第90話 竹千代

織田信行と土田御前は、古渡城に広がる信長の噂に怒りがおさまらない。


そもそも、大浜の戦いで負けそうになって、信長に助けられた時点で信行は怒り心頭なのだ。


この大活躍で信長の評価うなぎ登り、すでに生駒家、前田家、佐々家を与力として傘下にして日の出の勢いだ。


信行と土田御前は信長が信秀の後を継ぐ流れを断ち切りたい。または評価が下がった自分達の立場を少しでも回復したいのだ。


そこで、かねてから信秀が狙っている三河侵攻に目を付けた。今川軍相手では厳しいが、松平家だったら何とか出来る。そう考えて信秀を説得し三河に侵攻した。


信行、勝家のコンビは今度は失敗出来ないため、信秀からも兵を出して貰い2000人の軍勢で松平広忠がいる三河国岡崎城を目指した。


当然信長軍は出陣しない様に信秀を説き伏せて、信長軍は美濃の抑えとして尾張に残る事となった。


俺は那古野城で饗談の報告を聞いていた。

「三河の松平広忠が今川に救援を求めたのじゃ」


そうだろうね。


饗談の報告は続く。

「今川からは救援を出す条件として、『広忠の嫡男竹千代を駿河に連れてくる事』と言っている。いわば人質じゃな」


これ、あれか?


竹千代を織田家でかっ拐う流れか?


「誰か織田家の中で、その人質を運ぶ人を買収してたりしてるのかね?」


「いいや、その様な事はないのじゃ。竹千代を今川に運ぶのは田原城主・戸田康光じゃ。娘が広忠の妻になっているので、広忠を裏切る事はないじゃろう」


ふ~ん。んじゃ。俺がかっ拐うか。


「五右衛門!」

俺が叫ぶと。


「お呼びでござるか」

石川五右衛門が直ぐに現れた。


「おう、松平広忠が今川に属し援軍を頼む為、人質として嫡男の竹千代を今川の駿河に送るらしい。その竹千代を拐って来てくれ」


「承知つかまり候」

五右衛は煙と共に消える。


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五右衛門は首尾良く竹千代を拐って来た。


竹千代は狸の獣人で、後の徳川家康だ。だが、現在は5歳の幼児だ。日本だったら幼稚園年中の歳。


「竹千代、俺は尾張の織田信長だ」

「ぼ、ぼくは まつだいら たけちよです」


だよなぁ。


信長と家康はここで初めて会ったとされるが、会った事になるのかね? これ。


覚えてないだろうに………。


取り敢えず父信秀に報告するか。


「あら、可愛い子じゃないの、こっちにおいでよぉ」

帰蝶が竹千代を気に入ったらしい。


帰蝶は竹千代を連れて、庭で遊んでいると、ゆずと吉乃も来て一緒に遊んでいた。


子供好きなのか?


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そして信行達は奮戦むなしく岡崎城を攻めきれず、今川の援軍が来て退却して来た。


父信秀は竹千代を人質にして松平広忠に味方になるよう勧誘したが、広忠はそれに対し、「ふん、殺せば良かろう!」と断固拒否。


竹千代の人質は宙に浮く。

拐って来てなんだけど、可哀想に……。


竹千代は尾張国熱田の豪商で武士である加藤順盛の熱田羽城に幽閉された。帰蝶達は竹千代を可愛がっていたので、俺と帰蝶達は時々竹千代の元へ訪れた。


洗脳出来ないかな? って思い、天下布武の話を行く度にしたのだが、分かってくれたかどうか。


また、信行の評判は落ちて、俺の評判は上がるのだった。しかし信行陣営からは今だに『大うつけ者』と言われているらしい。


まあ、どうでもいいけどね。


竹千代誘拐の後、竹千代を駿河まで連れていくはずだった戸田康光は、竹千代を織田に売ったと汚名を着せられて、怒った今川義元に居城である田原城を攻め落とされた。


御愁傷様です。


可哀想なので、戸田康光やすみつと嫡男の戸田尭光たかみつは救出し家臣に取り立てました。


因みに、戸田康光・尭光親子はガザミの魚人だ。ガザミはワタリガニとも称されるカニの仲間だ。魚では無いけど魚人の一種だ。

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