第32話 嚙みちぎってやるぜ!


 それを聞いた瞬間、五人の雰囲気が変わった。

 ヒッと、フラン嬢が怯えた声を出す。一周回って冷え切った怒りが、彼女を恐怖させた。


 ラッシュはガシガシと頭をかき、疲れたような息を吐く。


「なんだかなぁ。いやまぁ、なんとなく分かっちゃいた。分かっちゃいたが、ここまでやるか」

「一思いに殴り殺してやるって思ってたが、撤回するぜ。アイツはただじゃ殺さねぇ。苦しめて殺してやる」


「いいな。私の魔法じゃ骨も残らないから、苦しめてあげることもできないよ」

「いやいやいや、皆さん落ち着いてくださいよ! 殺すのはまずいですって!」


 同様に憤りを覚えていたが、皆の反応を見てネコタは立ち上がって皆を押しとめる。だが、どうやら意思は固いようだ。ネコタが何を言っても黙り込み、何か考え事をしている。

 

 なんとかしなければ、とネコタが焦っていると、エドガーはピョンとアメリアの膝から降り、テクテクと扉に向かって歩き出す。


「エドガーさん。どちらへ行くんですか?」

「フッ、聞くまでもないだろう。やることなんざ一つに決まってる」


「だ、駄目ですってば! いくら悪いのが宰相でも、殺したらこっちが責められますよ」

「お前は甘いなネコタ。だが、安心しろ。殺しはしねぇよ」


 ギランっと、エドガーの前歯が光った。


「――噛みちぎってやるぜ!」

「どこを!?」


「女の子にしてやるぜ!」

「やめて怖い! それ殺すより酷いでしょうが!」


 ガチン! とエドガーが歯茎をむき出しにして前歯を噛み鳴らす。部屋にいた男衆がヒュンと縮こまった。

 その恐怖で冷静になったラッシュが、エドガーを止める。


「ま、まあ待てエドガー。今から王都に戻るのは現実的じゃない。教会にギルド経由で手紙を届けよう。さすがに教会から言われればこの嫌がらせも止まるはずだ」

「チッ、仕方ねぇか。全てが終わってから地獄を見せてやるぜ」


 本当にその通りになるんだろうなと、ネコタは思った。旅が終わるまでにエドガーの怒りが収まっていることを祈るばかりである。


 苛立ちながらジーナが言った。


「だがよ、これからどうするつもりだ? 今、金がねぇことには変わりねぇぞ。教会の手が回るまでここで立ち往生しているつもりか?」

「いや、それだと時間がかかりすぎる。魔王がいつ完全に復活するかも分からないんだ。こんなところで止まっている訳にはいかない」


「そう言うからには、なにか考えがあるんだな?」

「考えってほどのもんでもない。金が無いなら自力で稼ぐか、もしくはある所から借りるかだ」


ラッシュは伺うようにヴェルバを見た。


「ギルド長。ギルドの方から支援金を受けることは出来ないか? 大金は要らない。ただ旅を続けるだけの資金さえあればいいんだ。俺の名で一筆書けば、あとで王家からその資金も受け取れるはずだ」


「むぅ。勇者様達の境遇に同情いたしますし、エドガー様の所属しているパーティーですから個人的には力を貸してやりたいとは思うのですが、申し訳ございません。ギルドは依頼に関すること以外では個人、もしくはパーティーに援助することを規則で禁じられておりまして、私の独断では……」


「なんだよケチくせぇな。世界の危機を救おうってんだから、少しくらいくれてもじゃねぇか」


 ジーナのぼやきを、エドガーがバッサリと切る。


「アホ。ポンポン援助なんかしたら、なんでアイツだけ、じゃあ俺もってなるだろうがよ。公的機関である冒険者ギルドがほいほい個人に手を差し伸べる訳にはいかねぇんだよ。それに、冒険者ギルドが勇者に支援なんかしたら、教会とトピアの連中が騒ぐんじゃねぇか?」


「まぁ、顔を潰されたって言いだす奴はいるだろうな。それくらいの支援も出来ないと思ってるのかって具合に。そもそも受け渡しにギルドに協力をしてもらっているし、実際出来てないわけだが」


