達成報告

 フレデリカ侯爵の屋敷で話を終えた後、俺達はハンターズギルドに足を運んだ。

 今回の護衛依頼は、俺とプリムは依頼者側だから報酬は無く、逆に支払う側だが、ミーナ、フラム、ラウス、レベッカの4人には報酬が出るし、リディアとルディアもユーリアナ姫の護衛達成の報告があるからな。


「じゃあ今フィールにいるハンターって、私達だけってことなの?」

「いや、俺達がプラダ村に行く前に、Cランクレイドが来たって聞いてるな」

「Cランクレイドが一組じゃ、そこまで足しにはならないでしょうに」


 ルディアがボヤくが、その気持ちはわからないでもない。


「そうなんだけど、いないよりはマシよ。なにせ今までは、どんな小さな依頼でも、あたし達がやるしかなかったんだから」


 数日とはいえ、俺達以外のハンターがいなくなってしまったからな。

 ラウス達も俺達のレイドに吸収されたから、ハンターズレイドが一組っていうありえない事態になってたし。

 その穴を埋めるように、俺とプリムが、毎日大量の魔物を狩ってきてたんだが。


「だな。だからCランクレイド一組とはいえ、依頼が分散されるようになるのは、俺達からすればありがたいんだよ。それより、本当にいいのか?」

「いいって、何がですか?」

「俺達とレイドを組むことだよ。2人はバレンティア出身なんだろ?俺達とレイドを組むと、里帰りも難しくなるんだぞ?」


 ハンターズギルドに向かっている理由は、みんなの護衛依頼の報酬を受け取ること、プリムが道中で狩ったマッド・ボアを売ることの他に、リディアとルディアのウイング・クレスト加入手続きも含まれている。

 バレンティア出身の2人がここまで来たのは、腕試しと見聞を広めることもあるが、ユーリアナ姫の護衛という理由もあったから、その依頼が終わった以上フィールに長期滞在、ましてや定住する理由は、あったとしてもかなり低いはずだ。


「そんなことはないですよ。それにエンシェントヒューマンとレイドを組めるんですから、それぐらいは大した問題じゃありません」

「実家のことを気にしてるんなら、それは考えすぎだよ。別にうちは貴族じゃないから、跡取りとかの問題もないしね」


 リディアとルディアの実家であるハイウインド家は、騎士の家系というわけではない。

 2人の親父さんはバレンティア最強の竜騎士と言われていて、近衛竜騎士団の副団長も務めているが、あくまでも親父さんが自らの力で得た地位なので、跡取りがいなくても家系が途絶えるとか、そういった心配はないんだそうだ。

 一応、親父さんは竜爵という、アミスターの騎爵位に相当する爵位を貰ってはいるんだが、騎爵位相当なだけあって、こちらも当代限りだと聞いている。


「2人がいいなら構わないけどな。里帰りがしたいんなら、それぐらいの希望はいつでも聞くし」


 ハンターだから拠点を決めることにはなるが、だからといって1ヶ所に留まる理由もないからな。

 それにバレンティアは金剛鉄アダマンタイトの産地でもあるし、俺達が好んで狩るフェザー・ドレイクみたいなドレイク種も多いから、いつか行ってみたいと思ってるんだよ。


「お待たせしました、こちらがリディアさんとルディアさんの報酬です」


 おっと、先にリディアとルディアの報酬が届いたか。


 ユーリアナ姫の護衛として、バリエンテ中央府セントロからここまで来た2人だが、それなりの日数も掛かっている。

 確か2週間だったか?


