孤独な狩人

Side・マリーナ


 なんかラウスが疲れた顔してるけど、大丈夫かな?

 まあ理由は分かってるし、頑張れとしか言えないけどさ。


「そういえば大和さん。レイン王爵って、どうなったんですか?」


 フィーナが大和に、反獣王組織とともにエスペランサに攻め入って、教皇猊下を拉致しようと考えていたレイン王爵の顛末を聞いている。


「さあ?エスペランサからフロートに身柄を移されたとは聞いてるけど、どうなったかまでは知らないな」


 そこは聞いておこうよ。

 いや、ソレムネに与してたんだから、結末がどうなるかなんて、聞かなくても大体は分かるけどさ。


 レイン王爵はエスタイトを中心としたエスタイト王爵領の当主だけど、そのエスタイト王爵領はアミスターに併合されている。

 レイン王爵の親族が跡を継ごうとフロートまで直訴に来たって話は聞いてるけど、そんなことをラインハルト陛下が認めるはずもない。

 だけどそれ以外は、元エスタイト王爵家がどうなったのかとか、当のレイン元王爵がどうなるのかとか、まったく分からないんだ。

 いや、ラインハルト陛下に聞けば、教えてくれるとは思うけどね。


「それはそうとラウス、セラス様の事はどうするんだ?」

「問題を先送りにしたばっかりなんだから、蒸し返さないでくださいよ」

「いや、そういう訳にもいかねえだろ。セラス様がラウスと婚約するとなると、ユニオンにも加入って事になるんだからな」

「それはそうですけど、良いんですか?」

「良いも悪いも、俺だってそうなんだからな。なあ、エド?」

「俺に振るな」


 まあ確かにね。

 フィーナの妹のフィアナとレイナは、大和の思い付きで加入したようなもんだけど、結局フィアナはエドと、レイナはラウスと婚約しちゃったから、セラス様だって加入する事になると思う。

 今の所フリーなのは真子とアリアだけど、真子は大和と同じ客人まれびと、アリアは大和に神託を伝えるための巫女さんだから、大和とくっつくんじゃないかって思ってる。


 でもエドだってあと2人、ラウスは2,3人お嫁さんが増えるんだから、セラス様とレベッカ達の相性が良いなら、後はラウスが頑張ればいいだけだとも思うよ。


「とりあえず、双剣は描き出しとくよ。武器のデザインぐらい、世間話のついでに聞いてもいいだろう」

「どんな世間話ですか」

「オーダーと双剣士なんだから、そこはどうとでもなるだろ。ああ、決まったら教えろよ?進行の合間に作るから」


 大和とエドが外堀を埋めていくけど、容赦ないね。

 まあ2人にとって、ラウスは弟みたいなもんだから、可愛がってるって事になるのかな。


「あなた達も酷いわね。まあリベルターのお姫様がラウス君にっていうのは、私としても納得がいくけど」

「でしょ?」


 呆れた顔をしてるのは、リリー・ウィッシュのリーダー サヤさん。

 リベルターから救出した子供達は、リリー・ウィッシュがお世話になった孤児院に預けられていて、そこには子供達を護衛していたカメリアっていうBランクハンターも身を寄せてるそうだから、事情を話してリリー・ウィッシュにも来てもらったんだ。


「まさかアルカから、サユリ様のお屋敷に出られるとは思わなかったわよ」

「早くていいでしょ。さすがに普段は無理ですけど」

「当たり前でしょ。部外者が簡単に王連街に出入りなんかしたら、天樹城の警備もあったもんじゃないわ」


 サヤさん達も、何度か王連街に招待してもらった事があるみたいだよ。


 リリー・ウィッシュの出身孤児院は、サユリ様が建物から用意して、人も集めたって聞いてる。

 サユリ様ご自身もよく足を運んでいたそうだから、リリー・ウィッシュにとっては母親で友人で恩人なんだって。

 そのサユリ様に子供の頃から面倒を見てもらってたせいか、レベルが上がるのも早くて、気が付いたらアミスター1のユニオンって呼ばれるようになってたそうだけど、サヤさん達はその呼ばれ方が好きじゃないみたいだよ。


