予定外の参加者

 ハンターズギルドでシエル様のハンター登録、セラス様のウイング・クレスト加入手続きをしてる最中に馬鹿どもが絡んできたって話を聞いたが、そこにリリー・ウィッシュのエンシェントドワーフ、アイゼンさんとハイウルフィーのヴォルフさんが仲裁に入ってくれたと聞いて、少し驚いた。

 リリー・ウィッシュはサユリ様と一緒にアミスターの治癒行脚中のはずだから、なんで2人がいるのかと思ったんだが、どうやら先日結婚したらしく、気を遣われたって事みたいだ。

 ただ2人も、クラテル迷宮の噂は聞いていたらしく、どんな迷宮だったのか聞かれたな。

 第4階層までではあるが、詳細を伝えたらすごく驚いてたが。


 そんな事があったが、天樹城に戻った俺達は会議の準備を手伝う事になった。

 と言ってもラインハルト陛下やヒルデと、簡単な打ち合わせをしたぐらいだが。

 ヒルデがエンシェントヴァンパイアに進化した事を知ったラインハルト陛下が、自分もクラテル迷宮に連れて行けって言ってきたから、それを止めるのが大変だったな。

 あ、ヒルデも夜にはアルカに来たから、一緒に行動してるぞ。

 その際にブリュンヒルド殿下、次期グランド・セイバーズマスターのヴィーゼさん、護衛としてアルベルトさんを含むロイヤル・セイバー数人、さらにはグランド・バトラーズマスターとバトラー数人も連れてきたいって事だったから、そっちも快諾してアルカに連れてきて、昨夜は西の客殿 小峰殿に泊まってもらった。

 当然バトラーのミレイもヒルデに同行していて、ウイング・クレスト専用のバトラーズ・ウェアの話で凄く盛り上がっていたな。

 夜は夜で、ヒルデと共に主寝室にやってきて、なかなか大変な事になったが。


 そして昼食後、天樹城にある大会議室で、ついに会議が始まった。

 参加者は俺達ウイング・クレストにラインハルト陛下、エリス殿下、マルカ殿下、アイヴァー王代陛下、宰相ラライナさん、グランド・オーダーズマスター トールマンさん、アソシエイト・オーダーズマスター ディアノスさん、次期グランド・オーダーズマスター レックスさん以下エンシェントオーダー5名、ヒルデ、ブリュンヒルド殿下、ヴィーゼさん以下セイバー10名、そして各ギルドのグランドマスターだ。

 さらにリベルターの復興支援も同時に行うため、リヒトシュテルン大公のライアー大公、デネブライト代表のウルス議員、他に2人の議員が参加している。

 シエル様もラインハルト陛下の婚約者として、セラス様もウイング・クレストのメンバーとして、会議室に入っているぞ。


「では会議を始めたいんだが、その前に伝えたい事がある。実は急遽、この会議への参加希望者が出た。私は参加してもらうつもりでいるが、皆の意見も聞きたい」

「わたくしは構いません」


 間髪入れずに同意するヒルデだが、実は俺達も、急遽参加者が1人増えるっていう話は聞いていた。

 誰かまでは教えてもらえなかったが、ラインハルト陛下は重要な人物で、会議の行方を左右すると言っていたから、反対するべきじゃないって感じたな。


「そうですな。この会議はソレムネの統治方法を決定するためのみならず、リベルターへの復興支援を決めるためのものでもあります。もしや橋上都市の議員が見つかったのですか?」

「いや、残念だが議員ではない。参加を希望しているのはバリエンテのギムノス獣王だ」


 はい?

 い、いや、ちょっと待て。

 何でバリエンテの獣王が、この会議に参加を希望してるんだ?


「実は以前より、私との直接会談を打診されていてな。既に獣王の考えは書状で伺っているんだが、私だけでは重すぎる内容なのだ」

「重すぎるって、お兄様が?」

「ああ。事はアミスター、トラレンシア、リベルターだけの問題ではないからな」


 そりゃバリエンテの復興支援をって話もあるだろうが、そこまでの話になるのか?


