竜都の狩人

 今日は軽めの予定だったし、ユーリ、リカさん、マリサさん、ヴィオラに戦闘経験を積んでもらうことが目的だったが、その目的も無事に果たした。

 それなりに魔物も狩ったから、俺達はハンターズギルド・バレンティア本部にやってきた。

 ジャイアント・バッファローやロングノーズ・ボアもそれなりに狩ったし、ユーリ達のレベルも上がったし、なかなか充実した時間だったな。


「さすがはエンシェントハンターですねぇ……」


 呆れているのはギルドの受付で、リディアとルディアの友人だというドラゴニュートの少女だ。

 名前はレミー。

 現在俺達はギルドの鑑定室で素材を鑑定してもらってるんだが、ロングノーズ・ボアを19匹、ジャイアント・バッファローを27匹狩ってきたもんだから、それだけで鑑定室の3分の1近くを占めてしまい、ギルド職員だけではなく鑑定に来たハンター達まで目を丸くして驚いている。

 第十鑑定室は滅多に使われないから、今回通されたのは第七鑑定室だが。

 さらに俺は、ロングノーズ・ボアの希少種ジャンボノーズ・ボアも、2匹ほど狩ってきてたりするんだよな。


「一度にこれだけの数のロングノーズ・ボアやジャイアント・バッファローを狩るなんて、ライバートさんでもやらないですよ。しかもジャンボノーズ・ボアまで……」

「大きな群れに遭遇しちゃったのよ。放置でも良かったのかもしれないけど、せっかくの高級食材だし、私達は滅多に狩れない魔物だから、良い機会だと思ってね」


 プリムの言う通り、俺達だってここまで乱獲するつもりがあったわけじゃない。

 ジャイアント・バッファローもロングノーズ・ボアも群れで生活をしているが、それでも多くて10匹ぐらいで、この時期は群れのリーダーであるオスと数匹のメスだけで過ごしているから、20匹近い群れと遭遇することは滅多にない。

 だが皆無というわけではなく、俺達が遭遇した群れがまさにそれだった。


「まあこの時期に大きな群れを作っているとなると、希少種どころか異常種が生まれる可能性がありましたから、こちらとしては助かったんですけど」


 というのが、この時期に群れが大きくなっているとされる理由だ。

 実際ロングノーズ・ボアは希少種がいたわけだから、その可能性は高かっただろう。

 フェザー・ドレイクもそうだが、異常種が生まれる前には希少種の数が増える傾向があり、ジャイアント・バッファローやロングノーズ・ボアも同様とのことだから、早ければ春の繁殖期を待たずにロングノーズ・ボアの異常種が生まれていた可能性がある。


