第240話 北伊勢攻略2

矢田城の前に着いた織田軍。


「さて、さっさと落城させて次に行こうかのう。今日中に桑名郡は制圧して、信長が美濃から帰る前には北伊勢は攻略したいのじゃ」

大内義隆は真田幸隆を見た。


「私もそのつもりでおりますので、先に勝恵殿に最終確認をしていただいております」

真田幸隆は明智光安に目配せした。


「矢田城の矢田俊元は帰順の意思無し、徹底抗戦するとの事です」

明智光安が答える。


「では、一気に行こうかのう。ん、そう言えば、もう1人の矢田はどうなのじゃ?」


「愛宕山城主・矢田市郎左衛門も徹底抗戦の構えです」


「ふ~ん、それではそっちも並行で進めようかのう。これ隆豊、利久と一瞬に矢田市郎左衛門をぶっ飛ばしてくるのじゃ」


「は! 承知致しました」

イタチザメの魚人冷泉隆豊が、ギョロリと目を向いた。


冷泉隆豊は前田利久と一言二言会話し、前田利久と一緒に本陣からのしのしと出て行った。


「晴賢、矢田城にぶちかましてくるのじゃ」

次に義隆は陶晴賢に向いた。


「承知しました。みんな行くぞ」

ホホジロザメの魚人、陶晴賢が声を掛けると、本陣内で黙って聞いていたオオメジロザメの魚人である海西郡統括の弘中隆包、中島郡統括の平手久秀、長島統括の滝川一益、愛知郡統括の加藤順盛が本陣を後にする。


「こんな砦のような城に過剰戦力じゃないかのう」

大内義隆は軍師として同行している真田幸隆と明智光安を交互に見た。


「威圧して帰順の意思を固めさせる効果と、帰順した者へ圧力をかける事で裏切りの防止、これから制圧する郡の城主達へも精神的な圧力を掛けます。これによって北伊勢攻略の早期達成が出来ます」

真田幸隆は無表情で答える。


「成る程のう。ならば、この一発目の攻城戦は派手にやった方が良いのう」


「晴賢殿が上手くやっててくれましょう」

明智光安がニヤリと笑う。


大内義隆の後ろには、百足王と雀蜂女王が無表情で立っていた。


「お前らも行くのじゃ」

義隆は百足王と雀蜂女王に振り向いた。


「承知したデス」

「お腹も空いたシネ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「おいおいおいおいおい! な、なんだ、あの大軍は、こんな小さな城にあんな大軍で来やがって」

天守閣から織田軍を見つめる矢田俊元とその家老。


「斯くなる上は!」


「斯くなる上はどうするデスカ?」


「1人でも多く、道連、れ、に………?」

家老の声ではない、聞いた事のない抑揚のない低い声が聞こえて、恐る恐る後ろを振り向く矢田俊元。


「ここには貴方しかいないシネ」

雀蜂女王が満面の笑みを浮かべて、血だらけの家老の首を持っていた。


隣では百足王が無表情で立っていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「大砲は設置済みの様だな」

陶晴賢が滝川一益に確認した。


「大砲も鉄砲も何時でも撃てます」

滝川一益は不敵な笑みを浮かべる。


「良し、大砲を派手にぶちかまして度肝を抜いてやれ」


「はい」


滝川一益の合図で大砲の轟音が鳴り響く。


大砲の音が鳴り止まない。


濛々と立ち込る黒煙と轟音に、帰順した伊勢の兵士達は驚き怯えながら推移を見守る。


「大砲止めい!」


暫くしてうっすらと黒煙が晴れてくると、見えてきたのは、土埃が舞う中で型を留めない城門と城壁、半壊の矢田城。


「突げ───、ん?」

陶晴賢は突撃の号令を途中で飲み込んだ。


土埃の中から現れる人影が二つ。城主矢田俊元の首の髪の毛を無造作に掴む女・雀蜂女王と、無表情の男・百足王。


「大内義隆の指示で、城主矢田俊元の首を取ったデス」

「兵達は逃げたシネ」


悠々と歩いて来る二人を、唖然と眺める事しか出来ない帰順した伊勢国の兵士達。


これから突撃をする気に満ち溢れていたところに水を差されて、苦虫を噛み潰したような表情の織田軍の武将と兵達。

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