アライアンス結成に向けて
運良く真子さんは、フィールの牧場で波長の合うバトル・ホースと召喚契約を結ぶ事が出来た。
名前は楓と、日本人らしい名前を付けていたな。
そして真子さんがウイング・クレストに加入して5日、
派遣されるオーダーはこれからになるが、
同じ
オーダーの参加者は希望を募っているため、各支部の戦力バランスを崩さないよう慎重に編成を行っている最中だ。
フィールで俺達と仲の良いルーカスとライラも、参加を希望していたな。
同時にハンターも派遣する予定となっているが、こちらは俺達ウイング・クレストに一任されている。
既にホーリー・グレイブ、イスタント迷宮の深層探索アライアンスを組んでいたグレイシャス・リンクス、ファルコンズ・ビーク、ブラック・アーミーは申し出を快諾し、現在はフィールに滞在している。
同じくアライアンスに参加していたワイズ・レインボーとスノー・ブロッサム、同じくイスタント迷宮で出会ったセイクリッド・バードにも声を掛けたんだが、あまりトラレンシアに戦力を割くわけにもいかないってことでワイズ・レインボーとセイクリッド・バードはフロートに、スノー・ブロッサムはフィールに行ってくれることになった。
そのフロートでは、サユリ様が育てたリリー・ウィッシュというユニオンにも声を掛けてある。
サユリ様の護衛もあることを伝えると苦笑しながら引き受けてくれたんだが、どうやらリリー・ウィッシュにとってサユリ様は母親であり教師であり友人でもあったようで、初めて会った俺にも好意的な姿を見せてくれた。
そして俺は今、ジェイドに乗ってベルンシュタイン伯爵領にあるレティセンシアとの国境の町ポラルに来ている。
戦場になってるってこともあって、Sランクヒーラーに昇格している真子さんも同行を申し出てくれたから、俺の後ろに乗っているぞ。
ポラルは数キロ先にレティセンシアとの国境があり、何度かレティセンシアの元ハンター達が襲い掛かってきたことがあるそうだが、警戒態勢を布いていたオーダーズギルドやハンター達によって撃退されている。
俺はそのハンターズレイドの中心的な立場になっているトライアル・ハーツに声を掛けるために、わざわざポラルまでやって来たという訳だ。
本当はライオット・フラッグにも声を掛けたかったんだが、ノーマルクラスの何人かが怪我を負ったらしいから、今回は見送ることにしている。
「ちっ!今回の魔族はハイクラスかよ!」
「面倒な!ソウル!」
「分かってるよ!」
だけど到着したら、トライアル・ハーツは魔族との戦闘の真っ最中だった。
「あれが魔族なのね」
「ええ。元々は普通の人間なんですけど、魔化結晶ってのを取り込むと、種族が変化するんです」
ここで魔族に出くわすとは思わなかったが、真子さんに魔族がどんなものか見てもらえた訳だから、結果オーライってことにしよう。
「とりあえず、いるのはあいつだけっぽいんで、とっとと倒しますよ」
俺はそう宣言すると、即座にアイスエッジ・ジャベリンを魔族に向かって放った。
上空からのアイスエッジ・ジャベリンということもあり、魔族はロクに回避も出来ず、腕や足を切断され、その場に倒れていく。
ミスト・ソリューションを発動させていることもあって、血も流れ続けている。
「これで楽にしてやるよ!」
痛めつける趣味もないから、もう一度アイスエッジ・ジャベリンを、今度は心臓に向かって放つ。
既に動けなくなっている魔族は成す術もなく直撃を受け、そのまま息絶えた。
「大和!?」
「お久しぶりです、バウトさん」
「ああ。なるほど、誰かと思ってたがお前だったのか。ん?そっちの女は?」
「話すと長くなるんですけど、俺達が来た理由もあるんで、後で纏めて説明します」
真子さんが
「分かった」
「それより怪我人はいますか?」
「ああ。もしかしてお前、ヒーラーか?」
「はい。さすがに常駐はできませんが、少しでも助けになればと思って、大和君にお願いして同行させてもらったんです」
「助かる。ポラルのヒーラーも連日治療を続けてくれてるが、魔族が出てくるようになってからは全然追い付いてねえんだ。既にヒーラーズギルドは満杯で、貴族の屋敷や宿屋もベッドを提供して、それでもどうかっていう事態になっちまってる」
魔族が出てきてるのかよ。
どうやらノーマルクラスから変化した魔族も何度か出てきた事があるらしいんだが、トライアル・ハーツやライオット・フラッグ、ハイオーダーが前線に立ち、倒していたらしい。