「リディアもルディアも、とんでもない人と婚約したのね……」

「もう慣れたけどね」

「だね。レミーも仲間に入りたかったら言ってよね?」

「遠慮しておくわ」


 呆れるレミーにリディアとルディアが嫁の仲間入りを勧めるも、あっさりと断られた。

 俺としても、簡単に嫁が増えるのは困るぞ。


「それで、これを全部査定するんですか?」

「いや、ジャンボノーズ・ボアは持って帰るよ。あとロングノーズ・ボアやジャイアント・バッファローも、半分ぐらいは引き取ろうと思ってる」


 高級食材だし、素材としても悪くはないからな。

 それにフィールに戻ったら、エド達も含めて合同披露宴をしようっていう計画があるから、いろんな食材を集めておきたいところでもある。


「わかりました。ではロングノーズ・ボア10匹、ジャイアント・バッファロー12匹、グラス・ビー8匹、サーベル・ライガー2匹ですね。すぐ査定に入ります」


 グラス・ビーは完全な遭遇戦だったが、Iランクモンスターってこともあってユーリとリカさん、ヴィオラがあっさり倒してたな。

 サーベル・ライガーはあの後もう1匹出てきたから、これはマナが召喚獣と一緒に倒してたが。


「レミー、どれぐらいかかりそうなの?」

「数があるから、30分ぐらいはかかるかも」

「それぐらいは仕方ないか」


 査定に時間がかかるのは仕方ない。

 フィールやフロートでも、1時間近く待たされることは普通だったからな。


「というかリディアもルディアも、なんでハイクラスに進化してるの?あなた達がドラグニアを発ったのって、3,4ヶ月前でしょ?しかもBランクになったばかりで」

「色々あったんだよ」

「そうよねぇ」


 レミーの質問に、遠い目をするリディアとルディア。

 確かに色々あったよなぁ。


「何があったのか、怖くて聞けないわね……。あ、ハンターズマスターがお会いしたいとのことですから、先に声をかけてきますね」


 逃げるように鑑定室を出ていくレミーだが、こちらとしても話せないことは多いから、聞いてこないならそれはそれで助かる。

 ハンターズマスターにも話があるから、会ってくれるなら話が早いな。


「ねえ、リディア。あの子、口は堅いの?」

「大丈夫だと思いますよ。契約魔法もありますし」

「できれば使いたくないんだけどね」


 友達に契約魔法って、けっこう怖いぞ。

 口が堅いんなら、あの子に担当してもらうってことを考えて、話しておくのはアリだろうが。


「ねえ、あの子達、けっこう稼いだみたいよ?」

「なら、少しカンパしてもらうとするか」

「やめとけ。あっちのヒューマンの男、エンシェントヒューマンだぞ。命がいくつあっても足りねえよ」

「バカ言ってんじゃねえよ。あんなガキが、エンシェントヒューマンなわけねえだろ」

「そうそう。ライバートさんみたいな熟練のハンターでも、進化できてないのよ?」


 聞こえてんだよ、バカどもが。

 ドラグニアのハンターズギルドに来たのは初めてだし、俺がライセンスを見せたのは街の入り口だけだから、知らない奴がいるのは無理もないんだが、それでもいい気分じゃない。


「だからって新人から金巻き上げて、女犯してもいいわけじゃねえからな?」

「あん?誰だ……ラ、ライバートさん!?」

「な、なんでここに!?」

「査定に決まってるだろ。話はしっかりと聞いてたがな。というかな、こいつの言う通り、あのヒューマンの男はエンシェントヒューマンだ。しかもあそこにおられるのはアミスターのお姫様達だから、下手に手を出せば、お前らの首だけじゃ済まねえぞ?」