「マジで面倒だな。戦うだけならこんなに悩まないで済むのによ」


 ジーナはだるそうに天井を見上げる。

 ラッシュが仕方なさそうに息を吐いた。


「となると、やっぱりこれしかないか。すまん、エドガー。恥を忍んで頼む。俺たちに金を貸してくれ」

「あん?」


 エドガーは首を傾げた。

 その提案に、ヴェルバは同意するように頷く。


「そうですね。それが一番よろしいかと思われます。エドガー様の資産ならば旅の資金程度たかが知れていますし、借りたまま逃げられるということもないでしょうしね」

「……エドガーってお金持ちなの?」


 アメリアの純粋な疑問に、うっ、とエドガーは唸り声を上げた。

 ヴェルバは頷く。


「Sランク冒険者の依頼は、どれも命をかけるほど危険なものばかりですからね。その報酬も莫大なものですよ。特にエドガー様は何度も災害級の魔物を討伐していらっしゃいます。冒険者の中でも有数の資産家と言えるでしょう」


「なんだよ! それならそうと早く言えよ! 悩んでたのが馬鹿みてぇじゃねぇか!」

「エドガーさん。ご迷惑でしょうが、お金を貸してくれませんか? ラッシュさんだけじゃなく、僕からも王様に頼みますから」

「…………やだ」


 申し訳なさそうに身を縮こませるネコタから、エドガーはプイッと顔を背けた。

 それに、ジーナが声を荒げる。


「はぁ!? やだってなんだよ! お前、金持ってるんだろ! ならいいじゃねぇかちょっとくらい! どうせ後で返ってくるんだから、少しくらい貸せよ!」

「うるせぇ! 嫌なもんは嫌なんだ! そもそも王都の屑どもを信用できるか! 返ってくるなんて保証なんかねぇだろうが!」


「それは俺が脅してでも払わせる。そもそもが俺の不手際でこうなったことだし、大変申し訳なく思ってる。だが、お前に頼るのが一番手っ取り早いんだ。だから頼む、今回だけでいいから、力を貸してくれ」


 ラッシュは真摯な表情で頼み込み、深々と頭を下げた。

 誠意ある対応に、さすがのエドガーも難しい顔を作る。


「そ、そんなに頼まれても、俺は……」


「……ついて来てくれるだけでも有難いのに、お金の無心までするなんて間違ってるよ。もうやめよう、エドガーのお金はエドガーはのものだよ。いくら世界を救うためだからって、エドガー個人の物をあてにするのは駄目だよ」