だけど前回は魔族が10人程やってきたらしく、その戦闘でライオット・フラッグの数人が大怪我を負い、1人は右腕切断の重体になってしまった。
幸いポラルのヒーラーズマスターのおかげで腕はくっついているが、数日おきに襲撃があったためにヒーラーズギルドも魔力不足に陥ってしまい、怪我の治癒が間に合わなくなっているそうだ。
オーダーズギルドやヒーラーズギルドの総本部に増員の要請はしているそうだが、連絡したのが数日前ってこともあって、まだ人員の手配が済んでないらしい。
「では案内してもらってもいいですか?」
「わかった。ヒーラーってことなら、代官も歓迎してくれるだろう」
ポラルの町は小さいが、レティセンシアとの国境があるため、アクエリオ男爵家が代官を務めているそうだ。
アクエリオ男爵家の現当主は女性でヒーラーだが、その当主も日夜治療に勤しんでいるため、代官としての仕事も滞っているんだとか。
本当ならそのアクエリオ男爵に挨拶に行くべきなんだが、今はそんな余裕もないらしいから、俺と真子さんはバウトさんに案内されて、ヒーラーズギルドに足を運んだ。
そこはバウトさんが言うように野戦病院の様相を呈していたが、ヒーラーも魔力切れの人が多いらしく、ほとんど治療がされていない。
「これはヒドいわね。すぐに治療を始めるわ」
「お願いします。俺はハンターズギルドで、バウトさん達に説明をしてますから」
「了解よ」
真子さんだけに任せるのは心苦しいが、俺がヒーラーズギルドにいても出来ることは無い。
そんな俺の事は放置して、真子さんは次々と
本当はエリア・ヒーリングが使えればいいんだが、真子さんはまだSランクヒーラーだから使えない。
それでも次々とハイ・ヒーリングやブラッド・ヒーリング、時にはノーブル・ヒーリングを使い分けて治療を行っている。
処置も的確だし、さすが医大生だな。
「それじゃバウトさん、俺達はハンターズギルドに行きましょう。バウトさん?」
「あ、ああ、すまん。驚いてた」
「何でですか?」
「何人かはハイクラスもいるってのに、全然魔力切れを起こす気配が見えねえからな。さすがに完治はさせてねえが、ハイクラスの自己治癒力なら1日休めば全開するだろう。あの姉ちゃん、マジで何者だ?」
そういうことね。
真子さんが治療を施してる人数は、既に20人近い。
その中にはハイクラスも6人程いたんだが、真子さんは全く魔力切れを起こす気配を見せていない。
しかもノーマルクラスは完治させ、ハイクラスは1日あれば自己治癒できるだろう程度までしか回復させてないから、マジで凄いと思う。
更にエンシェントヒーラーだから、早々に魔力が尽きるようなことはないだろう。
「ハンターズギルドで説明しますよ」
「それはいいんだが、1人だけ残しておいても大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ。そんじょそこらの奴に遅れを取るような人じゃないんで」
エンシェントヒューマンをどうこう出来る奴が、この辺りにいるとは思えないしな。
さすがに魔力が尽きたらヤバいが、真子さんはその辺の自己管理がしっかりしてるから、尽きそうになったら治療を終えるだろう。
俺はバウトさんに案内されながら、ハンターズギルドに向かうことにした。
ハンターズギルドは閑散としていたが、ポラルから逃げ出したハンターはいないらしい。
Bランク以下のレイドは撤退させているが、それ以外のハンターは全員がレティセンシアに対して警戒を続けていたと聞いた時は、少し恥ずかしくなったぞ。
「で、なんでお前がポラルに来たんだ?」
「ちょっと長くなるんですが、王家からの指名依頼を持ってきました」
「王家から?いや、ちょっと待て。俺達はハンターズギルドからの罰則で、指名依頼を受けられないんだぞ?」
「だからヘッド・ハンターズマスターの許可も貰ってきてますよ。ちょっとヤバめの案件ですが、緊急性も高いんで」
そうして俺は、トラレンシアで起こった事を、真子さんの事も含めて説明した。
「お前と同じ
「そりゃ魔力が尽きるはずねえわ。しかもヘリオスオーブに来て、まだ1週間も経ってないだと?マジでとんでもねえな、お前の世界は」
呆れるソウルさんだが、そんな人間は俺の世界でも少数ですよ?
