第二陣出陣

 戦端が開かれてから1時間発つ。

 既に魔族の第一陣は、エンシェントハンターの前に壊滅も時間の問題となった。

 レックスさんの予想は正しかったようで、ハイハンターやハイオーダーも少し連携すれば難なく倒せているようだし、犠牲も今のところは少ないと報告されている。

 犠牲者はノーマルクラスがほとんどだが、ハイクラスも数名いるそうだから、捨て石部隊だったとしても油断は禁物だ。


「報告!魔族側に動きがあります!」


 どうやら魔族に動きがあったようだが、いくらなんでも8割弱が倒されてから動くなんて、遅すぎるだろ。

 だからこそレックスさんの予想が正しいと判断できるんだが、そうなると次に出てくるのは精鋭に間違いないな。


「ドラゴンの方は?」

「そちらは動きがありません。ですが第二陣が本命だとすれば、いつ動き出してもおかしくはないかと」


 だな。

 むしろいつ来るかわからないから、目の前の敵にばかり注意を払っておく訳にはいかない。

 それは隙を晒すことになるし、魔族相手だとその隙は致命的だ。

 それに精鋭が相手となると、エンシェントハンター達も奥の手を使わざるを得ない気もするな。


「わかった。では待機中のハンターに伝令。魔族の第二陣が動くと同時に出陣。先陣のハンターと協力し、第二陣を迎撃せよ。ただし第一陣とはレベルが違うと予想されるため、油断せず対応することを望む、と」

「はっ!」


 待機してるハンターズレイドも、ついに出陣か。

 これでフィリアス大陸のエンシェントクラスの半数以上が前線に立つことになるが、第二陣の陣容によってはこれでも苦戦は免れないかもしれない。

 俺達とレックスさん達はまだ待機だが、いずれは出ることになるだろう。

 多分だが、ドラゴンが動き出すのは中盤から終盤になるだろうから、俺達が動くとしたらそこからか。


「俺達はまだ待機ですか?」

「申し訳ないが、まだ最高戦力を投入する訳にはいかない。大和君が参戦すればあちらの戦線も崩壊が早くなるだろうが、早期に神帝が出てくる可能性も高くなる。だからウイング・クレストの投入は、ドラゴンが動き出してからを予定している」


 やっぱりドラゴンが動いてからか。

 エンシェントハンターでも対処はできると思うが、魔族を相手にしながらだと厳しいとも思う。

 だから俺達はドラゴンに集中させ、被害を抑えようってことか。

 その途中で神帝が出てくる可能性も高いから、魔族の数も減り、神帝とドラゴンを同時に抑えるタイミングとしては、確かにそうするしかない気がする。


「それはわかりましたが、こうも待機が続くと気が気ではありませんね」

「仕方がない。下手に大和君や真子さんを投入してしまうと、神帝を刺激する可能性が高い。同じ刻印術師であり刻印法具も生成できる以上、神帝も興味を持つだろう。エンシェントクラスでも太刀打ちできないという神託が下っているのだから、下手に刺激するのは避けたいんだ」


 レックスさんの言ってることも理解できるが、ミーナが言うようにじれてくるのも事実だ。

 今まで俺達は最前線で戦っていたのに、今回は切り札として後方待機だ。

 味方が劣勢になればともかく、そうでなければドラゴンが動くまで俺達が前線に出ることはないっていうのも、申し訳なく思ってしまう。

 自惚れじゃなく俺はフィリアス大陸最高戦力の1人だから、最初から前線に投入するべきだとは思うんだが、神帝という同じ世界出身の生成者までいる以上、迂闊に刺激するのは避けたい。

 だから俺と真子さんは後方待機となり、同じユニオンのミーナ達も同じく待機を余儀なくされる。

 だけど他のハンターやオーダーは命を賭けて戦ってる最中だから、どうしても気が逸ってしまう。


「私も気持ちはわかるよ。だけど指揮官が早々に討ち死にする訳にはいかないし、後方を守る者も必要だ。いずれは前に出るが、時が来るまではここで戦況を見極め、指揮を執る。それが私の役目だ。大和君も大和君にしかできない役目があるんだから、今回は従ってほしい」

「分かってます」


 気が逸ってるのは事実だが、だからといって勝手に動くつもりもない。

 それに第二陣が動き出したってことは、俺達の出陣もそう遠くないってことになる。


「問題は、いつドラゴンが動くかね」

「多分だけど、第二陣が動いてからしばらくしてからだと思う」

「そうなるだろうね。魔族としては神帝の手を煩わせるのは避けたい。とすれば、精鋭と思われる第二陣と時間差でドラゴンを投入するしかない。そして私達も、ウイング・クレストと同じタイミングで前線に加わる」


