トラレンシアへの凱旋

Side・真子


 ソレムネを一時ヴィンセント代官に任せた私達は、妖都ベスティアに凱旋した。

 ベスティアの人達がほとんど総出で迎え入れてくれて、連合軍も大体的なパレードをしながら白妖城に入ることになったんだけど、熱気や歓声が凄かったわ。


 白妖城に入るとブリュンヒルド殿下やグランド・セイバーズマスター ブレザーさんが出迎えてくれて、そのまま戦勝式典が行われ、セイバーやハンターが褒賞を受け取っていた。

 セイバーは名誉と金銭、ハンターはアイスクエイク・タイガーやフリーザス・タイガーの素材だったわね。

 量の問題からアイスクエイク・タイガーの素材はレベル55以上のハンター数名だけだったけど、他のハンターもP-Rランクのフリーザス・タイガーの素材を下賜されたわけだから、褒賞としては悪くないと思う。


「ロイヤル・セイバー ヴィーゼ・ネーベルヴァルト、あなたは此度の戦においてセイバーズギルドを率い、ソレムネ打倒に大きな力を示してくれました。その功績に報いるために、あなたには神秘騎士ミスティック・セイバーの称号を授けます」

「身に余る光栄にございます」


 ヴィーゼさんが神秘騎士ミスティック・セイバーの称号を賜ったことで、ブレザーさん、アルベルトさんに次ぐ3人目の神秘騎士ミスティック・セイバーとなった。

 だけどレベルは一番高いから、ブリュンヒルド殿下の即位と同時にグランド・セイバーズマスターに就任することも決まっている。

 ソレムネの内政が安定しないとヒルデガルド陛下は退位できないから、それまではヴィーゼさんもソレムネに出向ということにもなってるわ。

 ちなみにヴィーゼさん、実は67歳で、お子さんどころかお孫さんも成人してるから、グランド・セイバーズマスターへの就任には何の問題もないのよ。


「Aランクハンター セルティナ・セルシュタール。あなたも連合軍に参加したハンターを纏め、勝利に貢献してくださいました。褒賞として、先だって討伐されたスリュム・ロードの革と牙を下賜させていただきます」

「私のような老骨にそのような物を……。感謝致します、陛下」


 エンシェントラミアに進化したセルティナさんには、スリュム・ロードの素材が下賜された。

 アミスター・アライアンスのエンシェントクラスは、私達ウイング・クレストが所有していたMランクモンスターの素材と、それぞれが持っているアイスクエイク・タイガーの素材を使って、大和君の刻印具に入ってるゲームを参考にした防具をそれぞれ仕立てている。

 当然セルティナさんにも譲るつもりだったんだけど、セルティナさん自身に断られちゃってたの。

 自分のような老人より若者を優先してくれってことだったから、娘夫婦のシュランさんとコールさんには譲っているけど、トラレンシア・アライアンスでエンシェントクラスに進化出来たのはセルティナさんだけだった。

 しかも私達の持ってる素材もほとんど無くなっていたから、セルティナさんに譲ることは出来なかったのよ。

 その件でヒルデガルド陛下もかなり悩んでいたんだけど、スリュム・ロードの素材を下賜することに決められたみたいね。


「ジェネラル・オーダー レックス・フォールハイト卿」

「はっ!」


 セイバーズギルドとトラレンシア・アライアンスへの褒賞が終わると、次はアミスター側になる。

 アミスター・アライアンスもオーダーズギルドも、アミスターに戻ったら褒賞を貰えることになってるんだけど、元々はトラレンシアの要請に従って、トラレンシア防衛のために派遣されているし、さらにはほとんどそのままソレムネに攻め込んでいるから、トラレンシアとしても無報酬というワケにはいかない。

 だからといって神秘騎士ミスティック・セイバーの称号をっていうのは論外だから、金銭的なものとか国宝級の何かぐらいしか候補が無かったりするのよね。


「此度の戦、あなた方オーダーズギルド、並びにアミスター・アライアンスのお力添えがなければ、我が国は多大な犠牲を払う事になったでしょう。改めて、心より感謝申し上げます」

「恐れ入ります。ですがトラレンシアは我が国の最友好国であり、良き友人です。友の為に力を貸すことは、至極当然の事かと存じます」

「ありがとうございます。ですがその共に対して、我が国は金銭でしか報いることが出来ず、心苦しく思っております。ですのでこちらを、国元へお納めください」


 そう言ってヒルデガルド陛下が用意したのは、色の濃い白色の魔石だった。

 って、ちょっと待って。

 それってスリュム・ロードの魔石じゃない?


