第123話 赤塚の戦い1

山口教継やまぐちのりつぐの居城である鳴海城は尾張国知多郡の北部にある。三河国に接する地域だ。今川軍による尾張国の侵攻を防衛する拠点の一つとなる重要な城だ。


その鳴海城主の山口教継と、その息子である桜中村城主の山口教吉やまぐちのりよしが今川義元に寝返り、今川軍の兵を引き入れた。


俺達は寝返った山口親子を討つ為、那古野城を出発した。出陣した兵は800人。那古野城に守備兵を残し出陣しての出陣だ。


この800人は、那古野城下に住まわせた土地を持たない農家や商家の次男や三男などから構成される、つまり兵農分離で召し抱えた戦いの専門部隊だ。


日頃から武将達により訓練が行き届いている軍隊だ。他の国の兵とは強さが違うし、出陣も直ぐに出来る。


スレイプニルに乗り歩兵の速度でゆっくりと進む俺達。鶴姫も慣れないながらスレイプニルに乗って俺の横を進んでいる。


俺の回りは伝令を任せる小姓達と、鶴姫、帰蝶、吉乃、ゆず、直子の妻達が囲む。


普通妻は戦場に来ないだろうに、安全を考えて城で待っていて欲しいのだが、俺の妻達は戦いが好きなのか? 俺は今となっては、何も言わないが、戦場に来るのが当たり前になって来た気がする。


「この服は着心地がええやの。特に下着はすべすべで最高やの」

鶴姫は直子が作った、毛虫の糸で織った布で作った下着と、蜘蛛の糸で織った布で作った服に大満足だ。


「そうでしょう。更にその服は防刃効果が高くて、下手な鎧より良いのですよ」

ユニコーンに乗り、背中に鉄砲を背負った吉乃が答える。


「普段からこの服を着て、いくさがあればそのまんま出陣するなんて考えたんやね」


俺達や家臣はみんな鎧を着ていない。普段からこの服で生活しており、何時でも戦えるしこの服に慣れて、動き易くしているのだ。


肩や肘、膝と急所である心臓部分に甲虫の前翅を装着していて、冒険者風服と言うよりレーシングスーツの様だ。


前回の天狗戦で頭部を守る重要性を認識したので、甲虫前翅を加工して作ったキャップ状で黒色の兜をかぶっている。兜と言うよりヘルメットか。


「戦闘、久シブリ、腕ナルヨー」

「鈍テルジャナイカ?」

「大丈夫ダロ、狩リ、シテタ」

「倭寇チカラ、見セルヨー」

「がはは、お前ら油断するなよ。生き死にの際を楽しもうぜ」

「「「「オウ!」」」」


今回李光頭りこうとう許松きょしょう許棟きょとう陳思盻ちんしけいの4人の倭寇の頭目が合戦に参加していた。


俺の家臣達と一緒に訓練や狩りを行った際、家臣達の実力を目の当たりにして、その実力差を実感し素直に言う事を聞いている。


特に新免無二には狩りで助けられたり、教えられたりして頭が上がらない。


「無二サン、本当、イクサデ、レベル、上ガルカ?」

「がはは、上がる上がる。殺した数で経験値ってヤツが貰えるんだ。経験値が貯まればレベルが上がるのさ」

「ソレ、良イナ、頑張ルヨー」


倭寇の頭領達はやる気満ちた目で前を見詰めた。いつか肩を並べてやると思っているのかも知れない。


鳴海城が見えてきた。俺達は城の近くの小高い「三の山」に陣を敷いた。


山口教継からも俺達が見えたのか、慌てて兵を出撃させて来た。


城にこもっていた方が戦い易いだろうに、折角大砲を準備してたのに、使うまでもないな。


「今川軍も合わせて1500人じゃな」

饗談俺の横で教えてくれた。


今川軍の出陣を見て軍師の山本勘助が近付いて来た。

「敵は旧式の鉄砲しか持ってない烏合の衆。正面から訓練通りで行きましょう。訓練の成果を見たいし、今後の戦いの練習ですな」


「うむ、任せるよ」


俺達も三の山から進軍した。

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