悪巧みの崩壊
「――いったい何事だい!?」
鳴り響く鳴子と呼子の
鋭敏な “猫” の鼻が危険な臭いを、ヒゲが不穏な気配を感じ取っている。
警報は後方から発せられていた。
悪魔封じの結界は三日前に完成している。
“カドルトス寺院” の坊主どもは強欲で生臭だが、男神への接続能力は高い。腕は確かだ。
実際この三日間、後方への魔族の侵入は一度もなかった。
とすれば、侵入してきたのは魔族以外の “何か” だ。
だがいったい何がどうやって?
唯一考えられるとすれば、可能性の話でしかないが――。
直後、四
これまでに何度となく襲撃してきた “
“
直撃を受けた “壁” の表面がすでに魔法で焼き固められているにも関わらず、一瞬で融解、沸騰したドロドロの溶岩となって流れ出る。
積み上げられた土嚢を通して
地鳴りのような咆哮が迷宮の澱んだ大気を揺るがし、“漆黒の正方形” から炎の主が姿を現した。
「ようやくお出ましかい」
ドーラが目を瞬かせて、巨大な “
開戦六日目にして、ついに迷宮最下層の魔物が姿を現したのである。
https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16817330669548336587
・
・
・
座標 “
そしてもう一手は、兵士たちの休息所 “第三” のある東に向かった。
完璧な “
最前線である “壁” から一番離れた “第三” は、突然押し入ってきた魔物の群れによって一瞬で屠殺場と化した。
休息を摂っていた一個小隊約五〇名は抵抗する間もなく、毒々しい色をした巨人によって “ガス室”に変えられた玄室で、喉を掻きむしりながら苦悶の表情でのたうち回り、最後にはその表情すらも溶け崩れた。
密閉された空間である玄室での
巨人が地響きを立てて去ったあと、“第三” には溶解した五〇人分の人間のスープが溢れていた。
西に向かった部隊は、瞬く間に帝国軍の背後に浸透していった。
何よりも速度が求められるこの部隊の先陣を切るのは、“影” たちであった。
“
”影” たちは回廊を突き進み、先ず迷宮の出入り口である “E0、N0” を襲撃。
警備していた守備兵たちを惨殺し、地上との通信を断った。
一手を残して回廊を折れ、疾風の如く北上する。
途中遭遇した探索者の
突き当たりを東に折れたとき、別の
探索者のひとりが鳴子を作動させ、呼子を吹き鳴らす。
ここに至って帝国軍側はようやく異変に気づいたが、背後がすでに遮断され自分たちが孤立させられたとまでは思わない。
レットたちが聞きつけた警報は、この時のものだった。
「あたい、なんかすごく嫌な予感がするよ……!」
パーシャが迷宮の入口に続いている西の回廊を睨んだ。
他の仲間たちも同じだった。
彼らとて、これまでに幾度となく死線を越えてきた探索者である。
レベルも
迷宮の空気には敏感だ。
これは今までにないほどヤバい気配だ。
“第一” に待機してる一個小隊――第四中隊第三小隊を差し向けるべきだとパーティの誰もが思ったが、彼らに指揮権はない。
「――行くぞ。兵隊が動けないときこそ、俺たちの機動力が必要だ」
レットのリーダーとしての長所は決断が早く、その決断が往々にして正しいことだ。
もちろんパーシャは自分でも考え、それが妥当だと思わなければ反対する。
そして、今回もレットの判断は正しく思えた。
(何が起こってるか分からないって状況ってのが一番よくない。兵隊が動けないなら、わたしたちが
フェリリルが “
そしてわずか一
わずか一区画進んだだけで “永光”に照らされた四区画先の凄惨な光景が、レットたちの視界に入った。
血だまりに転がる一パーティ分の頭と胴。
自らが首を刎ねた探索者たちには見向きもせずに、“照柿” の忍装束をまとった男を先頭に、同じく “深紅” の装束の男たちがレットたちに向かって突き進んでくる。
“
“
“認知”の加護のお陰で、即座に敵の種別を判別できた。
できたが――。
「こいつら、どこから湧いて出やがった!?」
疑問はもっともだが、今は答えを探すときではない。
今は唱えるときだ。
「――先手必勝! 行くよ、ホビット雷速の詠唱!」
相手は全員が “ネームド” だ。“滅消の指輪” は役に立たない。
敵は
轟!!!
迫り来る忍者たちの中心で閃光と轟音が爆ぜ、熱風が逆巻いた。
パーシャの “
呪文無効化能力を持たない忍者たちの足が止まる。
足さえ止まれば――。
(――今だよ、フェル!)
パーシャが心で呼び掛けるまでもなく、すでにフェリリルの嘆願は女神に聞き届けられていた。
“焔嵐” によって火達磨になっていた忍者たちの足元から、さらなる
自らの使命の対象者?が得意とする “
火柱の直撃を受けた “達人” と四人の “中忍” が天井近くまで跳ね上げられ、先のダメージと合わせて絶命する。
これが
そもそも、忍者の闘法とは闇に乗じて背後から忍び寄るものである。
魔法光で煌々と照らされての真っ向勝負は本分ではない。
(残る敵は “中忍” が三人)
数的不利は覆した。
質的にも、全員に重度の熱傷を負わせて動きを鈍らせている。
パーシャはトドメの呪文を使うべきか逡巡し、すぐに温存することに決めた。
(敵はこいつらだけじゃないかも。ううん、きっとまだいる!)
彼女の判断は正しく、そして間違っていた。
敵は確かにまだいた。
そして彼女がトドメの魔法を放っていれば、少なくとも今一度その敵の動きを止められていたかもしれない。
黒焦げになって転がっていた “達人” の死体がむくりと起き上がると、次の瞬間、先ほどまでとは文字どおり
“
鮮血が飛んだ。
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