神託の巫女
本当に参った。
昨日盗賊に襲われてる一行を助けて、その後俺達が総出で付近を捜索して盗賊を殲滅したまでは良かったんだが、まさかその一行の護衛対象が神託を受けたプリスターで、その子が俺に嫁入りに来たとは……。
「つまり神託っていうのは、ヘリオスオーブを救う大和を支えるべく、巫女として側に仕えるようにってこと?」
「しかも公私ともにってことは、完全に嫁入りに来たってことですよね?」
「俺も驚いてるよ。だけど神託が下りたのは、どうも俺がアルカに来た日らしいんだ」
「あの日か。となると、やっぱりアルカは……」
「そういうことなんでしょうね……」
アルカを作ったのは神々じゃないかって思われてたが、これで確定してしまった。
その神々の神託でアリアが俺に嫁入りに来たのも、何か伝えたいことができたらアリアを通して教えるってことになるのかもしれない。
「これはさすがに、どうするべきか悩むわね」
「神託が下った以上、私達に選択肢はないのでしょうが……」
「そうなのよね。でも、だからって簡単に受け入れられるかは……」
嫁さんや婚約者達も、滅茶苦茶思案顔だな。
みんなと結婚、あるいは婚約した経緯は様々だが、共通しているのは俺に惚れてしまったという点だ。
自意識過剰の自惚れ屋みたいな物言いだが、実際にそうなんだよ。
だけどアリアの場合は、神託を受けて俺に嫁ぎに来たってことだから、そういう感情とは程遠い。
だからみんなが悩むのも当然だ。
「アリア、あなたに聞きたいんだけど、あなたは神託が下ったから大和に嫁ぐってことになるけど、それでもいいの?」
「いえ、確かに私に公私ともに大和様を支えるようにという神託が下ったそうですが、嫁ぐよう強制されたわけではありませんが?」
はい?
「そ、そうなの?」
「はい。もちろんそれでも構わないと思うのですが、生涯を添い遂げるかどうかを決めるためには、まずは大和様のことを知らなければなりません。もちろんいずれは子を成したいという思いはありますが、それも含めて、殿方のことを知ってからにすべきだと思っています」
うん、思ってたよりしっかりした子で安心したよ。
確かに巫女として公私ともに仕えろっていう神託は下ったそうだが、別に嫁入りしろってわけじゃなかったのか。
「それが聞けて安心したけど、それでもあなたが公私ともに大和に仕えるのは決定なのよね?」
「はい。大和様はヘリオスオーブの方ではありませんから、神託を下すことが出来ないそうです。ですから神託を下すような事態があれば、私を介してということになります」
これも頭痛いことなんだよな。
後でサユリ様が教えてくれたんだが、
サユリ様も聞いたことしかないそうだが、シンイチさんが巫女と結婚した理由がまさにこれで、最初は煩わしく思っていた巫女の献身的な働きに絆され、そのまま思いを伝えあって結婚したんだそうだ。
「そういうことなら、アリアが近くにいるのを妨げることは出来ないわね」
「そうですね。もちろんそのつもりもありませんが、シンイチ様と初代教皇様の逸話は有名ですから、そこが怖い所と言えます」
「幸いというか、まだ空席はあるから、もしそうなるなら早めにって所だね」
どうやらみんなも、そこが引っ掛かってるようだ。
カズシさんとエリエール様の逸話も有名だが、シンイチさんと初代教皇の逸話も負けず劣らずだからな。
もちろんヘリオスオーブじゃ一夫多妻が普通だから、エリエール様の同妻のユカリさんや初代教皇の同妻も有名なんだが。
「とりあえずアリアもウイング・クレストに加入ってことになるが、プリスターってユニオンに加入できるのか?」
「可能です。大和様に仕える神託の巫女という扱いになりますから、こういった場合はプリスターズギルドではなく、お仕えする方が所属されているユニオンに加入することが一般的ですね」
なるほどな。
さらに続けて、神託の巫女の昇格に関しては神託で決まるそうだから、プリスターズギルドの管轄からは微妙に外れるらしい。
「それはプリスターズギルドとしても、頭の痛い所かもしれないわね」
「そうでもありません。本来プリスターは所属する支部の試練によって昇格していますが、私は大和様の巫女になったことで、支部どころか総本部にも所属しないことになります。ですから昇格に関しては、どこの支部でも受け付けてくれないんです」
「そんな問題があるのね。ということはアリアに関しては、神々が直接判断して昇格をお決めになられるってこと?」
「そうなります」
神託の巫女っていうのは、
それでも今まで数人しかいなかったみたいだし、初代教皇と結婚したシンイチさんと同じ時期の
「まあ断れる話でもなさそうだし、仕方ないか」
「では?」
「その代わりってわけじゃないが、それなりの戦闘技術も身につけてもらうぞ?なにせ、俺はハンターだからな」
「わかりました。ありがとうございます!」
そう言ってウサ耳を揺らしながら、アリアは頭を下げた。
さすがに予想外の加入者だが、アルカのこともあるし、何より魔族やアバリシアのこともあるから、これぐらいは仕方ないか。
もう夕方ではあったが、俺はアリアを連れてプリスターズギルドに行き、プリスターズマスターのミリア聖司教に手続きをしてもらい、アリアもウイング・クレストに加入することになった。
毎回のことだが、エド達にコートと武器の製作を頼まないとな。
だがその後で、アルカを管理しているホムンクルス統括のシリィから、1つの情報がもたらされた。
俺がアリアを受け入れたことで、条件を1つ満たしたらしい。
