父と海中探索
Side・真子
飛鳥君と真桜に教わりながら、私と大和君は二心融合術を試すことが日課となっている。
まあ、先日ようやく、大和君が法具と馴染めてないってことがわかったから、そっちも平行して行うことになったんだけどね。
あれから大和君は、毎日マイライトやイデアル連山、ゴルド大氷河、ソルプレッサ連山、ガグン大森林へ出向いて、多くの魔物を狩っている。
特にガグン大森林は、夏に起こった迷宮氾濫のせいで、今もMランクとかAランクモンスターが徘徊してるって噂があるから、そっちの調査も兼ねてるわ。
ネージュ様は大喜びだったけど、同時に無理だけはしないようにと釘を刺すのも忘れていなかった。
もちろん私達も同行したし、飛鳥君や真桜も興味津々でついてきてたから、毎日大量に狩れてしまって、死蔵することになってしまった魔物が多いのが悩みどころかしら。
あ、ソルプレッサ連山にも何度か行ったけど、テスカトリポカには手を出してないわよ。
飛鳥君と真桜なら簡単に倒せるんでしょうけど、毎度毎度終焉種の相手をしてもらうワケにはいかないし、テスカトリポカは人里に下りてきたことはないから、脅威ではあるけど緊急性は低い。
もし倒すとしたら、私と大和君が二心融合術を成功させてからと思ってるわ。
そう思ってたんだけど、またしても終焉種の目撃情報がよせられてしまい、飛鳥君と真桜が出張ることになっちゃったから、すごく申し訳ないわ。
大和君の剣は、エドワード君が頑張って打ってる最中なんだけど、
エンシェントクラフターでも、剣1本打ち終わった頃には半分も減ってるぐらいだったらしいわ。
私と大和君もやってみたけど、エレメントクラフターだと3分の1ってとこだったわね。
「今度はエレクト海って、マジで生まれすぎだろ……」
「本当にね」
現在私達は、エオスの抱える天樹製多機能獣車に乗り、トラレンシア近海の上空にいる。
今回目撃情報があったのは、トラレンシアとソレムネの間に広がっている、エレクト海と呼ばれている大海原で、しかもトラレンシア寄りだったりする。
トラレンシアの妖都ベスティアはラソ湾にあるけど、そのラソ湾はエレクト海に面しているから、新たに目撃された終焉種に狙われる可能性は否めない。
だから緊急性も極めて高く、そのためにウイング・クレストに討伐依頼が出されたんだけど、大和君の剣がないばかりか場所が海の中、しかも目撃されたのはホエールの終焉種ケートスらしいの。
ホエール種の例に漏れずケートスもとんでもない巨体で、先日飛鳥君が倒したニーズヘッグと同じぐらいか、もしかしたらそれ以上かもしれないみたいね。
「そんな大きな魔物、どうやって発見したの?」
「空からだ。従魔のワイバーンでベスティアに向かってたハンターが、偶然目撃したらしい」
「あまりにも巨体だったため、すぐにクエスティングを使ったそうですが、その結果判明してしまったのが……」
「ケートスという、翼の生えたクジラということか」
「はい」
終焉種だけあって、ケートスも翼を持っている。
だけど運が良かったのか、目撃したハンターは襲われることもなく、その場を離脱することに成功している。
単純にケートスが気付かなかったのか、あるいは終焉種に進化したばかりだから、空を飛ぶという発想に至っていないのか、それとも興味がなかったのか、理由はいくつか考えられるけど、ハンターの運が良かったのは間違いないわ。
「あー、魔物にとっても突然翼が生えてくるようなもんだから、進化した直後は気付かないのかもしれないのか」
「実際オーク・エンペラーとオーク・エンプレスは、空を飛ぶような素振りは見られなかったからな」
「あとは水棲種ですから、単純に空を飛ぶより海の中の方が過ごしやすいと感じるぐらいでしょうか」
「ああ、それはありそうだな」
突然翼が生えたとして、魔物がそれを意識できるかは分からないから、真桜が言うように気付いていない可能性は十分あり得るし、リディアが言うように空を飛ぶ意義を見出せていない可能性も否定できない。