「蒸気戦列艦に破壊された街の復興支援……ではありませんな。当然その話も出るでしょうが、それだけとは思えない」

「かといって、リベルターの復興を支援してくれるって訳でもなさそうだな。さすがにソレムネの統治に口を挟んでくる事はねえだろうが、何故このタイミングでアミスターに来ているのか、さっぱり分からねえ」


 ライアー大公もウルス議員も、突然のギムノス獣王来訪に戸惑っている。

 一国の王が突然会議に参加したいと言って来訪するなんて、余程の事態だからな。


「……あたしも構わないわ」

「良いのか?」

「ええ。確かにギムノスが父様の処刑を命じたのは間違いないけど、彼は父様を処刑せざるを得ない状況だった。恨んでないと言えば嘘になるけど、既に仇とは思っていないわ」


 ギムノス獣王は、やむを得ない状況だったとはいえ、結果的にプリムの父テルナール・ハイドランシア公爵を処刑してしまっている。

 王として決断せざるを得なかった訳だから仕方ないといえば仕方ないんだが、だからって全てが割り切れるなんて事はない。

 プリムの従姉に当たるネージュ・オヴェスト王爵から、テルナール公爵とギムノス獣王は政敵ではあったが親交もあったって聞いてる事も、プリムにとっては複雑な話になっているしな。


「陛下、確認ですが、バリエンテがソレムネの統治に口を出してくる訳ではないのですな?」

「無い。だがグスタフ議員、そなたにも口を出す権利が無い事を忘れるなよ?」

「……」


 最終確認のようにラインハルト陛下に尋ねたグスタフ・フォーマルハウト議員は、リベルター首都エストレラの南方に位置する橋上都市フォーマルハウトを治めているヒューマンの議員だ。

 厄介な事にグスタフ議員は利益主義者でもあって、リベルターを裏切りソレムネと通じていた議員の1人らしい。

 以前はソレムネに暴利を貪られていたみたいだが、それでも多大なり利益を得ていたし、帝王家が滅んだ今は新たな市場になるって事で、是非とも統治に参加したいと漏らしたそうだ。

 だがリベルターはアミスター、トラレンシア連合軍の救援によってかろうじて滅亡を回避出来ている。

 そのため本来なら会議へ参加どころか、口を出す権利すら無い。

 なのに何故この場にいるかだが、リベルターへの復興支援も議題に上がっているためで、生き残ったリベルター議会議員ですぐに動けるのがウルス議員とグスタフ議員、そしてライアー大公ともう1人の合計4人だけだったからだ。

 そうじゃなかったら絶対に呼ばれないし、そもそも声すら掛けられなかっただろう。


「ではここに呼ばせてもらおう」


 ラインハルト陛下が指示を出すと、警護をしているロイヤル・オーダーの1人が大会議室を出て行った。

 ギムノス獣王を呼びに行ったのか。


「それにしても、なんでこのタイミングで参加希望を?」

「デセオを落とした後、一度フロートに戻り各国に結果を知らせたろう?その返事に、自分も伝えたい事があるから階段を行いたいと書かれていたんだ」


 そういやデセオを落とした次の日に、報告のためにラインハルト陛下はフロートに、ヒルデはベスティアに戻っていたな。

 その時にバレンティア、アレグリア、バリエンテにも書状を送っていたそうだ。

 リベルターはエストレラが陥落してたから、とりあえずリヒトシュテルンに報せたらしい。


「伝えたい事って、バリエンテへの復興支援……じゃないわよね」

「支援しない訳にはいかないが、本題は別にある。だが私だけでは、どう判断すべきか悩んでいてな。だから大和君と真子の知識も貸してもらいたいんだ」

「私と大和君、ですか?ああ、客人まれびとだからか」


 いやいや、なんで客人まれびとだからな訳?

 というか、それなら何でサユリ様は参加してないのさ?

