第70話 馬2

犬山織田家に属する生駒家に、みんなで馬を買いに行こうとしたんだけど、珍しく恒興が留守番するって言い出した。


「おや、ツネが行かないなんて珍しいな。どうした体調でも悪いのか?」


「いや~、その~」

指を動かしもじもじする恒興は、トイレ行きたいみたいな態度だ。


「ツ~ネ~ちゃん!」

養徳院が立ち上がり恒興の側に行くと、恒興の手を握って撫で始めた。


「ツネちゃん、行かないと駄目よぉ。持ち馬は武士の宝で相棒ですよぉ。武士ならば是が非でも行かねばなりませんよぉ。折角信長様がみんなの愛馬を買ってくださるんですよぉ。信長様にも失礼──」


お、さらっと俺が買ってやる事になってるぞ。養徳院も抜け目ないねぇ。まぁ、儲かってるから家臣の分も買う気でいたけどね。


養徳院の優しい説教始まったところで……。


「行くよ、行きます。行くっすよ!」

恒興が養徳院言葉を遮って養徳院の手を払った。


恒興が小さい声で。

「だからイヤなんだよなぁ、母ちゃんと一緒は………」

と言う声が聞こえた。


恒興の呟きは無視して、恒興に指示する。

「ツネ、全員に声をかけて来い」


「はぁ、分かったっす」


ーーーーーーーーーーーーーーー


俺達は志賀城の城門の後ろで、みんなが来るのを待っていた。


「がっはっは、信長様、みんなに馬を買ってくれるんだって、太っ腹だな」

新免無二が、いの一番にやって来た。


「おう、馬に乗りながら鉄砲を撃つのも良いかもな」

杉谷善住坊が鉄砲を肩に担いで歩いて来た。


「信長様、この度は私と息子まで馬を購入していただけるとは、感謝のしようがありません」

真田幸隆が息子の信綱を連れて来た。


そう言うのはいいんだよなぁ。


その後からぞろぞろと俺の家臣達が歩いて来た。


新免無二、杉谷善住坊、青山信昌、内藤勝介、池田恒興、滝川慶次、諸岡一羽、林崎甚助、鐘捲自斎、佐々木小次郎、平手久秀、平手汎秀、高坂昌信、木下藤吉郎 、滝川一益、富田勢源、山本勘助、内藤昌豊、愛州小七郎、根津政直、真田幸隆、真田信綱。


総勢23名。心強い面々だ。


ここに帰蝶とゆずと直子が加わる。


果心居士は馬を持っているらしい。どんな馬かは怖くて聞けない。


平手政秀、沢彦宗恩、快川紹喜、海野棟綱は戦闘要員ではないので、お留守番だ。


生駒家は尾張にあるが、徒歩では遠いので果心居士、猿飛佐助、石川五右衛門の転移で順番に送って貰った。


こんな時に馬があれば良いんだよね。


生駒家の牧場に到着した俺達一行。


馬に乗った若い女性が長い髪をなびかせてやって来た。馬には上下動があるはずなのに、膝で吸収しているのか、浮いてる様に水平に移動する女性の顔。


馬から颯爽と飛び降りて俺の前に立つ。飛び降りた時に艶のある長い髪が風に舞い、軽く首を振って手で掻き上げ調えた。


背筋がピンと伸びた姿勢で乗馬服に身を包む若く美しい女性。白く綺麗な肌、切れ長の目、鼻筋が通って、柔らかそうな唇、爽やかな笑顔、ジャケットでは押さえきれない胸、乗馬服の上からでも分かる引き締まって長い足。何処を見ても美しい。まるでアイドルと初めてあった時の様にときめく。


近付いて来た………。

顔、ちっちぇええええ!

まるでモデルじゃん。

同じ人間とは思えないよぉ。

見惚れて固まる俺………。


「お客様でしょうか」


優しく滑舌が良いので聞き取りやすい声。


「ちょっとぉ! アタイがいる前で他の女に見惚れないでよ!」

「いい加減にしないと、僕も怒るぞ」

帰蝶とゆずの声が遠くに聞こえる。


イヤ君たちは可愛いよ! それは間違いない。成長したら、目の前の女性と同じぐらい、イヤまた違った美しさになると思う。でも俺はロリコンじゃないんだ。転生前は30の大人だ。10代前半の女子にはときめかないだろう。これは摂理であり真理だ。

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