確かに俺の周りには少なくなかったけど、育った家庭環境のせいなんだから、こればっかりはどうしようもないんですよ。
「ソレムネの開発した、蒸気戦列艦っていう鉄の船か。ものすごく面倒ね」
「しかもバリエンテ、いや、反獣王組織の関与まで判明したとなれば、確かに緊急案件になるのも頷ける」
ミラさんとレアルさんは、ソレムネとレオナスの関係性に眉を顰めている。
蒸気戦列艦には火が必要だから、レオナスから木材を手に入れ、それを木炭に加工することで動かしていたみたいだが、もしバリエンテがソレムネの手に落ちれば、木材は自前で手に入れられるようになる。
なにせバリエンテは森の国と呼ばれていて、国土の3分の1がハウラ大森林に覆われているから、木材なんて簡単に手に入れられるからな。
「それで私達をトラレンシアに、ということね?」
「はい。既にいくつかのレイドには快諾してもらってます。アライアンスという形になりますね」
確認するように、それでいて確信をもって訪ねてくるユングさんに、俺は参加を承諾してくれたレイド名を告げる。
「そりゃまた、有名どころばかりだな」
「だな。だがこれ以上は難しいのも事実だ」
「本当はライオット・フラッグにも声を掛けるつもりだったんですが、話を聞く限りじゃ先日の魔族に大怪我を負わされたそうですから、今回は止めておくつもりです」
「その方がいいわね。真子さんが治療してくれてると思うけど、それでも無理をさせるのはどうかと思うし」
ミラさんの言うように、真子さんなら魔力さえ問題なければ、確実に治療してくれる。
だけどヒーラーズギルドにライオット・フラッグはいなかったから、絶対とは言えない。
こんなことならユーリやキャロルも連れてくるべきだったな。
「話は分かった。俺達としては参加することは吝かじゃないんだが、他の連中が俺達の参加を拒むようなら、悪いがこの話は無かったことにしてくれ」
バウトさんが気になるのは、やっぱりそこか。
トライアル・ハーツのメンバー ルクスは、レイドばかりかアミスターまで裏切り、レティセンシアから入手した魔化結晶を使い、ラインハルト陛下に剣まで向けた。
ルクスは俺が処断したが、その首はハンターズギルドの前で、トライアル・ハーツの一員として最近まで晒されていたから、トライアル・ハーツの名誉は地に落ちている。
さらに高額の罰金まで納めているし、このポラルの町で、レティセンシアからの侵攻を最前線で食い止め続けてもいるが、これも全て連帯責任ってことで、アミスターやハンターズギルドから科された罰則だ。
本来なら軽すぎる処遇ではあるが、それでもトライアル・ハーツは文句の1つも言わず、ポラルのハンターから白い目で見られながらも戦い続け、今では町の人からの信頼も勝ち得ているそうだ。
「そこは安心してください。参加するレイドは、あの件にトライアル・ハーツの責任があるとは思っていません。全くって訳じゃないけど、ルクスの件は、あいつならいつかやりかねないって感じで納得してたぐらいです」
特にフロートで直接会う機会も多かったホーリー・グレイブやリリー・ウィッシュは、バウトさん達に同情してたからな。
「そうか。分かった。なら俺達は、喜んで参加させてもらう。いいな?」
バウトさんの決定に、トライアル・ハーツは躊躇なく頷いた。
ただバウトさんは、すぐにフィールに移動することは断ってきた。
これは自惚れでも何でもなく、トライアル・ハーツはポラルの中核戦力だ。
もしトライアル・ハーツがいなくなれば、魔族によってポラルが蹂躙されてしまう可能性もある。
だから雪が降り積もるまでは、ポラルに留まりたいと申し出てきた。
それは確かにその通りだし、トライアル・ハーツならそう言うだろうと思ってたから、俺はその申し出を快諾し、歩けない程の積雪が確認されてから、トライアル・ハーツは合流することになった。
あと1,2週間もすれば雪が降り始め、早ければ来月の頭には雪が積もるそうだから、それが1つの目安になるだろう。
ホーリー・グレイブ12名(7名)
グレイシャス・リンクス18名(5名)
ファルコンズ・ビーク10名(4名)
ブラック・アーミー20名(5名)
リリー・ウィッシュ16名(6名)
トライアル・ハーツ16名(5名)
ウイング・クレスト13名(10名)(3名)
以上がアライアンスに参加するレイドと人数だが、俺達ウイング・クレストも含めると合計105名、内ハイクラス42名、エンシェントクラス3名と、大規模アライアンスになったな。
最近完成した新型試作獣車は客室が10部屋に増えたし、その部屋は可動式の仕切りを使って2.5平米単位の個室にすることも出来るから、この人数でも問題なく使える。
さすがに2.5平米は狭すぎる気もするが、どうせ寝るだけしか使わないだろうし、広くすることも出来ないわけじゃないから、何とかなると思う。
だからトラレンシアへの移動は、試作獣車1台で済ませてしまう予定だ。
トラレンシア側は驚くと思うけどな。
無事にトライアル・ハーツにも依頼を終え、ヒーラーズギルドに戻った俺達だが、真子さんはとっくに全員の治療を終え、宿屋や貴族の屋敷から運ばれてきた患者の治療を行っていた所だった。
100人以上いたってのに、マジで魔力大丈夫なのな。
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