ソルジャーズギルド出立
新しい国名や王の称号を考えた翌日、俺達は再び天樹城に登城した。
今日はヒルデやソルジャーズギルドと共に、旧ソレムネ帝都デセオに向かう日だからな。
ソルジャーズギルドの装備は、グランド・ソルジャーズマスターに就任したデルフィナさんのブリゲイド・ソルジャーズコート、アソシエイト・ソルジャーズマスターに就任したハイラミアのセイバー ティリア・セルペンスさんのオフィサー・ソルジャーズコートは完成しているし、今回ソルジャーズギルドに出向になったハイオーダーとハイセイバーは、全員が
ノーマルクラスも150人以上いるんだが、こちらはソルジャーズコートの製作が間に合ってないから、しばらくはオーダーズコート、セイバーズコートのままで活動してもらう事なっている。
現地で採用予定のコモン・ソルジャーに関しても同様で、当面は軍の装備で対応してもらい、出向しているソルジャーの後でソルジャーズコートが支給される予定だ。
ちなみにソルジャーズギルドの装備も、俺の刻印具のゲームから拾ってきた画像をマリーナがマイナーチェンジといういつもの流れだが、文句が出てないんだから構わないだろう。
騎士団系ギルドの装備は、オーダーズギルドとセイバーズギルドは既に新装備に変更済みで、竜騎士団がオーダーズギルドに倣って装備を変更しているが、本格的に変更した訳じゃない。
だが丁度良い機会でもあるから、ドラグナーズギルドへの改名と同時に、正式に新装備を導入する事になったと聞いている。
公国騎士団と獣騎士団が統合されるランサーズギルドは、それぞれで装備が違う事もあるから、こちらも変更された。
イークイッピングの問題もあるから、名称はこんな感じになる。
オーダーズギルド
オーダーズコート
エメラルド・オーダーズコート
アーク・オーダーズコート
セイバーズギルド
セイバーズコート
ミスティック・セイバーズコート
ルナティック・セイバーズコート
ドラグナーズギルド
ドラグナーズコート
ナイト・ドラグナーズコート
クリスタル・ドラグナーズコート
ランサーズギルド
ランサーズコート
ガーディアン・ランサーズコート
グロリアス・ランサーズコート
ホーリナーズギルド
ホーリナーズコート
ディバイン・ホーリナーズコート
セイクリッド・ホーリナーズコート
ソルジャーズギルド
ソルジャーズコート
オフィサー・ソルジャーズコート
ブリゲイド・ソルジャーズコート
各ギルド最初のコートは、コモン・レジスターが着用する事になる、ギルドを象徴するコートだ。
2番目のコートは近衛やギルドマスター、Aランクの称号を授かった者が着用を許される。
そして3番目のコートは、グランド・マスターやDランク称号授与者専用で、騎士団系ギルド最上位の証となる。
何故かこれらのコートも、俺の刻印具からデザインを拾ってきて、マリーナがマイナーチェンジさせる事になってしまったが、本当に良いのかと思わずにはいられない。
マリーナなんて、ひっくり返りそうになってたからな。
セイバーズギルド、ホーリナーズギルドの装備は、ギルドランク改定に伴って、称号名を冠した銘に変更されてもいる。
プラチナム・オーダーズコートも同様で、先日からエメラルド・オーダーズコートと名称が変更されたぞ。
武器は今までの物を継続するか、微妙なマイナーチェンジを施して
出向するオーダーやセイバーは
「デルフィナ、ティリア。ヒルデを頼むぞ」
「「はっ!」」
ブリゲイド・ソルジャーズコート、オフィサー・ソルジャーズコートを纏ったソルジャー達が、一斉に敬礼する。
敬礼は各国共通らしいから、誰も違和感なくやってるな。
「では陛下、出発致します」
「ああ。ソルジャーズギルドの総本部が完成したら報せるが、それまでは全員ソレムネに滞在してもらう事になる。大変だとは思うが、無理はするなよ?」
「ご配慮、感謝致します。総員、搭乗せよ!」
ラインハルト陛下から、オーダーズギルド用の多機能獣車を5台貸与されているが、あくまでも貸し出しだから、いずれは返却しなければならない。
ソルジャーズギルド用に数台製作中らしいが、こちらは残念ながら間に合わなかったそうだ。
素材が不足気味らしいから、仕方ない話ではある。
今回は俺達も護衛として同行するから、ヒルデとデルフィナさん、ティリアさん、ロイヤル・ソルジャーは俺達の天樹製獣車に乗る事になっているぞ。
