第一二章・変革するフィリアス大陸

ベスティアでの報告とバトラーズ・ウェア

Side・ユーリ


 私は大和様やアリア、真子とともにベスティアに来ています。

 あまり使いたくはなかったのですが今回は急ぎでもありましたから、ゲート・ストーンを使って雪妖宮ゆきあやしのみやに転移し、宰相やグランド・セイバーズマスター ブレザー卿、次期グランド・セイバーズマスター就任予定のヴィーゼ卿を呼び、皆を連れてハンターズギルド・トラレンシア本部に向かう事になったのです。

 興味を持たれたヒルドお姉様、ヒルドお姉様のお相手であるAランクセイバー アルベルト卿も同行を希望されたので、ご一緒していますが。


「お待ちしておりました、陛下」


 ハンターズギルドに到着すると、すぐに第10鑑定室に案内されたのですが、そこには既にセルティナ様とクラテル支部のハンターズマスター カルロスも到着していました。


「お待たせ致しました。こちらは予定より人数が増えていますが、構いませんか?」

「問題ございません」


 ハンターズギルド・トラレンシア本部ヘッド・ハンターズマスター、ハイウンディーネのリプル・ティブロンも、準備万端ですね。

 早速ということで、大和様がクラテル迷宮のマッピングを表示し、ストレージから魔物を取り出して報告を始めました。

 話が進むにつれて皆の顔色が変わったり、眉を顰めたり、頭を抱えたりしていきますが、これは仕方がありません。


「……第2階層でその構成ですか」

「きょ、凶悪ですね……」

「エンシェントクラスが必須な気もしますが、1人では対処しきれないのでは?」


 リプル、ヒルドお姉様、ブレザー卿が、悲壮な表情をしています。


「第1階層や第2階層なら大丈夫だと思いますが、第3階層は厳しいでしょうね」


 第3階層では、建物を利用して亜人が弓を射てきたり、街並みを利用して襲い掛かっても来ましたからね。

 高層階ばかり気にしていると、1階から思わぬ不意打ちを受ける事もありますから、迂闊に建物には近付けません。

 幸いベスティアの大通りは広いですから、中央付近を進めばある程度の対処は可能ですが、問題は細くなっている通りや裏通りですか。


「第4階層の問題もあります。ですからヘッド・ハンターズマスター、買取していただく魔物をお渡ししたら、白妖城でクラテル迷宮をどう扱うかを協議したいのですが構いませんか?」

「それはこちらとしても望むところです」


 予想でしかありませんが、今後もクラテル迷宮並の迷宮ダンジョンが生まれてくる可能性がある以上対策は必要になりますし、モデルケースにもなるでしょう。

 本来でしたらグランド・ハンターズマスターもお呼びするべきですが、グランド・ハンターズマスターは多忙ですし、急なお話でもあります。

 ですから後日正式にベスティアにお招きし、改めて会議を行われる予定になっています。


「それじゃあお願いします。あ、こっちは魔石を献上する必要があると思ってるんですけど、あってますか?」

「え?え、ええ、大丈夫よ」


 500匹近い数の魔物が大和さんのストレージから出てきましたから、リプルが驚くのも無理はありません。

 よく見たらヒルドお姉様やブレザー卿、アルベルト卿も驚かれていますね。


「大和様、献上とは?」

「いや、こいつらはトラレンシアに生息してないんだから、魔石を持ってないだろ?だからだよ」


 キョトンとしたお顔で大和様に質問をしているヒルデお姉様ですが、まさか魔石はアミスターにとでも思っていたのではないでしょうね?

 確かにトラレンシア妖王家はアミスター王家を主家として立ててくれていますが、トラレンシアは立派な独立国なのですから、必要以上に遠慮する必要はないというのに。


「それは……ですが大和様達が仕留められたのですから、やはり魔石はアミスターに献上するべきではないのでしょうか?」

「いや、今回はトラレンシアからの依頼でもあるんだから、トラレンシア王家が優先だろ」


 大和様の仰る通り、クラテル迷宮の調査はハンターズギルドを通じてトラレンシア妖王家からの依頼となっています。

 きちんと報酬もいただいていますから、妖王家が魔石を受け取る事は当然の権利です。

 それに、別の問題もあったりするんですよ。


「ヒルデお姉様、天樹城の宝物庫に納められている魔石は、大和様達が多く持ち込まれている事もあって、現在新たに魔石専用の宝物庫を用意している所なのです」

「そ、そうなのですか?」


 はい、そうなのです。

 大和様達ウイング・クレストに献上して頂いた魔石は、終焉種の魔石を含めかなりの数になります。

 ですから宝物庫ではスペースが足りなくなってきており、急遽魔石専用の宝物庫を用意しなければならなくなりました。

 終焉種の魔石のみならず下位種の魔石との比較できるようスペースを設ける予定ですから、魔石庫はかなり広くなるでしょう。

 そういえばオーク・エンペラー、オーク・エンプレス、そしてアントリオン・エンプレスの剥製も、どうにかしなければなりませんね。

 いっそのこと天樹城の近くに、大和様が提案なされた博物館を建造し、そこで展示してもいいかもしれません。

 明日、お兄様に提言してみましょうか。


Side・真子


 ハンターズギルド・トラレンシア本部でクラテル迷宮の調査報告をして、魔物の買取依頼を出した後、私とアリアちゃん、ヴィオラは大和君、ユーリ様と別れて、ベスティアの街に繰り出した。

 大和君はウイング・クレストのリーダーとして、ユーリ様はラインハルト陛下、マナ様の名代として会議に参加しなきゃいけないからね。

 私達も参加を打診されたけど、私がベスティアに来たのはクラフターズギルド・トラレンシア本部に用事があったからだから、悪いけど別行動させてもらう事にしたの。


「真子様、なぜクラフターズギルド・トラレンシア本部なのですか?」

「トラレンシアで仕立てられてる服があるでしょ?あれを何着か買おうと思ってね」

「普段着ですか?」


 ヴィオラとアリアちゃんが、なんでわざわざベスティアにまでって顔をしてるけど、トラレンシアで流行ってる服は和服と洋服が混ざったデザインだから、クラフターズギルド・トラレンシア本部にオーダーメイドの依頼を出せば、サユリ様みたいな感じの服を手に入れられるんじゃないかと思ってるのよ。

 サユリ様に依頼を出すっていう手もあるけど、残念ながらサユリ様はリリー・ウィッシュを連れてアミスターを巡って治癒を行ってる最中だから、依頼出来なかったのよね。


「トラレンシア風の服でしたら、アミスターでも依頼を受けていますよ?」

「それも知ってるわ。だけどせっかくだから、本場で依頼してみようと思ったのよ」

「そういう事ですか。でしたら私も、依頼してもよろしいでしょうか?」

「もちろんよ」


 アリアちゃんも、トラレンシア風衣装に興味があるみたいだから、一緒にオーダーメイドを頼む事に決まった。


「せっかくだし、ヴィオラもどう?」

「お気持ちは嬉しいですが、私はこの服の方が落ち着きますから」


 それは残念ね。

 ヴィオラが着ているのは、スカートの丈が膝下まである、クラシカルなメイド服。

 他のバトラーも似たようなメイド服を着てるけど、細部は微妙に異なっていたりもするわ。

 貴族とかだと揃いのメイド服を用意しているんだけど、そういえばウイング・クレストのバトラーは、クレスト・ディフェンダーコート以外は特に決まってなかったわね。

 クレスト・ディフェンダーコートは普段着としても優秀だけど、防具としての意味合いの方が強いし、バトラーであっても個人個人でデザインが違うから、お揃いとは言い難い。

 それならバトラーも、ウイング・クレスト専用のメイド服を用意してもいいかもしれないわね。

 あ、ヘリオスオーブじゃメイド服っていう言葉は無くて、バトラーズ・ウェアっていうんだっけ。


「ウイング・クレスト専用のバトラーズ・ウェアですか?」

「そうよ。今は4人だけど、今後増える予定があるでしょ?それならいっそ、バトラーズ・ウェアも統一するべきだと思うのよ」


 ヒルデ様付きのミレイは、今武器とクレスト・ディフェンダーコートを仕立ててる最中だけど、ユニオン・ハウスの管理をお願いしているバトラーはバトラーズギルドから支給されているバトラーズ・ウェア。

 いずれはユニオン・ハウスだけじゃなくアルカの方もお願いする事になるだろうから、先に仕立てておいてもいいと思うのよ。


「それは良いですね。大和様や皆さんも、反対はされないんじゃないでしょうか?」


 アリアちゃんもそう思うわよね。

 ウイング・クレストのバトラーが着てるバトラーズ・ウェアは、マリサとヴィオラがアミスター王家の、ユリアはベルンシュタイン伯爵の、ミレイはトラレンシア妖王家の、エオスは自分で仕立てた物になる。

 ミレイはまだウイング・クレストに加入してないけど、彼女の場合はヒルデ様が退位してから加入ということになるから、そうなると妖王家のバトラーズ・ウェアを返却する事になってしまう。

 だからそれまでに用意しておきたい気持ちもあるし、何より私の頭の中に、ちょっとおもしろい感じのバトラーズ・ウェアが思い浮かんでしまったから、出来ればこれを仕立ててみたいのよ。


「私としては、ウイング・クレスト専用のバトラーズ・ウェアを支給していただけるなら、可能ならばお願いしたいです。ユニオンで統一されている事は稀ですから」


 おっと、思ったよりヴィオラが積極的ね。

 あんまり自分の意見を口にする子じゃないから、かなり珍しいわ。


「武器やコートもそうですが、大和様や真子様の世界の物はすごく素敵です。ですからその世界のバトラーズ・ウェアを着用出来るなら、是非お願いしたいんです」


 あー、つまり大和君のせいなのか。

 というか私も、すごく期待させちゃったわ。

 期待に応えられるか、ものすごく不安になってきたわね。


「あんまり期待されても困るわよ?今思いついたバトラーズ・ウェアは、私も細部まで覚えてないんだから」


 一応ホムンクルスと似たような感じで考えてるけど、イークイッピングを使えば一瞬で着替えられるから、思い切って大学とかの卒業式で着るような袴っぽくしても良いかもしれないわね。

 医大は6年制だから私が着るのはまだ先だったんだけど、他の大学に進んだ同級生や先輩達と一緒に選んだ事もあるから、そっちなら私の刻印具にも電子書籍を入れてあるし。

 だけどその前に、みんなの意見も聞かないといけないわね。


「バトラーズ・ウェアはみんなと相談してからになるから、今回はヴィオラには悪いけど、私とアリアちゃんの服を注文するだけになるけどいい?」

「かしこまりました」


 この辺はやっぱりバトラーね。

 出来ればその期待に応えたいところだし、しっかりとみんなを説得しないとね。

 説得する必要ないかもだけど。

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