災厄の竜
Side・リディア
見る限りその島は2つ先にあるので、そんなに時間も掛からないと思いますから。
「それにしても、なんであの島だけ暗いんでしょうか?」
「暗いというか、あそこだけ夜になってる感じよね」
ユーリ様も仰っているように、その島の周囲は、何故か暗くなっていたんです。
空に何かが光ってるような気もしますから、マナ様が仰るように夜と言ってもいいかもしれません。
「夜か。俺はあそこに闇属性のドラグーンがいるんじゃないかと思ってたんだが、そうなると逆ってことも考えられるな」
「逆って、光属性?なんで……ああ、そうか。月とか星の光があるからね」
「そういうこと」
月とか星の光となると、ムーンライト・ドラグーンやスターダスト・ドラグーンですね。
どちらも光属性のドラグーンで、月や星の光を魔力に変えることが出来ると言われています。
なるほど、そう考えると、確かに大和さんやリカ様が仰るように、夜の島にはそのどちらかがいてもおかしくないのかもしれませんね。
ちなみにですが、太陽の光を魔力に変えるドラグーンは存在していません。
というより魔物は大気中の魔力だけではなく、太陽の光を受けることでも魔力を使ったり回復したりしていると言われていますから、ほぼ全てのドラグーンが該当してしまうんですよ。
「そっちも気になるけど、まずは次の島でしょ。なにせ次の島は、雨が降ってるんだからね」
そうでした。
プリムさんが仰るように、夜の島の手前にあるのは雨の島、とでも言うべき島です。
遠目では草原に小さな林、石垣のような物が見えるのですが、空には雨雲が広がり、かなり強い雨が降っていますから、視界は良くありません。
ですがセーフ・エリアには雨は降らないようで、そこだけ綺麗な青空が覗いているのが不思議です。
「セーフ・エリアが一目で分かるのはありがたいけど、逆にそれが島の難易度を上げてる気もするね」
「それは夜の島もだけどな」
ルディアとエドワードさんが何とも言えない顔で呟いていますが、夜の島も雨の島同様に、セーフ・エリアの位置は一目で分かります。
今までのセーフ・エリアは、近付かなければ分かりませんでした。
ですがセーフ・エリアが一目で分かるということは、それだけの危険があるのかもしれないという予測にもつながります。
単純にセーフ・エリアだからという可能性も無きにしも非ずですが、
「そこは考えても仕方ないでしょうね。ですが雨ということは、出てくるのは水属性のドラグーンということになるんでしょうか?」
「あり得るわね。他にも風属性や雷属性のドラグーンっていう可能性もあるわ」
フラムさんが出てくるドラグーンの属性を予想され、マナ様が答えられていますが、確かに雨には風や雷が付き物ですから、十分考えられます。
Mランクのドラグーンは1つの属性しか持っていないとされていますし、実際に今までに狩ったドラグーンはそうでしたから、その3種が全て生息しているというのが、一番可能性が高い気もしますね。
橋を渡っている最中に襲ってくる魔物はいなかったので、私達は無事に雨の島に到着しました。
「なんか廃村って感じですね」
「そうですね。
ラウス君とキャロルさんが目の前の光景に首を傾げていますが、気持ちは分かります。
雨の島に着いてしばらく進むと、家がいくつも立ち並んでいたんですから。
人の気配はありませんし、よく見たら家々も痛んでいますから、まさしく廃村ですね。
「別に珍しいわけじゃないわ。ここは廃村みたいだけど、フロート迷宮にはフロートを模した階層があったし、迷路の階層もあったわよ」
「私も噂に聞いただけですが、王城のような階層がある
マナ様は実際に
エオスはこのソルプレッサ迷宮が初めてですが、
「人工物、って言っていいのか分からないけど、それが
乱暴ですが、そう言われてしまえば私達には何も言えません。
昔はドラゴンといえばドラゴニアンしかいなかったそうなのですが、
「それはともかくとして、そろそろ魔物が出てきてもいいと思うんだけど?」
「さっきから警戒してるが、そんな気配はないな。もっともドラグーンが隠れられるような所はないから、襲ってきたらすぐに分かるが」
そういえば雨の島に入ってからしばらく経ちますが、一向に魔物が襲ってくる気配がありませんね。
