王女との再会

Side・プリム


「プリム!良かった、無事で……」


 王城に登城したあたし達は、というかあたしは、到着した瞬間に1人の女の子に抱き着かれた。

 腰まで届く美しいプラチナブロンドの髪、ハイエルフと見間違うほどに白い肌、エルフにあるまじき大きさを誇る2つの双丘を持つ絶世の美女。

 あたしも容姿には自信があるけど、この娘と比べるとどうしても見劣りしてしまうって思うのよね。


「プリム、知り合いか?」


 いきなり抱き着かれて驚いてるあたしに、大和が声を掛けてきた。

 というか、大和もどう対応していいのか分からないって感じね。


「落ち着いてよ、マナ。色々あったけど、あたしは元気だから」

「人に散々心配かけておいて、言う事はそれだけなの?」


 そりゃごもっともなんだけど、あたしにだって事情はあったのよ?

 軽々しく連絡なんて、出来るわけないじゃない。


「落ち着いてください、マナリース殿下」


 リカさんが落ち着かせようと声を掛けて、やっとあたしから離れてくれた。


 この子がアミスター王国第二王女であたしの幼馴染、マナリース・レイナ・アミスターなんだけど、レベル41のSランクハンターでもあるから、見た目の可愛さ、綺麗さに騙されると痛い目見るわよ?


「フレデリカ侯爵……あなたも知ってたのよね?」

「私はフィールの領代ですから、さすがに。もっとも、それだけでは知らなかったでしょう。彼女、そして彼が立てた空前絶後の功績がなければ」


 空前絶後の功績って、それは言い過ぎ……とも言い切れないか。


「何よ、それ……。っていうか、彼ってそこのヒューマンよね?って、もしかして彼が……」


 大和に視線を向けたマナだけど、なんか目の色が変わってない?

 微妙に恋する乙女みたいな感じになってるんだけど?

 まあいいか。


「ええ、ヤマト・ハイドランシア・ミカミ。あんたのひいおばあ様と同じ客人まれびとで、あたしの旦那様よ」

「私の婚約者でもありますね」

「どうも、ヤマト・ハイドランシア・ミカミです」


 あたしは大和の右手、リカさんは大和の左手と腕を組みながら紹介したら、ものすごく驚かれた。

 客人まれびとはマナの曾祖母サユリ・レイナ・アミスター様が最後だって言われてるし、その方の知識はアミスターはもちろん、ヘリオスオーブにとっても大きな発展をもたらしてくれたのよ。


 大和も瑠璃色銀ルリイロカネ翡翠色銀ヒスイロカネ青鈍色鉄ニビイロカネっていう合金を、エドに手伝ってもらって完成させている。

 魔法に関しても奏上魔法デヴォートマジックイークイッピングとステータリングを奏上してるし、工芸魔法クラフターズマジックメルティングもアドバイスを送ってるわ。

 あたしも大和の知識のおかげで新しい羽纏魔法 極炎の翼を固有魔法スキルマジックとして完成させたし、切り札もいくつか出来てるしね。


「旦那って……確かに手紙には書いてあったけど、本当だったのね……。って言うか、フレデリカ侯爵まで婚約したって、いったいどういうこと!?」


 そっちに驚くワケ?


「自分より弱い男とは結婚しないって、あれだけ豪語してたあなたが結婚したって知らされたら、誰だって驚くわよ。ということはそっちの……大和だっけ?大和はあなたに勝ったってこと?」

「勝ったわよ。というかマナ、あんたは自己紹介しなくてもいいの?」


 色々と話したいことはあるけど、まずは自己紹介したげてよ。

 大和だけじゃなく、みんなもさっきからどう反応していいか困ってるんだから。


「え?あ、ああ、ごめん。ご挨拶が遅れました。私はアミスター王国第二王女 マナリース・レイナ・アミスターと申します。どうぞ、お見知りおきを」


 さすがは王女様、礼儀正しいわね。

 どこぞのバカ姫にも見習わせたいもんだわ。


「あー、はい、その、こちらこそよろしくお願いします」


 大和が面白いぐらい動揺してるわね。

 大和の世界に王族や貴族はいないって話だけど、刻印術師の間じゃ絶対的な存在がいるって聞いてる。

 確か七師皇しちしこうって言って世界最強の7人の刻印術師を指す言葉で、大和じゃ逆立ちしても勝てないぐらい実力に差があるそうよ。

 大和のお父様も、その七師皇の1人らしいわ。


「ごめんなさい、普通にしてもらって大丈夫よ。私もハンターだし、フィールに行ってもらったホーリー・グレイブ以外にも、それなりに仲の良いハンターはいるから」


 それはそうでしょうね。

 ホーリー・グレイブと懇意にしてるとはいえ、レイドを組んでるわけじゃないから、毎回一緒に行動出来るとは限らない。

 それに簡単な依頼なら、顔見知りと一緒に行くことだってある。

 しかもマナは狩人姫ハンタープリンセスと呼ばれていて、王都でも有名なんだから、マナと一緒に狩りに行くなんて、ハンター達が喜ぶに決まってるわ。


「お姉様、いつまでもこんな所でなんて、皆様に失礼です」

「あ、ごめん、ユーリ。そうね、すぐに案内するわ」


 あたし達がいるのは、王城の門を潜ったばかりの所。

 確かに長話をするような所じゃないし、マナと再会出来たんだから、場所を移すのは賛成。


 アミスターの王城は巨大な樹の中に作られていて、その名を天樹城という。

 巨大な樹は世界樹と呼ばれていて、その数は父なる神を含めたバシオン教の神と同じ13本で、フィリアス大陸に点在している。

 中でも王都フロートにある世界樹は一際巨大で、大世界樹、あるいは天樹とも呼ばれているわ。


 他の12本の世界樹だけど、これも数百メートルはある巨大な樹よ。

 そして普通の樹と同じような大きさの、小世界樹っていうのもある。

 桜色をした花を通年咲かせていることから、小世界樹は桜樹とも呼ばれている。

 フィールにもあるんだけど、桜樹は木材としては最高峰の物だから、トレーダーズギルドによって厳正に管理されているの。


 世界樹がある場所は様々だけど、多くは難所とされている地の奥にあると言われている。

 トラレンシアの世界樹はゴルド大氷河の中央にある、マグマの煮えたぎった湖に浮かぶセリャド火山にあるし、リベルターは雲の上にまでそびえ立つテメラリオ大空壁だいくうへきの天辺に、バリエンテはガグン大森林の奥地に、アレグリアはエニグマ島の中央に、バレンティアはドラゴニアンの聖地になっているウィルネス山の山頂とソルプレッサ連山中央にあるアモール湖の中央ね。


 レティセンシアとソレムネの世界樹は難所ってわけじゃないけど、どちらも湖の中央の島にある上、この二国はバシオン教を信仰していないし、世界樹も巨木としか見ていないわ。


 バシオン教国の世界樹は教都エスペランサにあって、エスペランサ大神殿は世界樹の中を使う形で建立されているため、ものすごく大事にされていることから考えると、ものの見事に対照的よね。


 そしてアミスターには、天樹を含めて残り4本の世界樹がある。

 天樹以外の3本だけど、1本はボールマン伯爵領のガリアという街に、もう1本はアミスター中央にあるイデアル連山の山頂、そして最後の1本はマイライト山脈の山頂にあるって言われているわ。


 この世界樹は、どうやって判断してるのかは分からないけど、国境線の変更があった場合でも何故かそれを認識してくれるらしく、国内の気候なんかを合わせてくれる働きがあるみたいなの。

 かつては国内に世界樹がなかった国もあるんだけど、そういった国々は一番近い世界樹に影響を受けていたらしいわ。

 その環境の変化が人間にも影響を与えて、国民性なんかが作られていくと考えられているの。

 だけどその説でいくと、レティセンシアやソレムネがなんであんな国民性、国風になってるのかが分からないのよね。


 そんなことを考えながら、あたし達は天樹城の一室に通された。


「お父様との謁見は明日になるわ。今日でもいいと思うんだけど、レティセンシアとの問題があるから、今はそちらにかかりっ切りなの。ああ、安心して。プリムとアプリコット様の亡命は、すぐに全土に通達するから」

「それはありがたいんだけど、あんたも聞いてるんじゃないの?獣王と反獣王組織が反発しあって、下手をしたら内乱に発展するかもしれないってことを」


 部屋に入ると、マナ付きの侍女をしているヴァンパイアのマリサが、すぐにお茶を入れてくれた。

 マリサは王都のバトラーズギルドから派遣されている、Sランクバトラーなのよ。


 執事や侍女なんかの教育、派遣を行うバトラーズギルドは、トラレンシアに総本部を置くギルドよ。

 登録する人の身分を問わないのはバトラーズギルドも同じなんだけど、逆にバトラーズギルドだからこそ、王家とかが登録することは出来なくなっているわ。

 人に仕える教育をするんだから、王家が登録する意味なんかどこにもないしね。


 バトラーズギルドもTランクからスタートになるけど、登録してから3年間は作法や言葉遣い、文字の読み書きをみっちりと教育されるから、ランクが上がることはない。

 卒業すると、自動的にIランクに昇格することになっている。


 もちろん卒業して、それで一人前になるわけじゃない。

 Tランクの3年間で教えられることは必要最低限のものしかないから、卒業後はバトラーズギルドを通じて自分で勉強して、技能を身に着けることになっている。

 1つでも習得すればCランクになれるけど、技能を身に着けるのはかなり大変だから、多くても2つか3つっていう人がほとんどらしいわ。


 そしてCランクになると、ようやくバトラーズギルドから派遣されることを認められる。

 Cランクバトラーは派遣される期間も短いけど、何回か派遣されて何も問題がなければBランクに昇格するわ。

 Bランクも同じく派遣を繰り返すことでSランクに昇格するけど、ここま出来てやっと一人前と認められるそうだから、バトラーズギルドもかなり大変よね。


 ただバトラーズギルドは信賞必罰がしっかりとしていて、致命的なミスをしたり、仕えた家に多大な迷惑をかけたり、損害を出したりした場合、非がバトラー側にあると判断されてしまうと即座にランクダウンしてしまい、Iランクに降格した場合は除名処分が待っている。

 逆にGランク以降のランクアップには、仕えている家の推薦と習得している技能の数が一定数必要になるそうよ。


 つまりマリサは一人前のバトラーということで、数年前にマナが見初めて侍女にしているの。

 確かグランド・バトラーズマスターはAランクバトラーだったはずだけど、どんな人なのか全然想像出来ないわね。


 あと、前に大和が、メイドなのにバトラーなのはなんでだ、って叫んでたけど、昔からそういう呼称なんだから知らないわよ。


 当然ユーリにも侍女はいるんだけど、その子は今もユーリに付き従ってるわ。

 タイガリーのBランクバトラーで、名前はヴィオラって言うの。

 フィールじゃアーキライト子爵家のバトラーが対応してくれてたから、ヴィオラも休暇ってことで、バトラーズギルドで勉強してたそうよ。


「勿論知ってるわよ。レオナスのことだからプリムとの婚約をでっち上げて、強引に自分のものにしようとするだろうことも、とっくに予想済み」


 レオナスの女癖の悪さは有名だし、何度もあたしに決闘を挑んできたんだから、それぐらいはすぐに予想出来るか。

 でもそれを織り込み済みってことは、何か考えてることがあるってことよね?


「何か考えがあるのですか、お姉様?」

「ええ。お兄様と婚約してもらうつもりだったの。もちろん名目だけで、後で破棄してもらうことを前提にだけどね」


 そんなこと考えてたの?

 だけどそんなことを公表したりしたら、絶対にアミスターも巻き込まれるわよ?

 というか、大和が面白くなさそうな顔してるんだけど?

 魔力が漏れてるから、けっこう怒ってるわよ?


「だけどこれは、プリムが結婚してないことが絶対条件だったから、この案はボツね。だからそんなに怒らないでくれる?漏れた魔力も怖いんだから」

「あ、すいません」


 それは良かったわ。

 あたしとしても、今更他の男と婚約なんて、それが名目上だけだとしても絶対にイヤだし。


「だけど、プリムがそこの大和と結婚してるっていう事実は、お兄様と婚約するより都合が良いわ。なにせエンシェントヒューマンなんだから、大体的に広めることで、アミスター所属だってことも明らかに出来るし」


 大和を政治利用するってことだけど、ユーリとの婚約だって似たようなものよね。

 それに変に横槍なんて入れたりしたら、エンシェントヒューマンにケンカを売るようなものなんだから、普通なら国でも二の足を踏む。

 実際大和なら、一軍が相手でも圧倒出来るだろうし。


「大和、どう思う?」

「それぐらいなら構わない。正式にアミスター所属ってことになるけど、フィールの人達には世話になってるし、リカさんやミーナ、フラムとも婚約してるからな。もちろん、バレンティアに何かあったら、そっちにも手を貸すつもりはあるが」


 リディアとルディアのフォローも忘れない大和、素敵よ。


「そう言ってくれると助かるわ」


 ニッコリと、素敵な笑顔を大和に向けるマナ。

 もしかしてなんだけどこの子、あたしが送った手紙を見てから大和に興味を持って、それが恋慕になったってことなんじゃ?

 会えなかった分だけ想いが募って恋心になるってこともあるって聞いたことあるけど、まさかマナがそんなことになるとは思わなかったわ。


 どうなることかしらね、これは。

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