第226話 猿啄城攻城戦1

「いい加減にしてください」

「もう、終わりかぁ。がはは」

木下藤吉郎が新免無二を連れて来た。


「モウ終ワリーダネー」

「宝物、少ナイヨー」

千両箱を肩に担いで来たオニヒトデの魚人陳東ちんとうとメカジキの魚人葉麻ようまが斎藤道三の前に千両箱をドサッと置いた。


「ああああ! 俺の金だあああ!」

千両箱の上に覆い被さる大沢基康。


「オマエ、金、違ウ」

陳東ちんとうが大沢基康の首に柳葉刀の切っ先をつける。


「俺達、金」

葉麻ようまも大沢基康の顔に顔を近付けて睨む。


「そこまでにしとけよ。その男は信長様の家臣になったんだ。なぁ」

木下藤吉郎が陳東ちんとう葉麻ようまの後ろ襟を掴んで大沢基康から引き離すと、大沢基康に同意を求めた。


大沢基康は、震えながら何度もうんうんと首を振る。


陳東ちんとう葉麻ようまは不貞腐れた顔をするが、木下藤吉郎には逆らわない。


元倭寇達は訓練で剣豪や小姓、近臣達に相当扱かれているからだ。


その内、他の鐘捲自斎と元倭寇達も戻ってきた。


「なんだ、降参するのが早かったな」

鐘捲自斎が手に持っていた刀を一振りし、血糊を飛ばすと、布で拭い納刀した。


「がはは、暴れ足りねえだろう」

新免無二が鐘捲自斎に声を掛けた。


「それは無二さんとコイツらでしょう」と元倭寇達を指差す鐘捲自斎。


「がはは、次の戦場に行くか」


「そうですね。コイツらも暴れ足りねえみたいだし………、ご一緒します。監物さんはどうしますか?」

鐘捲自斎が津田監物を見る。


「そうだな、俺達も一緒に行くかな」


新免無二は鐘捲自斎と元倭寇達、津田監物と鉄砲隊を連れて、次の戦場である猿啄城さるばみじょうに向かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


長野業正と丹羽長秀は苦戦していた。


猿啄城は山城、山の上にある城だ。猿啄城主

多治見修理は、兵を城から出して山に展開し戦う事を選んでいた。


山の下からでは城に大砲の玉は届かず、地の利は猿啄城の兵にある。山道の順路や木々が多い場所などを把握している多治見修理は、要所に伏兵を常に用意し撹乱する。


長野業正の用兵と、織田軍兵士の練度の高さや、武器や防具の性能の高さで上回る事から負けてはいないが、ゆっくり伏兵を警戒しながら進む事しかできず、攻略は遅々として進まない。


水源を漸く抑える事が出来たが、山城である事から、山を完全に包囲する事は出来ず。兵糧攻めも難しいだろう。


もっとも信長から今回の戦いは、時間が掛かる兵糧攻めはしないと言われているので、長野業正と丹羽長秀は兵糧攻めをする気はない。


現在の織田軍のウイークポイントを巧みに突いた戦術だ。陣形を自由自在に動かし、鉄砲を使う事で野戦に強く、平城は大砲を撃って突撃してきた織田軍は、山に籠った敵を下から崩す戦いの経験がない。


まあ、何処の軍も楽には勝てないだろうね。人海戦術で強引に行く手もあるが、その場合兵の犠牲は多くなるだろう。


戦いはこれで終わりではない。寧ろ始まったばかりなので、兵の損傷は避けたい。


と言う事で、じっくり攻めるしかないのだが、敵は挑発や奇襲で織田軍を怒らせて、強引に攻めさせようとしてくる。だが、流石長野業正、その手には乗らず。


そんな中。


「お~い、まだこんなところで戦ってるのか? がはは」

新免無二達がやって来た。

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