第54話 坂氏の村2

坂氏の村長、坂百仏の案内で村長の屋敷に行く途中で、果心居士から坂九仏について聞いた。


「ほっほっほ、坂九仏と息子の坂十仏さかじゅうぶつはな、京で医者をしていた。高名な医者だったよ。特に息子の十仏は天皇と将軍の侍医となり、連歌師としても高名だった」


「成る程、医術から錬金術に変わったのか」


「ほっほっほ、そうなのかもな」


そんな話をしていると村長の屋敷について、村長の屋敷の一室で話をした。


俺の天下布武に協力して貰えないかのお願いと、鉄砲の火薬作り・改良をして貰えないか、具体的には知識とスキルのある人を派遣して欲しい旨のお願いだ。


「ふむ、天下布武のう。尾張の地方領主の小倅にしては随分壮大な夢じゃな、戦さの無い世の中は素晴らしいとは思うが、儂らは世捨て人じゃ。外の世界がどうなろうと構わぬ」


「しかしこの里も一度戦火に見舞われれば一溜まりもありませんよ」


「仮に吉法師様が頑張っても、織田信秀も一時期の勢いは無く。美濃の斎藤氏と駿河の今川氏が結託している今、潰されるのは時間の問題じゃろう」


「外の世界に興味が無さそうにしていますが、随分お詳しいですね」


「まあ、里を預かる身じゃ。周辺国の情勢ぐらいは調べておる」


「私の情報は無いようですね。私には果心居士殿を始め、先程の蟲達や数多くの優秀な戦士がおります。尾張を統一し、美濃の斎藤利政ともいずれ同盟を組むか滅ぼし、尾張の兵に美濃の兵も加えて京に進軍する事が出来る所存です」


ここは言い切る。決意表明だ。


「ふむ、果心居士殿がいれば何とかなるのかのう。それが仮に可能だとしてもじゃ。人が欲しいと言われても、儂らの村で外の世界に興味がある若者は、既にみんな出て行った。外の世界に行きたい者は、今じゃおらんだろう」


「僕が行きます!」

ガラッと引き戸が開いて、盗み聞きしていた先程の少女が現れた。


女の子だったよな? 僕っ子か!

それはそれで可愛いな。


「おや、ゆず、お主は外に行きたいのかのう。外の世界に興味はないと思うとったのじゃが」


「外の世界に興味なかったけど、吉法師様となら……。僕は錬金術と調合のスキルがあるし、火薬の調合も出来る。人選には問題ないはず!」


「おお! 来て貰えるなら有難い」


「僕の名前はゆず。じょ、条件がある。僕としゅ、祝言を挙げて欲しい。僕じゃ駄目かなぁ?」

一大決心をして頑張って言ったみたいだ。


帰蝶がキッとゆずを睨み、俺の袖をぎゅっと握った。


俺は帰蝶の手を撫でてゆずに言う。

「駄目じゃないよ。むしろ嬉しい。だが側室になるが良いのか?」


可愛い子だし錬金術師が手に入るなら構わないか。


「それは構わないよ」

ゆずが帰蝶に気付き、帰蝶を見詰めながら言った。


「それに、約束はするが直ぐには出来ない。元服もしてないし、正室もまだ決まって無いからね」


ここで帰蝶を横目で見た。帰蝶はちょっと不敵な笑みを浮かべてゆずを見ていた。


「それでも良い! い、一緒に居たいんだ。駄目かなぁ?」


「有り難う嬉しいよ。宜しく頼む」


俺がそう言うと、ゆずはぱぁっと明るい顔になって、帰蝶を見た。

「君の名前を教えて」


「アタイは帰蝶」

帰蝶は不敵な笑みを浮かべたままゆずに言った。


「帰蝶、宜しくお願いします」

ゆずは帰蝶の次である事を宣言した様だ。


「こちらこそ、宜しく。ゆず」

帰蝶も争う気はない様だ。

帰蝶が優しい笑みを浮かべた。


はぁ、無事に済んで良かった……。


「アニキ、すげぇっす。ふぅ、一時いちじはどうなる事かと思ったっす」

と池田恒興の呟きが聞こえた。

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