第242話 北伊勢攻略4

春日部俊家は奇襲するため独自のルートで進軍していたが、大砲の轟音を聞いて急ぐ。


しかし、織田軍は周囲に大勢の忍びを放ち、広範囲の情報網を敷いていた為、奇襲にはならず、春日部俊家軍の前には、織田家の平手久秀の鉄砲隊を含む1万の兵が待ち構えていた。


「なにぃ!!!」

大軍に待ち構えられていた春日部俊家軍は浮き足立つ。


「撃てえええええ!!!」

平手久秀の号令で一斉に発射された鉄砲に、バタバタと倒れて行く春日部俊家軍の兵達。


春日部俊家軍も鉄砲は熟知していたので、対策も練っていた。しかし、織田軍の鉄砲は予想を遥かに越えていた。


遠距離からの正確な射撃と威力に為す術がなかった。


「退却!!!」


慌てて退却する春日部俊家軍に追撃する織田軍の冷泉隆豊。


冷泉隆豊には追撃しながらも、伏兵の情報が忍びより逐次伝えられる。


春日部俊家は念のために忍ばせておいた伏兵も事前に察知されて、完膚無き迄に叩き潰され、這う這うの体ほうほうのていで、生き残った少ない家臣と逃げ帰るのがやっとだった。


織田信長は初期の段階から情報の重要性を認識していたので、豊富な資金に物を言わせて、滝川一益と戸沢白雲斎を通じ甲賀忍者の積極的な勧誘・雇用を行っていた事と、百地三太夫を通じ伊賀忍者の勧誘・雇用も行っていたので、この世界最高の情報網と諜報部隊を保有していた。


つまり、伏兵や奇襲は全く通じないのだ。


鉄砲の威力と冷泉隆豊が率いる精強な兵士達、そして織田軍の情報収集力の凄さに、全て見透かされている感覚は恐怖を増幅させて、怯えて震える春日部俊家だった。


「はぁ、はぁ、はぁ、奴らは、な、な、なんなんだぁ。うぅ………」


春日部俊家が城を目指して逃げていると、前から女が1人で歩いて来た。


ミディアムヘアの黒髪に吊り目で勝ち気な顔、だが妖艶な女。色白で卑猥な唇。深く開いた胸元から溢れでそうで淫らな乳房。締まった腰から伸びるグラマラスで淫靡な太腿。


「女ぁ! どけぇ!」

気が高ぶっている家臣が叫び女を退けさせようとする。


「いや、待て!」

春日部俊家は家臣を止める。恐怖を忘れ色欲の虜になっており、涎が出ているのにも気付かない。いや、恐怖から逃げて荒淫で紛らせて精神の安定をはかりたいのかも知れない。


春日部俊家は女の元にふらふらと近付くと、女は卑猥な笑みを浮かべた。


「良い事したいノネ。私もしたいシネ」


俊家は女に抱き付く。女も俊家を抱き締めると、舌を長く出して首筋をペロリと舐めた。


そして、大きな口をあけると女の口は昆虫の大顎に変化して、左右の大顎で俊家の首を噛み切った。


「逃がさないシネ」


「ば、化け物かぁ!」

俊家の家臣達が刀を抜いて構える。


女は口から毒液が吐き出し家臣達にかけた。


「く、なんだこれは!」

「ぎゃあああああああ!!!!」

顔にかかった毒液を拭う家臣達の背中に、いつの間にか、家臣の背後に現れた人間と同じ大きさの巨大な雀蜂達が毒針が刺さす。


「ご苦労サマ。食べて良いワヨ。私が欲しいのは、この首だけだシネ」


複数の雀蜂の雌が俊家の家臣を殺して食い始めた。雀蜂女王は俊家の首を持って大内義隆の元に飛んで行く。


織田軍の情報収集は襲って来る者だけを感知する訳ではない。逃げた敵の動向も耳に入る。


大内義隆は忍者より、春日部俊家の状況について報告を受け、雀蜂女王を派遣していた。

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