「え、ええっ!?」

「マ、マジですか!?」

「それにアミスターのお姫様って、なんでそんな人が!?」

「アミスターの伝統ってやつだ。それでも手を出すってんなら、俺は止めねえが?」


 あの人がライバート・ウェルネスさんか。

 プリム以外に3人いるPランクハンターの1人で、バレンティアに所属している雷竜のドラゴニュート。

 年齢は73歳だそうだが、見た目は20代後半だな。

 このタイミングで会えるとは思わなかったが、おかげで余計な騒動に巻き込まれなくて済む。


「ライバートさん!」

「お久しぶりです」

「ああ、久しぶりだな。噂で聞いたんだが、このエンシェントヒューマンと婚約したんだって?」


 そういやリディアとルディアは、ライバートさんと知り合いだって言ってたな。

 ドラグニアを拠点にしてたんだし、お父さんもライバートさんと同じく2人のドラゴニアンと結婚してるんだから、別に不思議でもないか。


「はい。あと私達も、ハイドラゴニュートに進化できました」

「いや、ちょっと待て。お前らがドラグニアを出たのは、Bランクになった直後だろ?なのにたった数ヶ月でSランクはおろか、進化までした?さすがにねえぞ、そんな話は」


 進化を疑われてるが、これは仕方ない。

 たった3,4ヶ月でBランクが進化するなんて、普通はあり得ないそうだからな。

 実際は俺達と出会ってからだから、1ヶ月程度なんだが。


「本当だよ。ほら」


 ルディアがライセンスを見せると、さすがにライバートさんも驚いている。


「マジで進化してやがるな。しかもレベル45かよ。ハイクラスとしても平均並じゃねえか」

「す、すごいわね」

「でも、グレイスは喜びそうよ?」


 ライバートさんと一緒にルディアのライセンスを見ているのは、ライバートさんの奥さんらしい。

 ってことはドラゴニアンか。


「ああ、悪いな。俺はライバート・ウェルネスだ。そっちの翼族の嬢ちゃんと同じ、Pランクハンターをやってる。こっちは家内達だ」

「カリス・ウェルネスよ」

「あたしはクレタ・ウェルネス。カリス姉さんもだけど、ドラゴニアンでGランクハンターだよ」

「あ、よろしくお願いします。ヤマト・ハイドランシア・ミカミです」


 俺に続いて、みんなも自己紹介してるが、ドラゴニアンと会ったのは初めてだな。

 角と尻尾はあるが、ドラゴニュートより小さく見えるし、何より翼がないとは思わなかった。


「エンシェントクラス1人にハイクラス4人か」

「しかもレベル30代の子も多いし、この2人のことを考えればすぐに進化しそうよね」

「だね。ガイア様が呼ぶのも当然かも」


 俺が聖母竜マザードラゴンに招待されたって話は知ってるのか。

 ウィルネス山に行くことはあるんだろうから、その時にでも聞いてたか?


「ハンターはまだ2人いるんだけど、ちょっと体調を崩してるから、今日は休ませてるのよ」


 マナがまだメンバーがいるって説明してるが、ラウスは急性魔力変動症でしばらく狩りにいけないからな。

 キャロルやアプリコットさんが診てくれてるから、明日ぐらいには動けるだろうが、あまり無理はさせられない。

 でもあいつ、早く進化したがってるから、多少の無理ぐらいはしそうだ。

 エトラダであんなことがあったから、気持ちも分かるんだけどな。


「お待たせしました、ってライバートさん!」

「よう」

「久しぶりね、レミー」

「はい!あ、いけない。ウイング・クレストの皆さん、ハンターズマスターがお会いします。こちらへどうぞ」


 お、もう会えるのか。

 早いに越したことはないから助かるな。


「なんだ、ハンターズマスターに呼ばれてんのか」

「ええ、こっちからも話しておきたいことがありますから」

「そう。しばらくはドラグニアにいるんでしょう?」

「う~ん、急だったこともあるんで、長くても2週間ぐらいですかね」


 本当ならもう少しフロートにいて、その後でメモリアにも寄ってからフィールに戻る予定だったからな。

 バレンティア行きは本当に予定外だったんだよ。


「それは仕方ないか。なら近い内に、ご飯でも食べに行こうよ」

「いいですね。こっちの予定がまだ未定なところがあるんで、いつになるかはわかりませんが、なるべく予定は空けとくようにします」

「楽しみにしてるぜ」


 食事の約束を取り付け、ライバートさん達と別れる。

 俺とプリム以外で初めて会うPランクハンターだから、ためになる話も聞けるだろうし、楽しみが増えたな。

 そのままレミーに案内されてマスタールームに入ると、1人のドラゴニュートが俺達を待っていた。


「ようこそ、ドラグニアへ。私がバレンティア本部のヘッド・ハンターズマスター カナメ・スカイラークよ」


 女性比率の高いヘリオスオーブなんだから、予想して然るべきだったか。

 アミスターのヘッド・ハンターズマスターも女性だったんだから、尚更だったな。


「グランド・ハンターズマスターからも話は聞いてるけど、厄介な問題に巻き込まれたみたいね」

「現在進行形の問題もありますけどね。あ、これはアミスター国王陛下とヘッド・ハンターズマスターからの書状です」


 アミスターのヘッド・ハンターズマスター シエーラさんからの書状はともかく、ラインハルト陛下の書状はマナかユーリが手渡すべきだと思うんだけど、マナと結婚したことで俺も親族ってことになってるし、ユニオンリーダーだからってことで押し付けられたが、慣れろってことなのかね?

 というかグランド・ハンターズマスター、いつの間に俺達がバレンティアに行くって話を聞いてたんだ?


