第246話 織田信長25歳3

吉乃、ゆず、鶴姫達が出産した。


吉乃の子は男子。信勝と名付けた。

ゆずの子も男子。信孝と名付けた。

鶴姫の子は女子。冬姫と名付けた。


みんな、優しい顔で赤ちゃんを見詰め、愛しそうに抱いている。側では養徳院も柔和な顔つきで微笑んでいた。やっぱり赤ちゃんは可愛いよね。


そんな様子を複雑な表情で、じっと見ていた帰蝶が、哀しみを隠せない泣き笑いの顔で、言いだした。


「決めた! アタイが信忠の面倒を見る」

帰蝶は、乳母が抱いていた吉乃の子で俺の長男・・である信忠を、乳母から受け取り優しく抱き締めた。


側室である吉乃の子だから庶長子となる、去年生まれた信忠はまだ1歳だ。この世界では数え年なので2歳となるのか。


ところで信忠の乳母は甲賀のくノ一だ。滝川一益の紹介で「奥」に入れている。護衛も兼ねているのだ。


まあ、戦闘力は妻達の方が上だけどね。で、それが何かと言うと、美人なのだ。


体育会系女子の様に笑顔がキラキラしてるんのに、時折見せる憂いを帯びた顔にドキッとする。


親父が俺の乳母である養徳院に手をつけた時、スケベ親父と思ったが、今はちょっと気持ちが分かる。


「ちょっとぉ! 信長! アタイの話をちゃんと聞いてるの?」


「聞いてるよ、どういう事?」


「信忠をアタイの子として、アタイに育てさせて! ねえ、吉乃、良いでしょ? 赤ちゃん二人を同時に育てる事は大変でしょ。だから……」


「乳母になるって事?」


「信長はさぁ。これからも多くのいくさを越えて、天下布武に邁進するでしょ。それは、信長1人の目標ではなくて、今や織田家に連なる皆の念願なわけよ。そう言うアタイの念願でもあるわ」


「うん、それは実感している。前に勘助と幸隆にも強く言われたしね。それと信忠に何の関係が───」


「信長にはさ。死んで欲しくはないけど、いくさはどんな事が起こるか分からないし、いくさ以外でも事故とか病気で早世する事もあるじゃない?」

帰蝶は俺の言葉を遮り話し続けた。


「まあ、何があるかは分からんね」


「そんな時、拠り所と言うか旗印と言うか、つまり跡取りがいたら、みんな一丸となって天下布武に向かえるわ。でも跡取りが決まっていないと、その家は家督を争って荒れる」


家督が決まっていても俺んちは荒れたけどね。その話は黙っててっと。


「だから、嫡男は早いうちから決めてた方が良いのよ」


「どういう事?」


「あ~、本当に信長はこう言う時は鈍感だなぁ。つまり、アタイが信忠を養子に貰って、信長を嫡男にするわ」


「え? まだそんな事決めるのは早いんじやないの。これから帰蝶も妊娠するでしょ」


「そ、そんな事ぉ! ひくっ、………ずっと悩んでたわ。………アタイは今まで妊娠した事がないのよ。ひくっ、………妊娠出来ないのかも知れないわ。………今まで黙ってたけど、………アタイはアルビノだし。………父も弟も姉も普通の蛇の獣人だけど、アタイは違うのよ!」

泣き出した帰蝶を養徳院が黙って抱き締めた。俺も帰蝶を抱き締める。


ん~、アルビノだって妊娠するぞ。


「もし、信忠を嫡男にして、後で帰蝶が妊娠したらどうする? 後からやっぱり帰蝶の子を嫡男にするなんて出来ないよ」


「もし、妊娠したらとっても嬉しい。嫡男にしろなんて言わないわよ」


「ん~。別に信忠を嫡男にしなくても。今のままでも、帰蝶が妊娠するまでは信忠が家督継承の一番目なんじゃないの?」


「誰か忘れておらんのなぁー?」

鶴姫が俺の肩を叩く。


「ナオちゃんがいるでしょ」

と吉乃が耳元で囁く。


「え、直子は信正に家督継承させる気はないでしょ?」


確かに直子が生んだ信正が長男だけど、………蜘蛛だぜ。


「直子と信正は嫌いじゃないけど、アタイは蜘蛛が信長の跡を継ぐのはイヤなのよ!」


イヤ、確かに今は蜘蛛だけど、大きくなったら人化するはず・・って直子も言ってたし………。あれはあれで可愛いところもあるんだけどなぁ。ん! 「はず」? 絶対ではないのか?


「あのね、アラクネと人間の交配は例が少ないし、大きくなって人化出来るとは限らないんだ」

とゆずが言う。


ゆずが言うなら、そうなんだろうな。


「いや、直子は家督なんて望まないって」


「直子は望まなくても、周りは分からないわよぉ!」


「えええええ! 誰が望むんだよぉ」


「蟲王達とか………」


ん! あり得なく無いのか? 基本的に俺が眷属にしたから、ダンジョンの制約から外れているし、俺の言う事しか聞かないし、レベルを上げすぎちゃって、頭も良くなってるしな。………はぁ。


というか、俺が死んだら。誰かアイツらを制御出来るのか? そっちも心配だよ。


「兎に角! 決めたのよ!」


「え、………吉乃は良いの?」

吉乃から帰蝶に考え直す様に言ってくれないかなぁ?


「私に否はないわ。産みの母と言う事は変わらないし、いつでも会えるし。生駒家から嫡男が出るのは、武家にとって名誉な事よ。喜ばしいわ」

と帰蝶の話をきっぱりと肯定する吉乃。


あ、吉乃はこう言う人だった。バリバリの武家の娘なんだ。


と言う事で信忠が嫡男となり、帰蝶が育てる事になった。そしたら帰蝶も育休を取ると言い出した。

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