第134話 新絹
勘合貿易を行う船が完成したと聞いて、港のある熱田の町に来た俺達。
俺と帰蝶と鶴姫、小姓達が町に着くと出迎える家臣達。
今回船の製造を一任した相良武任と、水軍の責任者である内藤興盛が俺に挨拶する。
そして俺との商売を任せている伊藤屋惣十郎と、同じく武家商人で与力の生駒家宗。
生駒家宗の顔を見ると何だかホッとする。吉乃の父だからね義父なんだけど、生駒家の守護神的なニルを連れていった時も、嫌な顔一つせず送り出してくれた。
「家宗、清洲城攻略の時は有り難う。変わりはないか?」
「変わりはございません。勘合貿易もいよいよ始まりますな。商人にとっては夢のまた夢。この様な大事に関わらせていただき、本当に感謝しております」
そうかぁ。勘合貿易は博多や堺の豪商しか請け負えない物だからなぁ。
「ところで、今更だけど生駒家や伊藤屋で勘合貿易を経営出来るのか?」
俺は帰蝶に聞くと。
「何言ってんのよ。生駒家も伊藤屋も信長の製品で大儲けして、今や尾張国が誇る大豪商よ。だから、街道の整備も気軽にお願いしてるんでしょ」
え! そうなんだ。
そして武家商人で熱田の有力者加藤順盛が挨拶来た。
父信秀亡き後、熱田の有力な武家商人の家臣となり、熱田の港も順盛の管理下にある為、今回の勘合貿易にも一口噛んで貰った。
と言うか、竹千代(後の徳川家康)を誘拐した時、暫くの間竹千代を養ったのは順盛だったので、しょっちゅう竹千代に面会しに行った俺も妻達も顔見知りではある。
「信長様、漸く完成漕ぎ着けましたな」
手をすりすりする様な感じですり寄る加藤順盛。
「おう順盛、先日の清洲城攻略の際の助太刀は大義であったな」
「いえいえ、こちらから押し掛けただけでございます。見事な采配と斬新な計略に感服致しました。信秀様亡き後、信長様の与力になり恐悦至極に存じます。何時でもお力になりますので、御用の際はお声掛けください」
早口で丁寧に低姿勢でお礼を言う加藤順盛。
「何だか低姿勢過ぎないか? 前と違うな」
と俺が帰蝶に小声で尋ねると。
「新絹の商いに参入させて貰って大儲けしてるからよ。ね」
横から俺に説明した帰蝶は、「ね」って加藤順盛に同意を求める。
新絹? 芋虫の糸で織った織物かな。
「いや、はは、濃姫様には敵いませんなぁ」
自分で後頭部を手の平で軽く叩き笑う加藤順盛。
「新絹って芋虫の──」
俺が新絹ついて帰蝶に聞こうとしたら、帰蝶に手で口を押さえられた。
「しー、ダメよ! 何処で誰が聞いてるか分からないわ。新絹は信長の想像の通りよ。新絹の事は秘密なのよ。大体、勘合貿易の目的の一つは明の良質の絹織物を手に入れる為なの。絹織物は最重要な戦略商品なのよ」
「え! そうなの?」
「そうよ、信長は何にも知らないのね。国産の養蚕では真綿しか作れないので、明の絹は需要が高くて高価なのよ。そこに絹より高品質の新絹が売り出された。新絹は今や絹の数倍の値を付けても買い手に困らない商品なの、儲からない訳ないわ」
「ははは、何を仰います。末端では十倍以上の値をつけてると聞いていますよ」
と伊藤屋惣十郎。
十倍以上!!!
惣十郎とは、俺が志賀城にいた頃は良く会ってたが、久しぶりの再開だ。
そうかぁ。それは大儲けだな。惣十郎達にもっと金を使わせても良いなぁ。うしし。
清洲城下の街道整備。いや、尾張下四郡全ての街道整備をさせようか。と俺が悪巧みの含み笑いをしてると。
「そななんええから、はよう船を見に行こうでだぁ」
と鶴姫が焦れて俺の袖を掴み引っ張っていく。
「そうだな」
俺と帰蝶達は勘合貿易の船を見にいく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます