騎士の援軍

Side・ミランダ


 ウイング・クレストのラウス君、キャロル様からの報告を受け、私はすぐに動けるハイオーダー5名を引き連れ、急いでミステルへ転移した。

 大和君のおかげで私もトラベリングを習得したけど、本当に助かってるわ。


 ミステルへ到着すると、既に戦闘は始まっており、ウイング・クレストも前線で戦っているらしい。

 ガグン大森林のある方角に視線を送ると大きな結界が展開されているのが分かったから、そこが彼らの戦場ね。


 現在ミステルでは、その結界から漏れた魔物の掃討が行われていて、ランサーズマスター、ハンターズマスターも戦線に加わっていると聞く。

 魔物はSランクが多いけどGランクの姿も見受けられるし、稀にPランクも混じってるわね。

 しかもあれは、P-Rランクのスピノサウルスだわ。

 アロサウルスの稀少種で、背中のヒレから無数の炎の棘を飛ばし、猛烈な勢いで接近してくる獰猛な竜種。

 体も大きいから、ランサーもハンターも攻めあぐねているというか、尻込んでいる状態ね。

 放置してたら戦線が崩壊するどころか、大きな被害が出かねないわ。


 私は剣を抜き、フィジカリングとマナリングを纏わせると、スカファルディングを使い、スピノサウルスに向けて突撃を慣行した。

 フライングでも良かったんだけど、剣や盾が使いにくくなるから、私はあまり使わない。

 もちろん自分の翼で飛びたいという欲求はあるけど、今はそんな事を言ってる場合じゃないから、躊躇う事もないわね。


 剣に属性魔法グループマジックを纏わせ大剣と成し、私はすれ違いざまにスピノサウルスの首を斬り落とした。

 私はクラーゲン会戦でエンシェントハーピーに進化しているけど、その会戦ではアントリオン・プリンセスやアントリオン・クイーンとも戦い、倒しているから、巨体とはいえP-Rランクならそれほど労を要する相手じゃないわ。


「な……」

「スピノサウルスを……一撃?」

「う、嘘でしょ……」


 普通のランサーやハンターなら、倒すのに多大な労を要するし、たとえハイクラスであっても一撃で倒す事は出来ない。

 だから私がもたらした結果に、皆が驚いている。


「私はアソシエイト・オーダーズマスター ミランダ・アハトフリューゲルです。ランサーズマスター、もしくはハンターズマスターはおられますか?」


 救援に来たとはいえ、さすがにランサーズマスターやハンターズマスターには話を通さないといけないから、面倒ではあるけど名乗りを上げる。

 ちなみにアハトフリューゲルという家名は、アソシエイト・オーダーズマスターに就任した際、陛下から下賜された家名になるわ。

 グランド・オーダーズマスターに就任したレックス君は、名門フォールハイト家の嫡男だから、そちらは見送られている。


「アソシエイト・オーダーズマスターって……エンシェントハーピーか!」

「ウイング・クレストだけじゃなく、オーダーズギルドもエンシェントクラスを援軍に寄越してくれたの!?」


 喜んでくれているところ非常に申し訳ないんだけど、ウイング・クレストがミステルに来ているのは知っていたから、こちらに派遣されたエンシェントクラスは私だけだったりするし、ハイオーダーも5名だけなのよね。

 確かにラインハルト陛下は、私をミステルに、グランド・オーダーズマスター含むエンシェントクラス4名をラオフェンに派遣されたけど、既にミステルにはウイング・クレストがいるし、ラオフェンの方は戦力が不足していると考えられたから、そちらに派遣されたオーダーは30名を超えていたりする。

 ウイング・クレストがいる時点で、Oランクモンスターでも少数なら対処できてしまうだろうから、あまり戦力を送っても仕方がないと判断されたのよ。


「アソシエイト・オーダーズマスター、遠路はるばるの救援、感謝します」


 すぐにタイガリーの女性ハンターが呼ばれ、やってきた。

 この方がミステルのハンターズマスターね。


「いえ、遅くなり、申し訳ありません。ところで、ランサーズマスターは?」

「ランサーズマスターは、住民の避難に向かっております。救援が来た事は伝えてありますが、魔物の数が数ですから」


 住民の避難誘導か。

 確かに1,000を超える魔物が迫って来ていたんだから、それは当然の話よね。


「そうですか。ではランサーズマスターには、終わってから挨拶をさせて頂きます」


 いつまでも悠長に挨拶なんてしてられないから、簡単に切り上げないと。


「ハンターズマスター、私は単独で、ハイオーダーは5名で組ませ、魔物に当たります」

「分かりました。よろしくお願いします」


 簡単にハンターズマスターとの挨拶を終え、私は同行したハイオーダー5名に指示を下した。


「ハイオーダーに通達。必ず5名1組で動いて下さい。倒した魔物は、最初に相手をしていたハンター、もしくはランサーに。これほどの規模の氾濫ですから無いと思いますが、揉めるようならば事前に伝えて介入をお願いします」