「それで、そのハンターはどうしてるの?」

「デセオ攻略戦に参加したいから、ハンターズギルドに直訴してるって聞いてます」

「ヘッド・ハンターズマスターも困るでしょうに」


 そもそもデセオ攻略戦に参加するアミスターのハンターは、全員がトラレンシアのリオに移動してるもんね。


 ホーリー・グレイブ12名(7名)(1名)

 グレイシャス・リンクス16名(5名)

 ファルコンズ・ビーク10名(4名)

 ブラック・アーミー13名(5名)

 ワイズ・レインボー14名(5名)

 スノー・ブロッサム10名(5名)

 セイクリッド・バード19名(4名)

 ライオット・フラッグ14名(4名)

 リリー・ウィッシュ16名(9名)

 トライアル・ハーツ13名(5名)

 ウイング・クレスト24名(12名)(4名)


 以上の11ユニオン156人 内ハイクラス65人 エンシェントクラス5人がアミスターのハンターとしてデセオ攻略戦に参加するんだけど、Bランクハンターは30人ちょっとしかいないんだ。

 Bランクハンターは中堅どころとして、一番人数が多いって言われてるランクなんだけど、今回のアライアンスは大和やプリム、真子が戦闘訓練を行った事もあって一番多いのがSランクハンターになってて、そのSランクハンターでさえ主力にはなり得ないっていう意味不明な事態を引き起こしている。


 トラレンシアのハンターも加わる事になってるから、最終的にはBランクだけじゃなくCランクハンターも増えると思うけど、やろうと思えばこのアライアンスだけでデセオは落とせると思う。

 さすがにそれじゃ問題しか起こらないから、やらないんだけどさ。


「気持ちは分かるけどね。でもだからこそ、リリー・ウィッシュに加入させる事は出来ないわよ?」


 リリー・ウィッシュは全員が同じ孤児院出身だから、結束力は強い。

 カメリアも孤児出身だし、気持ちはよく分かるみたいだけど、だからこそカメリアが暴走しても抑止力を欠く事になるから、サヤさん達はカメリアをリリー・ウィッシュに加入させるつもりはない。

 カメリアだけ違う孤児院出身だし、邪推しようと思えばいくらでも出来るんだから、これは当然だね。


「それは分かってますよ。いざとなったら、俺達が面倒見ます。まあ、帝王を討って終わりって言われたら、諦めてもらいますが」

「それはね」


 大和の言う通り、返答次第だけど、カメリアはウイング・クレストに加入させるつもりでいる。

 大和がっていうよりプリムやフィーナ、フィアナの意見を受け入れた形になるけど、無条件で加入させる訳にはいかないから、そこはしっかりとカメリアから返事を聞かないといけない。


