紅蓮の終焉種
タナトスを倒し、ソルプレッサの町にとりあえずの平穏が訪れた次の日、俺達は天樹製多機能獣車を艇体に接続させ、ソルプレッサ連山に向かった。
今回はラウス達にエオス、ルーカスも同行してもらっているが、可能なら他のエンシェントクラスにも来てもらいたかったっていうのが本音だ。
未確認の終焉種がいると思われる場所は、ソルプレッサ連山にある宝樹だが、必ずそこにいるとは限らない。
だがかなりの巨体であることは間違いないと思われるから、奇襲を受ける可能性は低いと判断した。
それでも危険なことに変わりはないから、宝樹が見えたら飛空艇から下りて、その後は徒歩で移動することにしている。
宝樹が見えるところまでは数十分で到着できたから、そのまま下りようと思ったんだが、残念ながら着陸できそうなスペースはなかったから、ギリギリまで降下してからフライングやスカファルディングを使って下船し、多機能獣車は飛空艇と接続したままインベントリへ収納する。
そして改めて宝樹へ視線を向けると、宝樹とは異なる真紅の巨体が見えた。
あいつか。
「ここからだと分かりにくいけど、ドラグーンの終焉種で間違いなさそうね」
「ええ。しかもあの鱗の色、火属性じゃない。最悪だわ」
「そうですね。戦い方を間違えてしまったら、宝樹が燃やされかねません」
だな。
赤い鱗ってことは、宝樹の隣で横たわっている巨体は火属性ドラグーンの終焉種で間違いない。
O-Aランクモンスターであり、以前倒したことがあるアバリシア産のブラッドルビー・ドラゴンやバーニング・ドラゴンより格上の存在となり、父さんが倒したニーズヘッグと同格だ。
ニーズヘッグは父さんが瞬殺したから強さは不明だが、ドラグーンはヘリオスオーブ最強種であり、ニーズヘッグは100年近く生きていた個体でもあるから、ヘリオスオーブ最強の魔物だったのは間違いない。
何度か終焉種を倒したことのある俺達だが、ニーズヘッグを前にした時には少なからず恐怖を感じたぐらいだ。
あの赤いドラグーンは進化したばかりだろうからそこまでじゃないと思うが、それでもドラグーンの終焉種なのは間違いない。
だから最初から刻印神器クラウ・ソラスやアガート・ラムの神話級術式を使って一気に倒すべきなんだが、実際の強さがどんなものなのかも知っておかないと、俺達以外の人達がドラグーンの終焉種と相対することになった場合、どんな被害を出すことになるか分からない。
だから危険なのは承知の上で、最初は直接戦ってみることにしている。
もちろんヤバそうだったら、すぐにクラウ・ソラスの神話級術式マハ・ジャルグを使うつもりだが。
「この距離だと、さすがにクエスティングも無理か」
「キロ単位で距離があるからな。もっと近づかないと、さすがに無理だろ」
「近付くにしても、この距離だとあっちも絶対に気付くし、魔物達がどうなってるかも分からないから、どれだけ時間がかかるかも分からないわね」
「多くは宝樹から逃げ出してるでしょうから、宝樹に近付くまでにかなりの数と遭遇すると考えておきましょう」
「ですね」
いつまでもここにいても仕方ないから、簡単に作戦を纏めてから、俺達は宝樹目指して歩き始めた。
だが1時間ほど歩いても、魔物とは一切出くわさない。
宝樹まで数キロの距離でしかないから、これは魔物達が終焉種に恐れをなして逃げ出したって考えるべきか。
もちろん魔物が皆無だとは思えないから、索敵は怠っていないが。
さらに1時間ほど進むと、開けた空間に出た。
そこには大きな湖が広がり、湖畔に宝樹が聳え立っている。
ここがソルプレッサ連山の最深部か。
「ここがソルプレッサ連山の最深部なのね。聞いていたより湖が大きいけど、それでもドラグーンの終焉種からしたら水溜まりみたいなものだわ」
「火属性だから、逆に丁度いいのかもね」
「ええ。水属性のドラグーンだったりしたら、別の場所に移動していたかもしれないわ。そう考えると、火属性で良かったって言えるかも」
同感だ。
もちろん火属性の魔物だろうと、水が無ければ生きていくことはできないんだが、大量の水を浴びたりすると弱体化することもあるから、必要以上に水場に近付くようなことはないとされている。
逆に水属性の魔物だと、ここの湖はそれなりに大きいが、それでも数十メートル程の大きさしかないから、小型の魔物ならともかく大型の魔物だと棲み処にすることはできないだろう。
「『クエスティング』。確定したわ。火属性のドラグーン終焉種で、種族名はスルトよ」
真子さんがクエスティングで確認してくれたことで、種族名も判明したんだが、よりにもよってスルト、北欧神話の炎の巨人名とはな。
終焉種の多くは俺の世界の神の名前が種族名になってることが多いが、その理由は分からない。
スルトも同様だが、確か北欧神話のスルトは、手にする炎の剣でもって、世界を焼き滅ぼした巨人じゃなかったっけか?
