ラウス達の現状

Side・ラウス


 トレントの森の伐採を終えた次の日、俺達はまたしてもグラシオンの獣王城に登城した。

 結界の拡張を見届けるまでが今回の仕事なんだけど、ぶっちゃけると俺達は来なくても問題なかったんだよなぁ。

 だけどトレントの森の伐採は俺達もやったし、セラスさんとレイナも少しレベルが上がって経験も積めたから、関係者って事で見届けるのは仕方ないと思ってる。

 あとデイヴィッド殿下とも約束してるから、来ないわけにはいかなかったんだ。


 デイヴィッド殿下は3代ぶりの男性王って事で、立太子された際はグラシオンどころかアレグリア中がもの凄い大騒ぎだったって聞く。

 元々ヘリオスオーブは女性比の方が高いから、どこの国でも女王が即位する事は珍しくない。

 だけどトラレンシア以外だと、大抵は男の方が継承順位が高くなる傾向がある。

 別に女性だから悪いっていう話じゃなくて、単純に次代の王となる者を擁立しやすいかどうかっていう問題みたいだ。

 男性が王の場合だと、奥さんを何人も娶って子供を産んでもらう事になるから、滅多な事じゃ継承者不足は起こり得ないそうだけど、女王の場合は自分が子供を産むか、産めなかった場合はどうするのかっていう問題があるから、稀にだけど王位継承を巡っての争いが起きる事があるみたいだ。

 トラレンシアは代々女王だけど、これは女王位に就いていた方のヴァンパイアの娘全員に王位継承権が与えられ、さらにほとんど全員が即位する事で、そういった問題を回避している。

 天帝家の長子は高確率で男の子で、バレンティア竜王家は滅多に女の子が生まれないそうだから、別の意味で問題になるそうだけど。


 そのデイヴィッド殿下だけど、母上のグリシナ陛下、祖母になる先代公王のグレイス様がハイクラスに進化し、連邦法の施行より前にハンターズギルドに登録されている事もあって、総合学園では騎士・狩人学科を選ばれるそうなんだ。

