異形の魔獣
私的な事情ですが、問題ごとが重なりに重なり、更新が滞っていました。
申し訳ありません。
その問題も、まだ完全には解決していないので、数話程度は週1で投稿できるのですが、それ以降は不定期になります。
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Side・マナ
私とプリムは、割り当てられている部屋のルーフバルコニーから、フライングを使って飛び立った。
ウイング・オブ・オーダー号はこの場で止まってくれてるようだから、こっちから仕掛けても置いて行かれることはないから助かるわ。
まあ全力で飛べば、すぐに追いつけるんだけどさ。
それはそれとして、私は今、自分の目を疑っている。
何故なら私の目には、あり得ない魔物が見えているから。
「ねえプリム、私、目がおかしくなったかも」
「あたしにも同じ物が見えてるから、間違いなく正常よ。とはいえ、気持ちはわかるけどね」
分かってはいたけど、やっぱりプリムにも同じ物が見えてたか。
はっきり言って常識じゃ考えられないけど、目の前に現実として突きつけられている以上、受け入れるしかないわね。
「『クエスティング』。種族名はツインヘッド・ワイバーン、モンスターズランクはGランクか。マナ、そっちは?」
「こっちはトライヘッド・ワイバーンで、Pランクだわ。1匹しかいないみたいだし、多分隊長専用ってとこじゃないかしら?」
ウイング・オブ・オーダー号を追ってきたのは近くの町の駐留軍だと思うけど、それでもあまりの異形に思わず怯んでしまった。
なにせプリムが鑑定したツインヘッド・ワイバーンは、その名の通り2つの首を持つワイバーンで、私が鑑定したトライヘッド・ワイバーンは3つの首を持つワイバーンだったんだから。
フィリアス大陸には、複数の頭を持つ魔物は、物語の中ですら存在していない。
なのに目の前には、その複数の首を持つワイバーンが20匹以上いるんだから、驚くなって言う方が無理だわ。
「気持ち悪いし、さっさと倒しましょう。ただあの3本首は、検分のために持ち帰らないといけないわね」
「ツインヘッド・ワイバーンの方もね。まったく、あんな魔物がいるなんて、思ってもいなかったわ。グラーディア大陸じゃ普通なのか、それとも神帝のせいなのか、どっちなのかしらね?」
「考えるだけ無駄だと思うけどね」
「まあね」
その複数の首を持つワイバーン達が、私達の眼前10メートル程の距離で停止した。
ウイング・オブ・オーダー号を見て追いかけてきたのに、その進路上に私とプリムが待ち構えている以上素通りはできないし、何より私達は空を飛んでいるから、警戒の1つもするわよね。
「なんだ、貴様らは!?」
「人間が空を!?」
「羽が!」
「さあ、誰でしょうね。だけどこれだけは言っておくわ。私達はあなた達の敵よ」
「敵だと?まさかとは思うが、栄光ある我ら神帝軍を、たった2人で相手をしようとでも?」
何が栄光ある、よ。
魔族の存在は、ヘリオスオーブにとって害悪でしかない。
存在するだけで世界を破滅へと導く以上、相手が誰であろうと存在の抹消は確定している。
だけどグラーディア大陸の戦力がどれほどのものかはわからないから、それを確かめるために私とプリムが出張ったと言ってもいい。
まあクエスティングで鑑定した結果を見る限りだと、過大評価し過ぎてたとしか言えないんだけどさ。
「正直、失敗したと思うわね」
「当然だ。このような辺境に派遣されているとはいえ、我らはドラゴンすら屠れる神帝軍第5師団なのだ。たった2人で相手をするなど、自殺志願と変わらん。いや、死ぬ方がまだマシかな?」
人を馬鹿にしたような言葉を自惚れとともに吐きながらも、あたし達に下卑た視線を送りつけてくる、トライヘッド・ワイバーンを乗騎としている男。
心の底から不愉快極まりないわね。
「何か勘違いしてるようだけど、あんた達程度の戦力なんて、あたし達のどちらか1人でも過剰戦力なのよ。ハイクラスにも進化できていない魔族、そしてGランク程度の魔物の相手なんてね」
