アライアンス

 アビス・タウルスを討伐してから5日後の夕方、俺とプリムはハンターズギルドに呼び出された。

 今日はグラス・ボアやホーン・ラビットぐらいしか狩ってないが、たまにはこんな日もあるだろう。

 そう思ってフィールに戻ってきたら、グラムから大至急ハンターズギルドに行けって言われたんだが、何か問題でもあったんだろうか?


「厄介な事になった」


 ハンターズマスターのマスタールームに通されると、ライナスのおっさんが眉間に皺を寄せながらそんなことを言ってきたから、マジで厄介なことになってるんだろうと予想できてしまう。


「何があったんだよ?」

「私達はマイライトの森を中心に狩りをしてるんだけど、昨日オークの集落にかち合った。だけどその集落には、驚いたことにオーク・キングとオーク・クイーンがいたんだよ」


 ファリスさんをはじめとしたホーリー・グレイブの面々が、忌々しそうな顔をしている。

 って、キングとクイーンかよ。

 そりゃ確かに厄介だが、これで魔化結晶を使われた魔物は、全部見つかったってことになるんじゃないのか?


「まだ話半分だ。ファリス、頼む」

「ああ。確かに私達はキングとクイーンを見たけど、戦ってはいないんだ。見た瞬間に撤退を決めたからね。だけど問題はそこじゃない」

「俺達は偵察目的でその集落に手を出したんだが、運の悪いことにオーク・プリンセスとやり合う羽目になっちまってな。そいつは何とか倒して、死体も回収できたんだが、その後に出てきたのがキングとクイーンなんだよ」


 ファリスさんとクリフさんの説明に、俺とプリムも眉を顰めた。


「それは確かに厄介ね。魔化結晶を使われたオークは2匹だったはずだけど、ホーリー・グレイブが倒したプリンセスを含めると3匹で、内2匹は災害種に進化してるわけだし」

「しかもキングとクイーンが同じ集落にいたわけだから、高い確率で番いになってると思う。もし番いになっていたら、上位種はもちろん、希少種だってかなりの数がいるはずだ」

「その通りで、その集落には通常種はいなかったよ」


 オークに限らず、亜人は同種族で繁殖し、数を増やしている。

 だがキングやクイーンは災害種、プリンスとプリンセスは異常種だから、番いになる相手は希少種や上位種どころか、通常種の場合も少なくないと考えられているんだが、極々稀に異常種や災害種が番いになることがある。

 ただでさえキングとプリンスの精は希少種を産み出しやすく、クイーンやプリンセスは一日に何度も出産できるって言われてるのに、そいつらが番いになったりしたら、希少種が大量に産まれてくる可能性が高くなってしまう。


 しかもホーリー・グレイブがかち合った集落には通常種がいないってことだから、危険度もトップクラスだ。


「ってことは、多少の無理をしてでも、その集落を潰さなきゃいけないって訳だな?」

「そうなる。今フィールにいるハイハンターはホーリー・グレイブ5人だが、ウイング・クレストにはエンシェントハンターが2人いるから、普通なら戦力的に不足はない。だが、キングとクイーンがいる集落にカチ込むわけだから、さすがに7人じゃ手が足りない。だからオーダーズギルドにも、協力を要請することになるだろう」


 ライナスのおっさんもハイハンターだが、さすがにハンターズマスターが動くわけにはいかないから、これは仕方がない。

 オーダーズギルドってことはハイオーダーもってことだろうが、確か今いるハイオーダーは、オーダーズマスターのレックスさんを含めて8人だったはずだ。

 レックスさんが参加できるかは、怪しい気がしなくもないが。


「ということは、明日すぐに出発するって訳じゃないの?」

「本当ならそうしたいんだが、何も準備が出来てないからな。だから明日は1日準備に費やして、明後日出発ってことになる」


 確かにポーションとかも必要だし、武器だって大量に用意しておく必要が……。

 って、ちょっと待てよ。


「ファリスさん、確かホーリー・グレイブって、クラフターズギルトから品評依頼を受けてましたよね?」

「ああ。一昨日の朝受け取ったよ。だから今回は、試し切りも兼ねてたんだ。正直この武器がなかったら、オーク・プリンセスを倒すどころかこっちがやられていたか、そうじゃなくても誰かが犠牲になってただろうから、本当に助かったよ」


 ホーリー・グレイブが大きく頷く。

 聞いてはいたが、ホーリー・グレイブには翡翠色銀ヒスイロカネ青鈍色鉄ニビイロカネの武器が行き渡ってるってことか。


「おっさん」

「俺もそのつもりだ。話に聞いてただけだが、事態が事態だからな。クラフターズギルドも、何とかしてくれるだろう」


 翡翠色銀ヒスイロカネ青鈍色鉄ニビイロカネも、魔力疲労なんかを気にせず、全力で使えるからな。

 実際俺の試作翡翠合金刀もプリムの試作翡翠合金斧槍も、今の所は何の問題もない。

 だったらハイオーダーにも、翡翠色銀ヒスイロカネ製の剣を渡しておいた方が良い。


「頼む。じゃあ明日は、狩りには行くなってことだな?」

「お前らなら大丈夫だと思うが、下手に怪我なんかされても困るからな」

「了解よ」


 怪我なんかするつもりはないが、だからといって大事な戦いの前に無茶をするつもりもないぞ。


「それと、これはアライアンスってことになるから、当然リーダーが必要になる。だがこいつはまだまだ経験不足だし、何より勝手に突っ込む恐れがある。だからすまんが、今回のリーダーはファリスがやってくれ」

「そうなるよね。こないだそんな話をしたばかりなんだけど、こんなに早くフラグを回収することになるとは思わなかったよ」


 大きく溜息を吐くファリスさん。

 しましたね、そんな話。

 俺もこんなに早く、アライアンスに参加することになるとは思いませんでしたよ。

 だけどライナスのおっさんの言う通り、俺はまだまだ若造で、経験も足りない。

 さすがに勝手に突っ込むなんてことはしないが、それでも何か無茶なことをするんじゃないかっていう自覚はあるからな。


「ホーリー・グレイブは知ってるが、こいつらは初めてだから、説明もしておくぞ。アライアンスは緊急依頼になるが、依頼されるのは基本ハイクラス以上で、レイドやユニオンを組んでいても、こちらを優先してもらうことになる。さらにアライアンスは全ての依頼に優先されるから、そのせいで他の依頼が失敗ってことになっても、違約金を支払う必要はない。これは他のメンバーも同様だ」


 特に依頼を受けてるわけじゃないが、違約金が発生しないのは助かるな。

 いや、主戦力のハイクラスが、一時的とはいえレイドから抜けるんだから、依頼内容によっては他のメンバーが全く動けなくなることだってあり得るんだし、当然といえば当然か。


「それと報酬についてだが、これはランクごとに決められている。Sランクは10万エル、Gランクは20万エル、Pランクは30万エルだが、お前らは2人ともエンシェントクラスに進化してるから、おそらくだが上がると思う。どれぐらいになるかは、グランド・ハンターズマスターと相談してからになるが」


 ハイクラス以上だから、ノーマルクラスのSランクを考慮する必要はないってことか。

 俺とプリムはエンシェントクラスでPランクだが、俺達が進化するまでエンシェントクラスはグランド・ハンターズマスターしかいなかったし、ここ数十年は誰も進化してなかったから、そもそも設定がないらしい。

 別に問題はないが、グランド・ハンターズマスターと相談してくれるっていうから、くれる物は貰っておこう。


「ハンターズギルドからはお前ら7人だが、オーダーズギルドにはまだ話を持っていってないから、明日の夕方、また集まってもらう。場所も含めて、宿に知らせるようにする。昼前にはわかるだろう」

「了解だよ。それじゃ私達は、武器のメンテを頼んでくるよ。大和君達も使ってるって話は聞いてるから大丈夫だと思うけど、少しでも不安は無くしておきたいからね」

「そうしてくれ。それじゃ解散だ」


 瑠璃色銀ルリイロカネの武器の状況を聞きたいし、メンテもしてもらいたいから、俺達もアルベルト工房に行くか。

 それが終わったらクラフターズギルドにも顔を出して、ハイオーダーにも剣を、余裕があったら盾も作ってもらえるかも聞いてみよう。

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