「そ、それはっ!?」

「先日討伐された終焉種、スリュム・ロードの魔石です。スリュム・ロードもソレムネも、アミスターの協力がなければ討ち果たすことは難く、それどころか我が国は滅んでいたかもしれません」


 確かにスリュム・ロードは、M-Iランクのアイスクエイク・タイガーを20匹、A-Cランクのアバランシュ・ハウルを2匹も率いてクラテルに迫ってきてたから、いくらセイバーズギルドの総力を結集したとしても、多分アイスクエイク・タイガー数匹を倒すのが精一杯だったと思う。


「で、ですが、だからと言って……」

「それにスリュム・ロードを討伐したのは大和様とプリム、真子の3名です。3名ともアミスターのハンターなのですから、やはりこの魔石は、アミスターが所有しておくべきだと思うのです」


 スリュム・ロードの素材を自由にさせてもらってるから、せめて魔石ぐらいは、っていうのがヒルデガルド陛下の言い分みたいだわ。

 普通はそんなことしないんだけど、スリュム・ロード討伐戦でもアミスター・アライアンスやオーダーズギルドの活躍は大きかったし、トラレンシアにとってアミスターは宗主国になるから、ソレムネとの戦争も含めて、魔石を差し出すぐらいは当然だって思ってるわけね。


「すまない、式典中だが口を挟ませてくれ」


 さすがにラインハルト陛下も、黙ってられなくなったわね。

 式典中に口を挟むことは、それが王であっても非礼の誹りを免れないんだけど、さすがに今回はそんなこと言ってられないか。


「スリュム・ロードは、長年トラレンシアを悩ませ続けていた魔物だ。倒したのが大和君達とはいえ、ヒルデガルド女王も討伐戦には参加していたのだから、魔石の所有権はトラレンシアにある。その魔石を、アミスターにというのか?」

「はい。スリュム・ロードにソレムネ、どちらも我が国にとっては亡国の脅威でした。その脅威に同時に襲い掛かられた我が国を救って下さったのは、アミスターから派遣されたハンター、そしてオーダーです。その大功に報いるには、終焉種の魔石を出さなければ我が国の面子に関わります」


 なんて言うヒルデガルド陛下だけど、後で聞いたらスリュム・ロードの魔石をアミスターに譲る良い機会なんですって。

 トラレンシアはアミスターを主家として敬っているから、終焉種の魔石や迷宮核ダンジョンコアすらアミスターが所持するのが当然だと考えていて、出来ることならソレムネの統治もアミスター単独で行ってほしいとも考えている。

 トラレンシア国内の復興を最優先したいっていう事情もあるわね。


 だけどアミスターとしても、復領したバシオンに併合したエスタイト王爵領への支援、レティセンシアとの戦争準備にアバリシアへの警戒と、やるべきことは多い。

 中でも一番厄介なのは、バリエンテ獣王からの書状でしょうね。

 何が書かれているのかは分からないけど、ラインハルト陛下はかなり面倒くさそうな顔してたから、アミスターに戻ってからも厄介事に巻き込まれそうで怖いわ。


「分かった。だがこちらが一方的に頂くのも問題だから、相応の品を返礼とさせて頂こう」


 そんなトラレンシア側の事情もあって、結局スリュム・ロードの魔石はアミスターが受け取ることになった。

 参加したオーダーへの褒賞は金銭だったけど、ハンターは多機能獣車に備え付ける調度品なんかも追加されたわ。

 ベッドは、私達はグラン・デスワーム、アライアンスもグランド・ワームを使ってるから無かったし、私室は自分の好みでコーディネートするだろうから、リビングや厩舎用の品が多かったわね。

 完成を急いでたってこともあって、調度品は最低限の物しか備え付けてなかったから、これはこれでありがたいわ。

 ソファやベッドは既に使ってる物の方が高級品っていうこともあって無かったけど、高価そうなダイニングテーブルに豪華なシャンデリア、大容量の食器棚や遊具用テーブルに高級絨毯もあったわね。