 まだ10歳だからハンター登録は出来てないし、狩りに行かれた事もないんだけど、獣王城に詰めているロイヤル・ランサーから武器の手ほどきは受けているそうだよ。

 登録するならランサーズギルドじゃないのって思ったけど、よく考えたらランサーを含むリッターズギルドは王家を守護する騎士団でもあるから、王家は登録出来ないんだった。

 だから獣王家の方々もマナ様と同じ理由で、ハンターズギルドに登録するしかなかったみたいだ。


 デイヴィッド殿下は俺達が同級生で、かつ護衛でもある事は知らされてるから、入学したら一緒に狩りに行きたいってもの凄い笑顔で言われちゃった。

 フリューゲル獣公国のアウローラ殿下にも同じことを言われてるんだけど、それはそれでどうなのって思わずにはいられない。


 あ、正式に決まったっていうワケじゃないんだけど、エネロ・イストリアス伯国が建国される事が決まったから、三王国の王太子は呼び方が変わるらしいよ。

 トラレンシアが妖太子ようたいし、バレンティアが竜太子りゅうたいし、そしてアレグリアが獣太子じゅうたいしだったかな。

 本来なら伯国の王太子の方をどうにかするべきなんだけど、誰も良い案が出なかったらしい。

 その会議で真子さんがボソッと呟いたのを、会議場にいたエンシェントクラス達の耳が見事に拾ってしまって、そのまま仮決定したっていう流れだって大和さんが言ってた。

 他に良い案も無いから、多分エネロ・イストリアス伯国の建国と同時に正式に変更になるだろうって話だよ。

 真子さんはうっかり独り言も零せないって愚痴ってたけど、本当にその通りだと思う。

 ちなみに皇妃や皇太子だとどうしてもレティセンシアを意識するから、皇妃は天妃てんひ、皇配は天配てんはい、皇太子も天太子てんたいしに変更するんだってさ。


 そんな事情もあって、俺達は結界の拡張を見届けてから一足先に獣王城に戻り、デイヴィッド殿下とお会いしなきゃなんだ。


「すまないな、孫の我儘に突き合わせてしまって」


 ところがデイヴィッド殿下は、丁度お勉強の時間だったらしく、終わるまではグレイス様がお相手してくださる事になった。

 ちょっと緊張してるけど、普段から王家の方と会ってるから、思った程でもないのがビックリだ。


「春からは同級生ですし、俺達は護衛でもありますから」


 護衛って言っても、1つだけ不安要素がある。

 未成年のうちにハイクラスやエンシェントクラスに進化すると、成長と魔力がせめぎ合って、とんでもない激痛に苛まれる日があるんだ。

 治癒魔法ヒーラーズマジックヒーリングとディスペリングを使ってもらうと楽になるけど、それでもその日は動くのが辛い……。

 16歳になったら症状は出なくなるそうだから、俺は夏になれば何とかなるんだけど、レベッカはまだ1年近く先の話なんだよな。

 キャロルさんはもう16歳になってるから、体が痛むたびに羨ましく思うよ。


「護衛と言っても、四六時中ついている必要はないだろう?其方達も勉学に励まねばならないのだから、此方としても必要以上に頼るつもりもないさ」


 グレイス様の仰る通り、俺達は入学される王家の方々の護衛とエネロ・イストリアス伯国のラルヴァ・イストリアスの監視を主に依頼されているけど、それとは別に普通に授業を受けるようにも勧められている。

 ちゃんと入学金に授業料も払うんだし、俺達も学びたい事があるからね。

 オーダーズギルドも警備を派遣してくれるって聞いてるから、必要以上に俺達が気を張る必要がないっていうのも気楽でいられる。

 あ、入学金や授業料は天帝家が出すって言ってくれたんだけど、俺達もけっこうな額を溜め込んでるから、少しでも使わないとマズいって大和さん達からも言われてるんだ。

 それに学びたい事があるのも間違いないから、さすがに辞退させてもらったよ。


「お気遣い、ありがとうございます。ですが俺は殿下と同じ騎士・狩人学科を選択しますし、レベッカやレイナもです。殿下が必修科目とされる貴族学科も、キャロルさんとセラスさんが選択されますから、お会いする機会も多いと思います」


 メモリア総合学園の授業は、必修学科として1つギルドに正式登録し、他の学科は興味のある授業のみを選ぶ事が出来るようになった。

 選択学科は1つどころか全部でも構わないからギルド登録は出来ないんだけど、その代わり授業内容が細分化されるそうだから、スカラーズギルドは今から調整でいっぱいいっぱいなんだとか。

 幸いと言うか、ギルド授業が本格かするのは2年目からだから、まだ少しの余裕があるのかな。


「リヒトシュテルン大公女にベルンシュタイン伯爵令嬢か。どちらも実際に家督を継ぐ事は無いと聞いているが、万が一に備える必要はある。だからこそ貴族学科を必修に、か」

「はい。セラス様は兄上のアドライン殿下が正式に立太子されておられますが、私の実家は弟が生まれたばかりですから」


 ヴィント君だね。

 3月の中頃にに生まれたばかりだからまだ1歳にもなってないけど、キャロルさんが俺と結婚するから、ベルンシュタイン伯爵家はヴィント君が継ぐ予定になってる。

 だけどヴィント君はフロートじゃなく、ベルンシュタイン伯爵領領都シンセロにいるんだよね。

 既にレティセンシアは皇都コバルディアを除いて全滅してるそうだけど、そのコバルディアにはレティセンシア軍が集結していて、さらに魔化結晶を使って魔族になってるから、万が一の可能性は残っている。

 だから出来るならフロートか、大和さんやユーリ様がいるフィールの別邸に移ってもらいたいんだけど、ベルンシュタイン伯爵家は当主のドナート伯爵を筆頭に、レティセンシア如きに背中を見せるつもりは全くないそうで、シンセロから動かないんだ。

 だから俺達も何度か足を運んだことがあるんだけど、そのたびに説得して失敗しての繰り返しだから、いい加減面倒くさくなってきてるんだよなぁ。


「確かに万が一の場合、キャロル嬢が伯爵位を継ぐ可能性はあるか。もっともこれは、誰に対しても言える話ではあるが」

「はい。ですから私も、可能性はほぼ無いと思いつつも、万が一に備えるようにと父であるリヒトシュテルン大公から仰せつかっております」

「さもありなん」


 王族とか貴族って、万が一の事まで考えないといけないから面倒くさいよね。

 リヒトシュテルン第一公女シエル殿下はラインハルト陛下に嫁がれているから、公位継承権は放棄されている。

 だからこそリヒトシュテルンの公太子は第二公子アドライン殿下なんだけど、それもあってセラスさんの大公位継承権は第二位だ。


 ユーリ様だって天爵としての勉強もあるけど、万が一、億が一の可能性があるからって事で、貴族学科を選ばれるからね。

 ユーリ様こそ天帝を継ぐ可能性は皆無だって言えるんだけど、ユーリ様もセラスさんも王族だからこそってことで、色々と考えられてるんだ。


「万が一にも王家が絶えてしまえば、残された民は混乱するのみだ。いや、混乱するだけで済めば良い方だと言えよう」

「民を統べるために権力を狙う者が跋扈し、悪政を布くばかりか民を蔑ろにするからですね」

「全員とは言わぬが、そういった者が出てくるのは間違いないからな」


 国内が混乱するだけならともかく、最悪の場合は国が滅びる事になる。

 だからこそ王家には次代、次々代を担う子を産み、正しく育てる義務があるのか。

 貴族はその王から領地を任されているから、こちらは王家に比べればまだマシだけど、マシっていうだけで実際に血が絶えてしまったら混乱の原因にしかならないって事で、後嗣は届け出が義務付けられている。