「あなたはハイデーモンで座乗騎もPランクみたいだけど、それも誤差の範囲内でしかないわ」
普通ならノーマルデーモンとハイデーモン、GランクモンスターとPランクモンスターの戦力差は、誤差なんて範囲に収まるものじゃない。
だけどエレメントクラスにとっては誤差でしかないし、挑発も兼ねてるから、私も訂正するつもりは一切ないわ。
「ハイ、デーモン?Pランク?何を言っている?いや、その物言い、もしや貴様ら、フィリアス大陸からの侵略者か!」
「言うに事欠いて、勝手なこと言ってくれるわね。先に侵略してきたのはそっちでしょう?」
「そもそも私達は、グラーディア大陸を支配しに来たワケじゃないわ。私達の目的は、神帝の首だけよ」
「神帝陛下の首だと?貴様らごときができるとは思えんが、神にも等しき陛下を害そうなど、それだけで万死に値する!聞け、皆の者!先程の空飛ぶ船は、フィリアス大陸からの侵略者と判明した!だが臆することはない!我ら神帝軍第5師団飛竜戦団の力を持ってすれば、あのような者どもなど物の数ではない!邪悪なる侵略者を排し、神帝陛下の御身をお守りするのだ!そしてあの空飛ぶ船を拿捕し、神帝陛下へ捧げよ!」
「「「「「おおおおおおおおっ!!」」」」」
敵と認識した後の判断は早いけど、彼我の戦力差を見極める能力が致命的なまでに欠けてるわね。
「神帝だけがクズかと思ってたけど、そうじゃないみたいね。上が上なら、下も下ってことか。それにその2つ首やら3つ首やらのワイバーンも気持ち悪いし、少し本気で行かせてもらうわ」
プリムの言う通り複数首のワイバーン達は気持ち悪いから、速攻で倒すっていう意見は大賛成。
検分は必要だから死体は持ち帰らないといけないけど、瞬殺する勢いで行かせてもらうわ。
Side・プリム
翼族でもあるあたしは元々翼を持っているから、翼関係の強化魔法は
だけどエレメントフォクシーに進化したことで、あたしは羽纏魔法とウイング・バーストを併用することができるようになった。
熾炎の翼に加えてウイング・バーストを纏ったあたしは、紅蓮、翠風、紫電の宿った2対4枚の翼をはためかせている。
4枚になった翼を上手く使うことで以前よりスピードが出せるようになったし、急な方向転換や鋭角ターンなんかもできるようになったから、戦闘の幅は大きく広がったわ。
とは言っても、ウイング・バーストを使えるようになってからまだ1ヶ月ぐらいしか経ってないから、新しく顕現させた翼はまだ上手く使えてないんだけどさ。
だけど目の前の連中を相手にする分には、今まで通りの戦い方でも何の問題もないわ。
「本気ね、プリム」
「相手が相手だしね。マナもやるつもりでしょ?」
「もちろんよ!」
そしてマナも背中の翼にウイング・バーストと、マナの生来の適正属性である
エレメントクラスは後天的な翼族とも言われているように、翼は普段から存在している。
だけどエレメントクラスに進化しても羽纏魔法は覚えられないから、その代わりになるような魔法を大和や真子が考えて試していたんだけど、その結果が今マナの背にある翼に宿っている
「その魔法、ウインド・フェザーだっけ?」
「
この魔法は奏上してないから
〇〇の部分に属性名が入るんだけど、強化魔法に加えて対応した
ウイング・バーストとの併用が必須だけど、ウイング・バースト以上に強化を行えるようになったし、纏った
今は単一の
「な、なんだ……なんだ、それは!?」
突然増大したあたし達の魔力に驚いてるけど、別にあたし達は、そこまで魔力を抑えてたワケじゃない。
まあ空を飛ぶ程度に抑えてはいたから、それで勘違いしたのかもしれないわね。
知ったことじゃないけどさ。
「戦力差も感じられないなんて、その程度でよくも大きな口を叩けたわね」
「魔族になると魔力の感じ方が変わるみたいだし、それが原因じゃないかしら?それでも理解できないなんて、バカとしか言いようがないけど」
「な、なんだと!?」
本当のことを言いながらも煽るあたし達に怒りを露わにするハイデーモンだけど、知ったことじゃないわ。
それにこれ以上時間を無駄にするつもりもないから、さっさとやるとしましょうか。