「なるほど、面倒事のオンパレードじゃない……。というか、よく終焉種なんて倒せたわね?しかも単独で……」

「あー、それも書いてあるんですね」


 ってことは、プリムが実はエンシェントフォクシーだってことも書いてあるな。

 ハンターズマスターは守秘義務が課せられることがあるし、サーシェスと違って信頼できるって判断なんだろうが、簡単に話してもいいんだろうか?


「言いたいことは分かるけど、ヘッド・ハンターズマスターには伝えておかないと、面倒なことになりかねないのよ。特にプリムのことで」

「あたしのこと?」


 マナの一言に首を傾げるプリムだが、俺も同様だ。

 何か面倒になりそうなことってあったか?


「あのねプリム、あなたのレベル、いまいくつ?」

「あたしのレベル?68だけど?」

「ああ、なるほど」

「確かに、面倒なことになりますね」


 プリムのレベルを聞いた途端、リディアとミーナも理解できたみたいだ。

 俺も何となく分かったが、そこまで面倒なことには……いや、なるじゃねえかよ!


「今はあんまり狩りしてないけど、フィールに戻ったら狩りまくるでしょ?」

「そりゃ鬱憤晴らしも兼ねて狩るわよ?ソルプレッサ連山にも行けたらいいとも思ってるけど」

「そうなったら、またレベルが上がりますよね?」

「簡単にとは思ってないけど、上がる気はするわ。……あ~、そういうことか」


 ルディアとフラムの説明で、ようやくプリムも分かったみたいだ。

 そう、プリムがレベル71になってしまえば、Mランクに昇格することになる。

 しかもレベル70になると、確実にエンシェントクラスに進化するって言われてるから、Mランクハンター=エンシェントクラスってことになって、どう頑張って情報封鎖してもバリエンテ、特にレオナスに知られることが確実になってしまうってことだ。


「ハンターズギルドでも、どう対処していいか分からないけどね。本来ならエンシェントハンターが増えて困ることはないんだけど、今回の場合は別だわ。書状を読む限りじゃバリエンテは表立って動かないと思うけど、レオナス元王子が率いる反獣王組織はそうはいかない。すぐにでもアミスターに、身柄引き渡しを要求してくるでしょうね」

「そんなことしてきたら、物理的に潰すだけですが?」


 レオナスはプリムの体を狙ってるんだから、俺がそんなことを認めるわけがない。

 それを理由に兵を挙げるんなら、氷らせてから砕くだけですが?


「それはそれで問題なのよ。もちろんアミスターとしても断るし、何より大和と結婚してるんだから、応じる理由もないわ。でも反獣王組織を潰したりしたら、別の意味でアミスターとの間に緊張が走るのよ」


 反獣王組織に参加してるのは貴族だけじゃなく、一般人もだからか。

 確かにそれで組織を潰したら、俺が恨まれるのはもちろん、Oランクオーダーっていう立場もあるからアミスターとの関係も悪くなるか。


「バリエンテでも大和様とプリムお姉様の結婚が広まってるのは間違いないと聞いていますから、レオナス元王子としても婚約話をでっち上げることはできません。ですから別の手を考えているはずです」


 その噂も知ってる。

 獣王はマジでプリムの生存と俺との結婚を大体的に、しかも反獣王組織の耳に入るように広めてるらしい。

 そのせいでバリエンテの勢力図が変わったとも言われてるが、そっちはまだ混乱してるから、詳しい情報は入ってきてないそうだ。

 確実なのは、レオナスに協力してたと言われている西の王爵が離れ、独自の路線を進んでることか。


「フロートを出る直前だけど、東の王爵がアミスターに恭順の意を示したって聞いてるわ」

「私も聞きました。元々東と西の王爵は、ハイドランシア公爵とも親しかったと聞いています。ですからプリムお姉様が生きていて、しかもアミスターのOランクオーダーと婚姻を結びましたから、獣王を打倒する理由が薄くなってしまったのでしょう」


