橋上農園
対策と言っても、俺達ウイング・クレストがヴァーゲンバッハに、レックスさん達エンシェントオーダーとサヤさんがポラルに行くってぐらいなんだが。
確認された魔物はG-Cランクのブルー・フェンリルとM-Cランクのフラッド・クレインだけだが、他にも数体が災害種に進化しているようだし、レオ種までいるって話もあるから、油断はしないように気を付けよう。
他には、来月に開催される
あと少し落ち着いてからになるが、レックスさんはグランド・オーダーズマスターとして、各リッターズギルド本部に顔を出す事にもなった。
誰がグランド・オーダーズマスターなのかをしっかりと知らしめておく必要もあるし、特にドラグナーズギルドは未だに反抗的なドラグナーもいるみたいだから、いざという時にエンシェントオーダーが出張る可能性がある事も認識させておきたいみたいだ。
そんな感じで、最初の
終わってから親睦会みたいなのも開かれて、俺とミーナも強制的に参加させられてしまったな。
ミランダさんは参加してたが、レックスさんは急ぐ必要があるって事でポラルに向かったから、代役っていう意味もあったらしい。
そして翌日、俺達はヴァーゲンバッハに向かう事になった。
メンバーは俺、プリム、マナ、真子さん、ミーナ、フラム、リディア、ルディア、アテナ、エオスの10人だ。
ヒルデはデセオ、リカさんはメモリア、ユーリはフィールから離れられないし、アリアはハイクラスに進化したばかりだから、今回は留守番をしてもらう事にしている。
エド、マリーナ、フィーナ、フィアナ、カメリアも同様で、今回はアルカで留守番だ。
ラウス、レベッカ、キャロル、セラス、レイナにはプラダ村の方を頼んでいる。
ルーカスとライラは天樹城に詰めてもらって、ポラルの状況を確認してもらう事になった。
まあ何かあった場合は、ラインハルト陛下の私室にある通信具を使うか、王連街にあるラインハルト陛下かサユリ様の屋敷に設置しているゲート・ストーンを使ってアルカまで転移してもらうかしかないんだが。
フレイドランシア天爵邸は場所も決まって建設も依頼しているんだが、決まったのが3日前だから、完成までまだまだ掛かる。
天樹城に近い場所を確保出来たから、完成すれば連絡とかは楽になると思う。
それはさておき、俺達はエオスが抱える多機能獣車に乗って、ヴァーゲンバッハにやってきた。
ヴァーゲンバッハはレティセンシアとの国境がある国だが、その関係もあって土地が広い。
だから主産業は農業で、しかも3本あるヴァーゲンバッハ橋の内1本は完全に農園となっている事から、橋上農園とも呼ばれている。
橋の上でどうやってと思わなくもないが、花壇とかもあるから、土を多めに用意したんだろうな。
農園はトレーダーズギルドが管理しているが、小麦畑のみならずジャガイモやトマト、キャベツにレタスなんかも栽培してるから、農業に従事しているトレーダーも多い。
リヒトシュテルンやグランレーヴェ、アクアーリオ、かつてはエストレラにもと、橋上都市の3分の1以上に輸出していたそうだ。
ただ畑は地形的な問題もあって、レティセンシア側に多い。
さすがに国境からは距離があるが、最近は畑泥棒なんかも出てきているらしい。
ヴァーゲンバッハに到着すると、俺達は橋公邸に向かった。
橋公に限らず獣公も公城は建造中だから、完成するまでは今まで使っていた屋敷が王宮代わりとなっている。
ただしリヒトシュテルン大公のみ、旧リヒトシュテルン大公国時代の城を改装して使っていたな。
ヴァーゲンバッハを含む橋上国家の場合、土地を用意するのがかなり難しい事もあって、既に城を有しているリヒトシュテルン、中洲を挟んでいるアクアーリオはともかく、他の橋上国家は城というより館っていう感じになるんじゃなかろうか。
「お待ちしておりました、皆様。ヴァーゲンバッハにようこそ」
ヴァーゲンバッハ邸に到着すると、カタリーナ橋公自らが玄関で出迎えてくれた。