それは帰ってから調べるとして、最優先でしなきゃいけないのはスルト以外に魔物がいるのか、もしいるなら種別は何か、だな。
「大和君、けっこう広いけど、全部調べられる?」
「小さいとはいえ湖があるから、なんとか。ちょっと時間下さい」
覚えている風と水の探索系術式を駆使して、宝樹周辺エリアの索敵を行うが、さすがに時間がかかる。
その間は探索系術式の操作や確認に集中してるから、俺は無防備になってしまう。
そのことはみんなも承知の上だし、何よりスルトも俺達の存在に気付いているから、周囲をしっかりとガードしてくれている。
えーっと、湖の中は、さすがに全部見るのは無理だが、ドルフィン・アイで見る限りじゃ完全水棲種しかいないし、ソナー・ウェーブの魔力反応も差異は無いな。
宝樹も、枝が邪魔だからイーグル・アイでも全部は見切れないが、それでも魔物は大型小型問わず影も形もないし、ブリーズ・ウィスパーでもそれらしい音は拾えない。
うん、ここにはスルト以外の魔物はいないと判断してもいいだろう。
「魔物はいないですね。全部を確認できた訳じゃないから、絶対とは言えませんが」
「絶対いないとか言われても、今の状況じゃそれは害にしかならないしね。ともかく、いないようならそれでいいわ」
「ええ。じゃあ警戒は解かないけど、ひとまずはスルトに集中しましょう」
「ああ。相手が相手だから、接近するのはエレメントクラスの5人、エンシェントクラスのみんなは真子さんの護衛をしつつ、遠距離から魔法で攻撃だ」
「はい!」
本来ならエンシェントクラスは主力なんだが、相手がスルトというドラグーンの終焉種である以上、万が一の可能性はけっこう高いと思う。
である以上、エンシェントクラスのみんなは魔法攻撃に徹してもらい、さらに真子さんの護衛もしてもらった方が良い。
近接戦を行う俺達の援護にもなるから、スルトの攻撃を散らすこともできるはずだ。
「よし。それじゃあ行くぞ!」
「了解よ!」
俺の合図とともに、プリムは熾炎の翼を、他の全員はウイング・バーストを纏う。
そして俺、プリム、マナ、リディア、ルディアの5人は、最大速でスルトに向かっていく。
スルトも迎撃するために右前足を振るってくるが、その攻撃は予測済みだ!
避けると同時にミスト・ソリューションを発動させたクラウ・ソラスを叩き込み、小さな切り傷を負わせる。
普通の魔物なら致命傷に近い傷のはずなんだが、全長200メートル近いスルトには掠り傷に近い程度でしかない。
ミスト・ソリューションの効果で流血こそ続いているが、こっちも効果は薄いな。
「行くわよっ!」
だがその右前足に向かって、プリムのセラフィム・ペネトレイターが直撃した。
スルトの前足は大型の魔物並のサイズだが、エレメントクラスに進化したプリムにとって、貫くことは難しくない。
案の定スルトの右前足は、プリムのセラフィム・ペネトレイターによってズタズタにされ、さらに俺のミスト・ソリューションによって止血すらままならない状態になった。
「その足、貰ったわ!」
その右前足を、マナがスターリング・ディバイダーで斬り落とした。
セラフィム・ペネトレイターでズタズタにされたことで流血が増加し、ミスト・ソリューションの効果で止血もままならない状態では、いかにスルトでも集中力を欠く。
更に体を支えている左前足に、ルディアがファイアリング・インパクトを叩き込んだ。
スルトは火属性ドラグーンの終焉種だから、同じ火属性のファイアリング・インパクトは効果が薄い。
だがファイアリング・インパクトに組み込まれている
そのファイアリング・インパクトの最終段階となる回し蹴りが命中すると同時に、竜精魔法エーテル・チェインによって威力を蓄積された
ルディアのファイアリング・インパクトは、拳だけじゃなく装備しているフレア・グラップルの剣身も使っていたため、スルトの左前足には、いくつもの切傷が刻まれている。
ルディアはその傷の1つに集中的に攻撃を加え、ファイアリング・インパクトの威力を蓄積させることで、外側ではなく内側にダメージを与えられるように攻撃してたみたいだ。
スルトの鱗を斬り裂ける攻撃力があることが前提だが、
そのスルトの左前足を、リディアのドラグバイト・ブリザードが噛み千切った。
妹と違って
ほぼ同時に両の前足を失ったスルトは、その巨体を支えることもできず、前のめりに倒れた。
だがさすがに終焉種だけあって、脅威的な膂力で無理やり体を起こして後ろ足で立ち上がると、目の前にいた俺達に向かって大きな口を開き始めた。
口の中には膨大な魔力が集まっていき、溢れた魔力が周囲の木々を燃やしていく。
「させないに決まってるでしょう!」
ところが真子さんが
同時に真子さんの切札となるS級術式ミーティアライト・スフィアも、魔力を集めているスルトの口内に向けて発動させた。
スルトの口内で発動したミーティアライト・スフィアは威力が抑えられていたようで、スルトの魔力は暴発こそしたが周囲へ散乱することもなく、スルトの口内だけにダメージを与えた。
牙は多くが折れ、脳も揺れたようで軽く意識も飛んだように見えるな。
当然その隙を逃さず、真子さんの護衛をしてもらってるエンシェントクラス達も、それぞれ
「エオス!」
「かしこまりました!」
そのスルトに向かって、完全竜化したエオスの背に乗ったマナが、新
エオスのバーストストーム・ブレスに、マナが
実体を持った魔法は巨大な槍の形を成しており、また雨のように無数に形成されていることから、手負いでいて巨体のスルトでは避けることもできず、全てをその身で受けていく。
巨大な槍同士が接触するとさらに巨大な槍となるため、スルトの身体に刺さった槍は徐々に大きくなり、そのまま体を貫き、地面に縫い付けていく。
「これでトドメだ!」
そして俺は上空から、クラウ・ソラスに
インフィニットセイバー・エクスキューションを纏ったクラウ・ソラスは、投げ付けると同時に大きさを増し、スルトに直撃する頃には直径50メートルはあろうかという程巨大な光輪の刃となる。
スルトの首を斬り落としたクラウ・ソラスそのまま姿を消し、次の瞬間、元の大きさに戻って俺の右手に戻ってきた。
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