度も目を瞬かせた。

 驚いているのか、喜んでいるのか、迷惑だと思っているのか、その表情からは読み取れない。


 そして言ったあとから、どんどんと後悔の念が押し寄せてきて、そして頭の中で言い訳の数々も浮かんできた。


 勢いに任せたような感じだけれど、でもいつかは言おうかと思っていたし、言ってしまったものは仕方ない。

 ああ、でも、断られたらどうしたらいいんだろう。

 三年に進級するとき、クラス替えはない。これから一年以上、ずっと気まずい思いをしなければならないのだろうか。

 それに、園芸部はどうするんだ。

 いや、俺はいい。それは自分の起こしたことで自分の責任だ。けれど告白された川内のほうが、気にしそうな気がする。

 じゃあ園芸部を辞める? いやそれはあまりにも無責任過ぎやしないか。尾崎との『ハルちゃんと一緒におって』という約束もあるのだ。それはダメだ。

 でもそれなら、明日から、いったいどんな顔をして過ごせばいいんだろう。


 やっぱり早まったんだろうか、言うんじゃなかったか、とそんな後悔の念で頭の中をいっぱいにしながら、黙りこくってしまった川内をちらりと横目で見る。

 すると彼女は、ぼそりと言った。


「……も?」


 そうしてこちらを横目で見上げてくる。眉根を寄せていて、不機嫌を隠そうともしていない。


「も、ってなに?」

「えっ」

「なんか、ついで、みたい……」


 そう言って、ふてくされたように、唇を尖らせた。


          ◇


 結局あのあと、二人ともほとんど無言のまま、バス停に到着した。


『いうても、いいタイミングでいいこと言えるとも限らんよの』


 木下が尾崎に告白のようなことを言ったときに、俺が言った言葉だ。

 そう発言はしたが、まさか本当に悪いタイミングで悪いことを言ってしまうとは思っていなかった。


 最悪だ。


 俺は夜になって自室に戻ると、自分の勉強机の上に突っ伏した。

 するとノックもなしに、部屋の扉が開く。

 そういうことをするのは、もちろん。


「なあにぃ? 辛気臭い顔してからー」

「……姉ちゃん」

「帰ってからずっと、なーんか変なんじゃけど。ムカつくわ」


 いや、ムカつかれても。


「言うてみんさい、なんかあったんじゃろ?」


 言っている言葉は、悩める弟に優しい言葉を掛けているような感じだけれど。

 表情は、ワクワクする気持ちを抑えきれない、といった具合だ。


「姉ちゃんには関係ない」


 そう言ってそっぽを向くと、ずかずかと部屋に入ってきて、俺のこめかみのあたりを両の拳でグリグリとやった。


「いってえ!」

「やだわー、反抗期ぃ? 可愛くないこと言うんじゃねえ」

「痛い! やめろって!」


 なんとか振り払うと、姉ちゃんは歯をだして、いひひ、と笑った。

 いくら年上でも男と女では力が違うのだし、本気を出せば絶対に姉ちゃんには負けないはずだが、小さいころから散々やられてきたせいか、どうにも敵う気がしない。洗脳に近いものがある気がして仕方ない。


「白状する気になったあ?」


 そう言ってこちらを覗き込んでくるが、かといって、自分の姉に恋愛相談するなどという、こっぱずかしいことができるわけもない。


「別に、なんもないし……」


 再びそっぽを向いてそう言うと、また腕が伸びてきて、頭をグリグリとやられる。


「いてえ!」

「あーあ、弟がグレるとか、ほんま世も末じゃわあ」

「痛い! マジで痛いってえ!」


 最初のものとは比にならない威力だった。

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