 だからレオナスから離れたが、だからといって獣王に恭順することはできないから、それぞれが独自で考えてってことか。


「東と西か。あの2人なら、そう考えるでしょうね。特に西の王爵は、あたしの考えに賛成してくれてたし」

「それも凄い話なんだけどね」


 プリムは、バリエンテの地はアミスターに返すべきって考えている。

 元々バリエンテはアミスターから分かれた国だが、当初は6つの国だった。

 だがその国同士で争いが起こり、アミスターが調停に乗り出したことで1つの国として纏まりはしたが、それでも内乱のような小競り合いは多々起きてたし、今も起きている。

 しかもその理由は後継争いだったり領地問題だったりと、一般人には特に関係ない問題が多いんだが、それでも被害を被るのはその一般人達で、今もレオナスが参加している反獣王組織が問題を起こしてるとも聞いている。

 だからこそプリムは、国の安定のためにも、アミスターに統治してもらいたいって考えているわけだ。


「獣王は王爵制を廃止して国内の安定化を図ろうとしてるけど、レオナスは何がしたいのか分からないのよね。兄のタイラス王子なら、先代や先々代の路線を踏襲したと思うけど」


 マナが顎に右の人差し指を当てながら考え込むが、そっちもあったな。


 獣王は5人いる王爵を廃止し、別の爵位を与えたいと考えている。

 国内に王が複数いることは望ましくないって考えらしいが、それは俺にも理解できなくもない。

 だから王爵制の維持を訴えてる反獣王組織ができたりしたんだが、その反獣王組織はレオナスの存在に関係なく立ち上がってたし、協力していた東と西の王爵が離反したとなると、王爵達にもそれぞれの思惑があったってことになる。


 レオナスが反獣王組織に参加したのは、正当な王位継承者としての大義名分と組織の旗頭、ドラゴニュートハーフ・ハイタイガリーっていう個人戦力が大きいためだが、本人の言い分は簒奪された王位の奪還と不当に処刑されたハイドランシア公爵の仇討ちだと公言している。

 だが反獣王組織が拠点にしているとされる街や活動をしていた街では、少なくない数の女が消えたって話もある。

 消えた女はレオナスに差し出され、興味を失った後は殺されたって噂まであるくらいだ。

 真否がどうであれ、そんな噂が立ち登った時点でレオナスが王位に就くのは致命的なんだが、噂は減るどころか増える一方だから、マジで何を考えてるのかが分からない。


「残念だけど、ハンターズギルドにも噂ぐらいしか入ってこないのよ。ただ最近入ってきた噂だと、北の王爵は軍備を整え出したらしいの」

「北の王爵が?」

「ええ。もっとも噂だから、真偽のほどはわからないんだけど」


 北の王爵っていうと、確か領地には、ソレムネやアレグリアとの国境があるらしい。

 内海に遮られてるとはいえ、対岸は遠くないから、ソレムネがバリエンテに進軍する場合、必ず北の王爵領が標的になるんだよな。

 普通ならソレムネに何か動きがあったのかとも思うが、時期が時期だから判断が難しい。


「北の王爵か。あの人は獣王の友人でありながら、現状を静観するって明言してたはず。だから獣王と反獣王組織の争いにも不干渉を貫いてるって聞いてるんだけど……」

「ハイドランシア公爵の処刑は分からないけど、獣王も現状を理解していながら援軍養成の類はしてないわね。何か考えがあるからだとは思うけど、友人だっていうなら獣王が協力要請ぐらいしてもいいものだけど」


 フロートで聞いた話じゃ、ハイドランシア公爵の処刑には関与してないって話だが、それでも獣王の友人だって話は出ていた。

 普通なら、今の状況を考えれば獣王に協力するために兵を派遣したりしても良さそうなもんだが、そんな気配は一切なかったし、獣王も協力を要請するつもりがなさそうだって話だったな。