 バリエンテは森の国とも呼ばれるほど森が多く、指定亜人生息域になっているガグン大森林の他にも、アミスターとの国境から国土の3分の1近くを覆っているハウラ大森林なんていうのまであるそうだ。

 だからバリエンテでは、森の中に町や村があることも珍しくはない。


「ありがとうございます」


 2人ともユーリアナ姫とは何度も会っていて、それなりに気心も知れていたそうだから、報酬も通常の護衛依頼よりも若干割高にしてもらっていたらしい。

 指名依頼みたいなもんか。


「それと、お2人もウイング・クレストに加入手続きを行いますので、ライセンスを出していただけますか?」

「わかった」

「はい」


 ライセンスには所属レイドも表示されているから、ライセンスがなければ手続きはできない。

 もっとも、そんなに難しい手続きが必要というわけではなく、所定の用紙に記入して、後はギルド職員だけが使える協会魔法ギルドマジックを使って、血を一滴垂らせばそれで終了だ。


「ありがとうございます。これで手続きは完了です。次はミーナさん、フラムさん、ラウス君、レベッカちゃんへの報酬ですね。すぐに用意してきます」


 無事にリディアとルディアもウイング・クレストへの加入手続きも終わり、次はミーナ達も報酬の番となった。


 俺とプリムが依頼者側だってことは、ハンターズギルドに来る前に説明してあるが、さすがに予想外だったらしく、みんなに驚かれた。

 俺達としても、プラダ村に何かあったらフラム達が動けなくなると考えていたし、周りは敵と言っても過言ではない偽ハンターしかいなかったから、1人でも多く正規のハンターが欲しい状況だった。

 だから報酬を払ってでも3人、ミーナを含めると4人には、しっかりと経験を積んでもらって、プラダ村への憂いを無くしておいてもらいたかったんだよ。


「聞けば聞くほど、フィールの状況ってマズかったんですねぇ」

「ホントだよね。というか、全てのハンターが敵だったのに、それをたった数日で、しかもたった2人で全部捕まえるなんて、あんた達もどうかと思うよ?」


 ルディアのツッコミに目を逸らす俺とプリム。


 レベルのあるこの世界では、質が量を覆すことは、一般的な常識になっている。

 だから軍も、何万人もいるわけじゃない。

 いや、ソレムネはいるらしいんだが、アミスターの軍はオーダーズギルドが兼ねているから、全支部の人数を合わせても5,000人もいないんじゃないだろうか?

 もちろん数が必要になることもあるんだが、たった1人ハイクラスが加わるだけで、戦況はガラっと変わるから、各国はハイクラスを厚くもてなし、内に取り込んでいる。


 今回の件で、レティセンシアは多くのハイクラスを減らしたため、戦力はガタ落ちだ。

 元々レティセンシアは、ハイクラスが少なく、レベル50オーバーはいないと言われている。

 それでも30人以上のハイクラスが残ってると思われているから、もし戦争になれば、そいつらが前線に出てくることは間違いない。

 もっとも、100人以上のハイクラスを抱え、さらに10人以上がレベル50の壁を超えているアミスターからすれば、大きな問題じゃないみたいだが。


「お待たせしました。こちらがミーナさん、フラムさん、ラウス君、レベッカちゃんへの報酬です。今回は予想外の事態もありましたし、何よりサーシェス・トレンネルやパトリオット・プライドも捕まえることができましたから、ハンターズギルドからも謝礼が出ています。あ、これはリディアさんとルディアさんにもありますから、安心してください」