「「「「「はっ!」」」」」


 私に同行してくれたハイオーダーは平均レベル53だから、全員で当たればP-Rランクのスピノサウルスが相手でも、倒す事は十分可能。

 それ以上の魔物なら分からないけど、異常種や災害種は大和君達が引き受けてくれているようだから、こちらに来るとしても1匹か2匹ぐらいでしょう。

 注意しなければならないのはM-Uランクのドラグーンだけど、それも大和君達が見逃すとは思えないわね。


「私は魔物の相手をしつつ、あの結界を確認します。ではこれより、救援を開始します!各自、オーダーの名に恥じぬよう、奮起してください!」

「「「「「はっ!!」」」」」


 私を含めて、援軍はたったの6名。

 だけど精鋭だと自負しているし、ウイング・クレストもいるのだから、ミステルの町には指一本触れさせないわよ。


 私は先代アミスター王アイヴァー様お手製の、翡翠色銀ヒスイロカネ製の剣と盾を構えながら周囲の様子を伺い、ウイング・クレストが作った結界に視線を向けた。


Side・エオス


 戦い始めてから、どれ程の時が過ぎたでしょうか。

 数が減ってきた事もあり、クエスティングで討伐数を確認する余裕が出来たので確認したのですが、討伐数は954匹となっていました。

 総数は1,000を超えているようでしたから、私達がこれだけの数を討伐したという事は、迷宮氾濫で溢れ出た魔物はほぼ討伐を終えたと考えてもいいでしょう。

 私やアテナ様も完全竜化して討伐を行いましたし、大和様やマナ様との竜響魔法レゾナンスマジックも完成しましたから、結果としては上々です。

 さすがに無傷というワケにはいきませんでしたが、真子様の治癒魔法ヒーラーズマジックエクストラ・ヒーリングで完治させていただきましたから、特に問題なく人化する事が出来ました。


「さすがにぴったり1,000匹って事は無いけど、それでもこれだけ倒せれば、ミステルにも被害は出ないで済むでしょう」

「それにオーダーも援軍を派遣しているでしょうから、尚の事ですね」


 マナ様とミーナ様の仰る通りでしょう。

 真子様の結界フィールド・コスモスに閉じ込めた魔物は既に殲滅していますが、異常種は63匹、災害種も26匹いました。

 その異常種と災害種は私達が全て受け持ちましたから、ミステルを守っているハンターやランサーは、最高でもP-Rランクモンスターの相手で済んでいたはずです。


「スピノサウルスなんてのもいるから、それでも面倒だとは思うけどな」

「まあ、下手な異常種より厄介だからね。それでもハイハンターやハイランサーもいたし、合金製の武器も持ってたから、倒せないことはないでしょう」


 それも大和様と真子様の仰る通りですね。

 私も使っているラピスライト・バルディッシュを含め、ウイング・クレストの武器は全て瑠璃色銀ルリイロカネという合金製です。

 合金は大和様が提案し、エドワード様が完成させた技術ですが、既にフィリアス大陸には広まっており、ハイクラスは魔銀ミスリルを基にした翡翠色銀ヒスイロカネ金剛鉄アダマンタイトを基にした青鈍色鉄ニビイロカネのどちらかを使っています。

 魔銀ミスリル金剛鉄アダマンタイトより性能が良いのはもちろんですが、最大の特徴はハイクラスどころかエンシェントクラスの魔力にも耐える事が出来るため、魔力疲労や魔力劣化を気にせず使える点でしょう。