「橋公陛下御自らのお出迎え、ありがとうございます」
「こちらこそ、依頼を受けて頂きありがとうございます。このような所ではなんですから、中へどうぞ」
依頼って事になってるが、エンシェントクラス10人への依頼ともなるとアホみたいな依頼料が飛んでいく。
さすがに国家予算を圧迫するとは思わないが、独立したばかりの上に復興まであるんだから、正規の依頼料は受け取りにくい。
だから今回は、俺とミーナはオーダーの任務で出向って事になってるし、プリム、フラム、リディア、ルディア、アテナ、真子さんは俺に同伴しただけって事にしている。
マナは面倒だが、ラインハルト陛下の名代のラピスラズライト天爵として参加だな。
俺とミーナには少ないがオーダーとしての報酬が出るし、倒した魔物は異常種災害種を問わず、全てこちらの物にさせてもらう事にもなっているから、タダ働きって訳じゃないぞ。
「先日グランド・オーダーズマスターから報告を受け、レティセンシアとの国境は厳重に監視しています。幸いにも、未だ魔物の姿は見えないそうです」
屋敷の応接室で、カタリーナ橋公から現状説明を受ける。
魔物がまだ国境に差し迫ってないって事は、ヴァーゲンバッハに被害が出る前に来れたって考えても良いだろう。
「レティセンシア側はどうなんですか?」
「そちらは何とも。ヴァーゲンバッハに駐留しているソルジャーでは、災害種どころか異常種の相手も厳しいですから、偵察もままならないのです」
ヴァーゲンバッハはレティセンシアの国境が近いが、国境線に面しているのはシリオという町になる。
それでも国境までは3時間はかかるそうだが、それはレティセンシアの国境の町レシオンも同様だ。
現在シリオには、ヴァーゲンバッハに駐留しているソルジャーの4割が集結し、魔物に備えているそうだが、ハイソルジャーは20人程しかいないらしいから、レシオンへの偵察は行われていない。
「確かオーダーズギルドの報告だと、数日中にコバルディアに到達するんだっけ?」
「その報告が来たのが3日前だから、既に到達してる可能性もあるな。距離的にはコバルディアの方が近いから、レシオンまではまだ余裕があると思えるが」
スカウト・オーダーからの報告が届いたのは3日前だが、魔物の進行速度は予想し辛い。
基本的には早いんだが、途中で寄り道する個体もいたりするからな。
だがその報告で、コバルディアの北にあるレティセンシア第2の都市カラベラが壊滅したともあったから、既にコバルディアも落とされている可能性は低くない。
「問題は、レティセンシア西部の様子が不明な事ね。スカウト・オーダーもコバルディアを中心に動いてるから、西部の事は予測しか出来ていないわ」
「ちょっと前にヴァーゲンバッハに攻めて来たけど、確かその時は魔物はいなかったんだよね?」
「そう聞いてるな」
半月ほど前にレティセンシアは、ヴァーゲンバッハを支配下に置くために軍を派遣した。
既にレティセンシア国内は食糧の自給率が大きく下がっており、コバルディアでさえも70%程度に落ち込んでいるそうだから、小さな町や村では餓死者も少なくない。
その状況を改善するための進軍だったんだが、当然アミスターが許すはずがない。
レックスさん、ローズマリーさん、ミューズさん、サヤさんという4人のエンシェントクラスにデルフィナさんを加えて迎え撃った結果、レティセンシア軍はあっさりと撃退されている。
食糧支援ぐらいはしてもいいんじゃないかと思ったんだが、支援物資は皇王や貴族が握りしめ、さらにアミスターやヴァーゲンバッハを攻めるための軍に回すに決まってるからって事で行われていない。
その時に派遣されたレックスさん達は、レシオン近隣の調査も行っている。
その時は異常種とかとは遭遇しなかったそうだが、あれから半月近く経ってるから、魔物が西部にも現れててもおかしくはない。
「そっか。じゃあなるべく早く、シリオっていう町に行くんだね?」
