ビッグマン★
足の
わたしに余計な振動が伝わらないように、ゆっくり静かに歩いてくれています。
腰を下ろしているオウンさんの肩の高さは三メートルもありますが、これならそれほど怖くはありません。
むしろ
「それにしても……なんて不思議な
視界を流れていく幾何学模様の壁面に、楽しさが薄まりました。
強化
床にも同じ色の組み合わせのまた別の紋様が描かれていて、まるで呪術的・魔術的な
(この階層自体が、何かしらの儀式的な意味合いがあるのでしょうか?)
“巨竜の腸” のように複雑に絡み合う第三層には、地下迷宮の単なる一階層以上の秘密が隠されているのかもしれません。
(――どちらにせよ、早く隼人くんたちと合流しなければ。今はそれだけに集中するのです)
ここはすべてが幻のように不確かな、一〇〇年後の世界。
先を見すぎても、不安に陥るだけです……。
その時、オウンさんが立ち止まりました。
触れている筋肉が強ばり、緊張しているのがわかります。
どうやら隼人くんたちと合流するまえに、
曲がりくねった回廊の角から現れたのは、オウンさんに勝るとも劣らない巨体――。
「“
ギリシャ神話にも登場するこの半人半牛の魔物は、こちらの世界でも “神話系” というカテゴリーに属していて、知能は低いですがそれを補ってあまりある怪力と高い
その “牛人”が二頭、手に無骨な
https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16818023211750513389
「大丈夫です、オウンさん! わたしは強力な魔法の指輪を持っています!」
牛人のモンスターレベルは7。
どんなに強靱な体躯を誇ろうとも
わたしが指輪の嵌まった左手を獰猛に唸る二頭に向けたとき、オウンさんの大きな手がわたしを包み込んで、優しく回廊の床に下ろしました。
そうしてからつぶらなひとつ目を、意味ありげにウィンクします。
「戦ってくれるのですか?」
「オウン!」
どうやら『ここは任せておけ』と言いたいようです。
「そ、そうですか。でも相手は二頭いるうえに武器を持っています。十分に気をつけてくださいね」
騎士道精神?を見せてくれている男性?を強いて止めるわけにもいかず、わたしは大人しく後方に下がりました。
もちろん戦いを注視して、いつでも援護できる態勢をとります。
オウンさんはズシン、ズシンと進み出でると、二頭の “牛人” の前に悠然と立ちました。
身構えもしないその態度が癇にさわったのか。
“牛人” の一頭が獰猛に咆哮すると、大きく裂けた口から涎を吹き零しながらオウンさんに襲いかかりました。
それは一瞬の出来事でした。
オウンさんは振り下ろされた斬首人の剣の真下に踏み込むと、それを握る “牛人” の手首をつかんで無造作に捻じったのです。
ゴギンッ!
胸の悪くなる音が響いて、“牛人” の右手首が異様な角度を向きました。
さらには “牛人” の手から落ちた切っ先の扁平な剣を巧みにキャッチすると、激痛に暴れ狂う牛頭へと振り下ろしたのです。
血しぶきが上がり、憤怒に歪んだ “牛人” の頭部がゴロゴロと床を転がって行きました。
水際だった手際です!
明らかに正式な訓練を積んだ身ごなしで、知能の低い巨人になしえる芸当ではありません。
ビュッ! と血振りをくれると、オウンさんは切っ先の無い剣をもう一頭の “牛人” に向けました。
そこからはもう、一方的すぎて戦いになりませんでした。
同等の体躯に同等の武器。
ですが知性を持ち正式な訓練を積んでいるであろうオウンさんと、本能のままに荒ぶるだけの “牛人” とでは勝負になりません。
オウンさんは残った “牛人” の力任せの一撃を見事に
「すごい……!」
賛嘆の呟きが漏れます。
「すごい! すごい! すごい! ――すごいですよ、オウンさん!」
わたしは
「オウ~ン!」
オウンさんはまるで『それほどでも』といった感じで、謙遜&照れたように大きなひとつ目を
「どうやらあなたと出会えたわたしは、とても幸運だったようですね。新ためてこれからよろしくお願いします」
「オウン!」
オウンさんはうなずき、指先を差し出します。
わたしは自分の太ももほどもある小指の先を、握り返しました。
友情の握手です。
◆◇◆
聖女と巨人の間に信頼が芽生える一方で、彼女を欠くパーティでは剣呑な空気が立ち込めていた。
--------------------------------------------------------------------
※スピンオフ第二回配信・開始しました!
『推しの子の迷宮 ~迷宮保険員エバのダンジョン配信・第二回~』
https://kakuyomu.jp/works/16817330665829292579
--------------------------------------------------------------------
プロローグを完全オーディオドラマ化
出演:小倉結衣 他
プロの声優による、迫真の迷宮探索譚
下記のチャンネルにて好評配信中。
https://www.youtube.com/watch?v=k3lqu11-r5U&list=PLLeb4pSfGM47QCStZp5KocWQbnbE8b9Jj
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます