瑠璃色銀の武具

Side・ルディア


「タイミングが良いのか悪いのか、すげえ悩むところだな……」


 アルベルト工房に入ってすぐに、大和とプリムが伝えた内容を聞いて、エドが頭を抱えた。

 あたし達だって話を聞いた時は頭を抱えたから、エドの気持ちはすごくよく分かる。


「そんなことを言うってことは、俺とプリムの武器は出来てるってことか?」

「まだ微調整は必要かもしれねえが、そう聞いてるな。それにしても、ここでオーク・キングにオーク・クイーンとか、呪われてんじゃねえか?」

「それは俺か?それともフィールか?」

「知らねえよ。ともかくじいちゃんを呼んでくるから、少し待ってろ」


 どっちが呪われてても、あんまり大差ないよね。


 だけど大和とプリムの武器が出来てるっていうのは、間違いなく朗報だよ。

 翡翠色銀ヒスイロカネでも問題はないと思うけど、瑠璃色銀ルリイロカネの方がワンランク上だから、戦力が上がるのは間違いないしね。


「確か瑠璃色銀ルリイロカネって、魔力強度が少し低いだけで、他は神金オリハルコンと同じなんでしたよね?」

「そうだよ。魔力伝達率は少し落ちるけど、強度と硬度は翡翠色銀ヒスイロカネより上だから、間違いなく2人の戦力アップになる」


 姉さんの疑問に、マリーナが答えてくれた。

 クラフターも同じ意見だし、今使ってる翡翠色銀ヒスイロカネの武器は予備にできるからっていうのもあるよね。


「そうだね。瑠璃色銀ルリイロカネは、まだ未知数だから。ましてや今回は、アライアンスでオークの集落に行くんだから、予備があって困ることはないよ」

「俺もそう思う。だから瑠璃色銀ルリイロカネ製の武器が出来てなかったら、翡翠色銀ヒスイロカネで予備を打ってもらうことも考えてたからな」


 ストレージに魔銀ミスリルの武器はあるみたいだけど、そっちは何度も壊してるそうだから、大和やプリムからしたら予備にはならないってことなのか。

 ハイクラスはもちろん、エンシェントクラスへの進化には憧れるけど、何度も武器を買い替えないといけないから、すごくお金がかかるんだなぁ。

 だけど翡翠色銀ヒスイロカネ青鈍色鉄ニビイロカネが正式に公表されたら、そんなこともなくなるかもしれない。


「なくなるでしょうね。初期費用こそかかるけど、ハイクラスならすぐに用意できる金額だし、長い目で見れば安い買い物なのは間違いないから、すごく人気もでると思います」


 フィーナは奴隷からは解放されて、今朝正式にエドと結婚したんだけど、クラフターズマスターの秘書は続けてるから、その手の話も聞かされてる。

 ちなみにマリーナとは、昨日結婚してるよ。

 本当なら今晩、みんなでご飯にでも行くつもりだったんだけど、ちょっと難しいかもしれない。


「あ、大和さん。獣車ですけど、後は微調整だけなので、明日にはお渡しできます。泊まり掛けになるかもしれませんから、持っていかれますか?」

「ああ、出来たのか。ありがとう。そうだな、一応持っていくよ」

「その方が良いわね。一応テントはあるけど、居住性を追求した獣車には劣るから、泊まりになったら使わせてもらうわ。みんなには悪いけど」


 あ、完成したんだ。

 だけど遠慮することはないよ。

 元々その獣車、大和とプリムの稼ぎだけで作ったようなもんなんだから。

 みんなも同じ考えで、遠慮するなって言ってるしね。


「待たせたな。エドから話は聞いておる。またしても厄介なことになっておって、それを君達に何とかしてもらうことになるとは、フィールに住む者として申し訳なく思うと同時に、深く感謝しておる」

「ハンターとしての仕事でもあるし、フィールのことは気に入ってますからね」


 エドと一緒に工房から出てきたリチャードさんが、申し訳なさそうに口を開いたけど、大和は当たり前のように返した。

 中には恩着せがましくしたり、横柄な態度を取るハイクラスだっているのに、大和はそんな奴らとは違って丁寧だし、礼儀正しいから、フィールのみんなからもすごく信頼されているよね。


「そういってもらえると、ワシとしても嬉しいぞ。っと、先に渡しておこう。これが瑠璃色銀ルリイロカネ製の刀、そして槍じゃ。あとはお主達に合わせての微調整じゃから、少し持ってみてほしい」

「わかりました」


 大和は刀を受け取ると、装飾が施された瑠璃色の鞘から抜き放った。

 うわ、凄く綺麗……。


「……凄いな。初めて持ったのに、今までずっと使ってたみたいな感じがする」


 大和の刀は翡翠色をしていて、そこに緋色の蔦が絡みついているような刀身をしている。

 ガードは涙滴型?をしてるけど、そんなに大きくない。

 大和が言うには、突いたりした時に手が刃の方に滑らないようにするための物らしいから、攻撃を防ぐことが目的じゃないんだって。

 鞘の装飾は、鞘の口辺りには、なんか変な玉みたいなのが絡み合ってるように見えるけど、それ以外はそんなに派手じゃない。

 え?太極図っていうの?

 知らないよ、そんなの。


「あたしもよ。試作のハルバードも凄かったけど、これはそれ以上だわ」


 プリムの槍も、凄く綺麗だ。


 プリムの槍は、プリムの翼を模した斧刃が一対、フォクシーの尻尾のような装飾を施された鉤爪が1つ、刺突に特化したランス状の石突き、そして穂先はショートソードと同じぐらいの長さを持った、切り払いも可能なスピアになっている。

 プリムの希望で緋色が基本になってるけど、穂先や石突き、鉤爪は薄い銀色がかった紅色、一対の斧刃は真っ白に染められていて、遠目からは純白の翼のように見える。


「どうじゃな?」

「魔力の流れも、試作よりスムーズに感じますし、何よりずっと使ってきた相棒って感じがします」

「あたしも同じよ」


 大和もプリムも、凄く嬉しそうだ。

 プリムなんて、凄い勢いで尻尾が左右に振られてるよ。


「そう言ってもらえると、ワシとしても嬉しいわい。これでやっと、エビル・ドレイクの討伐依頼は完了じゃな」


 そう言って笑うリチャードさん。

 そういえばエビル・ドレイク討伐の報酬って、リチャードさんが打つ剣と槍だっていう話だったんだっけ。

 あたし達がフィールに来る前だけど、その話は街でも噂になってるから、よく聞かされてたな。


「すっかり忘れてたけど、そういえばそうだったのよね」

「長いこと待たせてしまったからな。まあ瑠璃色銀ルリイロカネに日本刀の製法と、ワシでさえ初めての技法を使っているんじゃから、それは勘弁してもらいたい」

「何言ってるんですか。待った甲斐があるってもんですよ」


 合金も刀の作り方も、大和の世界の技術なんだってね。

 いくらアミスター1の鍛冶師でも、そりゃ時間ぐらい掛かるよ。


「では最後に、この刀と槍の銘を決めてくれ。それで初めて、これらは完成となる」

「それって、俺達が決めてもいいんですか?」

「無論じゃ。武器は銘を付けて、初めて完成する。普通ならワシらが付けるんじゃが、これらはお前さん達のための武器じゃ。銘を付けるのに、お前さん達以上に相応しい者はおらん」


 オーダーメイドの武器は使い手の魔力に合わせて作られているから、使い手が銘を付けることで武器との繋がりを強めてくれる。

 って、リチャードさんが教えてくれた。

 なるほど、だから使い手が、自分で銘を付ける必要があるんだ。

 ということは、あたし達の武器も、あたし達が銘を付けなきゃいけないってことになるんだよね?

 今からでも考えておかないといけないな。


「なるほどね。ならあたしは……スカーレット・ウイングにするわ」

「良い名前だな。翼は白いけど、槍自体は希望通り緋色だ。それに極炎の翼もあるから、ピッタリだと思う」

「ありがと。大和はどうするの?」

「俺は瑠璃銀刀るりぎんとう薄緑うすみどりだ。由来は刀身の色だけど、俺の世界に実在している刀の銘を使わせてもらった」


 どっちも見た目通りだけど、良い名前だね。

 試し切りができないのが唯一の不安だけど、それは道中でどうとでもなるか。

 あたし達はついていけないから、フィールで無事を祈ることしかできない。

 だから2人が無事に帰って来れるように祈ってるから、ちゃんと帰ってきてよね?


Side・大和


 俺の瑠璃銀刀・薄緑、そしてプリムのスカーレット・ウイングが、ついに完成した。

 銘まで自分で決めなきゃいけないとは思わなかったが、俺は刀を見た瞬間、この名前が頭に浮かんだ。


 地球での薄緑は、源義経みなもとのよしつねの佩刀として有名だが、その義経は、実は父さんの前世だったりするから、俺にとっても縁の深い名前だったりする。


「ありがとうございます、リチャードさん」

「大切に使わせてもらうわね」

「うむ。じゃが、命が危うい時は、迷わずに捨ててくれ。武器は武器じゃ。命と引き換えにするようなものではないからな」


 一瞬悲しそうな顔をしたリチャードさんだが、言いたいことは分かる。


「大丈夫だとは思いますが、そんなことにならないよう、気を付けます」


 プリムも頷く。

 いくらそう言われても、簡単に手放せるような物じゃないからな。


「それでよい。ああ、他のメンバーの武器じゃがな、あと3日もらいたい」


 他のみんなのは、3日後か。

 王都に行くのが6日後だから、試し切りする時間も問題ないな。


「みんなはそれでもいいか?」

「もちろんです」

「当然!」

「大丈夫です」

「はいっ!」

「楽しみですぅ」


 異存はなしっと。

 ミーナはここにはいないが、あの子が反対するわけないから、こっちも大丈夫だ。

 後で伝えとかないとな。


「それじゃあクラフターズギルドに行くか。ラベルナさんはいないかもしれねえが、ハンターズギルドから話が来てるかもしれねえんだろ?」

「ああ。今回はハイオーダーも参加することになるだろうが、そっちはまだ魔銀ミスリルだからな」

「確かにそうだよね。聞いただけでも過去最大級にヤバい事になってそうだから、ハイオーダーの剣も何とかしとく必要はあるね」

「それにオーダーズギルドは今も凄く大変なんですから、少しでも手助けはしておきたいです」


 マリーナとフィーナは、ハイオーダーに翡翠色銀ヒスイロカネ製の剣を渡すことは賛成だし、ラベルナさんに直訴も辞さない勢いだな。

 だけどオーダーズギルドが、ハンターに代わって狩りをしてたことは、フィールの人なら誰でも知ってるし、そのハンターが街を荒らしてたから、そいつらともやり合ってたからな。

 だから今でも、そいつらの後始末とか通常業務とかをこなしてるってのに、そこにきてこんな大災害と言っても過言じゃない事態が判明したんだから、出来る限りのことはしておきたいって考えても不思議じゃないか。


 実際クラフターズギルドは、ライナスのおっさんから話を聞いた瞬間、スミスチーフのドワーフ、ガラバさんを筆頭にして、フィールにいるハイオーダー全員の剣を打つことを約束してくれていた。

 さすがに時間がないから実用性重視で、デザインは武骨な物になるそうだが、いずれオーダーズギルドとして装備が一新される事になるだろうから、その時にちゃんとした剣を打つことも決まっているらしい。


 だけどオーダーズマスターのレックスさんは俺の義理の兄になる人だし、サブ・オーダーズマスターのローズマリーさんはそのレックスさんの恋人で結婚予定もあるそうだから、この2人には俺から剣を贈ってもいいかもしれないな。

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