第88話 佐々成宗2

佐々成宗達を案内した訓練場では、生駒家長と真田信綱が模擬戦をしていて、愛洲小七郎が指導していた。


「お、どっかで見た事があると思ったら、生駒んとこの小倅じゃねえか。信長様、生駒家も与力になってるのか?」


「ええ、そうですよ。後は前田家と……ご存知だと思いますが平手家もです」


「ほう、その若さでうちも含めると、4家が与力になってるのはすげえな。しかし24人衆もてえした事ねえな」


「ははは、生駒家長と真田信綱は最近入ったばっかりですからね」

真田信綱なんてまだ10歳だよ。


その内、愛洲小七郎や諸岡一羽、林崎甚助、高坂昌信の訓練が始まると、佐々成宗は驚き声が出なくなった。


「………あいつらうちに来ねえかな?」


「無理無理。うちの戦力だぞ」


「そ、そうだよなぁ」


このジジイ、駄目に決まってるだろ。


「おい、お前ら今直ぐに家臣にして貰って剣術を教えて貰え。良いよな、信長様」

と成宗は息子達に言う。


「あ、ああ」

と俺が言うと。


「やったぁ」

と言って4人の息子達は喜んで訓練に混ざった。


「ところで信長様、前田んとこの小倅はどうしてる?」


「ん~、日課の狩りに行ってるけど、もう少しで戻るかな?」


なんて話をしていると、富田勢源隊が戻って来た。


………空から。


スレイプニルは空を駆ける。


空中を走る8本足の馬に成宗は固まった。


「な、な、なんじゃああああああ!」


「あ、ああ、生駒家の守り神の子供の馬達だよ」


「おい、おいおいおい。こんな馬がいたら戦場で遣りたい放題じねえかぁ!」


生駒家から派遣された馬を飼育する人達が、富田勢源達が乗って来たスレイプニルを連れて馬屋に連れていくと、富田勢源達がやって来た。


「お客様ですか? 私は富田勢源と申します」

「あああああ! 佐々のジジイじゃねえか」

富田勢源隊に加わった前田勝安が叫ぶ。


「うるせぇ小倅!」

成宗は勝安の頭を強く拳で叩く。


「つっ………」

頭を押さえる勝安。


「てめえはあんまり強くなってねえな」


「まだ数週間しかたってねえし……」


「けっ」

と言った後、成宗が俺に振り向く。


「ところで信長様、こええけど信長様の軍馬も見てみてぇ。生駒んとこの守り神だろ。噂ではすげえって聞いてるし……。な、良いだろう」


「は、はぁ、まあ良いけど……。ニルううううう!」

俺が叫ぶと。


「げっ!」

という声が聞こえて、まだ日が浅い者達は隠れた。


「ん? んん? おめえら何やってんだ」

いぶかしむ成宗。


無言で成宗の後ろの上空を震えて指差す勝安。不穏空気を感じて振り向く成宗。


「うああああああああ」


ニルの巨体が成宗の横に着地した。ニルの濃厚な魔力が押さえきれず漏れ出していて、驚き尻餅をつく成宗。


流石に漏らしはしないところは評価しよう。


(信長様、何か用事かな?)


(ああ、お客様がニルと是非会いたいと所望されてな)


(ほう、どちらの御仁かな?)


(横で尻餅ついてるジジイだ)


(あっっはっは、すまんすまん。信長様と狩りをしてレベルと言う物が上がったから、魔力操作がまだ完璧じゃ無いんだ)

笑った後、ニルが成宗に近付く。


成宗は尻餅をついたまま後退る。

「ま、まさか、こんなにすげえとは……」


「信長様、も、もう結構で御座います」

口調が変わってるよ。このジジイ。


(ニル、ご免。もう良いって)


(承知した)

そう言ってニルはその場で寝そべった。

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