 レックスさん達も、そのタイミングで出陣か。

 俺達も含めて10人以上のエンシェントクラスが一気に参戦となると、いくら魔族が精鋭揃いでも、戦線を支えるのは簡単じゃない。

 だからこそ戦力を一気に投入して、勝負を決めようってことなんだろう。


「大和君の考え通りだ。それでも神帝が、どのタイミングで動き出すかは予想がつかない。最悪のタイミングで動くことも、考えておく必要がある」


 最悪のタイミングか。

 魔族の精鋭が多く残り、ドラゴンが動くと同時に神帝までもが動き出したら、こっちの被害も大きくなるのは避けられないし、俺達も戦力を分散される。

 しかも神帝の他にも、ブラッドルビー・ドラゴンっていうOランクドラゴンがいる。

 ブラッドルビー・ドラゴンは1匹しかおらず、しかも豪華な獣車っぽいものを運んでいたことから考えると、バーニング・ドラゴンより強力だろうからな。


「そろそろ先陣が、魔族の第二陣と接敵する頃だろう。ここからは今まで以上に、戦場を注視しなければならない。マリー、ミューズ、サヤ。私達もいつでも出られるよう、準備を頼む」

「わかりました」

「こちらは任せておけ」

「ええ。レックスは指揮に集中しておいて」

「すまない」


 レックスさんの奥さん達も、内助の功とばかりに戦場に立つ準備を整えに向かった。


「大和さん、準備は私達にお任せください」

「そうそう。あたしと姉さんはあんまりやることなかったから、少しでも動いておきたいんだ」

「わかった。頼む、リディア、ルディア」


 こちらも負けじと、リディアとルディアが準備を請け負ってくれた。

 準備っていっても装備は各人のストレージに入ってるし、獣車は出陣前にインベントリに放り込むから、ラウス達への連絡が主になるか。

 あいつらもウイング・クレストってことで、まだ出陣してないからな。


「じゃあ俺達は、獣車に戻ります。動きがあったら、報せてもらえますか?」

「もちろんだ。おそらく次に呼ぶときが、私達の出陣となるだろう。すまないがまた、大和君の力に頼らせてもらう」


 俺の力でよければ、いつでも。

 軽く会釈をしてから、俺は本陣を後にした。


「おかえりなさい、何か動きがありましたか?」


 ウイング・クレストの多機能獣車に戻ると、早速キャロルが動きがあったのかを尋ねてきた。

 あったよ。

 本陣で聞いてきたことを話すと、ラウス達も眉をひそめた。


「第二陣が動き出したんですか」

「ですがドラゴンに動きがないとなると、地上のみならず空にも警戒を割かなければなりません。いくらエンシェントクラスでも、それは致命的ではありませんか?」

「だからフライングやスカファルディング、さらにウイング・バーストも解禁される。ドラゴンの方も、動きがあったら俺達が出ることになった」


 フライングは翼を持つ種族しか使えないが、スカファルディングは魔力で疑似的な足場を作り出す魔法だから、種族問わず空中戦を可能とする。

 さらにエンシェントクラスの何人かは、見様見真似で俺達が使ってるウイング・バーストも使いだしていたりするから、使用許可が下りた今なら十全に力を振るえるはずだ。


「俺達はドラゴン担当ですか」

「うちは大和さんを筆頭に、10人近いエンシェントクラスが参加してますからねぇ」


 エレメントヒューマンの俺を筆頭に、エンシェントクラスのミーナ、リディア、ルディア、アテナ、真子さん、エオス、ラウス、レベッカ、ハイクラスだが進化目前のキャロルと、今回ウイング・クレストは10人が参加している。

