フィールへの帰還

 トラレンシアでの戦勝祝賀会が終わり、俺達はアミスターに凱旋した。

 そこでも当然のように戦勝祝賀会の準備が進められていて、当たり前のように式典も催された。


 アミスターは援軍だったとはいえ主力を担ったのも間違いないってことも理由だが、アミスターと同等と言われていたソレムネ軍を容易く殲滅したことを、主にレティセンシアに向けて喧伝することも理由らしい。

 同じ理由で、戦争に参加したセイバーやトラレンシア・アライアンスも招待されていて、褒賞も授与されることになっていた。


 セイバーズギルドは新デザインの装備をトラレンシアのクラフターズギルドに依頼することになっていて、アミスターが翡翠色銀ヒスイロカネ青鈍色鉄ニビイロカネも提供するらしい。

 ちなみにその新デザイン、またしても俺の刻印具にあるゲームの装備で、マリーナがマイナーチェンジさせたやつだったりするんだが。

 あとセイバーズギルドを率いていたヴィーゼさんには、王代アイヴァー陛下が打った瑠璃色銀ルリイロカネ製の剣も下賜された。


 トラレンシア・アライアンスへの褒賞は、金銭の他には魔物の素材だった。

 ハイクラスにはPランクやMランクの魔物素材だが、セルティナさんにはゴールド・ドラグーンとディザスト・ドラグーンの素材も下賜されてるから、褒賞としては十分だと思う。

 というかセルティナさんはスリュム・ロード素材も下賜されてるから、とんでもない防具が仕立てられそうで怖い。


 オーダーズギルドはそう遠くないうちに変革が行われる予定だから、ひとまずは金銭が下賜され、地位や名誉に関してはそれに合わせてってことになっている。

 レックスさんはグランド・オーダーズマスターになる事が確定しているが、ミランダさんとデルフィナさんは、アソシエイト・オーダーズマスターかソレムネに派遣されるオーダーの指揮官が内定しているようだ。

 ローズマリーさんとミューズさんはレックスさんの妻でもあるから、2人は新体制が確立してから、功績に見合ったランクに昇格することで功に報いるそうだ。


 そしてアミスター・アライアンスだが、現在使用している多機能獣車が褒賞の一部になっているから、金銭と魔物素材で終わっている。

 エンシェントクラスに進化したサヤさん、アイゼンさん、スレイさん、エルさん、フラウさん、プラムさん、シャザーラさんは騎爵位も賜り、Gランクオーダーとしても登録していたな。

 ライオット・フラッグのリーダー ラークさんも、騎爵位を贈られている。

 既に登録済みのファリスさん、クリフさん、シーザーさんは、Pランクオーダーに昇格することになった。


 その後で祝勝会に突入したんだが、数ヶ月前までは俺とプリム、真子さんの3人だけだったエンシェントクラスが、ソレムネとの戦争が終わって凱旋したら7倍近くも増えるとは誰も思ってなかったようで、参加した貴族達も驚いていたな。

 さすがに無理な勧誘をする貴族はいなかったが。


 その祝勝会では、リベルターのリヒトシュテルン大公家も招待されていたんだが、ラインハルト陛下とラウスの無事の帰還を、大公令嬢のシエル様とセラス様が喜んで、片時も傍を離れようとはしなかったな。

 2人共、ソレムネとの戦争後に答えを出すとか言ってたらしいが、公の場でそんな姿を見せられたら、娶る以外の選択肢はないんじゃなかろうか?


 翌日、セイバーズギルドとトラレンシア・アライアンスはトラレンシアに帰り、アミスター・アライアンスもそれぞれの生活に戻ることになった。

 ほとんどのレイドはフロートを拠点にしているが、トライアル・ハーツだけは再びレティセンシアとの国境の町ポラルに向かうそうだ。

 スリュム・ロードの討伐、そしてソレムネとの戦争の功績が認められたトライアル・ハーツだが、ケジメはケジメだからということで、準備を整えてからバウトさんのトラベリングでさっさとポラルに転移しちまったんだよ。


 ソレムネ進攻部隊に参加したオーダーも、一度解散することになった。

 ハイクラスに進化したオーダーも多いが、オーダーズギルドの新体制はラインハルト陛下の戴冠式と同時にということになってるから、それまでは具体的な昇格手続きが取れないこともあるし、数ヶ月もの間トラレンシアやバシオン、ソレムネに行ってたから、休暇という意味もあるみたいだ。