「ここよ。って、なんか賑やかね」

「エストレラから連れてきた子供達と仲良くなった、ってとこじゃないですか?」

「ああ、それはあり得るわね」


 そう言ってサヤさんは、孤児院の扉を開けた。


「あら、お帰り」

「サ、サユリ様!?」


 そこにいたのは元王妃殿下にして、大和や真子と同じ客人まれびとのサユリ様。

 何人かの孤児達がまとわりついてるから、サユリ様が遊んであげてたって事なんだろうけど、まさかサユリ様がここにいるとは思わなかった。


「フィールにいたんじゃないでしたっけ?」

「そっちはひと段落したし、私も子供達の様子が気になったからね。というかサヤ、あなた達、トラレンシアに派遣されてるはずでしょう?なんでこんな所にいるの?」

「それはこっちのセリフですが……まあ、私達がここにいるよりは自然ですか」


 そういって事情を説明するサヤさん。


「そういう事ね。そのカメリアっていう子は、ハンターズギルドに行ってるそうよ。私が来る前に出たみたいだから、そろそろ帰ってくると思うけど」


 またハンターズギルドに行ってるのか。


 エストレラがソレムネの蒸気戦列艦に襲われた際、カメリアが育った孤児院にも砲弾が何発も直撃して、孤児院は崩壊してしまった。

 カメリアや近くにいたレッド・ブレスレットが子供達を守るために奮戦してはいたんだけど、助け出せた子供達は7人だけで、他の子達はダメだったらしい。

 カメリアの目の前で砲弾に吹き飛ばされた子もいたそうだから、カメリアがデセオ攻略戦に参加したいっていう気持ちは、あたしにもよく分かる。


「それじゃあ少し待たせてもらいます。私達も、子供達の様子は気になってましたから」

「そうしてあげて。みんな、サヤお姉ちゃん達が帰ってきたわよ!」

「え?サヤおねーちゃ?」

「おねーちゃん!」


 サユリ様が声を上げると、一斉に子供達が出てきた。

 リリー・ウィッシュは子供達を抱き上げたり、屈んで目線を合わせたりして迎えてるけど、さすがに手慣れてるなぁ。


「サヤおねーちゃん、このおにーちゃんたちだれ?」

「お姉ちゃん達のお友達よ。ほら、あの子達を連れて来てくれた」

「あ、そうなんだ!」


 幸いな事に、エストレラの子供達とは仲良くなってるみたいだ。

 エストレラの子供達が心に傷を負ってないかが心配だったけど、こればっかりは経過を見てみないと何とも言えない。

 でも助けられた後は、レッド・ブレスレットが孤児院から離してたって話だし、他の子供が犠牲になった姿を見た子はいないのは救いかもしれない。


「戻りました……」


 子供達と遊んでいると、カメリアが帰ってきた。

 すごく気落ちしてるけど、今日もハンターズギルドに断られたんだろうね。


「お帰り。お邪魔してるよ」

「え?大和さん?どうして孤児院に?」

「ちょっと用があってな。ハンターズギルドに行ってたんだって?」

「はい。ですがデセオ進攻アライアンスは既にメンバーも決まっていて、フロートを発っていると言われてしまい……」


 後から追いかける形でもいいからってヘッド・ハンターズマスターに直訴したそうだけど、まあ受け入れられる訳がないよね。

 そもそもアライアンスはトラレンシアに集まってるんだから、追いかけるとかいう以前の問題だよ。


「そりゃそうよ。元々はトラレンシアの援軍として派遣されたアライアンスが、そのままデセオ攻略戦に参加って事になったんだから」

「そ、そうなんですか?って、あなたは?」

「初めましてね。私はリリー・ウィッシュのリーダーをやっているサヤよ」

「えっ!?」


 この孤児院はリリー・ウィッシュが育った所だって話はカメリアも聞いてるはずだけど、このタイミングでリリー・ウィッシュが戻ってくるとは思ってなかったって顔だね。


「無理を承知で、俺達が呼んだんだ。リリー・ウィッシュもデセオ攻略戦に参加するから、あまり時間は取れないが」

「そ、それじゃあ!」


 希望が見えたのか、カメリアの顔が明るくなる。


「勘違いしないで欲しいんだけど、あなたをリリー・ウィッシュに加入させるつもりはないわ。むしろ私達は、あなたがデセオを落とした後でどうするのか、それを確認するために来たのよ」

「え……?」

「リリー・ウィッシュは、全員がこの孤児院出身よ。あなたも孤児だったとは聞いてるけど、だからこそ加入させられないの。理由は分かるでしょう?」

「……はい」


 カメリアも、サヤさんの言いたい事は分かってるか。

 リリー・ウィッシュに加入させたとしても、カメリアだけが別の孤児院出身になっちゃうから、孤独感からは逃げられないし、自分の意見が通らないとか、そんな邪推だってするようになるかもしれない。

