ベテラン・ハンターの実力

 晩飯を食った後、アライアンスも含めて夜番を決めることになった。

 怪我してるんだから無理をする必要はないし、セーフ・エリアの中に魔物は入って来れないし、ここまで来るハンターがいるとも思えないんだが、それでも夜番は立てた方が良いってスレイさんやシーザーさんは言うから、その意見を受け入れさせてもらった。

 滅多にないが、アライアンスでも夜這いをかける馬鹿がいるらしいから、それを防ぐためにも夜番は必須だって後で教えてもらったよ。

 俺はその事にも考えが至ってなかったから、けっこうヘコんだなぁ。


「昨日も言いましたけど、俺達は今日の昼過ぎにはここを出ます。皆さんもそれに同行するってことでいいですか?」


 朝食を食いながら、俺は本来の予定を各レイドのリーダー達に、改めて口にした。


「ああ。私達としては、昨日中に出るつもりだったんだ」

「むしろ協力してくれるんだから、僕達としても助かるよ」

「第5階層があんな危険地帯だったってことを知らせるだけでも、十分な価値があるものね」


 スレイさん、シーザーさん、エルさんが口々にそう言ってくる。

 アライアンスの目的はイスタント迷宮の深層調査だが、可能ならば守護者ガーディアンの間の確認も含まれている。

 だが何階層まであるのか分からないから、第5階層や第6階層を調べてから離脱することも考えていたそうだ。

 第4階層を突破し、第5階層に到達できた時点で成功判定は下されるんだが、できることなら深層も調べておきたいってことだな。


「了解です。あと倒した魔物は、クエスティングの履歴通りってことで?」

「それで構わないが、そもそも私達は怪我人も多い。ハイクラスだから自己治癒力は高いが、それでも戦えるかどうかは分からない」

「むしろその点に関しては、君達に頼ることになりそうだ」


 クエスティングの履歴には、トドメを刺した魔物が表示される。

 だから極端な話になってしまうが、俺が瀕死の重傷を負わせた魔物を、別のレイドのハンターがトドメを刺してしまえば、討伐したのは俺ではなくそのハンターってことになってしまう。

 もちろんそんなことは滅多にないし、アミスターのハイクラスならそんなことをする輩は少ないんだが、全くいないわけじゃないから事前に取り決めておかないと、後々揉める原因になりかねない。

 このアライアンスは死屍累々って感じだが、それでも全員がハイクラスだけあって、重傷者以外は戦えるぐらい回復してきている。

 その重傷者6人は自己治癒力が落ちてきているようで、歩けるぐらいには回復しているが戦闘は無理だと判断されているし、それを理由に夜番も免除されていた。

 スレイさん達は問題なく戦えるぐらい回復しているから、魔物が現れたら戦うつもりになっているだな。


「砂漠ということは、考えられる魔物の筆頭はやはりサンド・ワームか」

「ですね。あと怖いところでは、サンド・ドラグーンでしょうか」

「ああ、あり得るわね。だけどサンド・ドラグーンはMランクだから、いても数は多くないんじゃないかしら?」

「そうだね。あとはスコーピオン系かな」


 ラインハルト陛下、スレイさん、エルさん、シーザーさんが、この階層に出てくるであろう魔物を予想する。

 俺も同感だな。

 デザート・ドレイクとかスカイ・スコーピオンなんてのもいるが、サンド・ワームも含めてGランクだから、出てくるかどうかは判断が難しい。

 多分サンド・ワームも、希少種とかになるんだろうな。


「ともかく、道なりに進むってことにしますか」

「そうだな。どこの迷宮ダンジョンも共通しているが、通路には魔物が潜んでいることもないし、罠が仕掛けられていることもない。もちろんこのイスタント迷宮の性質を考えれば絶対とは言い切れないが、ここが砂漠ということを考えれば、地中からの襲撃にも備えなければならないからな」


 ラインハルト陛下の言う通り、迷宮ダンジョン内にある道には、魔物が歩くことはあっても待ち伏せをするようなことはない。

 だからこそ獣車で進むことができるって話でもあるんだが、ここイスタント迷宮は道のすぐ側にモンスターズ・トラップがあったし、第5階層には宝箱を模した罠まであったから、そんなことがないとは言い切れない。