なにせ空を飛んでしまえば全身を晒すことになるけど、水の中にいればほとんど一方的に攻撃できるし、こっちの攻撃も効きにくいからね。
「あ、そっか。ニーズヘッグ並に大きかったら、いくら終焉種でも的にしかならないから、水の中にいた方が安全なのか」
「そういう事ね。ウンディーネや水竜のドラゴニュート、ドラゴニアンでもないと、まともに戦うこともできないわ。しかも援護も期待できないから、水棲種にとっては水の中の方が安全ね」
魔物が意識してるかはわからないけど、高ランクになればなるほど水中の方が安全な場所になるから、Wランクでも滅多に空を飛ぶことはないっていう証拠だと思うわよ。
「それはそれとして、この広い海から、どうやってケートスを探すの?」
「確かに、いくらケートスが巨体でも、狙って探すのは大変ですね」
「ソナー・ウェーブは使ってるが、さすがにそれらしい反応は無いな」
「目撃された地点を中心に探すしかないでしょうね」
「それしかないかぁ」
いくらケートスが巨体でも、大海原と比べたら豆粒以下でしかない。
しかも海に潜ってる可能性もあるから、空の上から探すのは限界があるわ。
それでも海に潜って探すのは無理だし、船も船で沈められる可能性が高いから、空から捜索っていうのが一番効率が良い。
「時間をかけると、トラレンシアに被害が出る可能性があるから、早めに討伐したいんだけどな」
「気持ちはわかるが、焦っても仕方がないぞ」
「分かってるんだけどな」
大和君が焦る気持ちもわかる。
もしベスティアがケートスに教われてしまった場合、トラレンシアは再建不可能なほどの被害を被る可能性がある。
そんなことになってしまえば、連邦天帝国としてもとんでもない損害が出てしまう。
人的被害はもちろん、復興支援や移住の手配なんかも必要だし、最悪の場合アウラ島を放棄っていう判断が下されるかもしれない。
まあ大和君が焦ってるのは、そっちの理由がないワケじゃないけど、一番の理由はヒルデ様が悲しむからなのよね。
「飛鳥、どう?」
「ケートスかどうかは分からないが、けっこう大きな反応はある。ここからだと、少し北だな」
ちょっと待ってくれる?
もしかして飛鳥君、この広い海の中からケートスらしいのを探し当てたっていうの?
「多分としか言えないがな」
「いや、だからどうやってだよ!?」
私も大和君と、全く同じ気持ちだわ。
私や大和君もソナー・ウェーブを使ってるけど、ケートスらしい反応は見付けられていない。
なのに飛鳥君は、簡単に見つけてるのよ?
本当にどうやって見つけたっていうの?
「ソナー・ウェーブ以外にも、ブリーズ・ウィスパーとミッドナイト・バットも使ってるからだな。水中でも音の反響はあるんだから、それを利用すればいい」
「あ~、そういやソナーって、音を利用したレーダーだったっけか」
「そういうことだ」
あー、そういうことか。
音を利用しての索敵は考えたこともなかったけど、確かに海深くにいたりしたら、目視じゃ確認できないし、視認系の探索系でも探しきれない。
だから飛鳥君は、音を利用するブリーズ・ウィスパーとミッドナイト・バットをソナー・ウェーブに重ねることで、精度を上げてたってことか。
しかもミッドナイト・バットは闇性でもあるから、光の届かない深海とも相性が良い。
「ミッドナイト・バットはあんまり使わないんだが……こうか?」
「上出来だ。位置はここから、北に2キロってとこだな」
「ギリギリだな。えっと……これか!」
ソナー・ウェーブは自身を中心とした円状が基本だから、範囲も広域系と同程度が限界なんだけど、他の探索系術式は指向性があるから、それを組み合わせればソナー・ウェーブでも数キロ先の様子を探ることができるようになる。
そのことは知ってたけど、そもそも私はミッドナイト・バットを覚えてないから、考えもしなかった使い方だったわ。
「ブリーズ・ウィスパーだけじゃ、水の中は無理だろうな。俺もメインはミッドナイト・バットで、ブリーズ・ウィスパーはあくまでも補助ってことで重ねている」
