Bパート 8
ドラグローダーは、その瞬間を目撃した。
いや、目撃したというのは、果たして正しいのか、どうか……。
何しろ、彼女の観点で見れば、いよいよトドメの一撃を主に見舞わんとしたザギの姿が先までと同様にかき消え……。
同時に、彼女の主たるホッパーの姿もまた――消失したのである!
その一瞬に、果たして何があったものか……。
次の瞬間には、互いにそれまで立っていた位置を入れ替え、背中合わせになりながら勇者と大将軍とが立っていた。
「……まさか、な」
残心姿勢を取りながら、
その声音には
「貴様が、我が領域に入門を果たすとはな――ホッパー!」
そして大将軍が、振り向いた!
振り向いた先に立つのは、当然ながらホッパーである。
だが、その姿はホッパーであって――ホッパーではない!
同じく振り向いてみせた勇者の姿は、これまで見せてきた三形態とは全く異なるものだったのである!
基本的なシルエットは、基本形態であるブラックホッパーのものと同様だ。
だが、大きな差異として、その胸部には銀色に輝く光球が浮かんでおり――そこからザギと同様、血流めいた銀光の奔流が四肢の末端に至るまでを走っていた。
従来なら真っ赤な目も銀色の光を宿しており、首に巻いたマフラーも真紅から銀へと色彩を変じさせている……。
間違いない……。
これなるは、勇者第四の
「おれは神速の戦士――アクセルホッパー!」
勇者が……アクセルホッパーが、宿敵に向かい吠えた。
--
――アクセルホッパー!
さらなる勇者の変容をもたらしたのは、他でもない――かの日に
それなるは、かつてウルファが魔人王から授かりし力であり、すなわちその兄――
ウルファ自身では兄の領域まで及んでいなかった力は、持ち主を変えることでついにそこへ――神速の世界へと達したのである!
「アクセルホッパー……か」
ザギが、噛み締めるように宿敵の新たな名をつぶやく。
彼の目に映っていたのは、宿敵の姿のみではない……。
おそらくは、重なり合うようにして妹の姿も幻視していたはずだ。
――ざり。
――ざりり。
すり足となった勇者と大将軍が、間合いを図りながら互いに円を描く。
そうしながら銀光をきらめかせる両者であったが、漂う緊張感がついに爆発した!
ザギが……。
そしてホッパーが……。
互いに互いへ向けて踏み込む!
余人からすれば、二人の姿がこつ然と消失したように見えたに違いない。
周囲の全てが静止し……。
音すらも置き去りにした世界の中……。
動いているのは、神速の領域に到達せし二人の戦士――ザギとホッパーのみ!
「――――――――――ッ!」
両者の耳には決して届かぬ裂ぱくの気合と共に、ザギが魔剣を横なぎに振るった!
「――ッ!?」
ホッパーはそれを、ボクシングでいうところのスウェーで回避する!
だが、剣魔の斬撃は、
後ずさるホッパーに向けて、上段を! 突きを! 下段の足払いを!
次々と仕掛けていくのだ!
こうなっては、たまらぬ。
互いに銀色の
他でもない……。
リーチであり、得物の有無だ。
言うまでもなく、ザギは魔人王から直々に授かりし魔剣を手にしている。
しかし、対するアクセルホッパーはといえば、これは全くの
剣を手にする者と素手で戦う者……。
どちらに利があるかは、子供でも分かる道理である。
それであるからこそ、人間態のザギと戦った時にショウは奇策奇手で応じ、変身した後にはルミナスへのフォームチェンジを選択したのだ。
剣魔が組み立てる必殺の連撃を、ホッパーはいずれもすんでのところで回避していく……。
しかし、上段から横なぎへと直角的に放たれた変形斬撃に対しては、さしものホッパーといえど完全な形で回避することあたわず、地に背を付けるギリギリのところまで上体を倒すことになってしまった。
これはもう、スウェーというよりは極限まで極まったリンボーダンスであり……すなわち死に体だ!
「――――――――――ッ!」
この好機を逃す大将軍ではない……。
吸い込まれるようにして、宿敵に向け縦切りが放たれた!
「――ッ!?」
そして次の瞬間、角とも装飾とも取れる形に銀色の光が交差した顔へ、
なぜならば、魔剣を握り締めたその右手が――絡み取られていたのだ!
絡み取っているのは他でもなく――ホッパーの両足である!
絶体絶命の瞬間……。
ホッパーは立ち上がるためスキを作る愚を犯さず、あえてそのまま地に背を付けた!
そしてその体勢から、自らに斬撃を振るうザギの右手を両足で挟み込んだのである!
秘密結社コブラが総力を結集して作り上げし、バッタの特質を持つ改造人間がそうしたのだ……。
万力などという、生やさしい例えでは済まぬ。
地球の重機に装着される大型解体カッターすら
「――ッ!? ――ッ!?」
声を発することが無意味な世界で、ザギが
痛みにもだえる剣魔を――ホッパーは両足で投げ飛ばした!
たまらず、ザギは街道の上を転がっていく……。
今度は――こちらの好機!
アクセルホッパーは腰を落とし、必殺の跳躍拳を始動させようとしたが……。
「――ッ!?」
果たしてどういうことか……攻撃を受けていないはずの身をよじらせ、膝を付いたのである!
神速の世界が終わりを告げ……。
周囲の動きも音もある世界が、両者の間に舞い戻った。
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