 しかもアテナとエオスはドラゴニアンだから、これぐらいの人数なら余裕で背中に乗せられるため、空中戦もこなしやすい。

 だから俺達がドラゴンの対処に当たることになっているという訳だ。


 あ、エンシェントタイガリーのルーカス、エンシェントハーピーのライラもメンバーだが、2人はオーダーでもあるから、今は前線で指揮を執ってたりするぞ。


「ドラグーン相手で慣れてるといえば慣れてますけど、ドラゴンってドラグーンや完全竜化したドラゴニアンとは別なんですよね?」

「さっき戦った限りだと、ドラグーンと大差ないな。多分だがドラグーンの上位に当たる種族で、一回り強力になってるってとこじゃないかな?」


 さっきバーニング・ドラゴンと戦った時の感じだと、竜化したドラゴニアンっていうよりドラグーンの方が近い感じがしたな。

 ドラゴニアンは爪を多用するが、ドラグーンは腕や足、尻尾なんかを使うことが多い。

 もちろん爪や牙も使うが、竜っていっても所詮は魔物だから、効率的に使おうと考えてるようには感じられない。

 対してドラゴニアンは人間だから、爪に属性魔法グループマジック固有魔法スキルマジックを纏わせて戦うことが多い。

 腕や足なんかも使うが、魔法を纏わせた爪を武器のように使うことで、変化前と似たような戦い方ができるから、ドラゴニアンとドラグーンの戦い方は見てわかるぐらい違う。

 ドラゴンはドラグーンと同じ感じで戦ってるように見えたから、ドラグーンの上位種族って考えてもいいはずだ。


「私も大和君と同意見ね。もしかしたら知能の高い個体もいるかもしれないけど、バーニング・ドラゴンはOランクみたいだし、いても数はかなり少なさそうだわ」

「あっちの本陣にいるブラッドルビー・ドラゴンぐらいか、可能性があるのは」


 ブラッドルビー・ドラゴンについては、俺も真子さんもかなり警戒している。

 Oランクドラゴンってことだし、俺達も実際に確認したが、脅威度を表すランクが表示されていないから、希少種なのか異常種なのかもわからない。

 ドラグーンの上位種族って考えると、宝石名を持つドラゴンは異常種に該当するはずだから、それでいくとO-Iランクってことになる。

 バーニング・ドラゴンもOランクだが、こっちは属性竜になるからO-Uランクだな。

 つまり同じOランクでも、上位種と異常種っていう違いになるから、ブラッドルビー・ドラゴンの方が強力な個体っていう予想が立ってしまう。

 ただこれも、あくまでも予想に過ぎないから、上限は終焉種、つまりO-Aランクを想定しているが。


「終焉種を想定ですか。そうなると大和さんがいればともかく、神帝の相手をしてたら大変じゃないですか」

「悪いとは思うが、神帝のことを考えたらこっちも援護が欲しいんだけどな」


 実際にブラッドルビー・ドラゴンが終焉種並でも、正面から攻撃を受けるのは盾を持つミーナとラウスになるから、ラウスが嫌そうな顔をするのも無理もない。

 俺が戦えるんなら俺が相手をするんだが、神帝が出てきたら俺はそっちを優先せざるを得ないからな。

 しかも神帝にはエンシェントクラスの力が通用しないとまで言われてるから、援護だって望めない。

 それでもいいから、援護ぐらいは欲しいんだけどな。


「余裕があれば援護はするけど、場所によってはそれも望めないわね」

「そうなんですよねぇ」


 唯一援護が期待できるのは真子さんなんだが、ブラッドルビー・ドラゴンとの戦闘がどこになるかはわからないし、神帝がどう動くかもわからないから、絶対っていう保証も一切ないんだよな。

 しかも普通に考えたら、ブラッドルビー・ドラゴンは戦況を一変させるために投入するわけだら、神帝とは離れるってことになる。


「つまりブラッドルビー・ドラゴンの強さが終焉種並かそれ以上であっても、俺達だけでやるしかないってことですか」

「悪いがそうなる」


 最悪の場合、本当にミーナ達やラウス達だけで戦ってもらうことになる。

 神帝の法具がどんなものか分からないっていうのもあるが、距離が開けば俺も援護はできないからな。

 それに多分、俺にはそんな余裕はできないと思う。


「プリムさんやマナ様、あとお姉ちゃんの離脱って、思ったより響いてますねぇ」


 レベッカの言う通りだと思う。

 プリムは俺に次ぐレベルで終焉種オーク・エンプレス討伐の実績もあるし、マナは召喚獣やエオスとの連携で高い攻撃力を出せる。

 さらにフラムは妹のレベッカと同じ弓術士で、レベッカより援護に慣れているしレベルも上だ。

 もちろんレベッカの援護もありがたいんだが、レベッカ愛用のラピスライト・ボウエッジは槍のように使うこともできるし、プリムに師事してることもあって近接戦の比率の方が高くなってきている。

 だから後方射撃では、他にエンシェントクラスに進化した弓術士がいないこともあって、フラムが群を抜いている。

 正直3人がいてくれたらと思わずにはいられないんだが、マナは長女サキを出産したばかりだし、プリムとフラムは妊娠4ヶ月になってるから、とてもじゃないが戦争になんて連れてくるわけにはいかない。


 だけど3人の離脱は分かっていたことでもあるから、そのために準備はしてきたつもりだ。

 だからみんなには迷惑も負担もかけるけど、俺は神帝に集中するつもりでいる。

 ここで倒せるかは分からないが、最低でもフィリアス大陸から追い出すぐらいはしてやるさ。

 そしてその時は、おそらくそう遠くはないだろうな。

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