 いや、サユリ様は今頃アミスターのどこかの街か村を目指してヒーラー行脚の最中だから、相談自体出来ないんだけどさ。


「そうだ。少しだけ曾祖母殿に聞いた事があってな。だから客人まれびとの知恵を借りたいのだ」


 とは言っても、獣王が実際に口にしてからの話だから、まだラインハルト陛下はその内容に関して口を噤んでいる。


「じゃあ陛下は、獣王の提案、があるのかどうかは分からないけど、もしそれがあったら、受け入れるつもりですか?」

「本音を言えば受け入れたくはないんだが、受け入れざるを得ないと思う。ただその話は、それだけでは済まないんだ」


 マジでいったい何なのさ。

 というか、いくら客人まれびとだって言っても、俺は高校生だったんだぞ?

 政治になんて興味すらなかったから、役に立つとも思えないぞ?


「失礼致します。バリエンテ獣王、ギムノス陛下をお連れ致しました」


 そんな葛藤を感じていると、ロイヤル・オーダーがギムノス獣王を連れてきたようだ。


「分かった。ご案内してくれ」

「はっ!どうぞ、お入りください」

「ああ、すまんな」


 ロイヤル・オーダーが脇に逸れ、身長190センチ程の、がっしりとした体格のタイガリーの男が入ってきた。

 これが獣王ギムノス・バジリウス・バリエンテか。


「突然の不躾な来訪、まずは謝罪させていただく。そしてフィリアス大陸の明日を左右する重要な会議への参加を認めて頂き、感謝する」


 丁寧に謝罪と謝辞を口にするが、さすがに一国の王だけあって、カリスマみたいなもんを感じるな。

 威風堂々、っていうのか?


「ギムノス獣王、早速で申し訳ないが、あなたが参加した理由を口にして頂いてもよろしいか?」

「そうですな。我が提案を受け入れて頂くにしろ断られるにしろ、まずはそれからでしょう」


 会議場にどよめきが起こった。

 ラインハルト陛下とギムノス獣王だけが分かり合っているが、この会議はソレムネの統治についてだけじゃなく、リベルターへの復興支援を決めるためのものだ。

 なのになんで、バリエンテからの提案が優先される事になるんだ?


「皆の疑問は、当然だと思う。だがギムノス獣王の言うように、提案を受け入れるか否かで、今後の話が変わってくるのだ。私としては受け入れるしかないと思っているが、皆の意見を蔑ろにするつもりはない」

「ふむ……何となくですが、ギムノス陛下の提案に見当がつきましたよ」


 ギムノス獣王の提案内容を予想できたのは、ライアー大公だけか。

 いや、真子さんも驚いた顔をしているから、予想で来てるっぽいな。


「まさか……。いえ、でも……確かにそれなら、フィリアス大陸の今後を左右するわ」

「ライアー大公のみならず、そちらのエンシェントヒューマンも気が付かれたか。さすがだな」

「お褒め頂き、光栄ですな。ですが陛下、口に出して頂かなければ、話が進みませんぞ?」


 軽く笑い合うライアー大公とギムノス獣王。

 まさに政治の世界って感じで、すげえ居心地悪いな。


「仰る通りだ。では言わせていただこう。我は思う。ソレムネ帝国が滅んだ今、脅威となるのは北のレティセンシア皇国、遥か東、グラーディア大陸にあるアバリシア神国のみだ。レティセンシアはいずれ滅ぶであろうが、その国土はアミスターが管理する事になろう」


 話が飛んでる気もするが、確かにソレムネが滅んだ今、明確な敵国はレティセンシアとアバリシアの2国になる。

 春になったらレティセンシアと軍事衝突があるかもしれないが、ラインハルト陛下は皇王家を滅ぼすつもりはない。

 いずれは滅ぼすつもりでいるが、今は復興支援に新たな土地の統治で人手が取られるから、レティセンシアまで滅ぼしてしまったら本格的な人手不足に陥ってしまう。


「であるならばこそ、今こそがフィリアス大陸を1つの国家として纏めるべき時。故に我はバリエンテの地、そして王位を、アミスター国王に返還すべきと考えている」


 なっ!?

 バリエンテをアミスターに返すって、つまりバリエンテ全土の復領させるって事か!

 プリムも同じ事を言ってたが、まさか獣王が直接口にするとは……。

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