ドラグーンが多いソルプレッサ迷宮ですが、他の魔物がいないわけではありません。
ですがソルプレッサ迷宮第7階層は島によって生態系が違うようですから、この雨の島に生息している魔物は見当もつきません。
いえ、雨が降っている以外はどこにでもあるような風景ですから、見当が多過ぎて困るというところでしょうか。
「先に進む分には魔物が襲ってこないと助かるんだけど、素材の面から考えると困るわよね」
「だな。特に雷属性のドラグーンはこの島にいる可能性があるから、できる事なら出てきて欲しいもんだ」
プリムさんと大和さんの会話は、相変わらず不穏です。
ですが私達も慣れてきていますし、目的も目的ですから、同意せざるを得ません。
そんなに広くない島ですが、探すとなると面倒なのも間違いありませんから。
「まだ時間はあるんだし、何より明日は丸1日狩りをするんだから、その時はその時じゃない?」
「そうね。雷属性のドラグーンなら、多分あっちに見える島にいる気がするし」
焦る必要はないとルディアが言い、リカ様も同意していますが、確かにその通りです。
それにリカ様が指差した先にある島は頻繁に雷が光っていますから、雷属性のドラグーンが生息している可能性が最も高いのは、間違いなくあの雷の島、とでも言うべき島でしょう。
とはいえ雷の島は
「さすがに今日はそっちまで行けないだろうから、そっちは明日だな」
「そうね。それにソルプレッサ迷宮に来るのが、これっきりってこともないだろうし」
それは確かに、大和さんとプリムさんの仰る通りです。
特に
今回は攻略目的ですし、レティセンシアやバリエンテの動きが気になることもありますから、長期の探索はできませんが、次回来るとしたら、その辺はしっかりと考えてくることになると思います。
「あ、セーフ・エリアが見えてきましたね」
「雨雲が綺麗に切れてるから、分かりやすいよな」
雨の島のセーフ・エリアは、そこだけ雨雲がなく、青空が見えています。
ですからそこにいる限りは、雨に悩まされる心配はありません。
これも迷宮が、人に入ってきてもらうためにしていると言われていますね。
「どうしたの、オネスト?」
ところがセーフ・エリア目前で、獣車を引いてくれているグラントプスのオネストが、突然止まってしまいました。
オネストと従魔契約をしているアプリコット様は獣車の中で
「怯えてる?ということは!」
「来るってことね!大和!」
「わかってる!」
臆病なオネストですが、大和さんやプリムさんが近くにいるということもあって、第6階層まではもちろん、第7階層でも安心して獣車を引いてくれていました。
そのオネストが怯えるなんて、ちょっと考えられません。
ですが魔物が襲ってきたのは間違いありませんから、私もミーナさんと一緒に、急いで獣車を降ります。
「やっぱりドラグーン!」
「で、ですが、今までのより大きいですよ!?」
獣車を降りた私達が見たのは、先程まで狩っていたドラグーンより一回り大きなドラグーンでした。
「ミーナ、リディア、降りてきたのね」
「マ、マナ様、あのドラグーンは……?」
「ディザスト・ドラグーンよ」
マナ様が告げた名前に、私もミーナさんも真っ青になりました。
ディザスト・ドラグーンはA-Iランクモンスター、つまりドラグーンの異常種です。
150年程前にレティセンシア迷宮氾濫の際に現れたという記録がありますが、そのせいでレティセンシア内の多くの街や村が滅び、皇都も陥落寸前にまでなってしまったそうです。
当時ご存命だった5人のエンシェントクラスが総出で戦い、アミスターのOランクオーダーという犠牲を出してやっと討伐に成功したのですが、参加した騎士や兵士はもちろん、一般人の犠牲もとんでもないものでした。
そんな大きな被害を出したディザスト・ドラグーンが、このソルプレッサ迷宮にいた?
「いた、というより、進化してしまったということなんでしょうね。実際迷宮氾濫は、異常種どころか災害種まで出てくることがあるんだから」
確かに迷宮氾濫の記録に目を通すと必ず異常種が現れていますし、災害種の記述すら珍しくありませんでしたが、それはつまり、この未攻略のソルプレッサ迷宮は、近い内に氾濫を起こしていたかもしれないということになりませんか?