「さて、それじゃあやりましょうか!」
「了解よ!」
「く、来るぞ!かかれぇっ!!」
それはマナも同じだったみたいね。
実際2つ首や3つ首のワイバーンは気持ち悪いし、あんまり時間をかけても仕方がない。
だから一気に倒してウイング・オブ・オーダー号に合流して、調べてもらうことにしましょう。
魔族も、あたし達が武器を構えたことに反応して襲い掛かってきたし、アバリシアの戦力がどれ程のものかも、しっかりと確かめさせてもらうわよ。
「へえ、火を吐けるんだ。それなりに威力はありそうだけど、その程度じゃプリムには効かないわよ」
「あんたにもでしょ。というか仮にもGランクモンスターだっていうのに、威力が低すぎるわ」
「ば、馬鹿な……!」
先に火を吐かれちゃったけど、Gランクモンスター程度の炎ならば防ぐのは、あたしにもマナにも難しくはない。
というか、威力としてはSランクモンスター並かそれ以下じゃないの。
その程度ならエレメントクラスどころか、エンシェントクラスでも問題なく防げるわ。
だけど魔族にとっては驚愕の出来事らしく、攻撃の手が一瞬緩んだ。
「驚きすぎよ。戦場で動きを止めるなんて、命がいらないって言ってるのと同じじゃない」
「あんまり時間をかけるつもりはなかったし、あたし達は構わないけどね。というワケで、一気に行くわよ!」
あたしは槍斧クリムゾン・ウイングを、マナは多節剣フレアエッジ・ソードにグランド・ソードを纏わせながら高速で突っ込み、次々と倒していく。
隊長以外の魔族はノーマルデーモンだから、あたし達の攻撃を受け止めることもできずに体を真っ二つにされて地上に落ちていくけど、ワイバーンの方は片方の首を落としても生きてたから、少し驚いたわ。
まあもう片方の首を落としたら、さすがに生きてはいられないようで、あっさりと落下していったけど。
「な、何なのだ……、何なのだ貴様らは!神帝陛下が生み出されたキメラ達を、何故こうも容易く倒せる!?」
最後に残しておいたハイデーモンが喚くけど、聞き逃せない単語が飛び出してきた。
神帝が生み出した?
「意味は分からないけど、どうやらロクでもないことのようね」
「っぽいわね。だけどあんたを生け捕りにするつもりはないわ。ハイデーモンを生け捕りなんて、リスクが高すぎるもの」
普通なら捕虜にして、尋問なり拷問なりをして吐かせるんだけど、さすがに魔族を生け捕りにするのはリスクが高すぎる。
ノーマルデーモンでもハイクラスに匹敵する魔力を有してるんだから、ウイング・オブ・オーダー号どころかリッターにも余計な被害が出るでしょうからね。
「くっ!」
「逃がすワケないでしょう!」
逃げようとしたハイデーモンに向かって、あたしはセラフィム・ペネトレイターを纏って突っ込んだ。
3つ首ワイバーンの胴体を貫き、ハイデーモンの男も熾炎の炎で焼き尽くしていく。
3つ首ワイバーンはそのまま落下していくけど、途中で魔法陣に包まれながら消えていった。
「やっぱり念動魔法って便利よね」
「ええ、本当に重宝してるわ」
マナはエレメントクラスに進化した際、
念動魔法は見えない手を伸ばすような感じで使えるって話だけど、使いこなすには慣れが必要だとも聞いている。
マナが進化したのは数ヶ月前だから、まだ慣れてるとは言い切れないんだけど、それでもストレージに回収するために使う分には問題ないみたいね。
「ともかく、戻りましょう。報告しなきゃいけないことも、山ほどあるし」
それはそうね。
何から報告するべきか、悩むほどだわ。
だけど重要なことだし、調査隊でも入手できなかった情報ばかりだから、しっかりと報告して、その後で2つ首と3つ首のワイバーンの死体の検分もしなきゃいけない。
これは今日は、ここに留まることになりそうだわ。
敵地のど真ん中、とまではいかないかもしれないけど、それでも今まで以上に警戒が必要ね。
魔物も回収も終わったみたいだし、ウイング・オブ・オーダー号に戻るとしましょうか。
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