 ほう、そんなものが出るのか。

 まあ、あんなとこで遭遇するなんて、俺達も思わなかったからな。

 それにリディアとルディアは、実際に戦ってたんだから、謝礼が出てもおかしくはない。


「ちょ、ちょっと待ってください!私達は何もしていません!現場に着いたら、とっくに終わってたんですよ!?」

「そもそも私達が現場にいても、足を引っ張るのが関の山でしたから、さすがにこれを受け取るわけには……」


 ミーナとフラムが遠慮してるが、リディアとルディアは普通に受け取っている。

 これは性格の違いもあるだろうが、実際に戦ってるかどうかってのもあるだろう。


「後始末や護送は手伝ってくれたんだから、遠慮することないわよ」

「じゃあなんで、大和さんとプリムさんには謝礼が出てないんですか!?」


 プリムに反論するラウスだが、俺達からすれば当然だ。

 なにせ連中の捕縛、あるいは殺害は、俺達への依頼でもあるんだからな。

 だから俺達からすれば、普通に依頼を果たしたに過ぎないんだよ。


「というわけです。ですからお2人への謝礼は、報酬に含まれているんですよ」


 当然カミナさんも知ってるから、懇切丁寧に説明してくれた。

 とは言っても、俺はエンシェントのPランク、プリムはGランクだし、指名依頼でもあるんだから、報酬もそれなりに高いんだけどな。


 カミナさんの説明で、一応納得したミーナ達は、恐る恐る今回の報酬と謝礼を受け取った。


「大和さんとプリムさんの報酬ですが、持ち込まれたマッド・ボアの査定もありますから、お渡しするのは明日になります。よろしいですか?」

「問題ないですよ」

「構わないわ。っと、そういえばカミナさん、こないだフィールに来たっていうレイドは?」


 おお、俺も気になるな。

 マッド・ボアはプラダ村の近くに移動してたが、まだ魔化結晶を使われたゴブリン2匹、オーク2匹、フォレスト・ビー1匹が残ってるから、陸路で来るのはけっこう大変だったと思うぞ。


「彼らは主に、Cランク以下の魔物を狩っています。今日はもう査定を終わらせていますから、宿か酒場に行っていると思いますよ」


 なるほど、もう帰ってきてるのか。

 まあ、そのうち会うことになるだろうし、疲れてるだろうから、今日はいいか。


「ありがとうございます。じゃあ俺達も、戻るとするか」


 ハンターズギルドでの用事も済ませたから、俺達は魔銀亭に向かうことにした。

 本当はアルベルト工房に行きたかったんだが、もう日が沈んでかなり経つから、残念ながら明日にするしかない。

 リディアとルディアの装備も、その時に注文する予定だ。


「おっかえりー!」

「……なぜお前がここにいる?」

「なんでって、休暇だから?」


 魔銀亭で俺達を迎えたのは、驚いたことにライラだった。

 というか、普通に腕が羽のままだ。

 人化魔法使えよ。


「休暇は明日からでしょ?それ以前に、なんであんたが魔銀亭の受付にいるのよ?」


 プリムが全員の疑問を代弁してくれた。

 ミレイナさんは旦那さんがここの主人だから、いてもおかしいことは何もない。

 弟のルーカスも、まだわかる。

 だがライラの実家は、フィールではなく王都だ。

 それを、さも当然のような顔で受付にいるんだから、誰だって疑問を持つだろ。


「あれ?ミーナも知らなかった?あたし、ルーカスと付き合ってるんだけど?」

「ああ、そういえばそうでしたね」


 なるほど、つまりライラは、ルーカスの実家に遊びに来ているというわけか。

 姉の嫁ぎ先だから、実家とはまた違うんだろうが。


「いや、それはいいんだけど、だからってなんで魔銀亭なのよ?だったらルーカスの家に行ったらいいでしょ?」

「ですよね」

「ルーカスの実家って普通の民家だから、あたしが泊まれるほど広くないんだよ。だからミレイナ姉さんが、こっちに連れてきてくれたんだ」


 そういうことか。

 それで受付に放り込まれたと、そういう訳だな?