「そうなる。ヴァーゲンバッハまではエオスに運んでもらったから、シリオまではアテナに頼む事になるが」
「大丈夫だよ」
フィールからヴァーゲンバッハまでは、エオスに完全竜化して飛んでもらったから、シリオまではアテナに頼む事になる。
完全竜化はドラゴニアンにとって大量の魔力を消耗するため、1日に1度が限度だ。
エンシェントドラゴニアンに進化しているアテナとエオスなら3回ぐらいはいけるらしいが、回数が増える程消費魔力が増えるみたいだし、移動速度も落ちる上に戦闘が不可能になってしまうから、無理はさせられない。
特に今回は、異常種や災害種と戦う可能性が高いんだからな。
「少し足を延ばして頂く事は出来ますか?」
「それは可能ですけど、どの辺りまでですか?」
「此度の独立で、レティセンシアと国境を接するのは我がヴァーゲンバッハとリヒトシュテルン大公国になりました。ですが国境の大半は、ヴァーゲンバッハになっているのです」
旧リベルター連邦の地図を持ち出したカタリーナ橋公が、地図を指し示す。
ヴァーゲンバッハの北にも橋上都市はあったんだが、その都市はソレムネの蒸気戦列艦によって落とされ、壊滅している。
その橋上都市はヴァーゲンバッハに組み込まれているんだが、そのために国境が縦に伸びてしまい、ソルジャーの監視の目が届きにくくなっているらしい。
幸いにもその橋上都市の北側は海だし、深い山谷があるから人の通りは皆無なんだが、魔物にとっては関係ない話でもある。
だから今回のような事態には対処しきれないって事で、隣国となったグランレーヴェ橋公国からもソルジャーが派遣されてきているんだが、グランレーヴェはテメラリオ大空壁の麓にあるからあまり人員を割く事は出来ない。
「確かに魔物なら、山や谷が深くても来る時は来るわね」
「ええ。しかもフラッド・クレインが確認されてるワケだから、地形なんて無関係だわ」
「ですね。来るかどうかは分かりませんが、無警戒でいいワケがありません」
だな。
確認されてる災害種はブルー・フェンリルとフラッド・クレインのみだが、他にも鳥系がいないとも限らないし、問題の山谷にはヒポグリフも生息してるって話だから、ヒポグリフの異常種になるM-Iランク ヒポグリフ・オーバーロード、もしくはその上のA-Cランク ヒポグリフ・グランロードがいる可能性も捨て切れない。
ジェイドやフロライトの事もあるから、出来れば相手したくないんだが、そんな訳にはいかないしな。
「ならこの後、そっちも回るか」
「そうした方が良いわね。あと可能なら、レティセンシアに入っておくべきだわ」
「それもそうか」
ウイング・クレストのメンバーは、誰もレティセンシアに行った事が無い。
マナやエオスでさえ、リベルターに行く際はワイバーンやアイス・ロックに乗るかバリエンテを経由していたし、かつてのアミスター王家はレティセンシア皇王家を潜在的な敵国認定してたから、アミスター王家がレティセンシアに足を踏み入れた事は一度も無かったりする。
だが俺達はトラベリングが使えるから、今回みたいな場合だとトラベリングを使えるようにしておいた方が良いだろうし、レシオンに限らず近隣の町ぐらいは行っておいてもいいだろう。
町に入るかは別だが。
「ではカタリーナ陛下、私達はレシオン付近を始め、北側の様子を探り、その後シリオに向かわせて頂きます」
「分かりました。お手数をお掛けしますが、よろしくお願い致します」
あまり時間を掛けるとどうなるか分からないから、ここでの話し合いは簡単に切り上げる。
それでも北の山谷までは俺達は気にしてなかったから、ヴァーゲンバッハに来た意味は大きい。
農園の事もあるし、当初の予定より監視範囲を広げないといけないから大変だが、それは仕方ないだろう。
さすがに全部狩るのは無理だが、ある程度は間引いておかないといけない。
さて、何日掛かるかねぇ。
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