第41話 大うつけ者

俺が召し抱えた優秀な家臣達を、林秀貞は破落戸呼ばわりした。


「みんな、ひとかどの武芸を持つ者だぞ!」

平手政秀は分かっているなぁ。息子達に聞いているのだろう。


「いいえ、武士としての品性、そして忠誠心に掛けています。城中では吉法師様にしか敬意を表さないのですよ。戦場で誰かの配下についた時、単独行動を取られたら、たまったものではありません」


まぁ、そういう事もあるか? 礼儀ぐらいは周知しておくか。


「それに加えて、吉法師様は1日中城の外に出て、何をやってるか分からず」


俺がいないとレベ上げ出来ないからな、みんなを連れてダンジョンや近隣のモンスターを狩りに行ってるんだ。林秀貞には言ってないだけだ。


「挙げ句の果ては、女まで招き入れるとは! まだ子供なのですよ、歳を考えてください。しかも1人は全裸だったと聞きます。なんたる痴態!」


あぁ、帰蝶と直子は言い訳出来んな。


「この事を聞けば信秀様も悲しむでしょう。この件は信秀様と土田御膳様にご報告致します。吉法師様、もっと己を律してください」


実母の土田御膳の名を聞いて、何故だかカチンときた。


「秀貞! お主は誰の家臣だ! 俺の家臣であろう。父なら報告もよかろう。しかし土田御膳は関係あるまい! お前は土田御膳の家臣なのか? それならここにいる必要は無いぞ」


口から出かかった「出ていけ」の言葉は飲み込んだ。それを言ったら完全決裂だ。林秀貞も将来信長の家臣で活躍する武将なのだ。


「くっ、言い過ぎました。失礼致しました」

林秀貞が悔しそうに頭を下げた。


何だか後味の悪い会議だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


数日後、織田信秀の居城古渡城ふるわたりじょうにて。


織田信秀と長老衆、直臣の有力武将が集まり会議を行っていた。そして、会議も終わりそれぞれの世間話が始まる。


そんな中。

「秀貞、吉法師の近況を教えてくれ」

信秀が林秀貞に尋ねた。


「信秀様、吉法師様は『うつけ者・・・・』です!」


信秀が眉をしかめ、一同林秀貞の言葉に場が静まり耳を傾ける。


「そ、そんな事は有りませぬ」

平手政秀が否定するが、信秀は平手政秀を手で制した。


「詳しく聞こう」

信秀は林秀貞に話の続きを促し、林秀貞は続きを話し出す。


「毎日、朝から晩まで破落戸どもを従え城下を出て、剣術の稽古もせず遊び呆けております」


「ふむ」


「先日は全裸のおなごを城に連れて来ました」


「まあ、なんて破廉恥な!」

側で聞いていた土田御膳が叫ぶ。


「更にモンスターを飼って、糸を吐かせて服を作れなどと、荒唐無稽な戯れ言を言う始末」


「大うつけだのう」

側で話を聞いていた吉法師の大叔父織田秀敏が叫ぶ。


「更にどこで聞いたか、楽市楽座を進めよとのたまう」


「ふむ、今、寺社仏閣と敵対は出来まい」

吉法師の叔父織田信光が言う。


「そうです。その為、お断りしました」

と林秀貞。


「政秀、反論がありそうだな」

信秀は平手政秀に尋ねた。


「はい。城下を出るのは、モンスターを退治し剣術の腕を研いているのです」


「がっはっは、モンスター狩りなど町人の冒険者どもの仕事だ。武士のやる事ではない」

柴田勝家が口を出した。


「う、……秀貞が言っている破落戸も武芸達者な者達です」


「百姓や隻眼の男、粗暴な男、口を利かない男、見栄えばかりきにする傾奇者、信秀様を謀ったインチキ幻術士など、武士らしからぬ輩です。破落戸以外、言い様がない!」

林秀貞が反論する。


「がっはっは、大うつけ者だな」

と柴田勝家が叫ぶ。


「まさしく大うつけ者です」

と林秀貞も後に続く。


「もういい!」

信秀が大声で話を中断した。


「我々武士の本分は合戦よ、多少アレでも戦闘スキルがあれば戦える。元服まで様子を見る。もう吉法師の話はするな」


信秀の言葉で話が終了した。

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