村長の祝福
「フラム、レベッカ、ラウス!お帰りっ!」
「ただいま、カミラ」
特に何事もなく、日が沈む前に、俺達はプラダ村に到着した。
道中で襲ってきたのもグラス・ウルフやグラス・ボア、ゴブリンぐらいだったから、ほとんど鎧袖一触で片してあるしな。
出迎えてくれたのはフラムの友達で、アルディリーのカミラだ。
宿の跡取り娘だが、同時に看板娘でもあって、俺も何度か話したことがある。
「サブ・オーダーズマスター!」
「ライラ、ジェミニアも。元気そうで何よりです。他の者は?」
「ミレイナとイライザは、村長の所です。ルーカスは非番ですから、もしかしたら狩りに行っているかもしれません」
ライラ、ジェミニアさん、ミレイナさん、イライザさんは女性オーダーで、ジェミニアさんとイライザさんは貴族の出だ。
次女とか四女とかって話だな。
ライラはミーナと同期のオーダーだが、レベル38と高いため、将来有望なオーダーということで、レックスさんも目をかけているそうだ。
ミレイナさんはフィール出身のオーダーで、既婚者らしい。
旦那さんはトレーダーで、驚いたことに魔銀亭の主人だったりする。
受付のウルフィーの女性も、その人の奥さんの1人なんだとか。
そして最後の1人ルーカスだが、ミレイナさんと同じくフィール出身のオーダーだ。
というか、ミレイナさんの弟らしい。
真面目すぎて融通が利かない堅物らしいんだが、何故かグラムとは馬が合うらしく、よくあいつの口から名前が上がっていたな。
「そうですか。では引き継ぎは後程、全員が揃ってからにしましょう」
「はいっ!」
今回護衛についてきてくれたオーダーの半数は、今名前を挙げた5人と交代して、これから2週間のプラダ村勤務になる。
予想外の事態で長期間プラダ村を守っていた5人には、1週間ほどの休暇が与えられることになっているので、ゆっくり骨休めをしてほしいもんだ。
今のフィールの状況を知れば、クソ真面目なルーカスは、休日返上で仕事をするんじゃないかとも言われてたが。
「えっ!フラム、結婚するの!?」
おっと、こっちはこっちで、久しぶりの会話が弾んでると思ってたんだが、どうやらフラムの結婚話になってたか。
「相手は!相手は誰なの!?」
「あちらのハンター、ヤマト・ミカミさんよ」
「あちらのって……確かあの人、前にプラダ村に来たハイヒューマンよね?」
「うん。その後、フィールでハンターになられたの」
最近じゃ村の宿は閑古鳥が鳴いてるから、俺のことも覚えていたみたいだ。
とはいえ、フラムの友達なんだから、俺も挨拶しとくべきか。
「そしてこちらが、大和さんの第一夫人のプリムさんと、第二夫人予定のミーナさんよ」
「初めまして、っていうのも、少し違うかしら?プリムさんにはお会いしたことあるし」
「覚えてくれてたの?」
「そりゃそうですよ。プラダ村に滞在中に、ハイフォクシーに進化しちゃったんですから」
そう思ってたら、先にプリムとミーナが紹介されてた。
プリムのことも覚えてたようだが、確かに魔物を狩ってたわけでもないのに、いきなりハイフォクシーに進化したりすれば驚かれもするか。
そんなことを考えてたら、各々の馴れ初め話にシフトしていっているな。
こういう場合、男が出て行ってもロクなことにならない気がするから、俺としては遠慮したい。
「何というか、君も大変だねぇ」
ストレアさんに憐れまれてしまったが、俺もそう思う。
「大和さん、今日はこのまま宿に入ります。その後、村長宅へ伺いますが、皆さんも来ていただきたいのです」
「わかりました。俺としても、村長には会わなきゃだったので、丁度いいです」
フラムと婚約し、ラウスとレベッカを弟子?にした以上、3人ともプラダ村を出ることになる。
フラムとレベッカのご両親は、何年か前に病気で亡くなってるって話だし、村長には話を通しておかなけりゃいけない。
急な話だから、しばらく3人はプラダ村に滞在させて、改めて迎えに来るってのもありかもしれないが……いや、それはダメだな。