 それはリリー・ウィッシュにとっても害にしかならないから、あたし達も最初からリリー・ウィッシュに加入させようとは思ってなかったよ。


「話を続けるけどカメリア、デセオ攻略戦に参加したと仮定して、デセオを落とした後、お前はどうする?」

「どこかのレイドに加入するにしても、全てが終わったらさようならっていう訳にはいかない。それは分かってるわよね?」

「もちろんです。ですから私は、許されるならレイドに残り、ハンターを続けたいと思ってました。……思ってるだけかもしれませんけど」


 そりゃ心の整理だってついてないだろうから、簡単に答えが出るなんて思ってないよ。


「意地悪な質問をするけど、その答えはデセオ攻略戦に参加するための方便、なんて事は無いわよね?」


 本当に意地の悪い質問をするサヤさんだけど、これだけは絶対に確認しておかなきゃいけない。

 その答えによっては、カメリアはデセオ攻略戦には連れて行けないからね。


「……分かりません。でも子供達の仇を討つためにも、デセオには行きたい。命に代えても一矢報いたい。その後でどうなろうと……」


 重いけど、予想通りだったか。

 ソレムネに一矢報いることが出来れば、カメリアは自分の命がどうなっても構わないって思っている。

 というより、命を捨てるつもりでデセオ攻略戦に参加するつもりでいるから、戦後の事なんて考えてなかったんだ。

 カメリアにとっては弟や妹って言える子達なんだから分からなくもないけど、ソレムネなんかの為に命を無駄にする必要はないよ。


「大和、良いよな?」

「ああ」


 大和に確認を取ったエドは、フィーナのストレージから翡翠色銀ヒスイロカネで打たれた剣を受け取り、それをカメリアに差し出した。


「え?この剣は?」

「証だ」

「証、ですか?」


 よく分からないって顔をしているカメリアに、大和が言葉を続けた。


「カメリア、命令には絶対服従、それでも良いなら、俺達が連れて行く」

「ほ、本当ですか!?」

「但しだ、命令違反をするようなら、すぐにフロートに戻すし、場合によっては斬り捨てる。それでも良ければ、だな」

「構いません。お願いします!」


 大和に向かって、深く頭を下げるカメリア。


「丸く収まって良かったわ」

「すいません、サヤさん。ありがとうございます」

「私達も気持ちは分かるからね。もしここが襲われたりなんかしたら、私達は総出で打って出るだろうし」


 サヤさんのセリフに、リリー・ウィッシュ全員が頷く。

 いや、リリー・ウィッシュがこの孤児院出身で、今も子供達の面倒を見てるって話は有名だから、そんな馬鹿はいないと思いますよ?

 アミスター1って言われてるリリー・ウィッシュを敵に回すなんて、自殺行為と同じだからね?


「それよりカメリア、デセオに向かって出発するのは数日後になるけど、それまでは大変よ?なにせウイング・クレストに加入するんだから」

「え?」


 エドから剣を受け取ったカメリアは、キョトンとしている。

 リベルターにも噂は届いてるはずだけど、カメリアがハンター登録をしたのは1ヶ月前らしいから、そこまで詳しくないって事なのか。


 サヤさんから話を聞いたカメリアの顔は、どんどん青くなっていった。

 カメリアはレベル32のBランクハンターで、一般的に見れば平均的なレベルなんだけど、アライアンスに参加するハンターから見れば、残念ながら下から数えた方が早い。

 というよりカメリアよりレベルが低いのは、レイナしかいないんだ。

 トラレンシアのハンターが加われば話は別だけど、登録して1ヶ月なんだから、経験の面じゃ敵わない。

 だから明日は、調査も兼ねてセリャド火山に連れて行くつもりだよ。

 あたしやエドはもちろん、ユーリ様にヴィオラ、ユリアも、出来ればハイクラスに進化したいって思ってるから、カメリアには結構ハードな事になると思う。

 さすがにフィアナとレイナ、アリアは、無理させるつもりはないけど。

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