第263話 柴田勝家と織田信広

柴田勝家は焦っていた。


織田信秀様の片腕として、織田家のいくさを仕切って活躍していた自負があったが、それはとうの昔に吹き飛んだ。


信長の下には伊達稙宗、内藤興盛、三好政長、大内義隆、山本勘助、真田幸隆など綺羅星の如き武将達が揃っていた。


そして、自分が一番誇っていた武力も、剣豪と小姓、近臣、海賊どもには、現時点では到底敵わない事を認識させられた。


いくさにさえ参戦すれば、また前と同じ様に織田家のいくさの中心にいられると思ったが甘い考えだったのだ。


そんな中でも今回伊勢国朝明郡統括に抜擢されたが、それは繋ぎで、今のままなら信長が伊勢国を統治したら、別の者に替わり、また近臣に戻るか尾張の下社城に帰されるだろう事は分かっている。


信長が美濃を安定させて伊勢攻略を始めるまで、出来るだけ常備兵を雇用し訓練して戦力を増やす。それが使命だった。


朝明郡で牢人を採用し兵を増やして訓練し、5千人の兵を今回のいくさに投入できた。ここまでは及第点を取れたと思う。


しかし、一緒に北伊勢の郡統括になった武将達に比べれば、自分が一段落も二段も落ちる事は合同訓練で実感させられた。


なんだ、あの者達は?


長野業正と冷泉隆豊、自分よりも後に織田軍に入ったが、剣の腕も戦術も全く敵わない。


滝川一益だって、剣の腕こそ負ける気はしないので初めは侮っていたが、領地の運営や謀略など俺など足元にも及ばない。


そして信長は凄い!


家臣になって分かった。信長が掲げている「天下布武」。初めは世迷い言だと思っていたが、尾張、三河、美濃を攻略し、そして今回の伊勢を攻略する事で着実に実現化しつつある。


経済を充実させる事で、領地運営をスムーズに行い、戦力を増やし、その戦力で領地を拡大する。


大したものだ。信長の言う通りにしてれば間違いないないだろう。自分もその一翼を担い、目標の実現を助けて、出来るなら肩を並べて戦うぐらいになりたい。


その為には手柄だ。手柄が欲しい。


幸い今回の攻城戦には、あの化け物のような強さの新免無二と海賊どもはいない。前回もいなかったのだが、前回のいくさは、前田利家に先をこされた。


今回こそはと意気込む柴田勝家だった。


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織田信広も焦っていた。


思いは柴田勝家と同じだ。信秀様の庶長子で長男という事もあり、自分は織田家では頼りにされる存在だった。


織田家の守護獣であるグリフォンも信光様と一緒に託された。ところが織田家の切り札である守護獣を託された割には出番が全く無い。


何だあの武器と守護獣達は?


轟音と共に城壁を崩す大砲。遠距離から正確に撃ち抜く鉄砲。大空を駆けるスレイプニル。城門を破壊するゴーレム。高速で穴を掘り土竜攻めを行う百足。その他にも蜻蛉トンボや天狗もいる。グリフォンが居なくてもいくさには全く問題無い。


従兄弟の信成が近臣になると聞いて、信長様にお願いして近臣に加えて貰った。近臣になれば出番もあると思ったが、待ってても出番は無い。


自分は織田家の中でも武力には自信があったが、井の中の蛙だった。上には上がいる事を重い知らされた。


今回西美濃の軽海西城代に抜擢されて、西美濃の副将として、伊勢攻略に参戦させて貰ったが、良いところは全くなかった。


グリフォンの出撃命令が出た今回、何らかの手柄を上げないと、次は無いのかも知れない。


なんとしても手柄を挙げてやる。


そう心に誓う織田信広だった。

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