 それにしても、俺が迷宮ダンジョンから出る時間や倒した魔物の所有権、進行ルートを決めたりしているが、アライアンスの方々は文句の1つも言ってこないな。

 俺みたいな若造に指示されるなんて、普通は面白くないと思うんだが。


「おっと、早速のご登場だな。あれはビッグシザーズ・スコーピオンか」

「ですね。確かPランクだったはずですが、数が多い。普通なら逃げるところですが……」


 ビッグシザーズ・スコーピオンは、その名の通りバカでかいハサミを持ったバカでかいサソリの魔物で、P-Uランクモンスターだ。

 馬ぐらいのデカさではあるが、その巨体に似合った防御力を持っているから、甲殻を貫くのはハイクラスでも難しい。

 さらにハサミは、人体ぐらいなら簡単に切断できるほどの切れ味を持っているから、武器の素材として高値で売れる。

 そのビッグシザーズ・スコーピオンが、後部デッキから見る限りじゃ5匹ぐらいこっちに向かってきてるな。


「ミーナ、そっちからだと何匹見える?」

「7匹ですね」


 2匹増えたか。

 いや、後ろに隠れて見えなかったってことだな。


「俺とプリムが出ればすぐ終わりますけど、陛下は戦いたいんですよね?」

「ああ。P-Uランクとはいえ、Pランクモンスターの中では下の方に位置付けられている魔物だからな。さすがにあの数全てを相手取るつもりはないが、1匹ぐらいなら私達3人で倒せるだろう」


 うん、P-Rランクのマクロナリアを倒したんだから、2匹ぐらいまでなら余裕だと思う。


「なら1匹は陛下達に、1匹はマナとミーナ、フラム、1匹はアテナとリディア、ルディア、1匹はラウスとレベッカ、キャロルにバトラーだな。残りは俺とプリムで倒してもいいんだが、スレイさん達はどうします?」

「せっかくの獲物だからな、私達も戦わせてもらう」


 スレイさん達も翡翠色銀ヒスイロカネ青鈍色鉄ニビイロカネ製の武器を使っている。

 実際第4階層ではG-Iランクのエビル・ドレイクを、第5階層ではPランクのツインソード・デュラハンを倒しているそうだから、数匹だけならビッグシザーズ・スコーピオンも相手にできると思う。


「じゃあ俺とプリムは、今回も援護ですかね」

「できれば戦いたいけどね」


 俺もプリムと同意見だ。

 レベル81になればAランクハンターに昇格できるっていう理由もないわけじゃないが、援護ばかりじゃ腕がなまってくるからな。


「このまま進んでいれば、その機会もあるだろう」

「それに期待しますよ」


 そんなわけで、ビッグシザーズ・スコーピオン殲滅戦がスタートしたんだが、さすがに相手がPランクってことで、みんなけっこう苦戦していた。

 10人ちょっとで3匹のビッグシザーズ・スコーピオンに当たっていたアライアンスは、まだ怪我が完治したわけじゃないが、伊達にここまで来たわけじゃなく、それぞれの死角をカバーする動きでビッグシザーズ・スコーピオンを攻撃し、ハサミや尾による攻撃は避けるか2人がかりで防ぐかでしのいでいた。

 見事なもんだな。


「けっこう硬かったけど、ハサミさえ気を付ければ対処は難しくないわね」

「そうですね。剣では有効打になりにくくても、ミーナさんの固有魔法スキルマジックやルディアさんなら、普通にダメージが通っていましたから」


 マナ、ミーナ、フラム組とアテナ、リディア、ルディア組は、早くもビッグシザーズ・スコーピオンを倒していた。

 俺も横目で見ていたが、マナ達はミーナが攻撃を引き付け、フラムが牽制している隙に、メイス・クエイクを使ったミーナがビッグシザーズ・スコーピオンを吹き飛ばし、そこにマナがスターリング・ディバイダーで頭部を両断して終了。

 アテナ達はリディアがハサミによる攻撃を回避し続けている隙に、アテナが甲殻の隙間にドラグ―ル・スピアの一撃を加え、のけ反ったところにファイアリング・インパクトを纏ったルディアが殴りつけてひっくり返し、トドメとばかりに飛び蹴りをかまして焼き尽くした。

 確かに硬い敵には打撃系の武器が有効だってのが、よくわかる戦い方だったな。


「陛下達は……あちらも終わってるんですね」


 うん、そうなの。

 陛下達の武器は、陛下が片手直剣、エリス殿下が細剣、マルカ殿下が2丁の手斧だから、ダメージソースとして期待できるのはマルカ殿下になる。

 と言っても普段でも陛下が攻撃を引き付け、エリス殿下が牽制し、マルカ殿下がデカい攻撃をかますっていうのがパターンだから、今回もその例に漏れず、非常に安定した戦いぶりだった。