「そう考えてもいいと思うわ。ソルプレッサ迷宮に入るハンターは多いけど、ナールシュタットが公爵位を継いでからは減ってきているって聞いてる。その理由は、魔物素材の徴発。ハンターが命懸けで手に入れた希少な素材を無理矢理取り上げているんだから、ハンターが減るのは当然の話よ」
それは確かに。
第1階層からBランクモンスターが出てくるソルプレッサ迷宮は、ハンターとしても難易度が高い
ですから武器や防具の予備はもちろん、ポーションの類も大量に準備してから入ります。
ですがそこまで準備をして手に入れた素材を徴発されてしまうと、ハンターは大損です。
実際にそれが原因で、ニズヘーグ公爵領を出ていったハンターも少なくないとハンターズギルドで聞いています。
「各国の王家が
「ええ。貴族が勝手なことをすれば、最悪の場合は国が割れてしまうから、それを防ぐためでもあるわ。それに
アミスターやトラレンシアはしっかりとしていますし、監査もありますから、
ですがバレンティアは、ナールシュタットを見てもわかるように、自分達の利益を追求し、民を蔑ろにしている貴族が少なくありません。
実際、ドラグニアの南にあるノトス迷宮は、攻略したハンターを捕らえ、
当然ですが発覚後、その貴族は爵位を剥奪され、ノトス迷宮を含む領地は、全て竜王家の直轄領になっていますが。
「あれがレティセンシアを滅亡寸前にまで追い込んだディザスト・ドラグーンなのね」
「あの様を見る限りじゃ、とても信じられないけどね」
リカ様、ルディア、フラムさんも獣車から降りてきたようですが、何を言って……ああ、なるほど。
「大和さんのアイスエッジ・ジャベリンとプリムさんのフレア・ペネトレイターで、もう動くこともままならないって感じですね」
フラムさんの仰るように、ディザスト・ドラグーンは大和さんのアイスエッジ・ジャベリンを受けて体中から血を流し、プリムさんのフレア・ペネトレイターで風穴まで空いていますから、力尽きるのも時間の問題になっています。
「終焉種の単独討伐の実績は、伊達じゃないってことか」
「ホントにね。でもディザスト・ドラグーンは水、風、雷っていう3つの属性を持ってるそうだし、火や土にも高い耐性があるそうだから、素材としては最上級だわ」
ディザスト・ドラグーンって、3つの属性を持つドラグーンだったんですね。
ですがディザスト・ドラグーンはA-Iランクモンスターですから、素材としては使いにくくないですか?
「使いにくいだろうけど、そこはエド達に期待だな」
「それにゴールド・ドラグーンもだけど、ライ兄様達の防具用に献上しようかと思ってるのよ。王に王妃とはいえハンターでもあるんだから、簡単に命を落とされると困るしね」
ディザスト・ドラグーンをストレージに回収した大和さんとプリムさんが戻ってきましたが、ラインハルト陛下やエリス殿下、マルカ殿下にも防具を献上ですか。
確かにお三方はハンターでもありますから、高い防御力の鎧はお持ちになられていた方が良いとは思いますが、ディザスト・ドラグーンに加えてゴールド・ドラグーンまでもとなると、とんでもない物ができそうですね。
「私としてはありがたいんだけど、本当にいいの?」
「ああ。火属性はないから、そこは勘弁してもらうしかないけどな」
「いえ、それでもAランクのドラグーンを使うことになるんだから、十分過ぎるわよ。お父様は狂喜乱舞するでしょうしね」
アミスターの先王であり、王代でもあるアイヴァー陛下は、Pランククラフターです。
ご本人はMランククラフター並の技術をお持ちだそうですが、王という立場から昇格試験を受ける時間を取ることができなかったそうですから、近い内に昇格試験を受けられるとマナ様からお聞きしています。
そのアイヴァー様がAランクのドラグーンを前にして、喜ばないはずがありません。
実際、
「それはともかくとして、一度セーフ・エリアで休みましょう。オネストが怯えてたこともあるから、そっちも考えないといけないし」
「そうするか」
確かにオネストは、すごく怯えていましたからね。
獣車を引くとなると、後はジェイド、フロライト、スピカ、ブリーズですが、スピカはウォー・ホース、ブリーズはバトル・ホースですから、1匹では獣車を引けません。
ウォー・ホースに進化したスピカなら可能かもしれませんが、マナ様の戦闘力が落ちてしまいますから、
ヒポグリフのジェイドとフロライトなら問題ないのですが、フロライトは獣車を引くのが好きではありませんから、そうなると残るのはジェイドだけになってしまいます。
とはいえ、他に選択肢もありませんから、ここはジェイドに頑張ってもらうしかなさそうですけどね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます