庭園にて
Side・マナリース
プリムと再会したことで、ようやく穏やかに眠れることが出来る。
そう思ってたんだけど、今日もよく眠れそうもないわ……。
なんでなの?
「決まってるではありませんか。プリム様とご結婚されたエンシェントヒューマン、ヤマト・ハイドランシア・ミカミ様。あの方に懸想しているからですよ」
私の侍女をしているSランクバトラーのマリサに言い切られて、私はすごく動揺した。
「ふぁいっ!?わわわ、私が!?あんな優男に!?ないないないない!絶対ない!!それにあいつは、ユーリとも婚約するかもしれないのよ!?」
確かに大和はエンシェントヒューマンだし、プリムに勝った男だから興味があるのは認めるわよ。
聞けばフィールを救い、レティセンシアのスパイやハンターを捕らえたのは彼らしいし、ユーリだって助けてくれたって聞いてる。
見た目はそうは見えないけど、見た目に騙されるなんてのは三流ハンターのすることよ。
見た目に騙されて命を落としたハンターなんて、星の数ほどいるんだから。
って言うか、マリサったらなんてこと言うのよ!?
いくらなんでも妹の婚約者になるかもしれない男に恋慕するなんて、そんなことあるわけないじゃない!
それに私があんな男に……その、懸想してるなんて!
いったい何を根拠に、そんなこと言うのよ!?
「それは簡単です。姫様がここまで男性に興味を持たれたことは、今まで一度もありません。フロートのハンターはもちろん、ホーリー・グレイブの方々にだって、素っ気なく接していたではありませんか」
確かにホーリー・グレイブはもちろん、フロートにも私より強い男の人はいるわ。
言い寄ってくる人もいなかったわけじゃないけど、私は強くなるためにハンターになったんだから、そんな輩は端からノーサンキューよ。
「何よりあのプリム様が骨抜きにされているわけですから、姫様が興味を持たないわけがありません。その興味が憧れに変わり、まだ見ぬあのお方への思いが募り、そして恋慕の情に変わったんですよ」
……そう言われると、自分でも心当たりがないわけじゃない。
確かにプリムがメロメロになってたし、フレデリカ侯爵や他の婚約者達だってぞっこんなんだから興味がないわけじゃないけど、だからってあいつはプリムの夫でフレデリカ侯爵の婚約者でもあって、さらにはユーリの婚約者候補でもあるのよ。
もし私が本当に恋してたとしても、そんなことが許されるわけがないわ。
「ユーリアナ殿下やフレデリカ侯爵に遠慮なさっておられるのでしょうが、何を気にされることがあるのですか?前例だってあるのですよ?」
前例?
そんなの、どこにあるのよ?
「ハイウインド家の双子です。実の双子の姉妹が、同じ相手と婚約しているではありませんか」
確かにそうだわ。
バレンティア最強竜騎士の双子の娘、リディアとルディア。
あの子達が婚約したのは2,3日ぐらい前らしいけど、それでも正式に婚約してるのは間違いない。
私のお母様は第一王妃、ユーリのお母様は第二王妃だから、ユーリとは血が繋がっているとはいえ、ハイウインド家の双子と比べれば半分になる。
その双子も同じ相手と婚約してるんだから、私もそこに入ってもおかしくはないわよね?
……はっ!わ、私ったら何を考えてるの!?
「ほら見なさい」
勝ち誇った顔をするマリサが腹立たしいわね。
だけど私は第二王女でユーリは第三王女。
同じ相手に嫁ぐことなんて、絶対に出来ないのよ。
「そこは考え方次第ではないかと」
「どういうことよ?」
「姫様がお気になさっておられるのは、王位継承権のことでしょう?でしたら……」
私の王位継承権は第二位。
王位なんかには興味ないけど、王家に生まれた者として、そんなことを言うわけにもいかない。
今のところ、王位は一位で王太子のラインハルト兄様が継ぐことになっているけど、万が一のことが起きてしまえば、私が王位に就かなければならない。
もしそんなことになってしまえば、私は王配として相応しい人と結婚しなければならない。
そこには私の意志は反映されないし、ハンターと結婚するなんて絶対に無理。
だからマリサの考えは、私にとって盲点だったわ。
さすがにそんな簡単にはいかないだろうけど、可能性はあるし、父様や大臣とかも無視は出来ないと思う。
プリムがどう思うかが気になるところだけど、ユーリのことは受け入れてくれてるみたいだから、後は私からしっかりと話して、他の婚約者共々説得するしかないわね。
Side・大和
王都に到着した翌朝、俺達は今日の予定を宰相のヒューマンの女性、ラライナ・ペルレールさんから聞かされていた。
「陛下との謁見は2時からとなります。それまではマナリース殿下、そして王太子ラインハルト殿下がお相手を致します。それとその謁見では、明日の式典の打ち合わせも含まれております」
式典?
そんな予定、聞いてないんだが?
「すいません、その式典って?」
「あなた方の功を称える式典に決まってるではありませんか」
そんなの当然でしょ、とか、なんで知らないの、なんていう視線を向けられてしまった。
こっちは聞いてないから知らないし、何が当然なのかもわからないんですが?
「いいですか。あなた、そしてプリムローズ様は、フィールをレティセンシアの魔手から救われたのですよ?さらにユーリアナ殿下のお命も救い、その上多くの異常種や災害種すら倒されているのです。これを称えずして、何を称えろと言うのです?」
ぐうの音も出ない……。
「ご理解いただけたようですね。では続けますが、ユーリアナ殿下はあなたとの婚約を望んでおられますし、陛下もお認めになられました。ラインハルト殿下もマナリース殿下も、あなたがユーリアナ殿下と婚約をされるという前提でお話をされることになりますから、楽にされても問題はありません」
あー、そっちも決定しちゃいましたか。
いや、まあ、可能性が高いって話は聞いてたし、俺もそうなるんじゃないかな~って何となく思ってたから、今更変にグズッたりタラタラ文句を言ったりはしないけどさ。
「陛下との謁見ですが、皆様はハンターですので、普段の装備で構いません。特にドレスとかをお召しになる必要はありませんが、希望されるようでしたらもちろん構いませんよ」
それはありがたい。
特に俺とラウスは正装なんて持ってないから、用意しろとか言われたら、街まで走らないといけないところだった。
そんなわけで朝食後、俺達は天樹城の庭園に案内されたんだが、そこにはユーリアナ姫をはじめ、マナリース姫、ラインハルト王子も待っていた。
「待っていたよ。私がアミスター王国第一王子で王太子のラインハルト・レイ・アミスターだ」
爽やかなイケメンエルフ王子が、にこやかに挨拶をしてきてくれた。
「そしてこっちが私の妻達、第一王太子妃のエリス、第二王太子妃のマルカだ」
エルフとアルディリーのお姫様が優雅に頭を下げてくるが、アルディリーのマルカ様はなんかぎこちない感じがするな。
「あはは~、ごめんね。あたしはハンターだし、一般の出でもあるから、こういうのは慣れてないんだ」
とはマルカ様の談。
現役ハンターなのかよ。
というか王太子のお妃様がハンターってのは、色んな意味でマズくないか?
「心配してくれるのはありがたいが、マルカは私が懇意にしているトライアル・ハーツのリーダーの妹でもある。トライアル・ハーツはホーリー・グレイブに並ぶアミスターのトップレイドだから、手を出してくるような輩はいないさ」
そういう繋がりなのか。
「プリム、無事でなによりだ。エドも元気そうだな」
「お久しぶり、ライ兄様。エリス姉様やマルカ姉様も」
「思ったより元気そうですね」
「だね。結婚したことは驚いたけど」
「お久しぶりです、殿下」
プリムはマナリース姫を訪ねて王都に来た際、エドはリチャードさんが国王陛下の師匠だから、その関係で王家の方々とも面識がある。
マリーナもそうなんだが、フィーナは初対面だから、かなり緊張してるな。
「マリーナがエドと結婚するのはわかっていたけど、こっちのハーピーの子は初めてだよね?」
「そうね。でも可愛い子」
「え?あ、そ、その……ありがとうございます……」
王太子妃のお2人に褒められて、真っ赤になるフィーナ。
このままだと馴れ初めも白状させられそうな流れになりそうだな。
「こんなところで立ち話をしなくてもいいだろう。席を用意してあるから、案内しよう」
ラインハルト王子に案内されて、庭の一角に設けられたテラス席に向かう。
天樹城ってその名の通り天樹の中にあって、このテラスも幹に作られているんだが、少し出っ張ってるとこを利用してるから、思ってた以上に見晴らしがいい。
席につくと、女性陣は互いの馴れ初めを暴露しあってるな。
そこに踏み込むのが地雷なのは分かりきってるから、俺達はあえて聞こえない振りをして、狩りや工作の話で無理矢理盛り上がることにした。
後で聞いた話だが、エリス様は子爵家の三女なんだが、兄が2人、姉が2人もいるため、ハンターとして生きていくことを決めて王都にやってきたそうだ。
そこでたまたま登録に来たラインハルト王子に出会って一緒に登録することになり、その後も何度か一緒に狩りに行ったりしていたらしい。
ラインハルト王子は、ハンター登録をする時点でトライアル・ハーツにサポートを頼んでいたため、その縁でエリス様も一緒に行動することが多くなり、レイドにも加入したそうなんだが、ラインハルト王子がトライアル・ハーツを選んだ理由は、既にマルカ様と恋仲で、妃の1人に迎える約束もしてあったからだ。
マルカ様もトライアル・ハーツのリーダーも貴族じゃない一般の出だから、次期国王の妃としてはあまりよろしくない。
だけど次期国王だからこそ後継ぎも望まれるわけだから、マルカ様は2人目以降ということで陛下も許可を出してくれたんだが、そうなると誰を第一王子妃にするかという話が持ち上がる。
マルカ様と結婚するには、先に貴族の誰かと結婚しなければならないから、その話は瞬く間に貴族の間に広まり、適齢の娘を持つ家のほとんどが自分の娘を進めてきたそうだ。
だがマルカ様は、エリス様がラインハルト王子に惚れていて、さらには貴族の出だということに目を付けた。
何度も一緒に狩りに行って気心も知れていたし、ラインハルト殿下を巡るライバルだと認識していたからこそ、多くの妃候補達を丸っと無視して、エリス様の実家でもあるウーズバルト子爵家を訪ね、無理やりエリス様を引っ張り出してきたそうだ。
王家と子爵家では身分が違いすぎると諦めていたエリス様だが、相手に見初められれば話は変わるし、マルカ様もエリス様以外は認めるつもりはなかったそうなので、陛下も認め、そのまま結婚することになったらしい。
ある意味シンデレラストーリーだが、けっこう破天荒な人だな、マルカ様って。
「マルカには感謝してるけど、今でも他にやりようがあったんじゃないかって思ってるの」
とはエリス様の弁だが、それは後になって言えることだよなぁ。
「それと、既に宰相から聞いてると思うが、父上は君とユーリの婚約を認めることになった。結婚は3年程先になるが、大事にしてやってほしい」
「もちろんです」
聞いてはいたが、王子様からもそう言われるってことは、間違いなく確定だな。
だけどここで話が出たんなら、逆に丁度いいかもしれない。
「失礼します。殿下、グランド・クラフターズマスターが奥様方とお越しになられています」
「グランド・クラフターズマスターが?ああ、エド達に会いに来たのか。お通ししてくれ」
「かしこましました」
まだクラフターズギルドには行けてないから報告は出来てないんだが、エド達が来たってことは知ってるはずだから、待ちきれなくなったのかもしれないな。
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