 俺達も一度、フィールに戻ることになった。

 だから獣車には、レックスさん、ローズマリーさん、ミューズさん、ルーカス、ライラも同乗している。


「フィールに帰るのも久しぶりだなぁ」

「約3ヶ月振りか。長かったような、短かったような」


 しみじみと呟くライラとルーカスだが、確かに長かったような気もするし、短かったような気もする。


「派遣中は、かなり濃い経験をしたからな」

「そうですね。なにせトラレンシアに派遣されてすぐにスリュム・ロード討伐戦が行われましたし、ソレムネ本土に進攻まで行いましたから」

「そのソレムネ本土進攻作戦でも、アントリオン・エンプレスと遭遇してしまったからな。早々どころか二度と経験出来ないだろう」


 ミューズさん、ローズマリーさん、レックスさんの言う通り、派遣中に2度も終焉種と遭遇する羽目になったんだから、濃い経験だってのは間違いない。

 あ、アントリオン・エンプレスの魔石は、先日トラレンシアから譲られたスリュム・ロードの魔石と一緒に、天樹城の宝物庫に安置されてるぞ。

 返礼としてトラレンシアには生息してないオーク・キングとオーク・クイーン、俺達がソルプレッサ迷宮やイスタント迷宮で手に入れたPランク以上の魔物の魔石を譲っているが、ヒルデの顔は盛大に引き攣っていたな。


「確かに驚いたけど、それを倒す奴がいるってのにもっと驚いたけどな」

「だねぇ」


 そう言って俺達の方を見るルーカスとライラ。

 その目が、俺達を人外の者だと言っている。


「否定できないでしょ?この短期間に3種4匹の終焉種を討伐してるのよ?そんなことが出来る人なんて、ヘリオスオーブが誕生してから誰もいなかったんだから、人外って言われても仕方ないでしょうに」


 なんてマナがツッコミを入れるが、そのマナもスリュム・ロード討伐戦でエンシェントエルフに進化したんだから、人の事は言えないよな?

 というより、エンシェントクラスの総数の半分近くがウイング・クレストに所属していて、しかも俺と結婚、婚約してるという事実もあるんだが。


「そういう意味では、エルも大変だろうな。なにせウイング・クレスト以外で唯一、直接終焉種と対峙したハンターなんだから」

「それを言ったらレックスさんとミューズさんだって、2人でアントリオン・クイーンのWランクを倒してるでしょ?」

「まあ、それはねぇ……」


 苦笑するレックスさんだが、クラーゲン平野の会戦においてレックスさんとミューズさんは、アントリオン・クイーンのWランクを2人で討伐している。

 アントリオン・クイーンはP-Cランクモンスターだが、Wランクは既存ランクより1つ上のランクになるため、アントリオン・ウイングクイーンはAランク相当の魔物ではなく、Oランク相当の魔物になる。

 そのOランクモンスター相当のアントリオン・クイーン Wランクを、レックスさんとミューズさんは2人で倒してしまってるんだから、この人達も人外と言われても仕方がない。


「というより、あの戦いに参加したエンシェントクラスは、みんな似たような評価になるだろうな」

「でしょうね。なにせアントリオン・クイーンやアントリオン・プリンセスだって、大した被害を出さずに倒してるんだから」


 俺の考えに反論できないとばかりに、ミューズさんとローズマリーさんが白旗を上げた。

 ローズマリーさんはクラーゲン会戦終盤に進化したが、実際にアントリオン・クイーンやアントリオン・プリンセスを倒してるからな。

 ルーカスとライラも似たようなもんで、ルーカスはレベル58、ライラもレベル56と、サブ・オーダーズマスターのイリスさんどころかグランド・オーダーズマスター、アソシエイト・オーダーズマスターまでも超えてしまっている。


「そういやルーカス、お前は戴冠式後、どうなるんだ?」

「どうもなにも、このままフィール勤務だよ。オーダーズマスターもサブ・オーダーズマスターも、容易に交代出来るもんじゃないからな。オーダーズランクの昇格はあるみたいだが」


 確かにオーダーズマスターもサブ・オーダーズマスターも、ハイクラスに進化してないと就けない立場だし、オーダーズギルドのある街にはどっちもいるから、新しく就任ってわけにはいかないか。

 アミスターに併合したエスタイト王爵領の獣騎士団もオーダーズギルドに組み込まれてはいるが、そっちは獣騎団長がオーダーズマスターに就任してるから、オーダーズマスターになろうと思ったらソレムネぐらいか。


「いや、ソレムネの治安に関してはオーダーズギルドの下部組織を作り、そちらに任せようという案がある。治安の回復は急務だが、オーダーやセイバーだけでは手が回らないし、ソレムネ軍の受け入れ先にもなるからね」

「え?そうなの?」


 そう思ってたら、レックスさんから思わぬ情報が飛び出した。

 マナも驚いてるが、知らなかったのか。


「はい。トラレンシア側と煮詰める必要がありますが、オーダーズギルド、セイバーズギルドの下部組織としてソルジャーズギルドを設立してはどうかという意見が、ラインハルト陛下とサユリ様から出ているのです」


 ソルジャーズギルドってことは、兵士協会か?

 確かにソレムネ軍は兵士だから、騎士でもあるオーダーやセイバーとは毛色が違う。

 だからソレムネ軍を纏めるためにソルジャーズギルドを作り、さらにオーダーズギルドとセイバーズギルドの下部組織にすることで、監視も行おうってことか。


「ソルジャーズギルドか。確かに悪くはないけど新しいギルドになるし、誰を派遣するかも問題になるわね」

「そうね。ソルジャーズマスターはソレムネから動けなくなるだろうし、下手をしたら反乱を誘発しないかしら?」

「そこが難しい所ではありますが、総本部はフロートかベスティアに置くことになるでしょうし、ソルジャーズマスターとしてハイオーダーやハイセイバーを派遣すれば、抑止力にもなるでしょう。さすがに褒賞としては微妙ですが」


 確かにそれが問題か。

 ソレムネにはギルドが無いから、生活の質はアミスターやトラレンシア以下だった。

 貴族や裕福な商人はリベルターやバリエンテから魔道具を輸入してたみたいだが、民間では皆無に近い。

 そんな国に派遣されるなんて不便でしかないし、反乱の危険性も皆無じゃないから、下部組織とはいえギルドマスターへの就任も、褒賞になるとは言い難い。


「ですが現実問題として、旧バシオン領や旧エスタイト領にもオーダーズギルドを新設していますから、人手が足りないのも事実なのです」


 ミューズさんが追加でオーダーズギルドの内情を暴露してきたが、確かに言われてみればその通りだ。

 特に獣騎士団を編入させた旧エスタイト領はともかく、バシオンを守っていたホーリナーズギルドはプリスターズギルドを守る聖騎士団になるから、エスペランサを始めとした旧バシオン領の街には、それなりの数のオーダーを派遣しなきゃならない。


「頭の痛い問題ですね」

「ああ。だからソルジャーズギルドは、トラレンシアの同意が得られれば設立されることになると思う。誰がグランド・ソルジャーズマスターに就任するかは分からないが、抑止力という事を考えればミランダさんかデルフィナさんのどちらかだろう」


 確かにエンシェントクラスなら、反乱に対しての抑止力としては十分だ。

 なにせエンシェントクラスは、1人でも万の軍勢に匹敵する戦力だと言われているし、過去の戦争でもソレムネとの戦争でも、その通りの実力を発揮してたからな。

 しかも以前のエンシェントクラスと違って、武器は翡翠色銀ヒスイロカネ青鈍色鉄ニビイロカネ、防具もPランクやMランクモンスターの素材を使ってるから、魔力による疲労や劣化を気にすることなく使えるため、戦力としては増していると言ってもいい。


「ということは兄さんは、これからもちょくちょくとフロートに行かなければいけないワケですね?」

「そうなる。というより来週の会議には呼ばれてるから、またフロートに行く予定だよ」


 苦笑しながら妹のミーナに答えるレックスさんだが、ジェネラル・オーダーであり次期グランド・オーダーズマスターでもあるんだから、戦後処理に呼ばれるのは当然だし、ソルジャーズギルドの設立にも無関係でいられるわけがない。

 幸いにもレックスさんもトラベリングを習得してるから、フロートだろうとベスティアだろうと、移動は一瞬で済むんだが。


「スカラーズギルドはまだどうなるか分からないけど、一気に2つもギルドが新設されるかもしれないのか」

「ルーカス、志願してみたらどうだ?」

「で、ソレムネに永住しろってか?さすがに勘弁だぞ、それは」

「あたしも、一時的な赴任ならともかく、永住は勘弁願いたいかなぁ」


 まあ、そうだよな。

 クラフターズギルドやトレーダーズギルドが支部を置くようになったらともかく、現状じゃどうなるかは全く不明だから、下手したら左遷だと思われても仕方がない。

 かといってソレムネの治安を放置しておくわけにもいかないから、誰かが貧乏くじを引かなきゃならない状況でもある。

 さすがにラインハルト陛下もヒルデも、オーダーやセイバーをソレムネに永住させようとは思ってないだろうし、ある程度治安が回復したら、後は地元の人達に任せるようになるとは思うが、それでもどうなるかは未知数だ。


「大和さん、フロートの外に出ました。お願いします」

「はいよっと」


 まあどうなるかは、ラインハルト陛下やヒルデに任せるしかないか。

 俺達もヒルデの手伝いで定期的にソレムネに行く予定だが、しばらくはハンターとしての活動を優先したい。

 マイライトやゴルド大氷河も気になるし、底を尽きかけてるドラグーン素材の補充も行きたいからな。

 ソルプレッサ迷宮に行くかどうかは、フィールの現状次第でもあるから、何とも言えないんだが。


 俺は呼びに来たキャロルと一緒に御者席に出てからトラベリングを使い、久しぶりにフィールへと転移した。

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