第135話 勘合貿易船

勘合貿易を行う為の船は5隻、その巨大で重厚な船は港に威風堂々と漂い、その威容に見る者を圧倒する。


「大きくて、ごっついやのぉ。はよう乗らんでか」

鶴姫が俺の手を引き船に乗り込もうとする。


「あ、ちょっと待って下さい。紹介したい人がいます」

と俺を止める相良武任。


相良武任は大内氏で政務を仕切っていた武将なので、勘合貿易も丸投げで任せているからなぁ。誰を紹介したいんだろう。


「鶴姫、先に行っててくれ」


「え~、しょうがないやのぉ。はようきとっていたぁね」

そう言うと鶴姫は船の方に走って行く。


「長秀、利家、鶴姫と一緒に行っててくれ」


「「承知しました」」


小姓の中から二人を鶴姫に先に行かせて、相良武任を振り替える。


「すまんな。待たせたか」


「いえ、こちらこそ急にすいません。紹介したい人とは今度勘合貿易の正使をお願いした策彦周良さくげんしゅうりょう殿です」


「初めまして策彦周良さくげんしゅうりょうと申します。この度は勘合貿易の正使に任命いただき有り難うございます」


策彦周良さくげんしゅうりょうは高級そうな僧衣に身を包み徳の高い僧侶に見えるが、非常に穏やかで人当たりの良さそうな雰囲気を醸し出していた。


「織田信長です。重要な任務をお引き受けいただき感謝致します。宜しくお願い致します」


策彦周良さくげんしゅうりょう殿は大内氏主催の勘合貿易で、副使と正使として過去2回入明していただいた御人です。 陶隆房の謀叛があった後周防国を離れていたのを、大内義隆様の伝でお願いし快く了承していただきました」


「それはそれは、二度も勘合貿易で明に行った事があるとは心強いです」


「明から見た日の本は『十年一貢の国』と申しまして、10年に1度しか貿易を認めていない国です。前回入明してから10年経過していないので、今回の入明は難しいかも知れませんが、出来る限りの事は致します」


ふむ、そうなんだ。

俺が難しい顔をすると。


「信長様、入明が叶わなくとも。明の港に入り明の商人と取引は出来ますし、南海貿易も行います。特に今回は明が慢性的不足している銅と銀を、信長様のお力で大量に持っていく事が出来る為、入明は可能と考えております」

相良武任が空かさずフォローする。


南海貿易って言うと東南アジアの貿易か。香辛料が手に入りそうだな。それに東南アジアにはヨーロッパからも貿易で来ているので、西欧の品も買って帰るんだな。


銀と銅はダンジョン産の物だ。


「正使が策彦周良さくげんしゅうりょう殿に行って貰うとして副使は誰にする?」


「信長様のお許しをいただければ沢彦宗恩たくげんそうおん殿にお願いしようかと思っておりますが、如何でしょうか?」

相良武任が俺に尋ねる。


「おう、良いんじゃないか。本人が了承すれば頼むが良い」


他所から招かなくても自前で出来るなら、それに越した事はないだろう。


「有り難うございます」


「ところで勘合貿易にはあの5隻で行くのか?」

水軍用に1、2隻は残して置きたいな。


「いえ、勘合貿易では3隻までと明から言われておりますので、2隻は信長様の言われている水軍としてお使いください」


「おお、それは重畳ちょうじょう


「信長様あああああ!!!」

勘合貿易船の上から鶴姫が手を振ってきたので、俺と帰蝶が手を振り替えす。


すると船からぞろぞろと乗組員らしき者達が降りてきた。良く見ると降りて来たのは戸田康光やすみつと戸田尭光たかみつ親子、佐治為景、そして新免無二と倭寇達。


「信長様、こんなすごい船は初めてだがね。はよう海でこの船を自由自在に乗り回してゃーがね」

佐治為景が興奮気味に話す。


佐治為景は態々自領から来ていたんだ。船乗りも大勢連れて来てくれたと聞いてるし、気に入ったよ。水軍の一翼を担って貰おうかな。


「がはは、倭寇達を熱田まで案内したついでに乗ってみたが、この船は凄いな」

「早ク、明行ク」

「コノ船、最高ダ。暴レ回レルヨ」

「明軍ニモ負ケナイ」

「南海貿易任セテクレ」

新免無二と倭寇達も大満足の様だった。

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