3人の、特にフラムの話も聞いてないんだから、俺が勝手に決めていいようなことじゃない。
なんだが、プリム達とカミラの話は、すごく盛り上がっている。
あの中に割って入るのは、かなりの勇気が必要だな。
だけどいつまでも、村の入り口にいるわけにはいかないから、俺は決死の覚悟を決めることにした。
カミラに、フラムと婚約したことはもちろん、プリムやミーナとの馴れ初めも聞かれてきて、かなり精神を削られたけどな……。
Side・レベッカ
私達は今、村長さんのお宅に来ています。
お話しすることが多すぎて、何から話せばいいのか、私にはさっぱりわかりませんけど。
「ご無沙汰しています、村長。この度は対応が遅れてしまい、申し訳ありませんでした」
「顔をお上げください、サブ・オーダーズマスター。こうしてトレーダーを連れてきてくださったのですから、こちらとしても感謝しかありません」
今はサブ・オーダーズマスターのローズマリーさんが、村長さんとお話しています。
オーダーズマスターやサブ・オーダーズマスターがプラダ村に滞在することはないけど、フィールに着任された時に挨拶に来て下さったし、その後も何度か様子を見にきてくれてたから、顔見知りになってるんです。
あ、村長はエルフの女性で54歳、レベル34の淑女なんですよぉ。
「ですがトレーダーを連れてくることができたとはいえ、現在のフィールは、かなり危険な状況になっています。危険と言いましても、解決に近付いてはいるのですが」
「異常種の件、というわけではなさそうですね。差し支えなければ、教えていただいても?」
「そうですね、差し障りのない所しかお話できませんが、それでも良ければ」
フィールの近くで、大和さんとプリムさんが、いくつもの異常種や災害種を倒してくれてるから、確かに危険度も下がってきてますよねぇ。
でもローズマリーさんのお顔を見る限りじゃ、それだけじゃなさそうな気もするぅ。
「端的に言えば、異常種や災害種の件を握りつぶしていたのはハンターズマスター サーシェス・トレンネルで、ハンターはサーシェスと同じ穴の狢でした。既にハンターは全員捕らえ、残すのはサーシェス・トレンネルとその護衛のみです」
「……それはつまり、ハンターズマスターは他国の、おそらくはレティセンシアのスパイだった、ということですか?」
え?
なんでそうなるの?
「その通りです。既に証拠も押さえ、ハンターとは別の工作員も捕らえてあります。王都にも連絡していますので、陛下からレティセンシアへ抗議されることになり、場合によってはそのまま開戦に繋がる可能性もあります」
開戦って……戦争!?
そ、そんな大事だったの!?
あれ?
大和さんとプリムさん、ミーナさんは驚いてないけど、知ってたってこと?
いや、大和さんとプリムさんは、問題解決に奔走してたし、ミーナさんはオーダーだから知ってたんだろうけど、なんで教えてくれなかったんですかぁ!?
「問題が大きすぎたからな。話すに話せなかったんだよ」
確かにそうですけどぉ……!
「レベッカ、無茶を言ってはいけませんよ。オーダーにはオーダーの事情があるし、何より国の一大事を、軽々しく口にできるわけがないでしょう」
そうなんだけどぉ……!
なんか仲間外れにされたみたいでイヤだなぁ……。
「フィールに戻ったら説明するよ。俺達とレイドを組んでる以上、どこかのタイミングで話そうとは思ってたからな」
「そうね。幸いハンターは捕まえてあるから、直近の危険は多くないし、フィールに戻った辺りが丁度いいかもしれないわ」
「隠すにしても限度がありますし、フィールでは噂になりつつありますからね」
そんな噂、あったっけかなぁ?
「聞いたことある気がします。確か大和さんとプリムさんが、そのスパイの指揮官を捕まえたんですよね?」
「一応な。もっともそいつが予想外過ぎたから、未だに公表できてないんだが」
「そうですね。そうでなければ、とっくに公表していたでしょう」
ラウスの質問に答える大和さんとローズマリーさんだけど、なんか聞くのが怖くなってきたぁ!