「ヒルデガルド女王陛下のご無事と新たなる同志ソルジャーズギルドの活躍、そしてソレムネの統治成功を祈って、敬礼!」
グランド・オーダーズマスター トールマンさんの合図と同時に、オーダーとセイバーが敬礼で見送り、ソルジャーも獣車のデッキや展望席から答礼する。
それを合図に、獣車がゆっくりと動き出す。
デセオまではトラベリングで行けるし、向こうにも今日行く事は伝えてある。
デセオの警備を担っているオーダーやセイバーを送り届ける必要はあるが、それぐらいは手間でも何でもない。
引継ぎや報告もあるから、送るのは明日の予定だが。
Side・デルフィナ
フロートを出てからトラベリングを使い、私は我々ソルジャーが新たに赴任する事になった旧ソレムネ帝国帝都デセオにやってきた。
私が初代グランド・ソルジャーズマスターに就任する事になるとは思わなかったが、他の4人のエンシェントオーダーは動かす事が出来ないから、驚きはしたが諦めて受け入れるしかなかった。
とはいえ王代アイヴァー様が打たれた
赴任先がデセオということで夫や娘を連れてくる事は出来なかったけど、私はトラベリングを使えるから休暇の際は会いに行けるし、総本部が完成すれば交代で勤務という事にもなっているから、しばらくは頑張って耐えよう。
「とはいえ、この環境に慣れるとは思えないんだが……」
だが私の覚悟に水を差すように、アソシエイト・ソルジャーズマスターに任命されたハイラミアのティリアが口を開く。
「気持ちは分かるが、出来れば言葉にしてほしくなかったな」
「一度見ているとはいえ、またここに来なければならなかったんだから、愚痴の1つや2つは出るでしょう」
それもその通りなんだけどね。
ソレムネ国民は
だから旧帝都デセオであっても、街中の環境がよろしくなく、大通りであっても糞尿が散らばっている。
アミスターやトラレンシアではあり得ない光景だわ。
「治安維持部隊は仮設を使ってるそうだけど、俺達も持ってきて良かったよな」
「他の魔導具もね。トイレばかりかお風呂も無いんだから」
ソルジャーズギルドに派遣された者達も、これからの生活に思いを巡らせ、気が重くなっている。
全員がハイクラスで、オーダーやセイバーからの出向という扱いではあるが、どのくらいの期間になるかが予想できなかったため、ほとんどの者が恋人や夫婦だという事が救いね。
いえ、そういった者を選出しているし、1人身の者であっても私やティリアのように既に結婚し、子供も成人しているか成人間近の者が選ばれているんだけど。
文官となる貴族の子弟はそうでもないけど、その代わり一度の休暇が長めだから、地元への帰還が許されている。
と言っても、私がトラベリングを使って送迎するんだけど。
「貴族は魔導具を購入してるけど、馬鹿みたいに高価らしいし、ソレムネは通貨も違うから、貨幣制度の統一も簡単じゃないわね」
「とはいえ統一しなきゃいけないだろ?」
「ええ。だからほとんど無理矢理になるけど、両替を実行する事になるわ」
マナリース殿下と大和君の言うように、ソレムネで流通している貨幣は、他の国とは異なっている。
ヘリオスオーブの貨幣単位はエルで、7種類の硬貨を使用している。
だけどソレムネの貨幣単位はディルで、硬貨ではなく鉄板、銅板、銀板、金板、白金板の5種類の板貨が使われていると報告を受けた。
それぞれ10枚で1つ上の板貨に交換出来るようだが、問題となるのは交換レートになる。
暴利での両替となると、貴族はともかく民間人は生活が出来なくなってしまうから、両替のレートは治安維持部隊からの報告を元に、ラインハルト陛下やヒルデガルド陛下が頭を悩ませながらも決定されている。
どうも板貨の種類が少ないため、1ディル=10エル程の価値で使われていたようね。
さすがにそのままの価値で両替をしてしまうと問題しか起こらないから、1ディル=5エルで両替を行う事になり、実行はトレーダーズギルドが仮設本部を設置してからになるわ。
「という事は、トレーダーズギルドの職員を連れて、他の町や村も回らなきゃいけないのか」
「そうなるが、それは私達の役目になる。その前に兵士達をソルジャーズギルドに編入させなければならないし、各ギルドも仮設本部を設立しなければならないから、実行はかなり先になるよ」
トレーダーズギルドはもちろんだけど、クラフターズギルドやヒーラーズギルドも、生活の質を向上させるためには必要になる。
ハンターズギルドはさらに重要で、周囲の魔物討伐依頼や