そのシリィが言うには、フィリアス大陸のどこかでアバリシアの技術が実用化されたというものだった。
それ以上の詳細はシリィにも分からないみたいだったが、俺とサユリ様にはピンときた。
多分だがその技術は大砲で、どこかというのはソレムネのことだろう。
どうやってそんなものの知識を入手したのかは分からないが、これでまた1つ、ソレムネを放置してはおけない理由が出来たな。
それと、サユリ様に仕えた巫女は、確かにいた。
しかもその巫女はサユリ様の旦那さん、つまり当時の国王陛下に懇願してシングル・マザーにまでなってたりするから驚いた。
サユリ様としては結婚を勧めたんだが、本人が首を縦に振らなかったとも言ってたな。
最初は煩わしいと思ってたそうだが、最終的には姉妹のような関係になったとも言ってたから、俺としては戦々恐々とするしかなかったが。
Side・ヒルデガルド
アルカに滞在して5日目、わたくし達はフィールの近くに下り、エオスの運ぶ獣車でトラレンシアへ向かうことになりました。
アリアが神託の巫女としてウイング・クレストに加入したことは驚きましたが、大和様に嫁ぎに来たわけではないと知り、ホッと胸を撫で下ろしもしましたが。
「エオスは本当に速いのですね」
「ドラゴニアン最速らしいからね。マナと竜響契約を結んだことで、さらに速くなったって言ってたわ」
「そうなのですか?」
「ええ、そうよ」
ドラゴニアン最速ですか。
風を切る音もですが、景色も凄い勢いで後ろに流れていきますから、それも納得です。
この獣車は結界の天魔石も使われているそうでして、結界を展開している間は勝手に侵入されることもありませんし、気温も一定に保たれていますから、エオスが全速で飛んでも風を受けることもなく、獣車から落ちる心配もないそうです。
ですからわたくしとプリム、マナは展望席でお話をすることができているのですが、これ程の風を防ぐことができるとは、凄い結界魔法の使い手がいたものです。
「ああ、この結界の天魔石は、プリムの結界魔法を使ってるのよ」
「そ、そうなのですか?」
「ええ。あたしがエンシェントフォクシーに進化したことは知ってるでしょう?」
「はい、それはもちろん」
「その際に、あたしが授かった
ム、ムーンライト・ドラグーンですか……。
そういえばソルプレッサ迷宮も攻略したそうですから、ドラグーンを手に入れる機会はありますね。
「そういえば、天魔石は御者席にあるんでしたか?」
「そうよ。でもキャビンの方が使いやすいんじゃないかと思うから、この後作ってもらう完成品はそうしてもらおうと思ってるわ」
「それにキャビンの方が、防犯面でも安心できるしね」
それは確かにその通りですね。
出来得る限りの防犯を考えているそうですが、御者席は外からも見えてしまいますから、キャビンの方が安全だという考えは理解できます。
「その天魔石ですけど、いくつ用意しているのですか?」
「いくつだっけ?」
「えっとね、念動でしょ、それから結界。
「あれ?天樹の天魔石もなかったっけ?」
「あったっけ?あ~、ごめん、あるわ」
お、思ってたより多く用意していたんですね。
通常天魔石は、1、2種類用意するのが精一杯のはずですが、まさかそれ程の数を用意していたなんて。
「オーダーズギルドやハンターズギルド用に考えてる獣車は、ここまでしないと思うけどね」
「あたし達が使うっていうのもあるけど、けっこう稼いでるからね。それにヘリオスオーブ初の多機能獣車になるから、それならいっそのこと、思いつく限りの装備は付けてもいいかなって思って」
そういうことですか。
お金に関しては一生遊んで暮らせる額があるようですが、大和様とプリムはエンシェントクラスですから、有事の際は必ずアライアンスに参加することになりますし、それはマナも同様です。
いえ、ウイング・クレストのハンターは全員がハイクラスですから、ウイング・クレストが中心になりますね。
マナはアミスターの王女殿下でもありますから難しいと思いますが、エンシェントエルフに進化する直前でもありますから、やはり参加すると思っておくべきでしょう。
この獣車はアライアンスでの使用も考えられていることが、その証拠です。
1台に乗り込むことで移動の遅れを無くし、展望席を設けることで見張りの手間を減らし、デッキを利用することで戦力の即時展開を可能とするとするこの獣車は、アライアンスでの使用を考えると、これ以上ない程有用ですからね。
もちろん用途はアライアンスだけに留まらず、オーダーズギルドとしても少ない労力で多数のオーダーを運ぶことが出来ます。
ミラーリング付与の問題がありますから、ソレムネがこの獣車の情報を得ても作ることはできませんが、不法な手段で入手する可能性は捨て切れません。
事実リベルターの悪徳商人は、金銭のためにソレムネと取引をしていますから。
「マナ様、ご歓談中失礼致します。下方をご覧ください」
「エオス?え?下を?って、何あれは!」
突然エオスがマナを経由して報告をしてくれたのですが、私もその言葉に従って視線を落としました。
先程ソレムネの上空を通過し海上に出たと仰っていましたが、まだ海氷も見えていませんから、ソレムネに程近い海域ですね。
ですがその海域でわたくしは、信じられないものを目にしてしまいました。
「艦隊?まさか、あれって!」
「ソレムネ?まさか……もう海は氷っているのに……」
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