 もし無届で爵位継承や後嗣交代をしてしまったら、最悪の場合国家反逆罪っていう重罪なのも、混乱を最小限に抑えるためっていう理由があるみたいだ。


「なんか、聞くだけで頭が痛くなるお話ですね」

「他人事のように言っているが、其方も万が一の場合はリヒトシュテルン大公配になるのだから、無関係とは言えぬぞ?いや、可能性としてはベルンシュタイン伯爵夫君の方が高いか?」


 面白そうな顔を浮かべるグレイス様だけど、俺としては考えないようにしていた可能性を口にされると本気で頭が痛くなってくる。

 確かに万が一の場合、俺はベルンシュタイン伯爵夫君、リヒトシュテルン大公配になる可能性があるから、今でも政治とは無関係って訳にはいかない。

 だからこそ騎士の心得を学ぶために入学する事にしたんだけど、改めて口にされると大事なんだって思わずにはいられないよ。

 可能性が低くても可能性があるっていうだけで、どうしても考えちゃう事はあるんだから。


「まあ、あくまでも可能性の話だ。実際にどうなるかは、その時になってから考えても遅くはないさ」

「そうですね。そっちもですけど、今は学園の方が大事です。そういえば、私達はアマティスタ侯爵家から通う事になりますが、デイヴィッド殿下はどうされるのですか?」


 あ、そういえば学園の寮は1人部屋で、バトラーも付けられないんだったっけ。

 俺達はそれでも全然問題無いんだけど、ユーリ様はエスメラルダ天爵領の領主でもあるから、さすがに寮住まいは無理って事で、夜にはアマティスタ侯爵家にあるゲート・ストーンを使ってアルカに帰る事にしていて、俺達も護衛っていう名目でそうする予定だ。

 だけど王家で入学するのはデイヴィッド殿下だけじゃなく、他にもいらっしゃる。

 その方達って、どうするんだろう?


「本来なら寮生活をさせたいんだが、デイヴィッドにはそこまでの教育は行っていない。それに防犯の点から見ても、適当な物件を選ぶ事は出来ん。だからデイヴィットのみならず、王家の者はアマティスタ侯爵家に厄介になる予定だ。無論、彼の者を除いてだがな」


 あー、確かにメモリアに部屋を用意するとしても、王族なんだから護衛は必要になるし、普通の一軒家じゃ防犯に不安が残るから、選択肢ってかなり狭いよね。

 だから領主のアマティスタ侯爵家に厄介になって、そこから通うのか。

 って、それって俺達と同じじゃん。


「さすがにアルカに連れて行けとは言わんよ。理由も無いし、必要も見出せん。だが、緊急時には避難させてもらえると助かる」


 確かにアルカにはトラベリングを使っても行けないから、緊急時の避難場所としてはこれ以上ないと思う。

 だけどさすがに俺達だけの判断じゃ無理だから、この話は大和さん達にもしっかり伝えないと。


「王族や貴族の寮生活については、深く考えられていなかったという事が、ここで問題になってきているのですね」

「そこまで問題というワケではないがな。特に騎士・狩人学科や宗教学科を選ぶ者は、身の回りのことぐらいは自分で出来ねば話にならん」


 それは確かにそうだよね。

 王家の方々も、遅くても2年以内には寮に生活の場を移す事を決められてるそうだから、多分総合学園の開校が予想より早くて、教育が間に合わなかったっていう理由もあるんだと思う。

 寮は学園内にあり、バトラーの常駐やオーダーの警備もあるんだけど、身分を問わず多くの子達が生活する場でもあるから、何が起こるか分からない。

 だけど開校は春だから、実際の防犯体制がどの程度なのかは分からず、そっちも見極めたいっていう理由もあるってグレイス様は仰った。

 デイヴィッド殿下は、開校までに身の回りの事は出来るよう教育を施され、今がまさにそのお勉強中なんだってさ。

 そろそろ終わるから……あ、バトラーが今しがた終わって、こっちに向かってるって教えてくれた。


 そういえば、まだアクアーリオ橋公国のネブリナ殿下と、デネブライト橋公国のライオ殿下、イルミナ殿下にはお会いした事無かったな。

 同級生になる王族で面識が無いのはこの3人だけになっちゃったから、時間作って挨拶ぐらいはしといた方が良い気がする。

 後で大和さんやマナ様に相談してみよう。

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