「そ、そんなことないぜ! こいつらはどうでもいいが、アメリアの為だったら俺は全財産を出しても構わねえよ!」

「……本当に? いいの?」


「お、おう。当たり前だろっ!」

「嬉しい……ありがとう」


 アメリアは嬉しそうにはにかむ。

 エドガーはそれに愛想笑いを浮かべつつ、肩を落としてフラン嬢に登録証を渡した。


「すまんが、適当に持ってきてくれるか?」

「はい。ですがよろしいのですか?」

「おう、頼むわ……」


 フラン嬢は頷き、部屋を出て行った。

 ラッシュは苦笑いを浮かべ、軽く頭を下げる。


「本当にすまないな。この借りは必ず返す」

「あ、ああ。気にするな」


「ちっ、偉そうに。こいつにとっては端金じゃねぇか」

「ジーナさん! そんな言い草はないでしょう! エドガーさんは僕らのために私財を投じてくれるんですよ!」


「あ、いや、いいんだよネコタ君。そんなに怒らないでも」

「いえ、ここまでしてくれたエドガーさんに対してさすがに失礼すぎますよ」

「本当にいいんだよぉ……」


 弱々しい声でエドガーは言う。

 ふんぞり返ってもいいくらいのことをしているのに、どこか遠慮しているようにも見える。

 いつも威張っているけど、本当は謙虚な人なんだなとネコタは見直した。


「あ、あの、お待たせしました」


 少しして、フラン嬢が戻ってきた

 フラン嬢は微妙な表情で、


「あの、エドガー様? その、こちらがエドガー様の資産から引き出した物なのですが……」

「お、おう。ご苦労さん。そこのオヤジに渡しておいてくれや」

「は、はぁ……」


 フラン嬢は訝しみながら、小袋をラッシュに手渡した。

 ラッシュは笑顔で受け取り、その瞬間、その軽さに表情を変える。袋を逆さまにし、中身を手に落とした。


 二枚の銀貨が、袋の中から出てきた。

 シン——と、部屋に沈黙が訪れた。

 ヴェルバが苦い顔をして、フラン嬢を見る。


「フラン君、これはどういう……」

「これで旅を続けろってか。宰相の嫌がらせより一枚多いだけじゃねぇか。ははっ、なんだなんだ、嬢ちゃんも意外と冗談が好きだね。だけど、正直悪ふざけにしか見えないかな。オッサンも我慢の限界だよ」


 目が笑っていないラッシュに、慌てたようにフランは首を振る。


「い、いえ! 悪ふざけとかでは無くてですね! ……あの、エドガー様の口座にはそれしか入ってなくて」


 誰もが真顔になった。そして、全員がエドガーに目をやる。

 エドガーは皆に背中を向けながら、ふるふると震えていた。

 ゴホン、と喉を鳴らし、ラッシュは優しい声で言った。


「あ~、エドガー君? これはどういうことかな?」

「だからいやだって言ったんだよぉ……!」


 わっとエドガーは泣き出す。

 ラッシュはエドガーの胸ぐらを掴み、持ち上げて問い詰めた。


「テメェ人に頭を下げさせておいて銀貨二枚ってどういうことだ!? おう! 舐めてんのかコラァ! 残りの金は何処にやったぁ!?」

「そんなもんねぇよ〜! 全部使っちまったに決まってるだろ〜!」


「ぜ、全部ですか? エドガー様、【大炎古竜メルトドラゴン】の討伐だけでも金貨五千枚が報酬として支払われているはずですが」

「はぁ!? 五千!? 国家予算クラスじゃねぇか!」


 王家ですら気軽に支払える金額ではない。それを一体何に使ったというのか。懐疑的な視線がエドガーに集まる。

 えぐえぐと泣き続けながら、エドガーは言った。


「竜の報奨金は……周りの村や街に被害が出てたから、復興資金に……」

「えっ? 本当に? 偉いじゃないですか」

「おおっ、お前凄いな。ちょっと感動したわ。あたしなら全部酒に消えてるぞ」


 意外な一面に、ネコタとジーナが尊敬の目を向ける。

 納得したようにヴェルバは頷いた。


「ああ、そういえば確かに当時はギルドでも噂になり、感謝しておりました。それが他のSランク冒険者とは違うとエドガー様の評判を大きく上げた一因になっておりますね。とはいえ、まさか全額寄付して頂いていたとは……ですが、それ以外にもまだ同額の討伐をしたはずですが?」


「それだ! おい、そっちはどうなんだ! 何に使った!?」


 ブンブンとラッシュは揺さぶる。

 ダラリと力無くぶら下がり、エドガーは呟いた。


「”悪将大鬼ブラッディオウガ”は……その時知り合った狐獣人種のフレミーちゃんが、お母さんが病気で……金貨五千枚必要って……それで……」

「まさか、渡したのか?」


「可哀想だったから、全部。そしてまた会おうねって約束して……ずっと会ってない……」

「典型的な詐欺の手法だろうが! コテコテすぎて誰もひっかからねぇよ普通! 何やってんだお前!」


「だって……! フレミーちゃんは優しくて、可愛くて……騙されるなんて……てっきり運命の相手かと……!」

「だぁ、もういい! それじゃあ、”暴虐嵐虎テンペストタイガー”の方は!?」


「討伐の打ち上げで知り合った、人間のエルちゃんとミーナちゃんに、現物の金貨を見てみたいって言われて……酔っ払ったまま一緒に宿屋に泊まって……朝起きたら金ごと無くなってた」