 中庭用にもベンチやテーブルが増えたから、ガーデンパーティーもどきも出来るようになった感じかしら。


 今回はトラレンシアへの凱旋式典でもあるから、アミスターからの褒賞は出ていない。

 そっちはアミスターに転移後、天樹城でも催される凱旋式典で下賜されることになっている。

 ソレムネとの戦争は、アミスターは援軍として参加してるんだけど、放置してたらアミスターも被害を被った可能性は高い。

 だからセイバーズギルドやトラレンシア・アライアンスも、天樹城に招かれて褒賞を下賜されることになっている。

 フロートには明日の夕方転移して、式典は明後日の予定だから、ちょっと慌ただしいんだけどね。


 その後は謁見の間で、戦勝祝賀会が催された。

 料理はもちろん、お酒も凄い量が提供されたわ。

 同時に参加した貴族も多くて、スカウトなんかも多かったけどね。

 まあそれは予想出来てたから、マナ様やプリムに相談して、私とアリアちゃんも大和君の婚約者という立場を偽装したんだけど。

 他のレイドのエンシェントクラスは結婚してたり、実は高齢だったりするから、その手の話も回避しやすいのよ。


「私も真子みたいに、大和君の婚約者って扱いにしてもらうべきだったわ……」

「いや、アイゼンさんとかヴォルフさんで十分でしょ!?」


 一番大変だったのは、リリー・ウィッシュのサヤ、23歳独身。

 リリー・ウィッシュにはエンシェントドワーフのアイゼンもいるけど、実はアイゼンはアミスターに婚約者がいるし、他の人達も似たようなもの。

 だけどサヤだけは、婚約者どころか男の影すらない。

 それでもサヤはリリー・ウィッシュのリーダーだから、まだ断りやすかったとは思うけど。


 というか大和君の言うように、リリー・ウィッシュの誰かの婚約者っていう立場を偽装すれば手っ取り早かったはずだけど、そうしなかったの?

 おかげで私は、祝勝会を楽しませてもらってるわよ?


「リリー・ウィッシュは同じ孤児院出身ってこともあって、兄弟姉妹みたいなものだからな。だから孤児同士で結婚ってのは、滅多にない話だ」


 ハイウルフィーのヴォルフの説明を聞いて、一応の納得は出来た。

 だけど何で、偽装婚約の相手が大和君になるワケ?


「そりゃそうした方が話が早いからだよ。エンシェントクラスは20人以上いるけど、適齢期の男っていったら2,3人ぐらいでしょ?」


 あ~、そういえばそうだったわね。

 エンシェントクラスの男性は大和君、アイゼン、ホーリー・グレイブのクリフさん、ブラック・アーミーのシーザーさん、そしてオーダーズギルドのレックスさんの5人になるんだけど、シーザーさんは60歳近いお歳だから、結婚相手としては除外されてしまう。

 クリフさんも30代半ば、アイゼンさんは兄弟みたいなものだから、結婚相手としては微妙と言わざるを得ない。

 残るはエンシェントヒューマンの2人だけど、レックスさんはオーダーで、しかも次期グランド・オーダーズマスターが内定してるから、結婚とか婚約とかって話になると、アミスターだって無関係じゃいられない。

 つまり立場を偽装するとしたら、大和君が最適ってことか。

そんなことを言うサヤだけど、視線の先にいるのはレックスさんだったりするんだけどさ。


「それはね。というかサヤ、あなたもいい歳なんだから、この機会に誰か探してもいいんじゃない?」

「そうは仰いますけど……」

「まあ、エンシェントラビトリーに進化したあなたをライが手放すはずもないし、そもそもあなたはリリー・ウィッシュのリーダーなんだから、下手をしたらアミスターを敵に回すわよ」


 うんざりした表情のサヤにサユリ様が声を掛けるけど、言われてみたら確かにそうだわ。

 エンシェントラビトリーのサヤは、アミスター1と呼ばれているリリー・ウィッシュのリーダーだし、リリー・ウィッシュは元王妃のサユリ様と縁が深い。

 そのリリー・ウィッシュが、他国に行く事は考え難いわね。

 アミスターだって黙ってないから、確かに下手をしたらアミスターとトラレンシアの関係にヒビが入りかねないわ。


「そんなことは貴族も分かってるから、あわよくばっていう考えだろうけどね。お互いが気に入れば、国としても関与出来ないんだから」

「ああ、なるほど」


 ヘリオスオーブは出生率が高くなく、その中でも男児の出生率はさらに低い。

 10人子供が生まれたら、9人以上が女児だったなんて話もあるぐらいよ。

 バレンティアの竜王家みたいに男児が生まれやすい家系もないわけじゃないけど、そんな家系は珍しいみたいね。

 だからヘリオスオーブでは一夫多妻が民間でも常識になっていて、1人しか奥さんを娶らない男性は甲斐性無し、2人目以降の奥さんを認めない女性は独占欲の塊ってことで、忌避に近い感情を向けられるそうよ。

 日本で生まれ育った私からしたら、違和感が半端ないわ。


 だけどヘリオスオーブの人達からしたら、種の存亡に関わる大問題。

 だから私も、そこは理解しているつもりよ。

 そうじゃなかったら、偽装とはいえ大和君の婚約者になんてならないしね。


 ただ問題は、ヘリオスオーブの成人年齢が17歳だということ。

 つまり私より3つも年下の大和君も成人していて、結婚も出来てしまう。

 というか、既に奥さんが5人もいるから、私もいつでも結婚出来るということになってしまうのよね。

 むしろ結婚しないと互いの関係を疑われてしまうから、逆に問題になるわ。

 私は客人まれびとで、ヘリオスオーブ来てから3ヶ月ぐらいしか経ってないから、しばらくはそれを理由に逃げられるとは思うけど。

 いえ、大和君は転移してから10日ぐらいで結婚してるから、微妙かもしれないわね。


 だけど私の一生に関わる大問題だから、偽装とはいえ、しばらくは婚約者ってことで押し通すしかないわ。

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