宝石の価値
Side・レックス
バリエ迷宮に入って10日、私達は第18階層の坑道階層を進んでいる。
上の第17階層とほぼ同じ洞窟型ではあるが、内部は鉱山にある坑道そのものだし、何よりパペットやドール、ゴーレムが闊歩していることを踏まえると、ここは坑道階層と呼んで差支えは無いだろう。
「おお、あれってオリハルコン・ドールじゃないか!」
「クリスタ・ゴーレムもいたし、あっちに見えるのはコランダム・ドールね。加工次第でルビーやサファイアにもなるから、あれもおいしい魔物よ」
「ジュエル・ドール倒しました!」
「あ~、アイアン・ゴーレムかぁ……。何かには使えるかもしれないし、一応持って帰ろ」
そしてウイング・クレストのクラフター達は、喜び勇んで狩りに精を出している。
彼らはエンシェントクラフター、エレメントクラフターだが、材料が無ければ何も作ることは出来ない。
だが彼らが欲している素材はかなり高額であり、しかも需要も多いため市場に出回ることは少ないため、この機会に確保しておきたいのだろう。
それにしてもここでオリハルコン・ドールというPランクモンスターが出てくるとは、これは想定外だったな。
「4人とも、狩るのは良いんだけど、目的を見失わないでよ?」
「分かってるよ。だけどまさか、鉱物系モンスターの巣になってるとは思わなかったからな。それもオリハルコン系とかジュエル系とか、滅多に見ないようなのの」
「うんうん」
まあ確かに、ここまで宝石系パペット種がいる
特にジュエル・ドールは、私の知る限りではアミスターの
しかもジュエル・ドールはG-Uランク、ジュエル・パペットもS-Nランクということもあり、いずれの迷宮でも第15階層以降にならなければ出現しなかったはずだ。
ここバリエ迷宮も、その例に漏れていない。
ジュエル・パペット種は加工すると宝石になるため、ハンターズギルドでも高額で買い取ってもらえる。
加工にはジュエリングとポリッシングという
しかも何の宝石になるかは加工してみなければ分からないため、せっかく狩って持ち込んだとしても、希望する宝石になるとは限らない。
コランダム・パペットという亜種はルビーかサファイアを作り出せるが、その分価格は上がっている。
それもあって宝石は、モンスターズランクや生息階層の問題もあり、常に品不足となってしまっている訳だ。
ちなみに鉱山から産出する原石も加工されているが、こちらは普通の金属材と同じく、少量でも宝石として加工ができると聞く。
鉱山からの産出量は少ないが、原石に応じた宝石に加工されるため、確実性はこちらの方が高い。
「あ~、いなくなっちゃったかぁ」
「それでもそこそこは狩れてるし、しばらくは困らないだろ」
「金属材はそうだけど、宝石は微妙よ。加工しても何になるか分からないし」
「そうですね。ですけどコランダム・ドールを倒せているワケですから、サファイアを確保できるかもしれないというだけで十分です」
広場にいたジュエル・ドールやコランダム・ドール達は、大和君、真子さん、ルディアさん、フラムさんの4人によって、あっという間に討伐されてしまった。
まあ、理由は理解できるんだが。
特にコランダム・ドールはP-Uランクモンスターということもあり、その体を加工したルビーもしくはサファイアは、エンシェントクラスやエレメントクラスの魔力にも耐え得る。
さらに宝石は魔法を付与させやすいという特徴もあるため、美を求める女性のみならずハンターやリッターも利用者は多い。
かく言う私も、いくつかの宝石をあしらった腕輪を付けている。
「こんなにコランダム・ドールいるなら、これだけでも来る価値はあるわね」
「欲を言えばジュエル・ゴーレムもいて欲しかったけど、こればっかりはどうにもならないか」
「可能性が無い訳じゃないだろ。探せばいるかもしれないぞ」
ジュエル・ゴーレムか。
P-Rランクモンスターでもあるから、確かに探せばいるかもしれない。
ヘリオスオーブの宝石は30種以上あるが、有名なのは
他にも全属性のアレキサンドライト、
ただ厄介なのは、宝石は産出する鉱山が決まっており、
私はあまり詳しくはないのだが、確かコランダム・パペット種はルビーとサファイア、ジュエル・パペット種からはエメラルド、トパーズ、ターコイズ、トルマリンが作れたはずだ。
他の宝石は何から作れるのか、寡聞にして私は知らない。
ああ、噂でしかないが、魔物から作られる宝石もあったな。
有名どころではカーバンクルだが、他にもいたと聞いた覚えがある。
どうやって作るかまでは、さすがに知らないが。
「第18階層とはいえ、これほどまでに宝石系パペット種がいるのなら、フォールハイト伯爵領の貴重な財源になってくれそうですね」
「はい。領地開発からになりますけど、アル君が継ぐ頃には小さな町ぐらいにはなっているでしょうし、安定した収入が確保できるならそれに越したことはありませんから」
