母と神金
目の前で父さんが、ほとんど一瞬でニーズヘッグを倒した姿は、俺にとっても衝撃だった。
しかも使った刻印術は、父さんが開発したS級のミスト・インフレーションとミスト・リベリオンの2つのみで、戦闘時間も1分少々でしかない。
自分の親ながら、ここまでの化け物だとは思わなかった。
父さんの戦いに驚いていたのは俺だけじゃなく、特にエンシェントクラスの驚きようは尋常じゃない。
「まさかニーズヘッグを、ああも簡単に倒すなんて……」
「ポラル防衛戦じゃどうやって助けていただいたのかわからなかったけど、ここまで差があるんじゃそれも当然よね……」
「ああ……ここまで実力が違いすぎると、どれほどの差があるのかも分からなくなる……」
ファリスさん、エルさん、スレイさんが、予想外にも程がある光景を前に驚愕している。
気持ちは俺もわかるが、ただ驚くだけじゃ父さんがニーズヘッグを倒してくれた意味もないから、この戦いはしっかりと記憶しておかないと。
「おかえり、飛鳥」
「ああ、ただいま」
「なんか不満そうね」
「ミスト・リベリオンを使うつもりはなかったからだよね」
「だとは思ったけどね。というか、もしかしてミスト・リベリオンを使わされたから、醜態晒したとでも思ってたりする?」
「近いな」
なんか父さん、母さん、真子さんの3人が、意味不明な会話してやがるな。
ミスト・リベリオンを使わされたって言うが、別に使わなくても倒せたんじゃないか?
あとミスト・インフレーションとミスト・リベリオンは一度ずつしか使ってないし、あっさりとニーズヘッグを倒してることに違いはないんだから、醜態なんて思う人はこの場にはいないぞ?
「仰ってる意味がわかりませんが、そのミスト・リベリオンという刻印術は、別に使わなくても倒せたんじゃありませんか?」
「倒せたかどうかで言えば倒せたと思いますが、もう少し時間は掛かったでしょうね。戦力分析を誤った自分の判断ミスですから、文句は言えませんが」
「いや、あれはそんな次元の話じゃありませんでしたよ。お聞きしてると思いますが、ニーズヘッグは最強の終焉種と呼ばれていますし、それはつまり、ヘリオスオーブでも最強の魔物でもあるということなんですから」
エルさんとスレイさんの意見に、俺も全面的に同意する。
戦力分析を誤ったとか言ってるが、そもそもニーズヘッグの情報なんて皆無に近かったんだから、分析もクソもないだろ。
なのに自分の判断ミスって、どこがなのか全く分からねえよ。
「そもそも判断ミスと仰っておられますけど、我々の目からは終始圧倒しているようにしか見えませんでしたよ?」
「ああ。しかもニーズヘッグの腕まで受け止めるなんざ、考えたこともないですぜ?」
俺もファリスさんやクリフさんに、全面的に同意する。
「いや、それこそが判断ミスの理由でしてね。正直、受け止められるとは思っていなかったので」
まあ、父さんがそう思う理由は分からんでもないが。
耐える自信はあったが、それでも後退ぐらいはさせられると思ってたらしい。
あんな巨体の攻撃を食らったら後退だけですむはずないんだが、そこはアークヒューマンってことで納得しとこう。
「言いたいことは色々あるけど、とりあえずエニグマ島に下りましょう。ニーズヘッグの死体も回収しないといけないし、簡単な調査もしとくべきでしょうから」
「そうだよね。
ここで真子さんと母さんが、強引に話をぶった切ってきやがった。
だけどニーズヘッグの死体の回収は必須だし、俺も
「そ、そうだな。それでは我々は、エニグマ島に降下する。エニグマ島にも魔物はいるはずだ、細心の注意を払ってくれ」
エニグマ島にどんな魔物が生息しているのかも判明していないが、それなりに森が深いし、エニグマ迷宮の近くでBランクのバトル・ホッパーとロック・コングが目撃されたことならある。
その2種は通常種だから、上位種や希少種となるとSランクやGランクが生息している可能性もゼロじゃないな。
それも含めて、調査しておこう。
「
「それらしい山は他にありませんし、それしかありませんよね」
エニグマ島に下り、ニーズヘッグの死体を回収し、島内を見渡す。
エニグマ島に山は1つしかないから、
けっこう大きな山だから、ニーズヘッグの棲み処だった可能性も高そうだな。
「こんな大きいの、本当に収納できるの?」
「ここまでデカいのは初めてだが、まだストレージにもインベントリにも余裕はあるから、多分大丈夫だろ」
ニーズヘッグの死体はグラシオンで解体され、魔石は天帝家に献上されることになる。
皮や牙、爪なんかは天帝家と獣王家に加え、妖王家と竜王家にも贈られるそうだが、実際に討伐した父さんにもいくらか下賜される。
父さんには使い道がないから、その分はウイング・クレストに回ってくるみたいだが。
「おし、収納完了。陛下、次はあの山に行きますか?」
「そのつもりだ。アテナ夫人、テミス夫人、エオス嬢。すまないが頼む」
「はい」
ニーズヘッグを回収後、獣車に乗り込んでから移動を開始する。
