第253話 浅井長政3
二つに割れた兵の間を通る浅井長政達は、微動だにせず長政達を見詰める信長の兵の錬度の高さに驚愕する。
そして方陣を抜けて信長の本陣に差し掛かると、小梁川宗朝と前田安勝は馬を降りた。
「暫し待つが良い」
そう言うと小梁川宗朝は、前田安勝を残し本陣の奥に去って行った。
残された浅井長政達も馬を降りた。
そこは緊迫した迎撃態勢の兵達とは真逆の自由でのんびりした雰囲気であったが………。
「「「長政様!」」」
雨森弥兵衛、海北綱親、赤尾清綱の3人が浅井長政の前に走り、長政を遮り、腰の刀に手を添えて警戒した。
遠藤直経は動けず、浅井久政は何の事か分からず不思議そうにしている。
歴戦の猛将だから感じる恐怖に、足が竦み大汗を流すが主君を守る為、命を捨てる覚悟で盾になった。つもりだった。自分達でも理解していた、紙の様に薄っぺらい盾だ。一瞬のうちに殺されるのは間違いない。
「どうした?」
浅井久政が懸念の表情で3人に尋ねる。
「感じませぬか?」
「こ、ここはまるで………」
「猛獣が解き放たれた場所」
動揺が止まらない3人。
「ぬぬ、罠なのか?」
「いや、そんな生易しい物では有りませぬ。周りにいる者達は信じられぬぐらいの強大無比の猛者。我々とは格が違い過ぎます。長政様を守れる気がしない」
それもそのはず、剣豪・元倭寇・小姓・近臣達のいる場所、謂わば信長の最強戦力が揃っているのだ。
小梁川宗朝の先導があるとはいえ、見知らぬ者達が近くにいるのだ。警戒して一瞬の殺気や威圧する者もいる。
または、密かに隠れて信長を守る凄腕の忍者達や蟲王の存在を本能で感じ取ったのかも知れない。
その中でも新免無二や元倭寇達は獲物が来たかと思い、露骨に殺気を飛ばしていた。
「長政様、ここは危険です。信長様との面会は、またの機会に致しましょう」
「ははは、気にし過ぎだ。あまり警戒すると良からぬ事を考えているように思われるぞ。ここは信長様の本陣。警戒が厳しいのは当たり前だ」
海北綱親の言葉に答える長政。
「しかしこの場所はまるで、猛獣の開けた口に頭を入れてる様な───」
「ははは、味方ならとっても安心する場所だけどなぁ。長政、良く来た。援軍に来て貰い感謝するぞ」
浅井長政達の前に信長が現れた。
柔らかく暖かい風が優しく吹いて来る様な感覚になる。
信長の家臣達が一斉に跪くと、自分達でも気付かぬうちに、いつの間にか浅井長政の家臣達も跪いていた。
立っているのは信長と長政だけ。
「信長兄さん、ご無沙汰してます。
長政は明るい顔で信長に話し掛けた。
「この人が信長………」
跪き大汗を流しながら若干顔をあげ信長の顔を盗み見る赤尾清綱。
信長の風格に圧倒される浅井長政の家臣達。
「みんな、顔を上げて立ってくれ。総軍休憩に入れ!」
信長の号令に答えるように、何処かから太鼓の音が鳴り響き、信長軍全体の緊迫感が一斉に緩み、一瞬で景色が替わった様だ。
浅井長政の家臣達も立ち上がり改めて信長を見詰めた。
「無二、
信長がそう言うと、長政の家臣達の重圧が軽くなったようだ。
「敵じゃねえのか。面白くねえ。がはは」
「殺レナイノー」
「ツマンネー」
独り言を呟き何処かに消えた3人。
「いやだなぁ、信長兄さん。俺達はいつでも仲間ですよ。ははは、怖くて裏切られるわけないじゃないですか。ねえ父さん」
長政は信長に答えると父久政に話を振った。
「あ、あぁ」
久政は力無く答える。
「ふふふ、そう言う事にしておこう。向こうで頼綱も待ってる。行くぞ」
信長はそう言って一瞬久政を見た後、本陣に向かう。
「おお! 頼綱も来てるんですね」
長政は信長の後を追い、家臣達も恐々とそれに続く。
越前の朝倉氏と密かに内通している事を見透かされていた気がして、生気を抜かれたようになった久政はその後ろ姿を唖然として眺めていた。
「久政殿、大丈夫ですか。案内します。ささ、此方にどうぞ」
「あ、あぁ」
前田安勝に案内されるがまま、久政も本陣に向かう。
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