ヒルデガルド様の仰る通り、バリエ迷宮を含む一帯は、我がフォールハイト伯爵家に下賜される予定になっている。
とはいえ、父はフィールのサブ・オーダーズマスター、嫡子たる私はグランド・オーダーズマスターという大役を任されていることもあり、領地開発を行うことは難しい。
何より開発は1からになる上、バリエ山脈には高ランクモンスターも生息しているため、バリエ迷宮へ進むための安全な経路を確保することも出来ていない。
一応領地開発については、妹のミーナが代官として名乗りを上げてくれているため、申し訳ないがしばらくは任せることになると思う。
もちろん私も、時間が取れれば率先して動くつもりでいる。
「Pランク以上の宝石が作れるって知れ渡れば、エンシェントクラスは間違いなく来ることになるわね。というか、既に大和達がそうだし」
「サヤも喜ぶでしょうね。この第18階層までの難易度ならば、サヤなら単独走破も十分可能ですから」
ああ、それは確かにあり得そうだ。
マナリース殿下の仰る通り、エンシェントクラスはPランク以上の魔物素材を使わなければ、衣服にしろ武具にしろすぐに使えなくなってしまう。
それは宝石も同様で、例外なのは魔石ぐらいだろう。
見た目での判別は難しいが、
それもあって詐欺を働く者は少ないが、皆無という訳ではない。
まあ高ランクの魔物素材を必要とするのは貴族やエンシェントハンター、エンシェントリッターがほとんどだから、露呈してしまった場合は報復がとんでもないものになるため、詐欺を働くにしても本当の意味で命懸けになるんだが。
そして私の妻の1人サヤだが、彼女はエンシェントハンターでありエンシェントクラフターでもある。
そんな彼女がこの階層のことを知れば、間違いなく喜び勇んでやってくることだろう。
なにせPランク以上の宝石など、サヤも滅多に入手できないと嘆いていたのだから。
今は娘のグラスを産んだばかりだから無理だが、数ヶ月もすればリハビリも兼ねてやってきそうだ。
その際は私も、付き合うとしよう。
「お!あれってジュエル・ゴーレムじゃないか?」
「マジで?マジだ!」
「他は……ジュエル・パペットとジュエル・ドールだけか。いえ、十分ね」
「はい!行きます!」
そうこう考えているうちに、次の広場に到着していたか。
だがそこはジュエル系の巣窟になっており、P-Rランクモンスター ジュエル・ゴーレムも1匹だけだが存在していた。
当然大和君達が見逃すはずもなく、真っ先に狩られている。
ああ、ジュエル・パペットやジュエル・ドールも全滅してしまったか。
少しは加減をと思わなくもないが、クラフターに言ってもあまり意味は無いな。
「ん?あれは……神殿、か?」
「神殿?こんなところにか?」
更に1時間程進むと、見張り台にいたミューズが声を上げた。
神殿というがここは坑道、つまり地形的には地下になる。
そんな場所にそんなものがあるはずが……。
「
「ってことは、ここが最深層って事?」
「そうなりますね。さすがにこれは予想外です」
そう思っていた私だが、同じく見張り台にいたプリムさん、アテナさん、フラムさんがセリフを続けられたことで思い出した。
「マジで
「本当だわ。これはまた、頭の痛い問題になりそうね」
大和君とマナリース殿下が頭を悩ませているが、私も全く同感だ。
何故ならコバルディア事変の際に起きたとされる迷宮氾濫は、ここバリエ迷宮も候補に挙げられている。
その理由はバリエ迷宮が未確認の迷宮であり、詳細が全く不明だったからだ。
だが実際には全18階層であり、生息している魔物もPランクまでだったという事実は、まだ他にも未発見の、それも高難易度の
バリエ迷宮の魔物もコバルディア事変時に確認されてはいるが、どこにいてもおかしくない魔物達でもあったため、そう考えておかないとフォールハイト伯爵領だけではなく、マナリース殿下が拝領されるラピスラズライト天爵領開発にも大きな支障が出るだろう。
「
「P-Cランクか。道中のモンスターズランクも考慮すると、中級ランクってとこかしらね」
P-Cランクモンスター アース・シェイカーか。
確認されたのはこれが初めてになるが、それでもエンシェントクラスなら単独討伐は容易だと言える。
シャープネス・ラビットの希少種となるS-Rランクモンスター ロングフット・イヤーサイスは、トラレンシアに派遣されていた際に何度も討伐したから、大まかな能力は把握できているのも大きい。
正直、拍子抜けだとさえ思えてしまう。
だがこのバリエ迷宮は、いずれフォールハイト伯爵領になる予定でもあるのだから、
少し休憩ということだし、その間に大和君に話を通してみよう。
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