エニグマ島は小笠原諸島にある西之島とほとんど同じぐらいの大きさだから、移動にはさほど時間は掛からない。
中央には標高2,000メートルほどの無銘の山があり、周囲には森が広がっている。
無銘山の南には小さな湖もあるから、ニーズヘッグが棲み処にするには最適な環境が整ってる気がする。
ちなみにエニグマ迷宮の入り口は北側にあり、上陸してから20分ぐらい歩く必要があるな。
無銘山を上から見下ろすと、東側の一部が大きく崩れており、巨大な空洞があるように見える。
無銘山はニーズヘッグが中に入り込んでも余裕があるほどの大きさだから、予想通りあそこがニーズヘッグの棲み処っぽいな。
「ここで下りよう」
「了解です」
ラインハルト陛下の指示で降下し、テミス夫人が竜化を解除する。
ノーマルドラゴニアンだから、そろそろ魔力的にも厳しいため、今回はこれでお役御免だ。
それでもハルート卿がいるから、最後まで同行される予定でもある。
エンシェントドラゴニアンのアテナとエオスは、まだまだ魔力に余裕があるし、この後の移動は2人に頼むから、竜化したまま待機してもらう。
「あれ?これって……『インヴェスティング』。っ!?」
「真子?」
足下の石を拾った真子さんが固まったが、まさかそれって……。
「これ、
「何だと?」
「で、ではまさか、ここにある石は……?」
「インヴェスティングで見ると、ほとんどが
ほとんどが
人間の頭サイズが多いが、俺よりデカいサイズの岩もあるし、逆に拳大ぐらいの石もある。
ほとんどってことだから全部じゃないんだろうが、それでもこれだけの
「製錬されてないけど、確かにこの量は驚きね」
「へえ、これが
「そうだけど、そっちはクラフターなら難しくないな。グリシナ陛下、1つやってみてもいいですか?」
「ああ、構わないぞ」
母さんが興味持ってるからグリシナ陛下の許可を得て、
本来ならデフォルミングも使ってインゴットにしたいんだが、機材がないとちょっと手間だから、今回は敬遠しておく。
「アバウトなんだから。貸しなさい。『デフォルミング』……はい真桜、できたわよ」
ところが几帳面な真子さんが、俺から製錬の終わった
普通に納品できる品質のインゴットになってるが、機材も使わずによくここまで綺麗にできるな。
「おー!薄い金色って感じなんだね」
真子さんから
地球には
ああ、それならせっかくだし、お土産に持って帰ってもらうのもありかもしれない。
地球で使えるのかっていう問題はあるが、使えなかったとしても記念にはなるんじゃないかと思う。
「あとメジャーリングを使ったんだけど、
「え?真子、いつの間にメジャーリング使ったの?」
「デフォルミング使ってすぐよ。
さすが真子さん、早速メジャーリング使ってくれてたのか。
いや、俺も興味あったし、何より父さんがエニグマ島を解放したのは
反省は後でするとして、今は
「それで、
「魔力強度、硬度、魔力伝達率は、情報通り9、7、7で、魔力耐久値は8、魔力蓄積率は9だったわ」
「ってことは、例の数式に当てはめると……80か。って、
「みたいね。私も驚いたわ」
これは予想外だな。
真子さんが考案した数式は、魔力強度、硬度、魔力伝達率、魔力耐久値、魔力蓄積率の数値を足して、さらに2倍にしたものになる。
だけどこの数式によって、数値が80以下だとエレメントクラスの魔力には耐えられないっていう結論が出た。
俺としては
「沸点や融点は
ああ、そっちは
だけど真子さんの言う通り、マナリングは魔力で武器や防具も強化するから、燃えやすい木材でも燃えないようにすることができてしまう。
だから俺達も、あまり重視してない項目だな。
「まあ、エレメントクラスはともかく、アーククラスじゃ使えないのは分かってたんだし、合金にしようと考えてたんだから、特に問題はないか」
「まあね」
「ってことは、私や飛鳥が魔力を流しちゃったら、この
「なるわね。だから絶対に、魔力を流しちゃダメだからね?」
「なんか怖いから、真子に渡しとくよ。わっ!」
「ちょっ!」
ところが母さんが真子さんに
というか、誰かが投げてきたっていう感じだな。
「あいつだ!」
「あれ、バスター・モンキーですよ!」
って、S-Nランクのバスター・モンキーが犯人かよ!
手を叩いて喜んでやがる姿が、とんでもなく腹立つな!
「何するの!」
ところがそのバスター・モンキーは、怒った母さんのエア・ヴォルテックスで全身をくまなく切り刻まれ、最終的には骨も残らず消え去った。
「Sランクとはいえ、バスター・モンキーが跡形も残らないとは……」
「どんな攻撃よ……」
うん、俺もえげつないと思う。
「うあ……ごめん、真子……」
「まあ、今のはねぇ……」
ただ母さんが持っていた
タイミングも悪かったとはいえ、
まあ、検証にもなったし、今回は運が悪かったってことで。
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