 そのためハイクラスの戦力は、以前より遥かに上昇していますから、P-RランクどころかM-Iランクまででしたらハイクラス数名で討伐が可能になっています。


「それじゃあ解除するわ」

「お願いします」


 真子様がフィールド・コスモスを解除されました。

 今回は結界内にいても、特に結界外と違いは感じなかったのですが、大和様や真子様が好んで使用するA級刻印術は、結界の内外を視認出来なくする効果もあるそうです。

 フィールド・コスモスにもその特性を持たせているそうですが、今回は使用する必要がなかったのでしょう。


「それじゃあミステルに戻るか」

「ええ。大丈夫だと思うけど、急ぎましょうか」


 オーダーが救援に来ているというのは、私達の予想でしかありません。

 Sランクが多く、稀にPランクが混じるとはいえ、討ち漏らした魔物の数は100では効きませんから、まだ戦闘中という可能性もあります。

 ですから私達は、急いでミステルに戻る事にしました。

 皆様は従魔、召喚獣の背に乗っておられますが、私やアテナ様のようなドラゴニアンは従魔魔法、召喚魔法を授かる事はありませんか。

 ですからアテナ様は大和様と共にジェイドに、私はフラム様のフロウに相乗りをさせて頂いています。


「どうやらミステル側も終わってるみたいね」

「だな」


 ミステルに到着すると、既に戦闘は終わっていました。

 真子様のフィールド・コスモスでも、全ての魔物を閉じ込める事は出来ませんでしたから、止む無く漏らした魔物も多いのですが、こうして見る限りでは町そのものは無傷ですし、ハンターやランサーも死者は出ていないようです。


「あ、オーダーも来てますね」

「ホントだ。しかもあれってミランダさんだよ」


 リディア様とルディア様が、オーダーの姿を見つけられたようです。

 私も視線を送ると、確かにオーダーズコートを纏っていますし、アソシエイト・オーダーズマスター ミランダ様のお姿もありますね。

 人数は6名ですか。

 ウイング・クレストがミステルに救援に向かった事は報告されていますから、最小限の人数が派遣されたという事でしょう。


「という事は、あっちのハンターとランサーが、ハンターズマスターとランサーズマスターか?」

「ハンターズマスターは分かりにくいけど、ランサーズマスターはガーディアン・ランサーズコートを着てるから、間違いないでしょうね」


 アレグリア公国騎士団、バリエンテ獣騎士団、リヒトシュテルン駐留軍を母体としているランサーズギルドは、設立に際して装備や称号も新設されています。

 オーダーズギルドのランク制度が基本となっていますから、ランサーズマスターはEランクランサーでもあり、同時に護国騎士ガーディアン・ランサーという称号も賜っています。

 護国騎士ガーディアン・ランサーはAランクランサーでもあり、任命の際にガーディアン・ランサーズコートというコートがアレグリア獣王陛下から下賜されます。

 ランサーズマスター、サブ・ランサーズマスターは例外なく護国騎士ガーディアン・ランサーですから、そのガーディアン・ランサーズコートを纏われている以上、そのいずれかの可能性は高いですし、そうでなくとも護国騎士ガーディアン・ランサーですから、準ずる地位を得ていてもおかしくはありません。


「ミランダさん」

「大和君、お疲れ様。そして迅速な救援、ありがとう」

「たまたまオヴェストにいましたからね。ミランダさんこそ、来てくれてありがとうございます」


 大和様はハンターとしてではなく、ヴァルト獣公ネージュ陛下、ご夫人でありヴァルト獣公継承権第一位を持つプリム様の身内として、此度の迷宮氾濫を鎮められました。

 ですからヴァルトは、大和様にとっても関係の深い国であり、守るべき対象となっています。

 そのヴァルトにエンシェントオーダーが派遣されてきたのですから、大和様が感謝を述べられるのも当然でしょう。


「報告ですけど、ハンターズギルドに行った方がいいですか?」

「魔物は回収してあるの?」

「ええ」

「それならそうしましょう」

「了解です。獣車を出すんで、それで行きましょう」


 大量の魔物を狩った事もあり、報告は広大な第10鑑定室を持つハンターズギルドになります。

 通常のアライアンスでも、魔物の討伐数は100を超える事は珍しくありませんから、ハンターズギルド第10鑑定室でしか対応出来ないのです。

 今回の迷宮氾濫は、その10倍を超える数の魔物を討伐していますから、第10鑑定室でも広さは足りませんが。

 復興財源にもなりますから、ミステルはもちろん、オヴェストでも売却は必要になります。


 さすがにオヴェストやミステルだけでは捌き切れる量ではありませんが、それも含めて報告し、オヴェストではネージュ陛下へもお伝えしなければなりません。

 さらにラオフェンの迷宮氾濫の事もありますから、急いで報告をするべきです。

 私はインベントリから収納してある天樹製獣車を取り出し、フラム様に手伝っていただきながら、フロウを繋ぐ作業に入りました。

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