そよ風に情報を乗せて運ぶブリーズ・ウィスパーと違って、ミッドナイト・バットはその名の通り蝙蝠のように音波を反響させて対象を特定したり監視したりする術式となっている。
しかもソナー・ウェーブと違って指向性があるから、特定の方向に限定すれば、広域系の10倍ほどの距離まで探索可能。
大和君だと2キロが限界みたいだけど、飛鳥君は探索系に適性を持ってるから、5キロまでなら余裕でできるみたいだわ。
「どう?」
「正確には分からないが、けっこう大きいな。それでもフォートレス・ホエールやそれ以上っていう可能性もあるから、無視はできないが」
確かにね。
異常種フォートレス・ホエールはもちろん、災害種でも100メートルを超す巨体なんて無視できるわけがない。
ホエールの災害種は名称不明だけど、おそらくフォートレス・ホエールより大きいでしょうし、ケートスが生まれている以上いないとは言い切れないから、まずはそっちを狩るとしましょうか。
「エオス、悪いけど北に飛んでもらえるか?」
「畏まりました」
今日はこのまま、エレクト海の調査になりそうね。
だけどコボルト・エンペラーと同じく、ケートスも突然現れた感じがしないワケじゃないから、大和君と飛鳥君が感知した巨体がケートスっていう可能性は高い。
もちろん海の魔物だから、人知れず進化してたっていう可能性もあるんだけど、それにしちゃ今まで目撃情報も被害報告も無かったから、以前から存在してたっていう可能性は低いでしょう。
「止まってくれ。この辺りのはずなんだが……」
「まだ自信はなさそうだな」
「そりゃ初めて試した使い方だからな。っと、これは……水深30メートルぐらいか?」
「正解だ。使い方はそれでいい。あとは精度と距離だが、これは練習あるのみだな」
「わかってる」
大和君はソナー・ウェーブ、ブリーズ・ウィスパー、ミッドナイト・バットの探索系積層術を初めて使ったから、少し自信がなさそうだけど、お義父さんからお墨付きをもらえて嬉しそうだわ。
「あとはどうやって倒すかだな。オゾン・ボールを使えば対面はできるが、印子も回復してきているし、真桜、あれをやるぞ」
「うん」
ちょっと刺激したら浮かんでくると思うけど、水深30メートルってことだし、ちょっとやそっとの攻撃じゃ届かない。
だけど姿が見えないと、急所が分からないから攻撃しても意味が薄かったりするし、素材として使い物にならなくなるかもしれないから、カラミティ・ヘキサグラムやミーティアライト・スフィアは使いにくい。
そうなるとスターライト・サークル一択だけど、水中じゃ威力大幅減少は避けられないから、悩ましいところね。
そう考えてたんだけど、なんか飛鳥君が不穏なことを言い出した。
なんとなく予想つくけど、本気でやるつもりなの?
帰れなくなっても、責任持てないわよ?
「父さん、何をするつもりなんだ?」
「大和、お前はまだ正確な大きさまで把握できていないようだが、下の魔物は全長300メートル以上と、ニーズヘッグ以上の巨体だ。まともに戦ってたらラチがあかない」
ニーズヘッグの1,5倍以上か。
確かにそこまで大きいとケートスの可能性が高いし、まともに戦ったら苦戦どころの話じゃない。
場所が場所だから、飛鳥君と真桜でも手間取るはず。
だけど印子が回復してきてるって口にした以上、何をしようとしているのかは、簡単に分かる。
「神話級を使い、一気に倒す」
「ま、マジか、父さん。母さんも……」
「うん。見せられるかわからなかったから言わなかったけど、最後になるからお父さんもお母さんも大和に見せたかったんだよ」
確かに神話級の威力は、核兵器に匹敵か、あるいは凌駕する。
だから気軽に使うことは出来ないけど、えらく簡単に決断したわね。
確かに大和君はこないだまで神話級を見たことがなかったから、最後の餞別ってことなんでしょうけど、それでも普通は考えないんじゃない?
でも私も最後になるから、見られるなら見てみたいわ。
あ、でも津波なんか起こさないように、細心の注意を払ってよね?
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