「正解。ルーカスはまだオーダーズギルドだから、あたしも暇してたし、丁度いいと思ったしね。はい、鍵」


 手慣れた仕草で、俺達の部屋の鍵を投げ渡してくるライラ。

 いや、投げるなよ。

 まあいい、ライラが受付っていうのは引っ掛かるが、慣れてる感じもするから、リディアとルディアの分も払ってしまおう。


「この2人の分も追加で頼む。確かあと3日分ぐらいは払ってあるから、2人の分も、とりあえずはそれで」

「はいよー。えーっと、一泊3,000エルで、食事は部屋まで運ぶから100エル追加。それが2人で3日分だから……いくら?」


 計算ぐらい自分でしろよ。

 よくそれで受付が務まるな。


「18,600エルだ。ほれ」


 さっきの鍵の仕返しとばかりに、金貨2枚をライラに投げる。


「わったった!ちょっと、投げないでよ!えーっと、お釣りはっと……」


 こいつ、計算できないのかよ。

 なんか面倒くさくなってきたな。


「釣りはチップとしてやるよ。それより、さっさと2人のチェックイン手続きをしてくれ」

「あ、マジで?ラッキー!それじゃ、こっちに記入よろしく!」

「あ、はい、わかりました」


 リディアとルディアが、宿帳に名前を記入する。

 これは俺の世界でも同じだが、安宿だとこんなことする必要はないって話だな。

 フラム達が泊まってた宿は、宿帳なんてなかったって言ってたし。


「あの、大和さん……」

「ん?どうした?」


 遠慮がちにミーナが声をかけてきた。

 どうかしたのか?


「あの、お釣りを全額チップにって、1,400エルになりますけど、いいんですか?」

「仕方ないだろ。あいつ、計算できないみたいだし、こんなとこで時間取りたくないからな」

「いえ、ライラは計算できますよ。ちょっと苦手ですけど、それぐらいの計算ができないと、オーダーズギルドのお仕事はできませんから」

「ライラ!てめえっ!!」


 ミーナの暴露に、思わず叫んでしまった。

 こいつ、俺をハメやがったな!


「あはは~、バレちゃったか~。だけど既にチップとして貰った後だから、これは返せないよ?まさかPランクのエンシェントハンターが、一度渡したチップを取り返すなんて、そんなことはしないよね~?」


 タチ悪いな!

 確かに一度渡したチップを、多すぎたから返せ、なんていう客はいない。

 しかも俺には、Pランクハンター、エンシェントヒューマンっていう肩書があるから、外聞もよろしくない。

 くそ~、今回は泣き寝入りするしかないのかよ!


「気にしない気にしない。エンシェントハンターからしたら、はした金みたいなもんでしょ?それに今夜は、たっぷりとミーナに慰めてもらえばいいだけじゃん」


 ライラのそのセリフに、ミーナが真っ赤になって、俺の背中に隠れてしまった。

 確かにミーナは俺の婚約者だし、既に関係も持ってるんだが、こんなとこで暴露されるような話でもないぞ。

 というか、リディアとルディアの顔も、赤くなってる気がするんだが?


「ライラ、あんまりミーナを揶揄わないでよ。この子はまだ結婚してないし、リディアとルディアなんて、今日レイドに加わったばっかりなんだから」


 プリムも若干顔が赤いが、俺と正式に結婚してることもあって、まだダメージは少ない感じだな。


「いいじゃん。あたしも今日は、ルーカスに可愛がってもらおっと」


 なんか、ルーカスの苦労が偲ばれるな。

 まあルーカスには、きっちりとライラの手綱を握っといてもらわないとだから、しっかりと頑張ってもらおう。


 そう考えながら、俺達は部屋に入った。

 部屋割りはリディア、ルディアが1部屋ずつで、ラウスはレベッカと同室、そして俺とプリム、ミーナ、フラムが同室だ。

 ラウスとレベッカも1部屋ずつにしようかと思ったんだが、既に関係を持ってるし、レベッカが強硬に主張してきたからなぁ。

 リディアとルディアは微妙な顔をしていたが、俺とプリムは既に夫婦だし、ミーナ、フラムとも婚約してるからってことで押し通した。


 プリム達は、リディアとルディアも俺の嫁にって考えがありそうなんだが、なんでこの2人を、ってのがよくわからん。

 聞いても勘としか答えてくれなかったから、俺としても半ば諦めている。


 まあ、なるようになるか。

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