 最後は陛下とマルカ殿下の固有魔法スキルマジックでハサミを切り落とされ、脳天にエリス殿下の一撃が深く突き刺さっていたな。


「さすがに安定した戦いぶりよね」

「本当にね。少し羨ましいわ」


 少し寂しそうにマナが呟くが、ミーナやフラム、リディア、ルディア、アテナも同じ気持ちみたいだ。

 原因は、やっぱり俺なんだろうなぁ。


「あたしが言うのもなんだけど、こればっかりはね。だからこそレベルを上げて、大和の隣に立てるように頑張ってるんでしょう?」

「そうですけど、その大和さんもどんどん先に行ってしまいますから……」

「逆に離されてる気しかしないよねぇ」


 そう言われても、としか俺には返せない。

 何もなければ、みんなに合わせるようにするっていう選択肢もあったんだが、3年、いや、2年以内に起こるレティセンシアとの戦争では、俺は窮地に立たされることになっているから、少しでも強くなっておく必要を感じているんだよ。


「大丈夫よ。大和が強くなって、悪いことはないんだから。その理由も分かってるしね」

「そうですね。むしろあのお話を聞いたからこそ、私達も頑張って力をつけるようにしているんですから」


 そうなのか?

 いや、それは俺としてもありがたい話だ。

 俺だけが強くなっても、どうにもできないことはある。

 その最たる理由が、進化した際に伸びる寿命の問題だ。

 俺とプリムはエンシェントクラスに進化しているから、寿命は約250年になっている。

 だけどハイクラスのみんなは約150年と、100年も差が出来てしまっているし、ノーマルクラスのリカさんやユーリは、おそらくは80年ほどだろうから、さらに差は大きい。

 だからこそ魔物を狩ることよりも、みんなのレベルを上げることを優先させていると言ってもいい。


「私達だけじゃなく、ラウス達も頑張っていますよ。ほら」


 フラムに促されてラウス達の方を見ると、そちらではラウスの固有魔法スキルマジックヘビーファング・クラウドがビッグシザーズ・スコーピオンに群がり、そこにレベッカが頑張って完成させた固有魔法スキルマジックサンダースケイル・レインが命中していた。

 ハイウンディーネに進化したレベッカは、雷属性魔法サンダーマジックの適正と念動魔法の天賜魔法グラントマジックを授かっていた。

 だからその両方を組み込み、さらに俺のアイスエッジ・ジャベリンを参考にした固有魔法スキルマジックを開発した。

 サンダースケイル・レインは放った矢を念動魔法で自在に操り、螺旋状の水飛沫を纏った雷を幾本も打ち出す魔法となっている。

 同時に3本までなら矢を操れるみたいだが、俺と違ってアクセリングは習得していないから、魔眼魔法で代用しているみたいだ。

 それでも3本だけとはいえ、矢から放たれる雷は水飛沫を纏っているから通電性も高いし、貫通力もあるから、ビッグシザーズ・スコーピオンにも大きなダメージを与えていた。

 そして矢がビッグシザーズ・スコーピオンに刺さると、全ての雷が体内から焼き焦がしていく。

 俺のアイスエッジ・ジャベリンを参考にしただけあってよく似ているが、悪くないと思う。

 あとはアクセリングを使えるようになれば、同時に操れる矢の数も増えるだろう。


「あとはアライアンスの方だけど、あっちもさすがね」

「だな」


 アライアンスの方は慣れたような連携で、ビッグシザーズ・スコーピオンを次々と倒していた。

 サソリ系だけあってハサミ以外にも毒を持つ尻尾の一撃にも気を配らなきゃならないんだが、その尻尾は最優先でシーザーさんの大斧とエルさんの大鎌に叩き落されていたし、ハサミも他のハンター達が牽制し合っていたから、ビッグシザーズ・スコーピオンも狙いを定めることが難しかったみたいだ。

 最後はシーザーさんの大斧とエルさんの大鎌、そしてスノー・ブロッサム所属の武闘士の一撃をそれぞれ頭に受けて、そのまま動かなくなっていた。

 ベテラン・ハンターの連携を見たのはホーリー・グレイブ以来だけど、年季っていう意味じゃこっちの方が手慣れてる感じがしたな。

 というか、大鎌なんて初めて見たぞ。


「グレイシャス・リンクスとブラック・アーミーは結成されてから30年以上経ってるし、ファルコンズ・ビークだって20年近く戦い続けてきたレイドだから、あれぐらいの連携はお手の物ってことなんでしょうね」


 あ、そんな昔に結成されてたレイドだったのか。

 ワイズ・レインボーは10年と少し、スノー・ブロッサムは5年程らしいが、アクアっていう街を拠点にしているから、アライアンスだけじゃなく普段の依頼でも協力しあうことがあったらしく、顔なじみ以上の関係っていうのも理由だそうだ。

 ホーリー・グレイブは10年も経ってないレイドだから、年季っていう意味じゃこっちが上になるのもよく分かる話だな。

 俺達はベテラン・ハンターとは付き合いがないに等しいから、このアライアンスと出会えたことは大きな収穫だと思う。

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