ソルジャーズギルドはまだ239名しかいないから、とてもそこまで手が回らないのよ。
「もうちょっと人数が欲しかったよな」
「だな。だけど俺達の任務は、ヒルデガルド陛下の護衛とデセオの治安維持だ。オーダーはバリエンテやリベルターの復興だけじゃなくレティセンシアにも備えなきゃならないし、セイバーだって復興を優先しなきゃいけないから、これ以上は厳しいぞ」
「そうよねぇ」
ソルジャー達が頭を悩ませているように、派遣されたソルジャーが239名しかいないのは、これ以上人手を割く事が難しかったからだ。
私達と入れ替わりでデセオに出向してきた治安維持部隊も、明日には国元に戻り、少しの休暇後には元の任務に復帰する事になっているし、連邦天帝国建国に向けての準備や復興、フィリアス大陸で唯一残っている敵国レティセンシアへの警戒も怠るワケにはいかないから、こればかりはどうする事も出来ない。
「あと2週間もすれば、完全に雪が融けるわよね。そうなるとレティセンシアがアミスターに攻めてくるって言われてるけど、実際はどうなの?」
「無理だろ。兵はそこそこ集まったみたいだが、飯がねえって聞いたぞ」
その話は、私も聞いている。
だからレティセンシア国内は、力の弱い者からの搾取が増え、既に滅びかけてしまっている村もあるとか。
軍でさえロクな食事を与えられていないそうだから、アミスターを攻めて全滅するのが先か、反乱を起こされて皇王家が滅び去るのが先か、非常に判断が難しい事態だとラインハルト陛下が頭を抱えられていたわ。
だけど今レティセンシアまで併合となれば、ただでさえ足りていない人手がさらに不足してしまう。
だからラインハルト陛下としては、仮にレティセンシアが攻めて来たとしても、こちらの状況が落ち着くまでは皇王家に手を出す事は考えられていない。
怖いのは、民衆が皇王家を打倒してしまう事か。
王を失った事で無政府状態となり、貴族達が主権を握ろうと内戦を起こすならこちらも放置すればいいんだけど、アミスターに保護を求めて来られてしまうと無碍にするワケにはいかない。
それにアミスターは国交断絶を宣言し、国境も封鎖しているから、安易に支援を行う訳ワケにもいかないのよね。
そんな事をすれば暗愚な皇王家が図に乗る事になるし、支援は全てアミスターへの行軍に回されるだろうから、アミスターとしてもする意味がない。
残るはリベルターからの支援だけど、こちらもソレムネによって大きな被害を受けているから、レティセンシアへの支援より自国の復興が優先される。
「それでも支援するとしたら、リベルターからしかないのよね。ハイオーダーやハイハンターに依頼を出してトレーダーの護衛をお願いしてるけど、全部の村を回るのは無理だし、既にリベルターに逃げ出した者も少なくないって報告が上がってきたわ」
マナリース殿下のお話は初耳だったけど、確かに他に方法はない。
だけどトレーダーのみならず、ハンターも用がなければレティセンシアに行く事はないから、報酬がかなり高額になってしまったらしい。
「レティセンシアから逃げ出すのは当然だと思いますが、問題は起こっていないのですか?」
「問題ばかりね。盗賊に身をやつした者も少なくないらしく、既に500人近い数が討伐されたとも報告されてるわ」
既にそれ程の数が討伐されていたとは、さすがに思わなかった。
だけどマナリース殿下が仰るには、これはリベルターからのトレーダーを襲った者達になるから、おそらく実際には倍では効かない数がいるのでしょう。
レティセンシアは国民も他国を見下し、それでいて他国に依存しているけど、だからといって見捨てるワケにはいかない。
「気持ちは分かるけどね。だけど今干渉すると、デルフィナ、あなたも無関係じゃいられないわよ?」
何故、と思ったが、確かにソルジャーズギルドはレティセンシア軍も編入する予定になっていた。
ただでさえソレムネ軍の編入に頭を悩ませているのに、さらにレティセンシア軍まで加わってしまえば、私のみならず、この場もハイソルジャー全員の負担は尋常ではなくなってしまう。
「……レティセンシアの事は、自国の事なのですから皇王に何とかしてもらうべきですね」
「というか、それが当然なんだけどね」
保身的な発言をしてしまったけど、それは許してほしい。
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