「本気でバカかテメェ! さすがに二度目はないだろ! なんでそんなのに引っかかるんだよ!? 泊まりで現金を見せろとか怪しさ満点だろうが! 普通見せないだろ!」

「だって……! 3Pしてくれるって言うから……!」


「お前ほんっとゲスだな!? ファンシーな見た目のくせしてなんだそのゲスの思考は! 子供の夢ぶち壊しじゃねぇか!」

「いや、そういう問題じゃないでしょう」

「やっぱりロクでもねぇなこのウサギ」


 二人が冷めた目で見る。実はいいやつなのかと思ったが、やはり中身はクズらしい。

 ギルド側の二人も口にこそしないが、何か言いたそうな目で見ている。

 エドガーは羞恥心で死にたくなった。


「アメリア……すまねぇ……! 俺は駄目なやつなんだ……甘い言葉にたぶらかされるクズだったんだぁ……!」


 地面に降ろされたエドガーは、情けなさで泣き崩れる。

 そんなエドガーを、アメリアは子供を見るような目でぎゅっと抱きしめた。


「もう、しょうがないねエドガーは。お金は大事に使わないと駄目だよ」

「うんっ……うんっ……」


「次からは全部使わないで、半分は私に預けるようにね。大事に仕舞っておいてあげるから」

「うんっ、分かった……! 次はそうする……!」


「なんだかアメリアさんからすっごく駄目男好きな感じがするんですけど」

「いや、むしろあれは駄目息子と過保護な母親の構図だから大丈夫じゃねぇか?」


 それに、あのウサギは誰かに管理されとかないと何も変わらないだろうし。


「ところでさ、エドガー。聞きたいことがあるんだけど」

「ぐすっ。おう、なんだ。なんでも聞いてくれ」

「うん。あのね、3Pって何?」


 ――その時、部屋に戦慄が走った。


 マジか。そうか、知らないのか。まぁ王都で英才教育を受けてたなら仕方がないか。

 だが、それを教えろと? 


 いやそもそも、仮にも賢者の少女を相手にそんなことを教えていいのか? 性教育というにはあまりにも俗……しかし相手も子供ではないし、ここで下手にはぐらかしても……。


 似たり寄ったりのことを、皆が高速で考える。どう答えるのが最適なのかと真剣に答えを探し出す。

 この間、僅か二秒。アメリアが違和感を持つか持たないかいう絶妙な間で、矢面に立っていたエドガーは答えた。


「――ん? ああ、3Pっていうのはな、三人でプレイ。つまり三人で遊ぶって言葉の略だよ」

「へぇ、そうなんだ。じゃあ私達が五人で遊ぶ時は5Pっていうの?」

「あっ、ああ。そうだな。間違ってないな。その時が来るとは思えんけど」


 素直な返しに、罪悪感からエドガーは目を逸らした。大丈夫、嘘は言ってない。だから俺は悪くない。


「ふぅん、知らなかったな。私も今度から使ってみるよ」

「そ、そうか。でもまぁ、あまり使われてない言葉だしな。間違った使い方をすると恥ずかしいぜ」


「そっか。じゃあ使い時には気をつけるね」

「おっ、おぉ。……本当に気をつけろよ」


 ウサギの罪深い欺瞞により、偉大なる賢者は間違った言葉を覚えてしまった。

 彼女が公衆の面前で大恥をかく日は、おそらくそう遠くない。


 誤魔化すように、ラッシュは咳払いをした。


「あ〜、まぁなんだ。エドガーが金を持ってないならしょうがない。こうなったら最後の手段に頼るしかない」


「最後の手段? なんだよそれ?」

「決まっている。借りれないなら、真っ当に働いて稼ぐ!」

「勿体ぶって言うことかよ。策でもなんでもないじゃねぇか」


 呆れた目を向けるジーナを無視して、ラッシュはヴェルバに尋ねた。


「そういう訳ですから、ギルド長。何かわりのいい依頼はないですかね? 旅費を稼げる程度の金額でいいんで」

「ふむ、商隊の護衛などはどうですか?【迷いの森】方面に向かうものを選べば好都合だと思いますが」


「いや、これでも極秘ということになっているからな。なるべく他人と関わらないようにしなければならない。それに、今から楽をさせると後で辛くなるしな。そうだな、出来れば戦闘系のものがいいんだが」