「ソレムネに備えてっていう可能性が一番高いんだけど、時期が時期だものね。協力を拒まれた反獣王組織が、北の王爵に圧力をかけてる可能性もあるし」


 それが一番面倒だ。

 もし反獣王組織が北の王爵に圧力をかけてたりしたら、迎撃か迎合かが選択肢に上がるが、話を聞いてた限りじゃ北の王爵が迎合するとは思えない。

 そうなると迎撃するしかないんだが、それは必ず大きな隙になるから、ソレムネが見逃すはずがない。

 ソレムネの介入は獣王にとってもレオナスにとっても望むところではないと思うんだが、レオナスの考えが分からないから、絶対にないとは断言できないな。


 ダメだな。

 そもそも情報が少なすぎるし、噂程度って話なんだから、これ以上は何を話してもまとまらない気がする。

 バリエンテの状勢は気になるが、もう少し情報がないと推測も難しい。

 それにバリエンテの話をするために来たわけじゃないんだから、一度話を戻そう。


「面倒ではあるが、北の王爵がどう動くかはまだ分からないんだし、一度話を戻した方がよくないか?」

「そうね。バリエンテのことは気になるけど、あたし達がここで考えても仕方がないわ。それにいくらレオナスでも、北の王爵領に攻め込むとどうなるかぐらいはわかってるはずだし」

「いいの、プリム?」

「良いも悪いもないわよ。前にもあったでしょ。下手に考えすぎると悪い方にばかり考えがいっちゃうから、ロクなことにならないわよ」


 あの時とは状況が違うが、それでも考え過ぎは体に毒だからな。

 今のプリムが、勝手に飛び出してバリエンテに向かうことはないと思うが、それでも思い詰めすぎるとどうなるかは分からないんだから、多少無理やりでも話を変えないといけない。


「大和さん、プリムさんのことをよく見てますよね」

「ホントですね。分かっていたことですけど、やっぱり妬けてしまいます」

「ちょっ!!」


 ミーナとフラムに揶揄われて真っ赤になるプリム。

 2人が揶揄うのは珍しいが、それなりに付き合いも長くなってきたから、やっぱり分かるんだろうな。


「まったく、そこまで心配してもらえてると、逆に羨ましくなるわね」

「本当です」

「同感ですね」


 溜息を吐きながらも苦笑するのはマナ、ユーリ、リカさんだ。

 何だかんだ言っても、みんなしっかりプリムのことを見ているな。

 逆もしかりなんだが、俺ももっとしっかりしなきゃって気持ちになってくる。


「はいはい、ご馳走様。それじゃ話を戻させてもらうけど、基本的にあなた達の依頼や査定は、私が処理します。でも必ずは無理だから、できれば誰か1人、職員にもサポートを頼みたいの。構わないかしら?」


 一気に話が戻ったな。

 だけど元々はそっちの話をしたかったわけだから、こっちとしても望むところだ。


「それなら、レミーっていうドラゴニュートにお願いできますか?」

「レミーを?理由を聞かせてもらえる?」


 ドラグニアに来たばかりの俺が、個人を指名するとは思わなかったって顔だな。

 それも当然だが。


「ええ。リディアとルディアの友達ってことなんで、俺達も話やすいんですよ」

「そういうことね。他のみんなも異論はないかしら?」


 全員がカナメさんに頷く。

 元々担当を付けるとしたら、レミーにしようって簡単にだが話してたからな。


「分かったわ。それじゃレミーを呼ぶけど、担当になる以上、この内容を伝えることになる。それは構わないのよね?」

「構わないわ。そうじゃなかったら、ライセンスを確認してもらうこともできないし」


 ハンターズライセンスに登録されてるクエスティングの情報を、魔導具の地図に登録させる協会魔法ギルドマジックがあるらしいが、職員でないと使えないし、何よりハンターズライセンスが必要なんだから、確認できなかったら問題にしかならないしな。


「確かにね。それじゃ呼んでくるから、少し待っててね」

「わかりました」


 担当もあっさり決まり、カナメさんはレミーを呼ぶために退室した。

 残ったのは俺達だけだが、そんなに時間も掛からないだろうから、のんびりと待たせてもらおう。

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