「さすがにここじゃ話さないわよ。村長さんには悪いけど」
「お気になさらず。いずれ公表されるのなら、その時で十分です。ただの村長という立場では、今知るべきではないでしょうから」
村長だから何でも知ってる、ってわけじゃないですしねぇ。
……いやいや、ちょっと待って。
フィールに戻ったら、私達に教えてくれるって、そう大和さんが言ってたよね?
村長さんにも言えないようなことを、私達なんかに教えちゃってもいいの?
ねえ、いいんですか、大和さん!?
「同じレイドなんだから、当然でしょ?」
プリムさんが答えてくれたけど、そう言われてしまうとグウの音も出ない……。
「そういえば、フラム、ラウス、レベッカがハンターになったことはともかく、あなた方と同じレイドというのは?言っては何ですが、この3人は、あなた方とはレベルが違いすぎます。足手まといでしかないのでは?」
あ、そのこともあったんだった。
村長も、大和さんとプリムさんが前にプラダ村に来たことは知ってるから、2人のレベルがとんでもないこともしっかりと覚えてる。
さすがに、大和さんがエンシェントヒューマンに進化してるとは思わないだろうけど、プリムさんはプラダ村滞在中にハイフォクシーに進化したてるから、忘れられるわけがないよねぇ。
普通に考えれば、そんなお2人とレイドを組むなんて足手まといもいい所なんだけど、私達が大和さん達とレイドを組んだのは、そっちの問題じゃないんですよぉ。
「あー、そのことなんですけど、実は俺とフラムは……その、婚約しまして」
言いにくそうに口を開いた大和さん。
だけどプリムさんと結婚したこととか、ミーナさんとも婚約したとか、いくつか間が抜けてますよぉ?
「そ、そうなんですか?」
「はい。ちなみに大和は、既に私と結婚していますし、こちらのオーダー ミーナとも婚約しています」
そう思ってたら、プリムさんが補足してくれた。
村長さんは驚いてるけど、同時に納得もしてくれたみたい。
「そうですか。フラム、あなたはそれでいいの?後悔はしない?」
「はい」
お姉ちゃんは短く、だけどはっきりと答えた。
「わかりました。おめでとう、フラム。今、村にいるのは、結婚できるかどうかわからない子達ばかりだから、祝福させてもらうわ」
「ありがとうございます、村長」
うん、そうだよねぇ。
今プラダ村にいる未婚の女性は、私やお姉ちゃんを含めて25人。
だけど未婚の男の人は、まだ未成年で13歳のラウスしか該当者がいない。
もう1人いることはいるんだけど、まだ2歳だから、さすがに数には入れられないよぉ。
だからほとんどの人は、プラダ村に来た男の人に頼んで、シングル・マザーになるしかなかったんですぅ。
宿のカミラさんも、そろそろ子供のことを考えてるって言ってましたぁ。
「ラウス、レベッカ。あなた達も、フィールでハンターとして活動するのね?」
おっと、私達もしっかりと答えないといけないよねぇ。
「はい。大和さんやプリムさんのおかげで、少しずつだけど強くなってるのがわかるんです。だから俺はもっと強くなって、ちゃんとレベッカを守れるようになりたいんです」
きゃー!
ラウスが守ってくれるって、そう言ってくれたよ!
嬉しいよぉ!
「あなたはそう言うでしょうね。レベッカ、あなたは?」
いけない、私もちゃんと答えないと。
「わ、私も、もっと強くなって、ラウスの隣にいたいです!大和さんの隣にいるプリムさんみたいに!」
プリムさんが少し驚いたような顔をしたけど、私の目標はプリムさんですから。
プリムさんが大和さんの隣で戦ってるように、私もラウスの隣で戦いたいんですぅ!
「わかりました。あなた達がいなくなるのは寂しいけど、私はあなた達の前途と幸せを祈っています。でもこの村はあなた達の故郷なんですから、いつでも帰って来なさい」
「「「ありがとうございます!」」」
村長さんの許可も得られたから、これでお姉ちゃんも正式に大和さんの婚約者になって、私とラウスもハンターをやっていけることになりました。
これから先も、すっごく大変なことが起きると思うけど、しっかり頑張っていかないと!
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