第94話 小豆坂の戦い

俺が竹千代を誘拐した後、三河国の松平広忠は完全に今川義元の傘下に組み込まれた。既に東三河の豪族達を傘下に入れていた今川義元は、三河国を手に入れる為、西三河に進出している父信秀とぶつかろうとしていた。


西三河にある安祥城あんじょうじょうは松平宗家が岡崎城に移る前に居城としていた城で、小城ではあるが守りや易く攻め難い城であり、松平家にとって重要拠点であったが、父信秀が奪い庶兄信広を城主として西三河の拠点としていた。


その上、松平家から離反した松平信孝の山崎城、松平忠倫の上和田城が松平広忠の岡崎城を南と西から脅かし、松平広忠の窮状は極まっていた。


そこで今川義元が太原雪斎を大将、朝比奈泰能を副将として1万の大軍を西三河出陣した。


「今川軍が1万の大軍で西三河に出陣したのじゃ」

と饗談の報告。


いつものメンバーで報告を聞き、今後の対応を検討するのだ。


メンバーは沢彦宗恩たくげんそうおん快川紹喜かいせんじょうき海野棟綱うんのむねつな真田幸隆さなだゆきたかに軍師の山本勘助。そこに前田利久が加わっていた。


「ふむ、オヤジはどう出るかだな」

俺は眉をしかめる。


父信秀は1万の兵を集める事出来ないだろう。かなりヤバいかも知れないな。


「まあ、今川の狙いは安祥城だ。信秀は信広を必ず助けに行くだろう。出撃は確実だ」

山本勘助が右手で顎を擦る。


「北は美濃国の斎藤氏、尾張国内は岩倉織田家、清洲織田家にも油断が出来ない。城の兵を総て出陣させる訳には行かないでしょうから………、3千、多くても4千が良いところでしょうか」

真田幸隆が予想する。


「信長様に出陣要請は来るでしょうか?」

利久はみんなに尋ねる。


「そうだなぁ……、恐らく来ない。信清の謀叛鎮圧で機動力を見せてしまった。尾張国内の抑えにこれ以上適任の兵はいない」

利久の問いに海野棟綱が答える。


「信長様が出陣すれば兵数の差は何とか出来ると思うがなぁ………」

快川紹喜かいせんじょうき


ーーーーーーーーーーーーーーーー


俺は予想通り尾張の抑えとして、尾張に侵攻残るように父信秀から指示を受けた。


そして今川軍の出陣を受けて父信秀は、信広を先鋒として4千の兵を繰り出し、松平家離反の武将達と連携し対抗した。


しかし………。


「信秀様が負けたのじゃああああ!大敗じゃああああ!」

饗談から報告を受けた。


「そ、それで、どうなった?!」


「総崩れで安祥城まで敗走したのじゃ」


「オヤジは無事か?」


「信秀様も信広様も無事じゃ」


「今川軍はどうしている?」


「今川軍も撤退したのじゃ」


「うむ、概要は分かった。オヤジが無事なら一安心だ。最初から詳細の報告をしてくれ」


饗談の話では………。


先鋒の信広軍が進軍したところ、今川軍が小豆坂の上で待ち構えていた。


坂の上から攻撃する今川軍に信広軍は奮戦するも次第に押されていく。


信広軍は退却し信秀本体が後詰めでいる場所まで下がると、士気が高い本体の信秀軍に合流。


信秀軍は盛り返し今川軍を押し返した。高い士気と精鋭による攻撃で、優勢に戦う信秀軍だが、その横から今川軍の伏兵が現れ状況は一変した。総崩れの様相を帯びていく信秀軍。


その時、信秀が笛を吹いてグリフォンを呼び出した。信行もグリフォンを呼び出し、数匹のグリフォン達は伏兵の軍に空から襲いかかり、伏兵の軍は大混乱。


態勢を立て直した信秀軍は再度今川軍を押し返した。


しかし、急に大雪が振り出し今川軍から猛吹雪が吹き荒れる。


寒さに弱いグリフォン達は空を飛べず動きが鈍くなる。慌てて信秀と信行が送還するが、グリフォン達は大怪我を負う。


信秀軍の兵達も身体が思う様に動かず、雪の対策をしていた今川軍は、勢いを取り戻し押し返し、信秀軍は総崩れで敗走した。


しかし、今川軍の損害も小さくなく戦場から撤退した。


大雪と猛吹雪は今川軍の大将である太原雪斎の法術だったとの事。信秀の切り札グリフォンは太原雪斎の法術に敗れ去った。

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