「戦闘系ですか……」


 軽く考え込むヴェルバ。

 エドガーはバカにするような口調で言った。


「お前な、この辺には報酬の低い弱っちい魔物しかいねぇんだぞ。討伐報酬だけで旅費を稼げるような、そんな都合の良い依頼があるわけないだろ」

「いや、そうでもありませんよ」

「え、あんの?」


 意外そうな顔をするエドガーに、ヴェルバは一枚の依頼表を渡した。

 エドガーは神妙な顔でそれを読み上げる。


「近隣でゴブリンの発見数の増加。巣が作られた可能性があり。ゴブリンの巣の捜索と、発見した場合、可能であるならこれを排除。ふん、ゴブリンの駆除か。なるほど、低ランク冒険者には荷が重いかもな」

「あの、ゴブリンってあまり強くない魔物ですよね? それなのに、危険な依頼だったりするんですか?」


 ゲームや小説でも定番の魔物だ。どこでも雑魚扱いされている。なのに、エドガーの口ぶりでは簡単ではないように聞こえる。


「強さ自体は大したことねぇよ。初心者でも戦えるし、数匹を同時に相手にしても、Dランク――一人前扱いされる冒険者なら問題ない。ただ、巣を作っているとなると相当な数のゴブリンが繁殖している可能性があるからな。せめてCランクくらいの実力が必要になってくるな」


「これから調査依頼を出そうと思っていたところなのですが、高ランクの冒険者は遠出をしており、今は下級の冒険者しか居ないのですよ。エドガー様達なら受けてくださるというのなら、こちらとしても助かります。報酬はそうですね、これくらいで」


「どれどれ。……え、マジかこれ」


 提示された金額は、相場と比べて破格と言ってもいいものだった。これなら、しばらくの旅費として十分すぎるくらいだろう。


 あまりにも美味すぎる内容に、疑うような目を向けるエドガー。その視線を、ヴェルバはニッコリと笑って受け止めた。


「エドガー様に端金で依頼を受けて頂くわけにはいきませんから。それに、ギルドは個人的な事情では金を貸すことは出来ませんが、依頼という形でなら融通が効くんです。当ギルドの援助と思って、受け取ってください」


「なるほど、そういうことか。悪いな、ありがとよ」


 エドガーはヴェルバと握手を交わし、自慢げにラッシュを見た。


「どうよ、俺の威厳」

「そんなもんあるか。だがまぁ、ゴブリン駆除ってのは良い依頼だな」

「どこがだよ。数が多いだけの雑魚じゃねぇか。面倒なだけで、面白くもねぇ」


 うんざりしたような顔を見せるジーナに、ラッシュは笑って答える。


「確かに、俺達にとってはそうだな。だが、ネコタの相手にはちょうどいい。まさにうってつけの相手だ」

「ああ、それで戦闘系の依頼にこだわったのか」


「まぁな。どうせ依頼を受けるなら、報酬だけじゃなく他に意味を持たせたいからな」

「え? えっ、え?」


 オロオロとするネコタに、ラッシュは言う。


「お前はこの半年の訓練でそれなりの実力を身につけた。世界でもトップレベルのな。だが、お前はまだ戦士にとって大事なものを身につけていない。旅の途中でおいおい覚えればいいと思っていたが、どうせならここで身につけちまえ」


「なに!? まさかこいつまだ経験なしか!?」

 

 ネコタが反応する前に、エドガーが驚く。

 ラッシュは頷いた。


「ああ。座学と基礎訓練で精一杯でな。実戦をしていないんだ。旅に出れば嫌でも身につくから、俺もその方針に賛成したんだよ。宰相の妨害は許せんが、その機会が早く訪れたのは幸運だったかもしれないな。人型に近いゴブリンで慣れれば、他の魔物も大丈夫だろう」

「なんだよ、それならそうと早く言えよぉ! くぅ〜、楽しくなってきたぜ!」


 急に態度を変えるエドガーに、ネコタはおそるおそる尋ねた。


「あの、先ほどから何の話を? 身につけるってなにをですか?」

「そんなの決まってるだろ!」


 我慢出来ないとばかりに、エドガーは嗤った。




「戦士の必須技能。異世界召喚のテンプレ──殺すKAKUGOってやつだよぉ!」






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